なぜ香ばしい香りに心惹かれるのか
番組冒頭、Kayouさんはあるシンプルな問いを投げかけます。キッチンや街角でふわっと漂ってくる、あの香ばしい香りに心惹かれるのはなぜか、という問いです。
焼きたてのパンや、どこかのカフェから流れてくるコーヒーの香り。まだ口に入れていないのに「美味しそう」と感じてしまう、あの感覚がテーマになっています。
香ばしい香りって心惹かれませんか。まだ口にも入れていないのに、もう美味しそうって感じますよね。あれ、何だと思いますか。
この「美味しそう」と感じる香りの秘密こそが、この回の主題であるメイラード反応だと説明されます。
メイラード反応とは何か。糖とアミノ酸が熱で出会う
メイラード反応とは何かについて、Kayouさんはまず「糖とアミノ酸の反応」とざっくり言い表します。そのうえで、もう少し正確な定義を加えています。
食材の中にある還元糖とアミノ化合物が熱によって出会って、あの褐色の色と複雑な香りや味を生み出す反応のことです。
還元糖 ── ブドウ糖や果糖など、他の物質を還元する性質を持つ糖の総称。メイラード反応の材料になる。とアミノ化合物 ── アミノ酸をはじめとする、アミノ基を含む化合物。たんぱく質を構成する成分でもある。が熱で出会うことで、色と香りと味が生まれるという説明です。
この反応は特別な料理だけの話ではありません。身近な食べ物の多くに関わっていると語られます。
つまり、私たちが日常で「美味しそう」と感じる香ばしさの多くに、メイラード反応が関わっているということになります。
110年以上研究され続ける反応。発見者マイヤールの話
メイラード反応を発見したのは、フランス人の化学者ルイ・カミーユ・マイヤールです。この人物名の英語読みが、私たちがよく耳にする「メイラード」の語源だと説明されます。
発見は1912年、今から110年以上も前のことです。それでもいまだに研究され続けている反応だと語られます。
この発見について、Kayouさんは面白いと感じる点を2つ挙げています。
反応が発見される前から、家庭や料理人は「肉はしっかり焼くと美味しい」「パンは焼き色がつくまで焼く」と経験で知っていた。科学が後から追いついた。
発見者マイヤールは料理を研究していたわけではなく、医学・生化学という全く別の文脈からこの現象にたどり着いた。
肉はしっかり焼いた方が美味しい。パンは焼き色がつくまで焼く。何百年も前から現場はそれを知っていた。科学が後から追いついた。
なお、発見者マイヤールにまつわる話は、いつか番外編でじっくり扱いたいと予告されています。
焦げ目と炭化は別物。美味しさのピークは一瞬
話は朝のトーストに広がります。焼き始めは何も起きませんが、待っていると突然ふわっと香ばしい香りが漂い、表面が急にこんがりきつね色になる、とKayouさんは描写します。
その瞬間がメイラード反応の最高潮です。ところが、そこから目を離すと一瞬で真っ黒になってしまいます。
ここでKayouさんは、勘違いされがちな点を指摘します。真っ黒い焦げは、もうメイラード反応ではないというのです。
あの真っ黒い焦げはもうメイラード反応ではないんです。炭化、つまりは炭になってしまっている状態。
メイラード反応が生み出す香ばしい褐色と、炭化した黒は全く別のものだと説明されます。だからこそ、焦げ目がつくと焦げるの間にあるあの一瞬が美味しさのピークだと語られます。
メイラード反応が生む色。複雑な香りと味を伴う、美味しさの状態。
炭になってしまった状態。メイラード反応ではなく、美味しさとは別物。
老舗喫茶店の店員が見せた真剣な眼差し
Kayouさんは、先日訪れた老舗喫茶店での体験を紹介します。コーヒーを飲んでいると、カウンターの向こうで店員さんが他の客のトーストを焼いていたそうです。
その店員さんは、トースターの小さな窓をずっとかがみながら、真剣な眼差しで見つめていたといいます。
その瞬間確信しました。あ、ここのトーストは絶対に美味しいって。
釣られて注文すると、運ばれてきたのはまさに最高の焦げ目をまとった一枚だったそうです。
その店員さんは、メイラード反応が加速して最高の香ばしさへ向かう数秒のドラマを、感覚を総動員して見極めていたのだろうとKayouさんは解釈します。
タイマーの数字ではなくて、自分の目で、香りで、その旅の終着点を捕まえていたのかなと思います。
科学で説明しようとすると難しいことも、現場の真剣な眼差しの中には答えがある。美味しさの世界にはそういうことがたくさんある、とまとめられます。
一つの答えがない反応。動的なダイナミズムに惹かれて
最後に、Kayouさんはより深い話へ進みます。メイラード反応は化学反応ですが、学校で習うような「A+B=C」といった一つの答えがある反応ではないと言います。
食材の中の糖とアミノ酸が熱で出会った瞬間から、ものすごい数の反応が同時に走り始めます。
反応は形を変えて別の成分になり、さらに別の反応へ進んでいきます。しかもその変化はずっと動き続けている、と説明されます。
温度、時間、水分、素材の状態。ほんの少し条件が違うだけで、香りも色も全く違う方向へ進んでしまうといいます。
だからメイラード反応は、一つの反応というより、変化し続ける反応の流れそのものだと語られます。Kayouさんは、その動的なダイナミズムがたまらなく好きだと話します。
糖とアミノ酸が出会う
熱によって反応が始まる
無数の反応が同時進行
さまざまな成分へと形を変えていく
さらに別の反応へ
条件しだいで進む方向が変わる
人が五感で見極める
香り・色・水分・音の変化から今の状態を知覚する
サイエンスで説明できるのに固定しきれない。化学式で書けるのに、その瞬間に何が起きているかを完全には予測しきれない。そこにこの反応の面白さがあると語られます。
温度も時間も重要でデータも取る。それでも最後は人が感じる、とKayouさんは強調します。
今この反応がどこにいるかを人は五感で知覚しているんです。
先ほどの喫茶店の店員さんの真剣な眼差しも、まさにそれだったのだろうと振り返ります。タイマーではなく、パンそのものと、変化そのものを見ていた、というわけです。
まとめ
メイラード反応は、糖とアミノ酸が熱で出会うことで生まれる反応で、私たちが「美味しそう」と感じる香ばしさの正体です。それは一つの答えに向かう単純な反応ではなく、変化し続ける動的な連鎖であり、最後は人が五感で感じ取って完成するものだと語られました。
- 香ばしさの秘密は、糖とアミノ酸が熱で出会うメイラード反応にある
- ステーキ・パン・コーヒー・醤油など、身近な美味しさの多くに関わっている
- 香ばしい褐色と、炭化した黒は別物で、美味しさのピークはその間の一瞬
- 喫茶店の店員の真剣な眼差しのように、現場は五感で反応の終着点を見極めている
- 次回は後編として、混同されやすいカラメル化との違いを深掘りする




