ビジネスは「ない」、それでも浮かんだ流しの整体
前回のエピソードは樋上さんの深掘り回で、「注力することを見つけるのは難しい」という話で終わっていました。今回は樋上さんが、吉田さんにも何かやりたいことはあるのかと話を振るところから始まります。
吉田さんは最初、ビジネスとなると収益も考えてしまうので、今は特に「いける」というアイデアはないと答えます。
(ビジネスってなると)収益とかも一瞬考えるじゃないですか。だからそういうのを絡めると、うーんって思って。
ただ、前回の収録から時間が空いていたこともあり、吉田さんなりに考えてはいたそうです。そこで出てきたのが「流しの整体」という言葉でした。
ビジネス化するんかどうかわかんないですけど、流しの整体とかどうかなと思ったんですよ。
聞き慣れない言葉に、樋上さんと中さんは「流しって何?」と聞き返します。吉田さんの説明によると、前回の話のあと長く山登りに出ていて、山小屋で整体をしたらどうかと思いついたといいます。自分の店舗を持たずに、出向いた先で施術するという意味での「流し」です。
ああいうとこ(山小屋)行ったら絶対体疲れてる人山ほどいるじゃないですか。10人いたら9人は疲れてると思うんですけど。
知らない人と話すのは得意、じっくり付き合うのは苦手
吉田さんがこのアイデアにひかれた理由は、自分の性格にあります。吉田さんは、大人数や初対面の人と話すのが得意で、以前から「知らない人と飲むのが楽しい」と話していたそうです。
だけどなんか一人の人と長くじっくりやるのは苦手なんですよ。
吉田さんは、知らない人の話を聞きながら「今日どうでした?」と体をもむような、その場限りのやり取りなら得意だと考えています。一方で、関係を築き続けることは少し億劫に感じるといいます。
中さんが「整体というよりマッサージみたいな?」と確かめると、吉田さんはうなずきます。治療院のような本格的な施術ではなく、街中にあるもみほぐしのようなクイック整体をイメージしているそうです。
樋上さんが「吉田さんも登って疲れている中でもむのか」と聞くと、吉田さんは「お金取ってもむってことですね」と答え、あくまで仕事として考えていることがわかります。
許可は取れる?小屋代を払ったら採算はトントン?
吉田さん自身も、このアイデアにはいくつも壁があると感じています。1つ目は許可の問題です。吉田さんは、公園で勝手にたこ焼きを売れないのと同じで、自分の場所がないところで施術してよいのかと疑問を口にします。
(山小屋の)許可出えへんやろなと思ったりして。なんかあった時に今度降りれへんくなる人出たらそれは困るんかとか。
2つ目は採算です。吉田さんは、山小屋に着いてからの限られた時間で、何人を施術できるのかを具体的に計算しています。
開始
登山客が着く15時ごろから施術を始める
施術
1人10分ほどで回していく
終了
早起きの登山客は19時ごろには寝始める
収支
1万〜2万円の小屋代を払うとトントンになりかねない
吉田さんは、宗教を広める人のように別の目的があるならプラスマイナスゼロでもよいけれど、収益を考えると、ただいろいろな人をもんで野をさまよっている人のようになってしまうと笑います。
それでも、相手と差し障りのない会話をするのは得意なので、いけるかもしれないとも感じているようです。場所は固定せず、SNSで「今日はここにいます」と発信する形を考えています。
15時に着いても夕食は17時、山小屋の「暇な時間」
吉田さんがこのアイデアに可能性を感じる背景には、山小屋ならではの時間の過ごし方があります。六甲山のような山なら夕方明るいうちに下りればよいのに対し、アルプスのような大きな山では、遅くとも15時には山小屋に着くよう言われるそうです。
吉田さんによると、15時までに着くのは、山の状態が読めない中で安全に行動するための目安です。ただ、着いたあとは食事も電波も限られ、時間を持て余す人が多いといいます。
仲間がいたら談話室で喋ってる人もいるけど、でも(飲み物も)限られるし、山の上ってめっちゃ高いから。
こうした「暇だなと思っている人」に向けて何かできれば面白い、というのが吉田さんの考えです。樋上さんも「もんでくれたら嬉しいかも」と反応します。吉田さんは、リスクに配慮して差し障りのない範囲でやれば、いろいろな人と話せて楽しいかもしれないと話します。
店舗を持たない整体はすでにある?資格と研修制度
中さんは、流しかどうかは別として、固定の店舗を持たない整体師はすでに多いと指摘します。中さん自身も、大阪で「今日はここでやります」という整体に行ったことがあるそうです。吉田さんも、場所を借りて常連客を呼ぶフリーランスの美容師の例を挙げます。
話題は資格に移ります。吉田さんが「資格がいるのでは」と心配すると、中さんは、街のもみほぐしの人がみんな資格を持っているとは思えないので、マッサージならいらないのではと答えます。
吉田さんは、社内で紹介された研修の一覧に鍼灸の研修が載っていたことを思い出します。中さんによると、閑散期などに3か月ほど会社を休んで勉強に行ける制度で、給料の7〜8割ほどを国が補助するものだそうです。
吉田さんは「めっちゃいいやん」と思ったといい、研修を受けて道具だけ担いで山に行く姿を思い描きます。樋上さんは、看板を持っていれば事情を知らずに来る人もいるかもしれないと応じます。
山の上やで。そこまで行かないと会えないわけですもんね。
中さんは、山小屋のオーナーに許可を取るには「このサービスがあるから人が増える」という付加価値を示す必要があると現実的な視点を加えます。一方で、気に入られて「今月ずっとここにいて」と言われ、下山できなくなるかもしれない、という冗談も飛び出します。吉田さんによると、山小屋には風呂がないところが多く、あっても水や資源が限られるため石鹸が使えないそうです。
山の上より、早朝登山と朝食のツアーのほうがいい?
山小屋の不便さを聞いた中さんは、以前にも話した別の案を持ち出します。インバウンドの富裕層向けに、早朝に山に登って下り、吉田さんが作ったブランチを話しながら提供するという、もっとライトな形です。
登山客が暇になる午後に施術。許可や小屋代、下山できない不便さが課題
六甲山や京都などの山の近くで、登って下りたあとに食事と会話を提供。午前中で終わる
中さんは、神戸に来た人に六甲山で、あるいは京都など有名な山の近くに泊まる人に向けてやれば、こちらのほうが人が来そうだと話します。マッサージはなくても、付けてもよいそうです。
樋上さんは「毎回同じコースになるのでは」と疑問を出します。中さんは、全国で登った山の中からライトに行けるコースを見つけていけばよいと答え、樋上さんは熊野古道のような案内できる場所を挙げます。
今度かややんファンが、じゃあ次(は)熊野古道って言ったら、熊野古道一緒に行こうかなみたいになるかもしれないね。
外国人客を相手にするなら言葉の壁もあります。吉田さんは、逆にそれで頑張れと言われたらすごく勉強するかもしれないと前向きに受け止め、中さんは英語と中国語くらいは勉強してほしいと笑います。
山伏体験と川遊びのインストラクター、アウトドア仕事のリスク
中さんは、以前話題に出た山伏の話にも触れます。山伏について山の中を歩く体験には、申し込みが多いそうです。山伏が何者か知らなかった樋上さんに、中さんは山の中で修行するお坊さんのような存在だと説明します。
会話の中では、山伏の体験は自然と一体になり、現世から離れて自分を見つめる営みの1つではないか、という見方も語られます。
続いて中さんは、川遊びのインストラクターのような仕事も、ライトなものなら始めやすいのではと話します。身近に、川遊びが好きでインストラクターをやっていきたいという人がいたからです。
これに対しては、川遊びのインストラクターには資格があり、遊びとはいえリスクが大きいので、資格を持った人でないと難しいという声が出ます。ベストをちゃんと着るよう言っても緩めてしまう参加者もいるといい、アウトドアの仕事は始めるより安全管理が難しいという現実が浮かびます。
話が広がってきたところで、3人は一度収録を区切ることにします。次回は吉田さんの深掘り回になる予定です。
まとめ
吉田さんの「山小屋で流しの整体」というアイデアは、初対面の人と短く話すのが得意という自分の性格から生まれたものでした。3人で話すうちに、許可や採算、資格、安全管理といった課題が見え、早朝登山と朝食のツアーという別の形へも発展していきました。
- 吉田さんは、山小屋で時間を持て余す登山客に向けた、店舗を持たないクイック整体を考えた
- 15時に着いて19時ごろには寝る山小屋では、施術できる人数と小屋代の兼ね合いで採算が課題になる
- 店舗を持たない整体はすでにあり、国の補助がある研修制度で技術を学ぶ道もあると話された
- 中さんは、インバウンド向けの早朝登山と朝食のツアーのほうが成り立ちやすいのではと提案した
- 川遊びのインストラクターの例から、アウトドアの仕事には資格と安全管理が欠かせないことも確認された






