なぜ「薬学で患者を語る」は簡単ではないのか
「薬学で患者を語る」という言葉自体はシンプルです。ですが、実際に現場でやろうとすると、簡単ではない面も確かにあると、たいぞーさんは話します。
その理由は、これが何か一つを学んだり、一つの行動をとったりするだけでできるようになるものではないからだと考えられています。
たとえば、薬の作用機序を理解して、その薬が体にどんな変化をもたらすのかをメカニズムとして把握すること。作用機序 ── 薬が体の中でどのような仕組みで効果を発揮するのかという働き方のこと。受容体や酵素への作用など、効き目のメカニズムを指します。
さらに薬物動態を考えて、薬が体の中でどう作用し、どの臓器へ動き、いつ排泄されていくのかという動きを知ること。薬物動態 ── 体内に入った薬が吸収・分布・代謝・排泄されていく過程のこと。薬がいつ、どこで、どのくらい効くかを考える土台になります。
そしてそこから、効果だけでなく副作用についてもきちんと予測し、考えられる思考力を身につけること。こうしたことが求められます。
知識を「目の前の患者」に結びつける別の力
これらを実践するには知識が必要で、知識自体は勉強すればある程度身につけられます。
ただし、それを目の前の患者さんの状態と結びつけて、この人の体で何が起きているのかを理論立てて説明できるようになるには、また別の力が必要になると話されています。
そしてたいぞーさんは、その力こそが日々の積み重ねの中で生まれていくものだと捉えています。
患者対応で回し続ける「問いと仮説」のサイクル
日々の患者対応の中では、この症状はなぜ起きているのか、この薬はこの人の体の中でどう働いているのか、といった問いを常に考えることになります。
さらに、この変化は薬の影響なのかどうか、もし薬の影響ならなぜこの人にその影響が起こったのか、というところまで考えながら対応が進みます。
その上で自分なりの仮説を立て、検討に必要な情報を調べ、その患者さんにとってより良い薬物治療とは何かを検討して届けます。
そして学んだことや気づいたことを、また次の患者さんに生かしていく。この繰り返しが続いていきます。
問いを立てる
この症状はなぜ起きているのか、薬はどう働いているのかを考える
仮説を立てる
変化が薬の影響かどうか、自分なりの仮説を立てる
情報を調べる
仮説を検討するために必要な情報を調べる
検討して届ける
より良い薬物治療とは何かを考え、患者に届ける
次に生かす
学びや気づきを次の患者対応に生かす
一つ一つはとてもシンプルで小さなことかもしれません。ですが、これらを積み重ねていくと、ある時、見えるものが大きく変わるポイントが訪れると話されています。
「ふらつき」「眠れない」から見えてくる世界
薬剤師を12年続けてきた中で、そうした変化のポイントは度々あったといいます。
たとえば、ただの「ふらつき」という症状も、血圧の薬だけでなく、思わぬ薬が影響している可能性はないかという視点で考えられるようになります。
薬が影響していないなら、病気かもしれないので病院に行った方がいいかもしれない、という医師へのバトンパスをつなぐ選択も見えてきます。
「眠れない」という症状も、睡眠薬が効いているかどうかだけでなく、他の薬が悪さをしていないか、服薬のタイミングと症状が出たタイミングの関係はどうかなど、一つの事象から様々なことが見えてくるようになります。
こうして視点が広がっている状態こそ、「薬学で患者を語る」ということができている状態なのではないか、とたいぞーさんは考えています。
一度聞くだけでは身につかない。学習と練習の繰り返し
逆に、この積み重ねを飛ばして、いきなりできるようにはなっていかないと話されています。
だからこそ、セミナーなどで一度学んで聞いただけでは、なかなかできるようにはなりません。
聞いたことを実践する。そしてまた新たに学ぶためにセミナーなどで学習する。この学習と練習の繰り返しが、「薬学で患者を語る」力を高めるうえでとても大切だといいます。
セミナーで学んで聞いただけでは、実践できるようにはなりにくい
聞いたことを実践し、また学ぶ。この往復が力を高めていく
新人研修で感じた「一日でも早い積み重ね」の大切さ
この回が配信されたのは、ちょうど4月が始まったばかりのタイミングでした。新入社員として現場で活躍していく薬剤師たちが社会に出てくる時期です。
だからこそ、「薬学で患者を語る」ことを一日でも早く実践の中で積み重ねていくことが、薬剤師としての能力を高めるうえでとても大切になると話されています。
この日たいぞーさんは新人研修を担当しており、新人とのやりとりの中でその大切さを強く感じたことが、このテーマを話すきっかけになったといいます。
日々の積み重ねの中で重なっていく経験、これが価値に変わっていく、そんな気づきになれば幸いです
まとめ
「薬学で患者を語る」力は、一つの知識や行動で完成するものではなく、日々の患者対応で問いと仮説を回し続ける積み重ねから生まれます。学習と実践を繰り返す中で、やがて見えるものが大きく変わっていくと語られました。
- 作用機序や薬物動態などの知識は勉強で身につくが、患者の状態と結びつける力は別に必要
- 患者対応では「問いを立て、仮説を立て、調べ、届け、次に生かす」サイクルを繰り返す
- 積み重ねると「ふらつき」「眠れない」から多くの可能性が見えるようになる
- セミナーで一度聞くだけでは身につかず、学習と実践の繰り返しが欠かせない
- 新人こそ一日でも早く実践の積み重ねを始めることが、薬剤師としての力を高める


