VCから出資を受けると自治体が補助?ファンドサポート事業の仕組み
この回は、創業期に知っておきたい穴場の公的制度7選の後編です。前編では特定創業支援事業、スタートアップ創出促進保証、女性・若者・シニア創業サポート2.0などが紹介され、後編ではファンドサポート事業に続いて、東京都の事業可能性評価制度、協調支援型特別保証、資本性ローンが取り上げられます。
4つ目の制度として若林さんが紹介するファンドサポート事業は、少なくともシード調達を終え、シリーズA前後までのスタートアップが対象になる制度です。さらに、特定のエリアで起業する人だけが使えるという条件もあります。
ファンドサポート事業の基本的な仕組みは、自治体が指定したVCから出資を受けたスタートアップを、その自治体が支援するというものです。最初に始めたのは静岡県浜松市で、その後に静岡県も続いたと若林さんは説明します。
浜松市の場合、市が認定したVCから出資を受けるか、認定金融機関から融資を受けると、受けた出資額を基準に最大4000万円を上限として補助が出ます。遠藤さんが「補助とはどういうことか」と尋ねると、若林さんは補助金のことだと答えています。
補助金っていうことですね。これ(ファンドサポート事業)すごいですよね。
若林さんは、似た制度を持つ自治体として新潟県南魚沼市、福岡県北九州市、山梨県も挙げています。仕組みは自治体ごとに異なり、補助金を出すところもあれば、自治体自身が出資するところもあります。
| 自治体 | 制度の中身 | 支援の形 |
|---|---|---|
| 浜松市(静岡県も実施) | 認定VCからの出資や認定金融機関からの融資を受けた場合に補助 | 補助金(上限4000万円) |
| 南魚沼市 | 資金調達額の2分の1を支給 | 補助金 |
| 北九州市 | 企業変革スタートアップグロースサポート事業。認定VCから出資を受けていると審査で加点 | 500万円や1000万円の補助金で加点 |
| 山梨県 | 資金調達サポート事業の出資協調型。認定VCの出資に協調して県が追加出資 | 出資 |
特に山梨県の出資協調型について、若林さんは自治体が自ら出資するのは珍しく、踏み込んだ仕組みだと評価しています。該当エリアで起業し、認定VCから出資を受ける場合には、インパクトの大きい制度だといいます。
浜松市に登記しているスタートアップはどこに問い合わせればよいのか、という遠藤さんの質問に対して、若林さんは浜松市か認定VCに聞くのがよいと答えています。認定VCもファンドサポート事業のことは承知しているはずだからです。
赤字でも融資につながる「お墨付き」、東京都の事業可能性評価制度
5つ目は、東京都の事業可能性評価制度です。対象は少なくともシード調達を終え、シリーズA前後にあるスタートアップで、決算書はまだきれいではないものの、技術やビジネスモデルには自信がある会社だと若林さんは説明します。
事業可能性評価制度では、東京都の中小企業振興公社 ── 正式には東京都中小企業振興公社。都内の中小企業を対象に、助成金や経営相談などの支援を行う公益財団法人ですが評価委員を置いています。評価委員が事業の可能性ありと認定すると、融資条件の優遇や保証料の減免を受けられます。
言ってみればお墨付きがつくみたいな感じですかね。
若林さんは、認定を受けたからといって融資が必ず出るわけではないと念を押しています。そのうえで、事業可能性評価制度の認定は「地味に効いてくる」ものだと話しています。
認定を受けると使いやすくなるのが、きらぼし銀行の事業可能性評価融資制度「事業力」のような融資です。さらに、中小企業振興公社の創業助成金、新製品・新技術開発助成事業、市場開拓助成事業といった補助金に申し込む際にも、加点や事実上の申し込み要件の一部になることがあります。
若林さんによると、事業可能性評価制度で評価を受けている会社はそれほど多くありません。保証協会付き融資だけでは条件が厳しい場合でも、お墨付きがあることで支援を検討してもらいやすくなるといいます。
中小企業振興公社にしてもきらぼし銀行さんにしても、やっぱり融資制度ってこう活用されてなんぼみたいなところはあるので。
実例として若林さんが挙げたのが、歯科医師や歯科助手のマッチングプラットフォームを運営するHANOAです。HANOAは事業可能性評価制度で「可能性あり」の認定を受け、まだ赤字の段階で独自の融資制度から融資を受けたといいます。
対象地域について遠藤さんが確認すると、若林さんは東京都に何らかのゆかりが必要だと答えています。ただし、必ずしも本店登記が東京である必要はなく、支店登記などでもよい可能性があるとの見方です。
銀行がリスクを取れば保証協会も動く、協調支援型特別保証
6つ目の協調支援型特別保証は、保証協会付き融資に関わる制度です。対象は保証協会付き融資の実績があり、シリーズAを超え、ある程度PMF ── プロダクト・マーケット・フィットの略。製品やサービスが市場のニーズに合い、顧客に受け入れられている状態を指しますに達したスタートアップだと若林さんは説明します。
具体的には、売上が再現性を持って立ち始め、創業期を抜けてさらに成長資金が必要になっている会社です。そろそろ銀行とプロパー融資 ── 信用保証協会の保証を付けず、金融機関が自らリスクを負って貸し出す融資のことですで直接取引をしたいと考えている会社が当てはまります。協調支援型特別保証は2025年から2028年までの時限措置だといいます。
協調支援型特別保証の仕組みは、保証協会付きの融資と保証を付けないプロパー融資をセットで受けると、保証協会付き部分の保証料を国が補助するというものです。補助の範囲は2分の1から4分の1までで、経営行動計画書の作成・提出が条件になると若林さんは説明しています。
銀行がプロパー融資
金融機関がリスクを取ってプロパー融資を出す
金額が足りない
プロパー融資だけでは金額が足りず、もう一声欲しい
保証協会が上乗せ
銀行がリスクを取っているなら、保証協会も保証を付けて融資を充実させる
保証料を国が補助
保証協会付き部分の保証料を国が2分の1から4分の1まで補助する
若林さんは、協調支援型特別保証を使うかどうかにかかわらず、保証協会付き融資を受けるときは「一部をプロパーで出してもらえないか」と金融機関に頼んだほうがよいと話します。
結構積極的にスタートアップに融資している某銀行さんの方とかは、よく保証協会さんにうちもプロパー一部出すから保証つけてよっていう風にお願いすると。
銀行がリスク取るんだったら、じゃあ保証協会としても出しましょうっていう風に言ってもらいやすくなりますと。
中小企業庁の統計でも、保証協会付き融資とプロパー融資を織り交ぜた時期の融資実績が公表されていると若林さんはいいます。保証協会付き融資とプロパー融資の間を行き来する時期は実際にあり、そのタイミングで協調支援型特別保証が使えるのではないかという見立てです。
遠藤さんは、こうした制度を銀行に提案するのはスタートアップ側と銀行側のどちらなのかを尋ねました。若林さんの答えは、基本的にはスタートアップ側から言ったほうが安心だというものです。
結構(金融機関の)担当の方もいっぱい担当を抱えてたりされるんで、そういう意味ではそこまで手が回らない、気が回らないっていうことも起こり得てしまいます。
若林さんは、制度を提案してもらえなかったことを銀行のせいにせず、知っている制度は「これを使いたいが、使えそうか」と自分から聞いてみることを勧めています。知っている制度は自分から金融機関に聞くという姿勢が、ここまでの制度すべてに共通するポイントです。
地味どころか効果絶大、資本性ローンの3つの特徴
最後の7つ目は資本性ローンです。若林さんは、資本性ローンは本来「地味に効く」どころではない制度だと前置きしつつ、地味に効くポイントもあるとして改めて紹介しています。
若林さんが挙げる資本性ローンのポイントは3つです。期限一括償還、業績に連動する金利、そしてみなし自己資本 ── 負債として借りたお金を、金融機関の審査上は自己資本と同じように扱えるとする考え方ですです。
| 特徴 | 中身 | スタートアップにとっての意味 |
|---|---|---|
| 期限一括償還 | 5年1カ月以上先の期限まで元金返済がなく、金利のみ支払う | 現金が減っていかない |
| 業績連動の金利 | 黒字なら上のレンジ、赤字なら最も低い金利になる | 赤字の先行投資期は低金利で済む |
| みなし自己資本 | 金融機関の自己査定でエクイティと同じように見てもらえる場合がある | 自己資本比率が改善して見える |
3つ目のみなし自己資本について、若林さんは貸借対照表との関係で説明しています。資本性ローンはローンなので、貸借対照表では右上の負債に入ります。しかし金融機関が自己査定をする際には、エクイティと同じように自己資本とみなすことができるといいます。
必ずみなしてもらえるわけではないものの、自己資本とみなされれば、エクイティファイナンスをしたのと同じように見えます。その結果、自己資本比率が改善され、場合によっては債務超過が解消したかのように見えることもあります。
資本性ローンを借りる
貸借対照表上は負債に入る
自己資本とみなされる
金融機関の自己査定でエクイティと同様に扱われる場合がある
自己資本比率が改善
債務超過が解消したように見える場合もある
次の融資を誘発
他の融資の呼び水になる
若林さんは、資本性ローンが他の融資の呼び水になり得る点を強調しています。先行投資による赤字の期間も資本性ローンで補えることが金融機関に伝わり、一括返済なので現金も減らず、赤字なら金利も低いため、スタートアップにとってとてもありがたい仕組みだといいます。
資本性ローンは誰にでも向く?使うべきタイミングと注意点
遠藤さんは、資本性ローンを活用しようとするときに気をつける点はあるかと尋ねました。若林さんがまず挙げたのは、資本性ローンは基本的に一括返済なので、途中で返したくなっても返せないという点です。
しかももし黒字が出ていくと金利って上がっていくんですね。で、普通貸付というか、他の制度を使ったより金利は高くなるんですよ。
そのため、すでに黒字が出ている会社や黒字化が見えている会社では、資本性ローンのメリットは小さいと若林さんは話します。利益剰余金がこれから積み上がる会社にとっては、みなし自己資本の効果もさほど大きくないからです。
赤字の先行投資期にあり、日本政策金融公庫の国民生活事業はもう卒業というタイミングのスタートアップ
すでに黒字、または黒字化が見えていて、利益剰余金が積み上がる予定の業績がよい会社
業績のよい会社は、普通の日本政策金融公庫の融資で借りたほうが金利も低く、業績に応じた借り換えや追加融資もできると若林さんは説明します。資本性ローンを使うと、メリットがないどころか公庫の枠がロックされたような状態になってしまうといいます。
若林さんが勧める資本性ローンの使いどころは、公庫からすでに2000万〜3000万円ほど借りているスタートアップが、国民生活事業 ── 日本政策金融公庫のうち、小規模事業者や創業者向けの融資を扱う部門ですからの借り入れは卒業というタイミングです。億単位の融資を行う中小企業事業と一度付き合いがあり、そこから急成長を目指す場面も挙げています。
締めくくりに、遠藤さんが資本性ローンを「地味に効かないかもしれない」と紹介すると、若林さんは言い直しています。
効かねえというか、効き目が地味じゃない。
7つの制度は情報量が多かったため、まとめを概要欄に掲載すると遠藤さんは伝えています。
まとめ
後編で紹介された4つの制度は、いずれもシード調達後からシリーズA以降のスタートアップが、次の資金調達を有利に進めるための仕組みです。対象エリアやフェーズ、業績の状態によって向き不向きがあり、制度を知ったうえで自分から金融機関に相談する姿勢が大切だと話されています。
- ファンドサポート事業は、浜松市などで認定VCから出資を受けたスタートアップに、補助金や自治体の追加出資が出る制度
- 東京都の事業可能性評価制度は、赤字でも技術やビジネスモデルに「お墨付き」を得て、融資や補助金を受けやすくする制度
- 協調支援型特別保証は、プロパー融資と保証協会付き融資をセットにすると保証料を国が補助する、2025〜2028年の時限措置
- 資本性ローンは期限一括償還・業績連動金利・みなし自己資本により、次の融資の呼び水になり得る
- 資本性ローンは黒字の会社には不向きで、公庫の国民生活事業を卒業するタイミングでの活用が勧められている




