なぜアセットビジネスは資金調達が生命線なのか
番組後半では、まずスムーズの事業の中身と、なぜそこまで資金需要があるのかから話が始まりました。
鈴木さんによると、スムーズが対象としているのは、敷金や礼金、仲介会社への手数料といった賃貸初期費用です。
(初期費用は)敷金、礼金とか仲介会社に支払う手数料といったものをひっくるめて、大体元本にすると30万円とか50万円になります。
これを月間で今でいうと1000件に満たないくらい融資してますので、その分だけ資金調達が必要になってきます。
初期費用の負担は、若い世代だけの悩みではないという話も出ました。菅井さんは、会社の辞令でニューヨークへ赴任したときの体験を振り返ります。
ニューヨークの家賃相場って日本の比じゃないくらい高くて、立て替えする金額が確か150万ぐらい必要で、28歳の若造の銀行員に150万円なんて負担できねえよって思いながら、親族にお金借りて立て替え期間を乗り切りました。
鈴木さんは、これはお金がない人だけの悩みではないと補足します。高い家賃帯の物件ほど、初期費用も家賃の何倍にもふくらむためです。
スムーズは全国の不動産仲介会社と加盟店契約を結び、店頭で案内してもらう形でサービスを届けています。引っ越したい人、仲介会社、スムーズの三方にメリットがある事業だと若林さんは整理しました。
(スムーズのサービスは)夢の実現を後押しすると考えているんですよね。引っ越しって前向きなライフイベントで、金銭的バリアを金融の力で突破することでサポートするんです。
事業が伸びるほどキャッシュが要る「アセットビジネスの宿命」
ニーズがあっても、スムーズ自身が先にお金を立て替えるため、事業が伸びるほど前払いの資金が必要になります。若林さんはこの構造を確認しました。
いわゆるアセットビジネスというビジネスモデルで、常に資金が出ていきますので、エクイティ調達やタームローンだけじゃなくて、短期で多額の資金が必要になってきます。
鈴木さんはこの短期・多額の資金調達を「バックファイナンス」と呼びます。貸借対照表の左側、つまり資産をやりくりするための調達だと若林さんは言い換えました。
同じアセットファイナンスの担い手として、FlexCapitalが提供するインボイス(請求書立替)サービスも近い構造だという話になりました。菅井さんは、支払うべき請求書を立て替えて繰り延べする点で、スムーズと似たプロダクトだと説明します。
バランスシートの左側のアセットを大きくするためには、右側をどうやって調達するんだっていうのが日々の悩みで。銀行のライセンスがないと預金という形では集めることができないんです。
バックファイナンスで最も大事にしている「安定性」
鈴木さんがファイナンスで重視する考え方についても語られました。バックファイナンスではエクイティと違い、安定性が鍵になると言います。
鈴木さんによると、投資家は株式の値上がり益や成長を重視する一方、融資は元本と利息が確実に返ってくるかを重視します。だからこそ収益の安定性が問われる、という整理です。
融資はきちんと元本が返ってくるか、利息が得られるかを重視しますので、収益の安定性が大事だというところを意識しています。
では、安定性をどう金融機関に示すのか。若林さんの問いに対し、鈴木さんは資金使途である立替債権のデータを細かく開示していると答えました。
立替債権が今いくつあるか、正常に返ってきているのか回収が危ぶまれているのかというカテゴリー分けや、ユーザーさんの世代や住まわれてる場所といった属性データを粒さに整理して出しています。
なぜエクイティだけでは伸びられないのか
スムーズはエクイティファイナンスも行っています。それでもエクイティだけでは足りないのはなぜか、という点に話が及びました。
鈴木さんは「時間軸」で説明します。エクイティは投資家が長い時間軸でリターンを見るのに対し、デットは資産から生まれるキャッシュフローで短期に回収していく。両者は時間軸が合わないため、エクイティだけでは成長しきれないと言います。
エクイティ性の資金だけでやっていると時間軸が合わないので、おそらくエクイティだけでは成長していけないってことが起こるんじゃないかなと思ってます。
菅井さんは別の切り口として「コスト」を挙げました。一般にエクイティより調達コストの低いデットでレバレッジを効かせるほど、加重平均した調達コストは下がり、資産から生まれるリターンとの利ざやが大きくなる、という構造です。
VCさんの期待リターンはIRRベースで数十パーセントみたいなところに対して、デットの調達って高いもので10パーセントとか、低いものでは1パーセント台みたいなものもあるので、かなり調達コストはエクイティ対比低いんです。
若林さんは、この構造をEC事業の仕入れにたとえました。仕入れコストがエクイティだと高く、デットだと低いため、仕入れ資金はデットで賄うほうが売値との差益が大きくなる、というイメージです。
私たちのビジネスってシンプルに考えると銀行とほぼ近しいモデルで、資金を右から左に流してその利ざやで儲ける形なので、調達のコストは安ければ安いほど儲かるんです。
投資家は長い時間軸で成長と株価の値上がり益を期待する。資本コストは相対的に高い
資産のキャッシュフローで短期に回収する。調達コストが相対的に低く、レバレッジで利ざやを広げやすい
GKTKや自己信託まで 調達ソースを分散する狙い
スムーズはエクイティ・デットに加え、GKTKスキームや自己信託受益権売買スキームなど、あまり聞き慣れない多様な手法を使っています。なぜそこまで多様化するのか、という問いが投げかけられました。
鈴木さんは、金融のセオリーとして「分散」が重要だと答えます。一つの金融機関だけに頼ると経済条件が硬直的になり、相手方のリスクも集中してしまうためです。
一つの金融機関から調達していると経済条件が硬直的になりますし、複数の金融機関同士の競争原理を働かせて、より良い条件を引き出すことが必要なんです。
菅井さんは、コーポレートローンが企業そのものの信用力を測るのに対し、スタートアップは生の信用だけでは融資が難しかったりコストが高くなりがちだと補足します。そこで会社の資産を評価するバックファイナンスの手法が効いてくると言います。
Fivotもスムーズの例を参考に、直近でGKTKスキームを小さく始めているといいます。菅井さんは、まずコストを下げつつ、調達ソースを多様化して調達できる金額を増やすことを念頭に置いていると話しました。
鈴木さんは、入社当初に出鼻をくじかれた経験に触れつつ、金融機関出身のキャリアがこうしたスキーム構築で生きたと振り返ります。
最初こそ出鼻をくじかれましたけれども、いろんな金融機関さんと関係構築しながら議論する中で、今こうした持続可能で拡張性のあるスキームができてきたのかなと思ってます。
FlexCapitalの「質問ラリーの少なさ」が生む時間の価値
多様な手法を分散するなかで、FlexCapitalの活用が大きかったと鈴木さんは語ります。2025年2月と9月の2回、実施したとのことです。
鈴木さんが挙げた最大の違いは「スピード」でした。融資判断者は返済リスクを気にして質疑を重ねますが、FlexCapitalは重要なポイントをシャープに捉えているため、質問の質が高く数も少ないと言います。
菅井さんは、シャープに質問できるのは事業理解ができているからだと応じます。伝統的な金融機関が何度も面談を重ねる部分を、Fivotはデータで補完していると説明しました。
事業理解をするために伝統的な金融機関の方は何度も面談をしていく。我々はそれをデータで補完していくという形で、そこがうまく機能している部分もあるんだろうなと思ってます。
若林さんは、決算書は集計後の数字なので金融機関は根掘り葉掘り聞かざるを得ず、ラリーが多くなりがちだと整理します。一方でスタートアップにとっては時間が命です。
鈴木さんによると、スムーズで資金調達を最前線でやっているのは自分一人。質問ラリーが多いと体力を奪われ、融資を勝ち取れなければ機会損失になると言います。
質問のラリーが多いと体力かかってしまうんですよね。それで融資を勝ち取れればいいですけど、できなかったら機会損失が生じてしまうので、そこを回避できるという意味でもスピード感はありがたいです。
菅井さんは、すべてを証明するのは不可能なので、どこかで質問ラリーを止め、最後はリスクとリターンを合わせに行くと明かしました。多少の割り切りも込みで支援している、という率直な言葉です。
全てを証明することは不可能だという立場に立つと、どこかで質問のラリーを止めないといけない。そうした場合は、もう最後はリスクとリターンを合わせに行くということだと思っています。
若林さんは、起業家側もリスクリターンには金利の高低だけでなく、スピードや機会損失といった時間の価値が含まれていると捉える必要がありそうだとまとめます。鈴木さんも、厳しい局面で出してもらえた価値には利息でしっかり応える必要があると同意しました。
投資家が評価した「調達の持続可能性」
後半はエクイティファイナンスの話にも及びました。投資家はスムーズのどこを評価したのか、という問いです。
鈴木さんは、サービスの価値や収益性に加えて、資金調達がしっかりできるかどうかが重視されたと答えます。資金がつかなければ事業を伸ばせないビジネスモデルだからです。
資金がつかないとそもそも事業を伸ばしていけないビジネスモデルがあるので、最近ご支援いただいたJICさんもバックファイナンスの出し手や拡張性、持続可能性にすごく着目されていました。
若林さんは、多様なファイナンススキームで分散できていることが最終的な収益性につながり、それが評価されたのだと確認しました。
鈴木さんによると、投資検討の最終局面では、伊藤忠商事やモルガンスタンレーといったビジネスパートナーにもリファレンスが行われ、拡張性が確かめられたといいます。
菅井さんは、鈴木さんのCFOとしてのキャリアやスキルセットがバリュエーションに跳ね返った瞬間ではないかと評しました。
(鈴木さんのキャリアが)何十億円分ぐらい織り込まれてるんじゃないですかね。
これから続く起業家へ 信用は一朝一夕では積み上がらない
菅井さんは、ここまでの話を振り返ってまとめます。スタートアップは誰よりも早く高く成長することが求められ、そのために資金調達をいかに大きく、いかに低いコストで行うかが問われると整理しました。
型だけではなくて、人間臭さというか泥臭さというか、まさに人対人で信頼されるための何かみたいなものの重要性も語っていただいて、手掴み感のあるCFOのリアリティを知ることができました。
スムーズの今後の展望として、鈴木さんは資金調達こそが事業そのものである以上、コストを下げてより良い条件で調達していくことが当面の課題だと語りました。
具体的には、伊藤忠商事と進めるGKTKスキームに低利のシニアレンダーを招き、融資条件をミックスして加重平均の調達コストを下げていくといいます。そのためには資金使途となる立替債権を積むことが不可欠だと強調しました。
最後に、後に続く起業家へのメッセージを求められた鈴木さんは、スタートアップのデットファイナンスは決して簡単ではないと率直に語ります。デットは企業の信用力を重視し、その信用力は定量情報だけでなく定性情報も含めて総合的に判断されるためです。
まとめ
アセットビジネスであるスムーズにとって、資金調達は事業そのものであり、時間軸とコストでエクイティとデットを使い分け、調達ソースを分散することが成長の生命線になっていました。多様なスキームで持続可能な財務基盤を築くことが、最終的にバリュエーションや投資家からの評価にもつながっています。
- 賃貸初期費用を立て替えるアセットビジネスは、事業が伸びるほど前払い資金が必要で、資金調達そのものが生命線になる
- エクイティは長い時間軸と成長を、デットは短期回収と低コストを担い、時間軸とコストで使い分けることで利ざやを確保する
- 一つの金融機関に依存せず、GKTKや自己信託などで調達ソースを分散し、競争原理を働かせてより良い条件を引き出す
- FlexCapitalの質問ラリーの少なさは、スタートアップにとって機会損失を防ぐ「時間の価値」として評価された
- デットの信用力は定量・定性の両面で総合的に判断されるため、信用は一朝一夕ではなく日々の調達活動で積み上げる必要がある




