VCから見たデットファイナンス、この5年で何が変わったか
番組パーソナリティのINQ・若林哲平氏が今回テーマに掲げたのは、「VCはスタートアップのデットをどう見ているのか」という切り口です。ゲストには、グロービス・キャピタル・パートナーズの福島智史氏を迎えました。
福島氏は2014年からベンチャーキャピタルの仕事に携わり、ヘルスケア関係を中心に、業種やステージを問わず投資を行ってきました。ファンドは今年で30周年、規模は700億円内外に及びます。
当然ながら私たちの株式での投資をする前、した後にデットでの調達も様々(投資先で)伝わりますので、今日はその辺についてお伺いができればなと思っております。
若林氏は、30年にわたり日本のスタートアップエコシステムで存在感を発揮してきたグロービスに、デットファイナンスの環境変化をどう見ているか尋ねます。
デットが使えるようになってきたのって、この5年ぐらいかなと思います。コロナ前後ぐらいから、(SaaSのような)ストック型のビジネスが増えて、売上が読みやすくなったよねと。
福島氏は、ビジネスモデルとデットの親和性が高い事業に対して、まずベンチャーデットがつき始めたと振り返ります。いわゆる予約権付きのデットが登場したのは2020年ごろで、福島氏の投資先である架け橋が第一号案件だったと語ります。
なぜ金融機関出身のCFOがデット活用を後押ししたのか
若林氏は、環境変化の背景として、コロナ融資で多くのスタートアップがデットを意識するようになったことや、2022年にかけての市場クラッシュでレスキューファイナンス的にデットが使われた可能性を挙げます。
その上で、福島氏に投資先がデットを使うことへの印象を尋ねました。
バランスシートを上手に使うということは、企業経営においてはイロハのイだと思います。昔はデットという選択肢があまりなかったので、資金イコール資本だった時代があったと思うんですけれども。
福島氏は、事業が安定し運転資本に充当する部分が増えてきたことで、資本コストの高いエクイティをそこに使う必要があるのか、という議論が出てきたと説明します。
2010年代中頃から金融機関での勤務経験がある方がスタートアップにCFOとして入ってくる流れが増えて、バランスシートをもう少し有効に使っていこうと。
福島氏は、これを特別な印象というよりも「普通の行為が行われるようになってきた」と捉えていると話します。若林氏も、投資銀行や銀行出身のCFOが増え、資本効率を意識する流れと、銀行がスタートアップに注目する流れが符合したと整理しました。
デットの「良い使い方・悪い使い方」を分ける資金使途
若林氏は、すべてのスタートアップが資本効率のよい経営をできているとは限らないとして、デットのいい面と懸念される面を福島氏に尋ねます。
ものは使いようだと思いますので、目的に沿っているかどうかってところが結構大事ですよね。
福島氏は、成長するほどキャッシュフローがタイトになる運転資本をカバーする意味でのデットは「非常に健康的」だと評価します。一方で、新規事業やこれまで取ってきたリスクと異なるチャレンジへの資金をデットで賄うべきかは、意見が分かれるところだと指摘します。
日本で事業を立ち上げて、今度は海外にチャレンジをしますという時の資金が、じゃあデットでいいのかというと、少しリスクリターンのバランスが違うのかなと思うわけですね。
福島氏は、LBO的に黒字が出ている会社を買収するような安定的なチャレンジには間接金融がフィットするが、トラックレコードのない挑戦は別だと述べ、「借りられればいいという話ではない」と賢明な判断を促します。
若林氏は、この話を資金使途とリスクリターンの幅で整理します。トラックレコードがなくリスクリターンの幅が大きい新規事業はエクイティと相性がよく、過去の実績から回収が見込める運転資金はデットと相性がよい、というシンプルな二分法として理解を示しました。
トラックレコードがなくリスクリターンの幅が大きいため、エクイティが相性がよい
過去の実績から回収が見込め、リスクリターンの幅が狭いため、デットが相性がよい
この利回りで借りられる? VCが感じた違和感
若林氏は、投資先のデットファイナンスを見ていて違和感を覚えた出来事はあったか尋ねます。
まだ事業が十分に安定してない会社でも3パー4パーぐらいでお借り入れができて、これはとてもエクイティホルダーとしては嬉しいわけですけど、なんかこれはリスクリターン合ってるんだろうか、永続性があるのかっていうのは、一時期少し考えたところですね。
福島氏は、金利が安くても30%分の新株予約権が付いているハイブリッド型についても疑問を呈します。ダイリューションを抑えているようで抑えられていないのではないか、というのがその理由です。
むしろ6パーセントの金利でもいいんで、このオプション部分、予約権部分を外していただく方がいいんじゃないかと。
さらに福島氏は、デットを開始するためにエクイティファイナンスを良くない条件でやってしまい、結果的に当時の事業リスクをエクイティで賄う状況になったケースにも触れます。時間は稼げても、資本コストとしては惜しいと振り返ります。
手元キャッシュが増えると緩む「コスト規律」
若林氏は、新株予約権や強いコベナンツが提示されるデットについて、VCへどの程度の粒度で相談するものかを尋ねます。
福島氏は、多くの場合、株主間契約の中で多額の借り入れにはリード投資家の事前承認が必要になっているため、事前に十分な話をしてから進めるケースが多いと説明します。
その上で福島氏が注意点として挙げたのが、手元キャッシュが増えることによる規律の緩みです。2億円で作れるはずのプロダクトに、デット調達で手元が5億円になると、当初の見積もりどおりに作るのかという問題が生じます。
なんだかんだやっぱコストオーバーランしがちになると思うんですよね。手元にキャッシュがもちろん安心感はあるんですけど、ちょっとやっぱり規律が緩むところはあると思っています。
福島氏は、攻めるべき局面でマーケティングを踏むのは問題ないとしつつ、当初予定していたコストのオーバーランを緩やかに許容してしまう環境になり得ると警告します。手元に置くキャッシュはいくらか、経営陣と十分にすり合わせることが重要だと語りました。
良い使い方はマイルストーン、悪い使い方は負のスパイラル
若林氏は、ベンチャーデットの良い使い方と良くない使い方の例を尋ねます。
(良くない使い方は)ファイナンスができないんで、何とか貸してくれるところを探して、借り換えがどんどんタイトになってってしまうっていうケースですよね。
福島氏は、それはもっと手前の段階でコストカットを断行しきれなかった結果であることが多いと分析します。借り換えのたびに予約権部分が二重にかかり、エクイティファイナンスもしづらくなって負のスパイラルに入ってしまうと指摘します。
一方、良い使い方はマイルストーンが明確なケースだと言います。運転資金の不足をデットでカバーし、適切なマイルストーンに到達して、想定していたエクイティファイナンスを実現するパターンです。福島氏は、架け橋の一回目のデットもそうした形だったと振り返ります。
ただデットかどうかってのはあんまり気にしなくて、どちらかというと、エクイティも含めた資金調達をどういうバランスでやるかという中で、デットもあるでしょうし。
福島氏は、ジョイントベンチャーや補助金など他人資本の使い方は多様だとして、「デットだからこれがいい悪いっていうよりは、いろんな選択肢がある」と述べました。若林氏は、お金に色付けをして、それに合った調達手段をその都度選べることが望ましいとまとめます。
マイルストーンが明確で、運転資金の不足をカバーし、想定したエクイティファイナンスの実現につなげる
コストカットが遅れ、貸し手を探して借り換えを繰り返し、予約権が二重にかかって負のスパイラルに陥る
エコシステムを守る「バッドニュース・ファースト」
若林氏は、日本のベンチャーデットの現状と、VCの立場から今後どうなるとより良いかを福島氏に尋ねます。
福島氏は、この5〜7年ほどの新しいプロダクトである国内のベンチャーデットについて、成功事例が出てくることに加え、うまくいかなかった事例への反応がとても重要だと語ります。一件二件の結果で全体の資金供給が止まらないようにすることが大事だと言います。
そこで福島氏が強調したのが「バッドニュース・ファースト」、つまり悪いニュースがあった時ほど早めに共有する透明性の確保です。
ベンチャーデットを融資にされている方々の多くは、当該スタートアップのリスクだけを取っていると僕は思っていなくて、そこに投資をしている私たちのようなベンチャーキャピタルやエコシステムの信用も一定織り込んだ上で投融資をされていると思います。
福島氏によれば、投資先に借り入れが発生する際には、必ずVCへのヒアリングが行われるといいます。次のファイナンスに投資するかどうか、どういうケースなら投資するかを銀行から尋ねられるのです。
これはその会社のシンプルなリスクに融資されているというよりは、株主も含めた一つのバランスシート全体に対する信用度を見ていると思います。
福島氏は、順調だと事実と異なる情報を銀行に伝えてしまえば、その会社だけでなく業界全体の信用に影響を与えると警告します。プレーヤー同士が連帯している以上、エコシステム全体としての信用の強度を高めることが重要だと語りました。
起業家へのメッセージ、出し手は人であるという原点
番組の締めくくりに、若林氏は起業家・スタートアップに向けたメッセージを福島氏に求めます。
結局出し手は人なので、ご担当の方が変わって話が違うみたいなことは借りる側としてあると思いますけれど、一つ一つのコミュニケーションに留意すること。
福島氏は、投資をする人と融資をする人は違うプレーヤーでも結局つながっており、そう大きくないコミュニティだと語ります。
あまり隠し事をせず、正直にお伝えをするということが、最終的に一番ハッピーな帰結になるんじゃないかな、そんなふうに思ってます。
若林氏は、VCの目線からスタートアップのデットをどう見ているかというテーマで福島氏に話を聞いた回を、ここで締めくくりました。
まとめ
VCの立場から見たスタートアップのデットファイナンスは、この5年ほどで「普通の行為」になりました。鍵となるのは、資金使途とリスクリターンに合った手段を選ぶこと、そして手元資金が増えても規律を保ち、エコシステム全体の信用を守る姿勢です。
- ベンチャーデットは2020年前後から普及し、SaaSのようなストック型ビジネスの安定や金融機関出身CFOの増加が後押しした
- 運転資本のカバーはデットと相性がよい一方、新規事業や海外挑戦のようなリスクリターンの幅が大きい資金はエクイティが向く
- 金利の低さの裏で新株予約権の割合が大きいと、ダイリューションを抑えているようで抑えられていない場合がある
- デット調達で手元キャッシュが増えると、当初のコスト規律が緩みオーバーランしがちになるため、経営陣とのすり合わせが重要
- 悪いニュースほど早く正直に共有する「バッドニュース・ファースト」が、会社と業界全体の信用を守る鍵になる




