メイラード反応とカラメル化は何が違うのか
番組の前回では、タンパク質と糖が熱で出会って香ばしさとコクを生む「メイラード反応」を扱いました。今回はその最後に触れた「カラメル化」を掘り下げます。メイラード反応 ── アミノ酸(タンパク質を細かくしたもの)と糖が加熱で反応し、褐色や香ばしい香りを生む反応。焼き色やコクのもとになる。
話の入り口は、プリンの底にたまっている琥珀色のソースです。ちょっと苦くて甘いあのソースが、実は砂糖と少しの水だけでできているとKayouさんは話します。
砂糖だけで、あの複雑な香りと色と苦味が生まれているんです。シンプルすぎてめっちゃすごい。
メイラード反応とカラメル化の決定的な違いは、必要な素材の数にあります。メイラード反応はアミノ酸と糖の2つが必要ですが、カラメル化は糖1つだけで起こります。
つまりカラメル化は、糖が単独で熱によって分解・変質していく反応です。タンパク質がいらないので、プリンのカラメルは砂糖と少しの水だけで作れます。
アミノ酸と糖の2つが必要。肉などで香ばしさとコクを生む
糖1つだけで起こる。糖が単独で熱により分解・変質する
教科書の「160℃」を疑うと見える景色
ここで温度の話になります。カラメル化はお菓子の教科書だと、160℃以上から本格的に始まると書かれていることが多いとKayouさんは言います。
一般的には、同じ焦げでも肉は100℃台のメイラード反応、砂糖は160℃以上のカラメル化と、別の温度の世界で起きると説明されます。ただ、現場で加熱を見つめてきた立場からは少し違う景色が見えるといいます。
確かに糖が激しく分解を始めるというのは160℃なんです。これは科学的な事実です。
でも、実はその手前の温度から美味しい変化っていうのはもう静かに始まっているんです。
鍋の中では160℃という壁を超える前から、ミクロの世界でカラメル化の静かなプロローグが始まっているとKayouさんは説明します。化学反応は温度が低くても、時間をかければじわじわ進むからです。
具体例が、カレーの飴色玉ねぎです。水分があるうちは鍋の中は100℃台ですが、弱火で1時間ほどかけて炒めると、糖がゆっくり分解してカラメル化の深いコクに変わっていきます。
糖の種類によってもタイミングは変わります。蜂蜜やみりんに含まれる果糖は、初めから反応しやすい小さい形の糖で、110℃くらいから本格的にカラメル化を始めるといいます。
いろんな糖がそれぞれのタイミングでフライング気味にスタートするため、160℃という1つの数字に縛られずに見ると、もっと連続したグラデーションのような生き生きとした変化が見えてくるとKayouさんは話します。
台所でできるカラメル実験と「砂糖に匂いはない」という不思議
ここからは、台所で試せる話です。鍋に砂糖を入れて弱火でゆっくり熱すると、最初は何も起きませんが、温度が上がると突然、甘くて香ばしい香りがしてきます。
そのうえでKayouさんは、そもそも砂糖そのものはどんな匂いがするか、と問いかけます。実際に嗅いでみると、砂糖そのものにはほとんど匂いがないといいます。
あの甘い匂いというのは加熱することで初めて生まれてきます。
バニラやキャラメル、焼き菓子の甘い香りも、すべて加熱や発酵、熟成によって生まれた香りです。舌だけでなく鼻の奥でも甘さを感じるように思えるのは、脳と記憶が起こす錯覚の仕組みがあるからだとKayouさんは触れています。
ただし、この脳と記憶の話は脱線してしまうため、また別の回で詳しく紐解くとしています。
台所実験には注意点もあります。甘い匂いがしてきても、絶対に手で触ったり舐めたりしないこと。カラメル化は高温で起きているため、香りがしてきた瞬間も鍋の中はものすごい高温だからです。
実は私、甘い匂いに惹かれてカラメルを作っている途中にペロッと手をつけて舐めてしまったことがあるんです。もちろん大失敗です。
カラメルはなぜ「少し酸っぱい」のか
最後に、少し深い話に入ります。カラメル化もメイラード反応と同じで、AプラスBイコールCという単純な反応ではありません。糖が熱で分解される過程で、ものすごい数の化合物が生まれます。
例えばダイアセチル(ジアセチル)というバターのような香りや、マルトールというキャラメルらしい甘い香りです。砂糖に「砂糖の匂い」があるわけではない、とKayouさんは言います。
味も面白く、カラメルは甘い匂いと裏腹に少し酸っぱいといいます。糖が分解していく過程で、実際に酸も生まれているためです。
Kayouさんは、教科書にはこう書いてあるけど何か違う、と感じた経験を大事にしてほしいと語ります。データや言葉になる前に、体の方が先に気づいていることがあるからです。
あなたの些細な、ん?っていう感覚、すごく大事です。そこにまだ名前のついていない大発見が隠れているかもしれません。
「どこで止めるか」がカラメルの核心
カラメル化で面白いのは、ちょうど良いところで止めることだとKayouさんは話します。火を止めるだけでなく、最後に水を入れると鍋の中が一気に暴れます。
じゅわっと音がして熱い蒸気が立ち上がり、透明だった砂糖が琥珀色の液体になります。匂いのなかったものが香りを持ち、甘かったものがほろ苦さを持ち、静かだったものが急に動き出す、その流れが美しいといいます。
さらに、甘いキャラメルと苦いカラメルソースは同じ反応であり、どこで止めたかの違いだけだと説明されます。止める場所がほんの少し違うだけで、全く別の表情になります。
砂糖と水
透明で、砂糖そのものにはほとんど匂いがない
加熱
温度と時間のかけ算で糖が分解し始める
水を入れて止める
じゅわっと暴れ、琥珀色の液体になる
どこで止めるか
止める場所で甘いキャラメルか苦いソースかが決まる
温度、時間、湿度、糖の種類が絡み合って、あの複雑な美味しさになります。砂糖という一つの素材が、熱という一つの条件だけでここまで豊かに変化する奥深さを、カラメルは教えてくれるとKayouさんは締めくくります。
今日の一言としてKayouさんが挙げたのは「甘い香りは甘くない」という言葉です。
科学はプロセスを教えてくれるけれど、どこで止めるかは最後の人間の感覚と経験だとKayouさんは話します。それこそがテックだという考えが、この回の芯にあります。
まとめ
カラメル化は糖が単独で熱によって変化していく反応で、教科書の160℃より低い温度からグラデーションのように始まっています。砂糖そのものには匂いがなく、あの甘い香りは加熱して初めて生まれるものです。
- カラメル化は糖1つだけで起こり、タンパク質が必要なメイラード反応とは仕組みが違う
- 反応は温度かける時間のかけ算で、160℃の手前から静かに始まっている
- 砂糖そのものには匂いがなく、甘い香りは加熱で初めて生まれる
- カラメルは甘い香りと裏腹に、分解の過程で生まれる酸で少し酸っぱい
- 甘いキャラメルと苦いソースは同じ反応で、どこで止めるかの違いだけ




