「プロパー融資あり保証承諾件数」から何がわかる?
前編では、中小企業庁が公表する信用保証協会の保証承諾件数のうち、創業保証の件数をもとに、創業融資のノウハウを持つ金融機関を掘り下げました。後編の今回は、そこにプロパー融資の視点を加えます。
若林さんによると、創業融資とプロパー融資の両方を見据えたときにどこがよいか、という視点をもう1つ足すのが今回の狙いです。参照したデータは概要欄のスプレッドシートで公開されています。
若林さんが注目するのは、プロパー融資がすでにある状態でさらに保証協会の保証承諾をした件数、つまり「プロパー融資あり保証承諾件数」です。保証協会には無担保無保証で8000万円までといった枠があります。
この枠が残っている段階、つまりまだ保証協会を使おうと思えば使えるのに、プロパー融資を出してくれてる金融機関ってことがまず言えると。
その後に何らかの理由で保証協会付き融資に戻ったケースも含まれますが、少なくとも早い段階からプロパー融資を保証協会付き融資と並行して出していた表れとも読めます。若林さんは、この件数が多い金融機関ほど、並行してプロパーを出してくれる可能性が高いと見ています。
保証協会の枠があるにも関わらず、自社の金融機関のリスクを取って融資を実行しているということなんですね。
千葉銀行、城南信用金庫が目立つ理由
プロパー融資と保証協会付き融資の並行で目立つのが千葉銀行です。保証の枠が残っている段階でのプロパー融資の残高を、他行の2倍近く積んでいるといいます。
千葉銀行は、プロパー融資がある段階でさらに保証協会も使う割合も30%超と比較的高い水準です。ほかに城南信用金庫や西日本シティ銀行も、この形の件数を多くこなしていると若林さんは紹介しています。
若干前編の創業期の顔ぶれとはちょっと異なってきてますね。
この顔ぶれについて若林さんは、1件当たりの融資金額が比較的大きい金融機関と、プロパー融資に取り組む金融機関には重なりがあると見ています。千葉銀行、城南信用金庫、横浜信用金庫あたりは、しっかり審査したうえでリスクを取り、まとまった金額を出すスタンスなのかもしれません。
京都信用金庫の54%と「預貸率」という物差し
起業家はどの銀行を選べばよいのかという遠藤さんの問いに、若林さんは「もう少し数字を掘り下げる必要がある」と答えます。例として挙げたのが京都信用金庫です。
京都信用金庫は、保証協会の枠が残っているのに先にプロパー融資を出している割合が54%と大きく、件数も6000件と多いそうです。創業融資の件数では19位ですが、プロパー融資との並行では積極的な姿勢がうかがえます。
なぜこうした金融機関はプロパー融資に積極的になれるのか。若林さんはその理由を、預貸率 ── 金融機関が預かっている預金に対して、どれだけを貸出に回しているかを示す割合。高いほど預金を貸出に活用していることを表しますと経常利益率という2つの数字から読み解きます。
預貸率は、生活者が銀行に預けたお金の残高のうち、事業者などにどれだけ貸し出しているかという割合です。若林さんは、預貸率が高い銀行は積極的に貸していると言えそうだと話します。
上の数字は、プロパー融資に積極的とされる金融機関の預貸率として、若林さんが紹介したものです。
経常利益率が高いと、なぜプロパー融資を出しやすいのか
もう1つの物差しである経常利益率は、損益計算書(PL)上の経常利益の率です。若林さんは、この利益の幅が大きいことが、プロパー融資のやりやすさにつながると説明します。
保証協会の保証が付いた融資では、最悪の場合に融資額の100%、あるいは80%ほどを保証協会がかぶってくれます。そのため金融機関は、貸倒引当金 ── 貸したお金が返ってこない可能性に備えて、あらかじめ費用として計上しておく準備金。積むほど利益を圧迫しますを小さく、あるいはゼロにできます。
逆にプロパー融資では引当金を積む必要が出てきます。引当金は金融機関の財務諸表上マイナスになるため、経常利益や貸借対照表を圧迫するものです。
引当を積むこともできる余白があるが故に、積んででも貸す、でも貸すからちゃんと儲けられるっていうことにもつながっていく。
経常利益率が高い
利益の幅が大きく、引当金を積む余白がある
リスクを取って貸せる
保証協会の枠を超えてもプロパー融資を出せる
貸して儲けられる
しっかり返済されれば経常利益を高く保てる
この流れについて遠藤さんは「より貸しやすいサイクルが回っている」と受け止めています。一方で経常利益率が低い金融機関は、利益を圧迫しないよう引当金を積みたがらず、保証協会の枠の中で貸そうとする可能性が高いと若林さんは推測します。
地銀と信金、経常利益率の差はどれくらい?
経常利益率の傾向について、若林さんは、地方銀行と信用金庫を比べると地方銀行のほうが平均的に高いと話します。信用金庫は営業エリアが限られ、預金などの収益機会も限定的になりやすいためです。
地方銀行は預金のサイズ自体も大きく、預貸率が高ければ貸し出せる原資も大きくなります。若林さんは、原資が大きく、しっかり返してもらえれば経常利益を高く保てるという好循環に入りやすいのではないかと推測しています。
平均的な数字を尋ねた遠藤さんに対し、若林さんは正式な統計があるわけではないと断ったうえで、ざっくりとした目安を示しました。
| 区分 | よくある水準 | 中央値 |
|---|---|---|
| 地方銀行 | 18〜20%ほど、高いところは25%超 | 12%ほど |
| 信用金庫 | 18%前後 | 10%前後 |
貸出金額が大きく経常利益率も高い金融機関は、保証協会付き融資からプロパー融資へ移行できる金融機関と見立てられます。若林さんは、西日本シティ銀行、千葉銀行、八十二銀行、名古屋銀行などを挙げました。
(こうした銀行は)どちらかというとむしろプロパーからが主戦場かもしれないっていう可能性もあるので。
保証協会付きの創業融資も多く、かつプロパーも狙える表の上位は、プロパー融資まで見据えたときにバランスのよい狙い目になりそうだと若林さんは話します。
収益性の高い銀行ほど、スタートアップに慎重?
遠藤さんは、この視点で金融機関を選ぶうえでの注意点を尋ねます。若林さんの答えは、経常利益率の高さには表裏があるというものです。
経常利益が高いことは、逆に言えば損を抑えられていることでもあります。ある程度リスクが下がるまでは創業融資の保証を使い、プロパーでは出さないと線引きしている可能性があり、審査も厳しいと考えられます。
さらに、VCから出資を受けて急成長とEXITを目指すスタートアップに限ると、プロパーに積極的と読み解ける金融機関でも、スタートアップフレンドリーかどうかはまだわからないと若林さんは指摘します。
変な話、安定して大きい会社さんに貸すことができたら、それが一番儲かるじゃないですか。金利上昇局面におきましては。
まだ大きくなる手前で貸しにくい条件も抱えるスタートアップは、金利上昇局面では選ばれにくい場合があります。プロパーへの積極性とスタートアップへの積極性はイコールではない、という点が注意点です。
スタートアップ向けファンドを持つかも一つの手がかり
それでも、スタートアップに友好的かもしれないと見極める材料として、若林さんは「スタートアップに投資するファンドを持っているかどうか」を挙げます。
ただし、ファンドを運営する部門と融資を実行する部門は、同じ社内でも別会社でも基本的に担当が違います。片方が積極的でも、もう片方も同じとは限らない点に注意が必要だと若林さんは前置きしています。
そのうえで、八十二銀行、千葉銀行、西武信用金庫、京都銀行、京都信用金庫などは金融系のVCとしても活動しているといいます。特に福岡銀行を含むFFGグループは、直接投資に加え、グループとしてVCやベンチャーデット ── スタートアップ向けの融資。出資と組み合わせたり、新株予約権を付けたりして、株式の希薄化を抑えながら資金を調達する手段として使われますのファンドへのLP投資も行い、根を張っている印象だそうです。
一方で、こうした金融機関が融資にも積極的かというと温度差もあるため、ファンドの有無は1つの視点として使うのがよさそうです。
創業融資からプロパー融資へ、起業家が踏むステップ
遠藤さんに促され、若林さんは前後編を通じた金融機関選びの考え方をまとめます。軸は、創業融資から始めてプロパー融資まで付き合えそうな金融機関を探すことです。
まず創業融資の件数ランキング上位で創業のノウハウを確認し、次にプロパー融資あり保証承諾件数が多い、早い段階からリスクを取る金融機関を見ます。レイトステージで大きな融資まで期待するなら、貸出残高、預貸率、経常利益率まで確認するとよいと若林さんは話します。
この手順の起点は前編で紹介した創業融資のランキングで、後編の指標はその次の段階で効いてくる、という位置づけです。
データより強いのは「あの支店のあの担当者」の噂
遠藤さんは、ここまで考えて金融機関を選ぶCFOが実際にいるのかを尋ねます。若林さんによると、元データを自ら分析した人はいないものの、どこがよいかを聞いてくる人は多いそうです。
若林さんがデータを見て理由を添えて伝えると、同じ軸で金融機関を探したり、ディスクロージャー資料を確認したりしたスタートアップのCFOもいたといいます。
ところが若林さんは、ここで「ちゃぶ台返し」をします。スタートアップにとって一番強い情報は、ランキングではなく、スタートアップ界隈で「あそこは積極的らしい」と流れる噂だというのです。
何々銀行のどこどこ支店の何々さんがめっちゃ頑張ってくれるよみたいな話とかがなんか一番強かったりはする。まあ(担当者は)異動しちゃうんだけど。
ランキングは銀行全体の話であり、実際に借りられるかは支店や担当者の差も大きく左右します。そのため、同じエリアの起業家との情報交換もあわせて行うとよいと若林さんは勧めます。
(データと現場の情報を)セットで持っといたらより最強ですね。
若林さんは最後に、2回にわたって紹介したのは、各金融機関の取り組みの結果として表れた実績から読み解けることだと位置づけています。
まとめ
プロパー融資まで見据えた金融機関選びでは、創業融資の実績に加え、保証協会の枠が残るうちからプロパーを出しているか、そして預貸率と経常利益率を見ることが手がかりになります。ただし収益性の高さはスタートアップへの積極性と同じではなく、最後は現場の噂や担当者の情報が効いてきます。
- 「プロパー融資あり保証承諾件数」が多い金融機関は、保証協会と並行してプロパーを出す可能性が高い
- 預貸率と経常利益率が高い金融機関ほど、引当金を積んででもリスクを取って貸しやすい
- 収益性の高い金融機関は審査が厳しく、スタートアップを選ばない可能性もある
- 創業融資で実績を作り、プロパーに積極的な金融機関へ段階的にアプローチするのが基本ステップ
- 同じエリアの起業家から、支店や担当者単位の情報を集めることが最も強い材料になる




