心に残るのは、たいてい失敗したプロジェクト
「三十年のキャリアで特に心に残っているプロジェクトは何ですか」と聞かれると、私が思い浮かべるのは、たいてい失敗したプロジェクトなんですよね。
これはきっと、多くの人がそうなんじゃないかと思います。
一番強烈に覚えているのは、会社を立ち上げて最初に大きな案件をいただいたときのことです。
リリースの直前がとにかくドタバタで、10日前から5日前まではタイムズのカーシェアで一度家に帰って、風呂に入って飯を食って着替えて、そのまま車でオフィスに戻ってくる、という生活でした。
5日前からはずっとオフィスにいましたね。ランチだけはかろうじて近くの定食屋にみんなで行きましたけど、それ以外はほとんど外に出られないくらいでした。
いわゆるデスマーチというやつです。
リリースできたのに、家に帰っていいのかわからなかった
当日はなんとかリリースまでこぎつけました。夜中にDNSの切り替えを始めて、データ移行も全部あったので、朝一までかかったんです。
本番で動作確認をやって、お客さんのチェックもやってもらって。お昼の1時か2時ぐらいに、お客さんが「ありがとうございました。今日はこれでバラシにしたいと思います」と言ってくれたんですよね。
バラシというのは、待機状態を解散にするということです。それを聞いて、ああ、よかった、なんとかなったと思いました。
さすがに一度家に帰ろうと思ったんですが、この5日間ずっと凄まじい緊張でやっていたので、感覚がおかしくなっていたんでしょうね。
新宿の交差点のところで信号待ちをしながら、俺、帰っていいのかなって思っていたのを、今でも映像で覚えています。
エンジニアのメンバーも「今日ここから4時間はバグ潰しだけをやるので、話しかけないでください」という感じで、私も「わかった、全部止めとくから」と言って、ずっとバグを潰し続けていました。
「好魔多失」——調子がいい時に爆弾は仕込まれている
では、そこにどんな学びがあったのか。デスマーチはしんどい、と言ったら身も蓋もないんですけど、真面目な話をします。
私には仕事の座右の銘に「好魔多失」という言葉があります。好きの好に、悪魔の魔、多いに、失うと書きます。
要は、調子がいい時に悪いことがすっと入ってくる、という意味だと私は捉えています。
さっきの案件がトラブルになった本当の原因を考えると、余裕があるタイミングでリスクをあまり重要視していなかったことなんですよね。
あんなに大変になった原因は、実は5ヶ月も6ヶ月も前に仕込まれていたんです。
あの時にああしておけば、あの一言を言っておけば。メンバーに「なんでそんな心配するんですか」と言われても、このタイミングでこれをやっておいて、とちゃんと伝えていれば、あそこまでにはならなかった。
これはやっぱり大きな反省です。
だから私は、調子がいい時のほうが怖い
ディレクターをしていると、調子がいい時に爆弾が仕込まれて、それが本当に嫌なタイミングで爆発する、というのを何度も経験してきました。
だから私は今も、調子がいい時のほうが怖いんです。
何かやってるんじゃないか、何か見過ごしてるんじゃないか、という怖さが結構あるんですよね。
これはなかなか、自分が痛い目を見ないと実感しづらいことだと思います。
でも、頭のどこかに置いておいてもらえると嬉しいなと思います。
まとめ
心に残るプロジェクトが失敗したものばかりというのは、少し寂しい気もしますが、そこで得たものは今の自分の判断のベースになっています。順調に進んでいる時こそ、いったん立ち止まって「何か見落としていないか」と自分に問いかけてみてくださいね。
- 心に強く残るプロジェクトは、たいてい失敗した案件のほうだった
- 立ち上げ最初の大きな案件は、最後がデスマーチになり、家に帰る感覚さえ狂うほどだった
- 「好魔多失」——トラブルの爆弾は、余裕のある調子がいい時に仕込まれている
- だから私は今も、調子がいい時ほど見落としを疑うようにしている






