県外客に「坂井市」と「あわら」の境目は見えている?
この回は、前回の続きとして、あわら温泉が近隣の市町や県内の観光地とどう連携していくかという話から始まります。県外から来る宿泊客は、観光地を福井県というくくりで見ているはずだ、という問題意識です。
たとえば東尋坊とあわら温泉をひとまとめに考えたとき、県外の観光客は「管轄が違う」とはまず思いません。この点では二人の見方は一致しています。
八木さんによると、あわら温泉に泊まった客に観光地を聞かれると、一般的には東尋坊、永平寺、恐竜博物館といった福井県のメジャーどころを案内することになり、客もそうした場所には必ず一度は行くといいます。
さらに八木さんは、近くの大型施設柴又ワルツも坂井市にあることに触れ、あわら温泉にとってはむしろ周辺の施設に支えられている面もあると話します。
恐竜博物館もあって、永平寺さんもあって、東尋坊もあるおかげで、じゃあ福井県で泊まろうってなった時に芦原温泉が選ばれてるっていうのは、紛れもなくあると思います。
八木さんの見方では、あわら温泉はすでに周辺の観光地と実質的に連携している立ち位置にある、ということになります。
これを受けて土田さんは、連携していること自体をきちんと発信すべきだと提案します。点在する観光地を、県外客にとっての一つの面として見せる、ブランディングのような取り組みです。
正直ですよ、どこまでが坂井市丸岡町で、どこまでが芦原町で、金津町で、三国町でっていう。
地元に住む土田さんでも町の境目は曖昧で、「この辺」としかわかっていないといいます。だから県外客に向けては、町や市の単位ではなく「福井のあそこ」「なんとか温泉郷」のような括りで行ってみたいと思わせる発信が大事ではないか、というのが土田さんの考えです。
「みんながいいもの」より、主観的なおすすめ
八木さんは、地域の発信について日頃から考えていることを話します。あわらにも福井市にも、まだ知られていないけれど地元の人に愛されている店や、美味しいと評判の店がたくさんあるはずだ、という点です。
そうした店は、情報としてはほとんど出ていません。八木さんは、その店をどう観光の流れにつないでいくかをいつも考えているといいます。
例として八木さんが挙げるのが、ホテル八木のオールインクルーシブ ── 宿泊料金に食事や飲み物、アクティビティなどが含まれ、滞在中に追加料金をほとんど気にせず過ごせる料金形態に組み込まれた金津創作の森です。
(金津創作の森を)オールインクルーシブから外して、チケットは有料です、もしよかったら行ってくださいねってパンフレットだけだと、きっと行かないと思うんですよね。
八木さんによれば、金津創作の森は宿のプランと組み合わせたことで、初めて客の体験につながる設計になっています。こうした設計をいろいろな場所がやれば面白い、というのが八木さんの思いです。
宿泊の体験の一部として設計され、客が実際に足を運ぶ
チケットは有料で「よかったらどうぞ」となり、八木さんは客はきっと行かないと見る
そのうえで八木さんは、好き嫌いや好みは主観であり、主観的であればあるほどいいと考えています。誰にとってもいい総花的なものでは、今の時代に心が動くかというと別ではないか、という感覚です。
土田さんも、選ばれる理由がないと人は行かないと応じます。インスタグラマーが投稿すればどこもそれなりに良く見えるが、見え方は結構同じになってしまうといいます。
それを見せられて、でもこっちに行きたい、それはどういう理由だからっていうのをちゃんと明確にしていかないと、人って動かないと思うんですね。
土田さんはさらに、AIがどんどん進む中で、一周回って主観やアナログな感情が大事になるのではないかと話し、八木さんも同意します。ただし土田さんは、だからといって整備しておくべきものは整備しておかないといけない、とも付け加えています。
観光協会のページに、客の欲しい情報はある?
八木さんは、以前に話題にしたアンケートに話を戻します。観光に行かない理由として「時間がなかった」がいつも1位で、その次が大体「情報がなかった」だったという結果です。
八木さんは、この2つは結構セットではないかと考えています。人は行きたいと思える情報をキャッチすれば、時間を作るはずだからです。
行きたい情報に出会う
自分が行きたいと思える情報をキャッチする
時間を作る
短い時間でも行ってみようかと考える
選択肢に入る
少なくとも行き先の候補になる
では、その情報をどう出すか。八木さんは、多くの人が観光協会のページに載せてもらうといった発想をしがちだが、お客さんの欲しい情報はそこではないと話します。
初めて行く土地があって、例えば何々県の観光協会のホームページやインスタグラムを見に行くかっていうと、多分行かない。
土田さんも「行かないですよね」と即答します。そこで八木さんは、宿泊施設にできることとして、宿がおすすめする超主観的なものをホームページなどで発信することが何よりも大事だと述べています。
遊べる施設なのに、なぜ情報が取れないのか
土田さんは、個人の店はわからないとしたうえで、ホームページでなくてもいいのでLP ── ランディングページの略。一つの商品や施設、目的に絞って情報をまとめた1枚もののWebページをたくさん作るべきだと提案します。
例に挙げたのは、あわらにあるドリームパークです。遊べる施設なのに、県庁や役所のホームページに「こんなことがあります」と載っている程度で、独自のホームページがないといいます。
例えば本当にちっちゃなことなんですよ。無料駐車場が何台ありますとか、トイレがちゃんとあります。
土田さんの想定は、たとえば石川県から子ども連れで来て、少し遊んで帰れる場所を探す人です。そういう人が施設に行き当たっても、市役所の情報しか見つからないのは弱いところだと話します。
実例として、土田さんは三国の会社の手伝いで、サンセットビーチのホームページを作ったことを紹介します。有名な場所ではあるものの「サンセットビーチとはそもそも何か」を伝えるページで、そこそこアクセスがあるといいます。
八木さんも、ドリームパークを検索すると、最初にあわら市のページ、次に福井県のページ、その次にあわら市観光協会のページが出てくる形になるはずで、ちゃんとしたLPはないだろうと話します。
設備があるという紹介にとどまる
何ができるか、どんな人におすすめか、駐車場やトイレなど具体的な情報まで伝える
八木さんは、こうした施設は地域の人が使うという思いで運営されていても、子どもを連れて行く立場になると「子どもが遊べるところはないか」という視点で探すものだと共感します。実際、ホテル八木の客からはエンゼルランドについてよく聞かれ、雨の日に小さな子どもと楽しめる場所として調べてくるといいます。
ポータルサイトではない見せ方で、あわら温泉に100のコンテンツを
土田さんは、施設ごとの情報発信を進めると、よくある結末はポータルサイトになってしまうことだと話します。土田さんはポータルサイトにはどこか違和感があるといい、八木さんも同意します。
土田さんが描くのは、あわらのコアであるあわら温泉をベースに、施設やコンテンツがぶら下がるような見せ方です。
(あわら温泉に)ぶら下がっているような施設というか、そのコンテンツが例えば100個ぐらい集めるとか、こういったことができないのかなって思ったりするんですけど。
その中には、ドリームパークのような施設もあれば、個人の店もあるかもしれません。土田さんは、そうした取り組みを進めれば「情報が足りない」ということにはならないはずだと考えています。
八木さんはこの提案に強く共感しつつ、話が長くなるとして、続きは次回に持ち越すことにしてこの回を締めくくりました。
まとめ
この回では、県外客にとって町や市の境目は見えないという前提から、主観的な「行く理由」を伝える発信の大切さ、そして施設ごとの具体的な情報ページの必要性が語られました。あわら温泉を軸に地域のコンテンツをどう見せるかは、次回に続きます。
- 県外客は管轄ではなく福井というくくりで観光地を見ており、点在する観光地を面として発信する視点が大事
- 金津創作の森の例のように、宿の体験に組み込むことで初めて人が足を運ぶ
- 「情報がない」と「時間がない」はセットで、行きたい情報があれば人は時間を作ると八木さんは考えている
- 観光協会のページではなく、宿の超主観的なおすすめや施設ごとのLPが客の欲しい情報になる
- ポータルサイトとは違う形で、あわら温泉にぶら下がるコンテンツを集める構想が提案された






