なぜ今「地味な公的制度」なのか?
若林さんはまず、7つの公的制度を紹介する前提として、2025年までのスタートアップの資金調達環境を振り返ります。VCの資金は、成長確度の高い一部の企業に集中し、選別が進んでいるといいます。
若林さんによると、1件あたりの調達金額は増えている一方で、全体の件数は減っています。上場数の減少や小粒上場の難しさもあり、VCのファンドレイズ自体も難航しているそうです。
こうした流れから、VC側はIPOだけでなくM&Aも許容するスタンスが広がり、スタートアップ側もM&AとIPOを両輪にするデュアルトラック ── 上場(IPO)と事業売却(M&A)の両方を出口の選択肢として並行して検討する戦略のことが主流になってきたと若林さんは見ています。
エクイティ一本足打法だというところは厳しくて、M&Aの可能性も限定しないですね。デットもミックスした、いわゆるファイナンスミックスというところが重要になりつつある。
加えて、創業融資が確実に充実してきたことで、シード調達をスキップして、まず創業融資でPOCを回す会社が明確に増えていると若林さんは話します。
VCマネーの選別
成長確度の高い一部企業に集中し、調達件数は減少
出口の多様化
IPO一本からM&Aも含めたデュアルトラックへ
ファイナンスミックス
エクイティだけでなくデットも組み合わせる
公的制度の活用
地味でもコストや負担を下げる制度を知っておく
紹介される7つの制度は、特定創業支援事業、スタートアップ創出促進保証、女性・若者・シニア創業サポート2.0、ファンドサポート事業、東京都事業可能性評価制度、協調支援型特別保証、資本正論です。前編では最初の3つが扱われました。
一個一個すごい大きなインパクトがあるというよりかは、地味に効くよっていう軸でですね、今回選ばせていただきました。
若林さんは、特定の地域でしか使えない制度もあるので、該当しない人はその部分を飛ばして聞いてほしいとも添えています。
セミナー受講で登録免許税が半額に、特定創業支援事業
1つ目の特定創業支援事業は、各市区町村が主体となる制度です。最もメリットが大きいのはこれから会社を設立する人で、少なくとも創業5期未満の会社が対象になると若林さんは説明します。
特定創業支援事業の仕組みは、市区町村が実施する全4回ほどの創業セミナーを受講すると、卒業証書のような証明書がもらえるというものです。この証明書で、さまざまな優遇が受けられます。
- 株式会社設立時の登録免許税が半額になる(例: 15万円→7.5万円)
- 日本政策金融公庫の融資金利が引き下げになる
- 信用保証協会の創業関連保証の特例が受けられる
- 小規模事業者持続化補助金の創業枠で200万円まで申し込める
- 東京都の創業助成金の申し込み要件の1つを満たせる
若林さんは、小規模事業者持続化補助金 ── 小規模事業者の販路開拓や販売促進の取り組みを支援する国の補助金。通常枠のほかに、創業者向けなどの特別枠が設けられていますが通常50万円のところ200万円まで広がるため、最大150万円以上のメリットになり得ると話します。東京都の創業助成金も400万円以上の規模になるそうです。
セミナーはオフラインもオンラインもあり、開催頻度は自治体によって年2回だったり常時だったりと差があります。若林さんは、登記予定の自治体名と「特定創業支援事業」で検索して調べることを勧めています。
遠藤さんが、セミナーを受講すれば審査に通ると考えてよいのかを尋ねると、若林さんは次のように答えました。
多分ちゃんと出てれば、出たけど(証明書が)取れませんでしたって聞いたことはないんで。はい、受けりゃいいんだと思いますよ。
代表者の連帯保証を外せる、スタートアップ創出促進保証
2つ目のスタートアップ創出促進保証は、創業後に使う制度です。SSS保証とも呼ばれ、創業5年未満の会社が信用保証協会の保証付き融資を受ける際に、代表者の連帯保証を外すことができます。
信用保証協会付き融資とは、都道府県や一部の政令指定都市にある信用保証協会の保証をつけて、民間金融機関から借り入れる融資のことです。若林さんは「マル保」とも呼ばれると説明しています。
若林さんは、代表者の連帯保証(経営者保証)の重さを、自身が代表を務めるINQを例に説明します。会社と代表者は法律上は別人格ですが、連帯保証をつけると、会社が返せない借入を代表者個人が負うことになります。
(連帯保証の借入を)返せなかったら私が破産しなきゃいけないみたいなプレッシャーがね、あるので、従ってスタートアップ側としては思い切った意思決定ができなくなっちゃう。
こうした問題から、連帯保証をつけないようにしようという流れがあり、その国の施策の1つがスタートアップ創出促進保証だと若林さんは位置づけます。対象は創業5年未満の会社で、3500万円までの融資に使えるそうです。
創業5年を過ぎても使える、事業者選択型経営者保証非提供制度
スタートアップ創出促進保証の条件に合わない会社や創業5期以上の会社でも、必ず連帯保証がつくわけではありません。若林さんは、事業者選択型経営者保証非提供制度という別の制度を紹介します。
事業者選択型経営者保証非提供制度では、創業年数の要件はなく、一定の条件を満たせば連帯保証を外せます。若林さんがざっくり挙げた条件は次のとおりです。
- 決算書などをきちんと金融機関に提出している
- 会社から代表者への貸付がない
- 役員報酬が会社全体の業績に対して大きすぎない
- 直近の決算で債務超過でなく、2期連続赤字でもない
代表者への貸付が問題になる理由について、若林さんは、会社のお金が個人に流出していると、個人と法人の一体性が解消されておらず、会社を私物化していると疑われるからだと説明します。
創業5年未満の会社が対象。信用保証協会付き融資で3500万円まで使える
創業年数の要件なし。決算書提出や債務超過でないことなど一定の条件を満たせば使える
どちらの制度も、信用保証料を一定割合上乗せすることで連帯保証を外せる仕組みです。若林さんは、使える場合は使っている人が多いと話します。
遠藤さんが地域による違いを尋ねると、若林さんは、どちらも基本的に全国的な制度で、それに準じた自治体ごとの制度もあるため両方チェックするとよいと答えています。
低金利だけど注意点あり、女性・若者・シニア創業サポート2.0
3つ目の女性・若者・シニア創業サポート2.0は、東京都限定の制度です。東京都内で起業した女性、39歳以下の若者、55歳以上のシニアが対象で、創業5年未満であることが条件になります。
女性・若者・シニア創業サポート2.0の融資上限は1500万円、女性の場合は2000万円で、金利は1%と非常に低く設定されています。若林さんは、小池百合子さん肝煎りの制度のようで、女性を応援するニュアンスが強いと話します。
一方で、女性・若者・シニア創業サポート2.0は信用保証協会の保証をつける制度ではありません。東京都の資金を預かった都内の信用金庫や信用組合が融資し、デフォルト時は東京都がカバーする仕組みです。
そのため、一部の金融機関はプロパー融資 ── 信用保証協会の保証をつけず、金融機関が直接リスクを負って行う融資。審査は保証付き融資より厳しくなりやすいとされますと同じように審査するといいます。若林さんは、創業向けの制度にもかかわらず、公庫や保証協会付き融資よりハードルが高くなる傾向があると注意を促します。
積極的に扱う金融機関は限られ、若林さんは立川市に本店を置く多摩信用金庫が力を入れていると聞いているそうです。23区などそれ以外のエリアで、女性以外の該当者は注意がいるかもしれないとしています。
遠藤さんは、この制度の審査ポイントは過去の回で詳しく扱っているため、そちらも確認してほしいと補足しました。次回はシリーズA以降のスタートアップが使える制度が紹介される予定です。
まとめ
前編では、VC資金が選別される環境のもと、創業期のコストと経営者の負担を軽くする3つの公的制度が紹介されました。どれも一つひとつは地味ですが、知っているかどうかで差がつく制度です。
- 特定創業支援事業は、自治体の創業セミナー受講で登録免許税の半額化や補助金枠の拡大などが受けられる
- スタートアップ創出促進保証は、創業5年未満の会社が保証協会付き融資で代表者の連帯保証を外せる制度
- 創業5年以上でも、事業者選択型経営者保証非提供制度で条件を満たせば連帯保証を外せる
- 女性・若者・シニア創業サポート2.0は金利1%と低いが、保証協会の保証がなく審査のハードルが上がりやすい






