「旅館が客を囲い込んでいる」は本当か?
今回の題材は、あわら温泉の旅館協同組合に加盟する施設が協力して集めている宿泊者アンケートです。土田さんによると、最近はAIでレポートが届くのが早く、数字の分析はまだ追いついていないため、まずはこのエリアアンケートの中身から話すことにしたといいます。
あわら温泉の宿泊者アンケートの回答数は、9月が575件で、8月の543件より32件多くなりました。
土田さんがこのアンケートで一番やりたいのは、街づくりの議論の材料にすることです。地域ではいろいろな人から「旅館がお客さんを抱え込んでしまっている」と見られがちだと土田さんは話します。
決して旅館も好き好んで(お客さんを)囲い込んでるわけでは、そんなことはないんですよ。
土田さんは、宿泊客の声を旅館の中に閉じ込めずアンケートとしてオープンにすれば、宿泊客の何割が外に出ていないのかといった事実が蓄積され、建設的な議論になると考えています。感情的になると「旅館が悪い」という話になってしまうため、データで「そうじゃない」と示すことが大切だという立場です。
土田さんがこれまでも繰り返し伝えてきた結論は、宿泊客は結果としてなかなか温泉街に出ないということです。外に出なかった理由としては「時間がなかった」と「情報がなかった」が多い状態が変わらず続いており、データが溜まってきたので、この傾向はもう変わらないだろうと土田さんは見ています。
外に出た客ほど「また来たい」が下がる?
「時間がなかった」宿泊客をどうするかという問いに、八木さんは毎回出てくるテーマで答えが出にくいと応じます。そこで土田さんが個人的な考えとして出したのが、あえて宿泊客を外に出さないという逆転の発想です。
(お客さんを外に)出さなくていいんじゃないかなと。極論ですね。もう宿の中でもう完結する。
土田さんがこう考えた理由は、アンケートをざっと見たときに、低い評価をつけた人が宿の外に出た人に集中しているように見えたことです。
再訪の意向、つまり「また来たい」と答えた割合で比べると、宿の中だけで過ごした人はほとんど下がらず横ばいでした。一方、外に出た人では「また来たい」が20%くらい下がっていたと土田さんは話します。
「また来たい」はほとんど下がらず横ばい
「また来たい」が20%くらい下がる
土田さんはこの差を「結構痛いところ」と受け止めています。ただし、8月の夏休みから続く9月のデータなので、その時期特有の事情があった可能性もあり、もう少し見ていく必要があるとも付け加えています。
土田さんが挙げる方向性は、オールインクルーシブ ── 宿泊料金に食事やドリンク、館内サービスなどをあらかじめ含める料金形態。追加料金を気にせず館内で過ごせるのが特徴ですやホテル八木のライブラリーのように、館内でいかに過ごしてもらえるかを工夫することです。館内で潰せる時間があれば「時間がない」という回答そのものが減るのではないか、という見立てです。
食べ歩きは宿泊客の本当の願望か?
アンケートでは、宿泊客がやりたかったのにできなかったこととして、散策や食べ歩きが上位に来ています。けれど土田さんは、自分が客だったら時間があっても本当にやるだろうかと疑問を投げかけます。
食べ歩きとかは別にしたくないんじゃないかなと。
八木さんのこの指摘に、土田さんも、もともと食事がついていればなかなか食べ歩きはしないだろうと同意します。宿泊者アンケートの回答者は、ほぼ食事付きで泊まっている人だからです。
話題は、あわら温泉の湯けむり横丁に移ります。土田さんによると、湯けむり横丁は観光客よりも地元の人がよく訪れている場所です。全国から視察が来るほどで、横丁を卒業する出店者は必ず自分の店舗を持ち、お客さんをつけて巣立っていくといいます。
あの仕組みはやっぱりめちゃくちゃすごいいいですよ。
土田さんは、宿泊客と温泉街のギャップはどれだけ整備しても急激に縮まることはないだろうと見ています。一方で、あわら温泉には日帰り客も多いというデータもあるため、日帰り客をどうつなげていくかも大事だと話します。
賑わいだけが温泉街ではない、という再定義
八木さんは、これまでも繰り返してきたと断りつつ、結局は芦原温泉の定義をし直すことに尽きるのではないかと語ります。それはハードを増やすことでも、接客などのサービスのことでもなく、芦原温泉に来る意義というソフトの部分だといいます。
あえてその静かなところに行くという、その静けさがいいっていうところのブランディングしても、個人的にはいいんじゃないかなと。
八木さんは、街の静かな空間を味わってもらうという打ち出し方なら、外に出た宿泊客の満足度は逆に上がるのではないかと考えています。土田さんはこの考えに強く同意し、静けさをエリアとして発信するためのキャッチコピーなどを地域で作れるとよいと応じます。
八木さんはもう一つ、芦原温泉が取り組んでいる夜詣(よもうで)の評価の高さにも触れます。アンケートでは、ワクワクして楽しかった、夜の提灯やライトアップが良かったという声が一定数寄せられているそうです。
静けさのブランディングと夜詣のような取り組みをうまく組み合わせることが、外に出た宿泊客の満足度を支える方向として有望だと、土田さんは見ています。
次回のテーマは観光の「連携」
最後に話は、芦原温泉だけで客を呼ぶことの難しさへ進みます。芦原温泉の立地や福井県全体の観光を広い視野で見ると、ほかの地域との連携が大事な視点になるという指摘です。
ただし連携といっても、情報を発信するだけでよいのか、各市町のDMO ── 観光地域づくり法人。地域の観光資源を活かし、データに基づく戦略づくりや関係者の調整を担う組織ですや観光協会だけがつながればよいのかというと、それも違うと語られます。連携の中身は次回、改めて深掘りすることになりました。
まとめ
あわら温泉の宿泊者アンケートは、宿泊客が温泉街に出ない現実と、外に出た人ほど再訪意向が下がるという気になる傾向を示しました。八木さんと土田さんは、データを議論の土台にしながら、静けさを価値として打ち出す温泉街の再定義へと話を進めています。
- 9月の宿泊者アンケートは575件で、8月より32件増えた
- 宿泊客が外に出ない理由は「時間がない」「情報がない」が多く、傾向は安定している
- 宿の外に出た人は「また来たい」が20%くらい下がり、館内で完結させる発想も出た
- 食事付きの宿泊客にとって、食べ歩きが本当の願望かは疑わしいと語られた
- 賑わいではなく静けさを打ち出すブランディングと、夜詣などの組み合わせが提案された




