しめ縄で囲われた「祟る石」をどう描く?
小柳さんのチャンネル「画家、考え中。」は、小柳さんが絵を描く様子を配信する作業配信チャンネルです。この回に描いているのは、お化けや妖怪を題材にした「怪異譚」シリーズの一枚、夜泣石です。
小柳さんによれば、夜泣石は妖怪と呼ぶには少し微妙な存在です。それでも妖怪図鑑に載っているので、今回は妖怪として扱うことにしたといいます。
これちょっと妖怪っていうにはちょっと微妙なんですけどね。でも妖怪図鑑についてるから、まあ(夜泣石を)妖怪にしちゃおうかなと思って。
小柳さんは、神と妖怪と祟り石の境界線は曖昧だと話します。妖怪という呼び名がいつ生まれたのかについても、自分は知らないと率直に認めています。
絵の夜泣石は、和紙に墨と岩絵の具 ── 鉱物を砕いて作る日本画の絵の具。粒子が粗く、膠(にかわ)で紙に定着させるため、乾く前は水や墨に溶け出しやすい性質がありますで描かれています。恨めしい雰囲気を出すために石に目をつけ、周りを柵としめ縄で囲いました。
柵とかしめ縄とかで、結界張られた石。ま、近寄るなよって意味なんですよね。これ触ると祟るよっていう、そういう石なんですけれども。
こうした石は実際によく見かけると小柳さんは言います。ただし柵やしめ縄は最初からあったわけではなく、祟るという噂や伝承が広まってから施されたのだろうと推測しています。
文字起こしサービスに驚いた理由
小柳さんはこの配信を、ライブ終了後にSpotifyとApple Podcastにも登録しています。Spotifyはビデオポッドキャストとして映像も見られ、Apple Podcastは音声のみです。
この日、小柳さんはさらにPodyというサービスを試しました。Podcastを文字起こしし、要約してくれるサービスです。以前から知ってはいたものの、自分には用がないと思っていたそうです。
さっき試したんです。試したらとんでもない能力持ってて、文字起こしするだけじゃなくて、章立てして、まとめてくれる。
僕が喋った内容だけですよ。音声を聴いて、それで図解までしてくれて。
この体験から小柳さんは、XなどのSNSは消えないとしつつも、Podcastの文化がますます重要になっていくのではないかと感じています。今はビデオPodcastもできるので、作業配信もそちらでやっていけるというわけです。
一方でXについては、滅びはしないものの、ずっと中心にいられるかはわからないという見方を示しています。
岩絵の具を墨に溶け出させる描き方
前回の配信の続きとして、小柳さんは岩絵の具で木やススキを描き起こしていきます。その後、まだ岩絵の具が乾ききらないうちに全体を墨で塗り、絵の具を墨に溶け出させる計画です。
使う絵の具は、太子、五分、秋、六書など。小柳さんは、太子は絵の具の名前であって「会社を辞める」の退職ではない、と冗談を交えて紹介しています。
この手順は、岩絵の具がまだ紙に定着していないことを利用して、にじみや流れを意図的に起こすためのものです。
100年に一度の変革期は大げさか?
絵を描く手を動かしながら、小柳さんは視聴者に「大変でしょ今」と語りかけます。時代の変化があまりに早く、1週間前と今とで見ている風景が違うと感じているといいます。
まあでもラッキーですけどね。こんな時代を見れるっていうのは。多分これそんな滅多にないことのような気がして。
人類史上最大の変化だという人もいるものの、小柳さんはそこまではわからないとしています。ただ、100年に一度ぐらいの変革期という言い方は大げさではないと考えています。
僕がもう65年生きてますからね。100年って別に大して長くないんですよ。
小柳さんは、自分が生きる時間をおよそ100年と考えれば、それが10回で1000年になるので、1000年もそれほど遠い時間ではないと話します。実際に1000年を生きた人はいないので、肌感覚は誰にもわからない、と断りを入れつつの理論上の話です。
常識は2世代で入れ替わる
小柳さんがこの日聴いたPodcastでは、年功序列や終身雇用が当たり前という感覚は、歴史の中では一瞬にすぎないという話をしていました。せいぜい自分の親とその先の2世代ぐらいのことだといいます。
小柳さん自身の祖父は明治の人で、会社員の時代ではありませんでした。終身雇用の形はまだ残っているものの、確実になくなっていくと小柳さんは見ています。
その真っただ中にいる人たちにとっては、それが当たり前のような気がする。昔から続いてるような気がする。常識のような気がする。
小柳さんは人間の常識をコンピューターにたとえます。本能的な「ファームウェア」は1万年ぐらい変わらないが、常識にあたる「OS」はアップデートが激しく、2世代、つまり100年ぐらいで変わってしまうという見方です。
1万年ぐらいは変わらないのではないか
2世代、約100年ほどで入れ替わり、その間も少しずつ更新される
さらにAIの時代には、OSが少しずつ更新されるのではなく、名前の違うまったく別のOSに入れ替わる可能性が出てきていると小柳さんは話します。そうした変化自体は、人類にとって常にあったことだとも付け加えています。
この日聴いたPodcastは鎌倉武士の時代を扱っていました。鎌倉幕府はそれほど長くなく、鎌倉武士が常識だと思っていたことも、たかだか2世代ほどのものだったという話に、小柳さんは「そう言われてみればそうだな」と納得したそうです。
モンゴル帝国の国書を無視した鎌倉幕府
小柳さんは、鎌倉武士の話はとにかく面白く、めちゃくちゃだと話します。そのめちゃくちゃさで、ユーラシアをほぼ制圧したモンゴル帝国 ── 13世紀にチンギス・カンが興した遊牧国家。子孫の代にユーラシア大陸の大部分を支配する史上最大級の帝国となり、中国では元を建てましたを退けたというのです。
小柳さんの説明では、当時のモンゴル帝国はヨーロッパのウィーンのあたりまで勢力を広げ、仕上げに中国の宋を制圧しました。世界最強の軍隊に加え、中国の政治力、イスラム世界の商人の経済力を手にした巨大な世界帝国でした。
そのモンゴルは、いきなり日本を攻めたわけではありません。最初は国交を結ぼうという書簡を送ってきました。丁寧ながら少しずつ偉そうで、「あまり揉めたくないですよね」とほのめかすような内容だったといいます。
モンゴル帝国を無視したっていう。モンゴルにとってはすごいショックだったみたいですね。無視されるなんてことがあるのかよっていう。
元寇の合間に幕府がしたこと
1回目の襲来でモンゴル側は、火薬や強力な弓矢を鎌倉武士に見せつけて帰っていきました。日本側は「絶対もう一回来る」と恐れ、2年ほどかけて土塁を作るなどの防衛を進めます。
このとき鎌倉幕府は、どうせ攻められるならこちらからモンゴルへ攻めようと賛成多数で決めました。しかし準備を進めた結果、リソース不足で無理だとわかり、取りやめています。
まず最初に、答えを決定して、それから考え出すっていう。むちゃくちゃですよね、やり方が。
その間にモンゴルは、もう強さはわかっただろうと、改めて国交を求める使者を送ってきました。今でいう外交官のような人物です。鎌倉まで連れて行かれた使者を、幕府は斬首してしまいます。
断るなら断るで、いや、国交樹立する気ないからって追い返せばいいだけなのに、わざわざ(使者の)首切って殺しちゃってるんですよ。
小柳さんは、今でいえば停戦交渉に来た大使をその場で処刑するようなものだとたとえます。世界中で恐れられていたモンゴルにとって、怖がらない日本人は「何こいつら?」という存在だったと話しています。
神風ではなく鎌倉武士が勝った?
2回目の襲来では、モンゴルは1回目の比ではない大軍を揃えてきました。それでも日本が勝ちます。昔の教科書では、神風が吹いたから勝ったという神風史観 ── 元寇で日本が勝ったのは神の起こした風(台風)のおかげだとする歴史の見方。戦前・戦中に特に強調されましたが載っていました。
小柳さんによれば、この見方は今ではほぼ否定され、ほとんどの教科書から削除されています。台風は実際に来たものの大したものではなく、モンゴル軍が台風だけで滅ぶほどではなかったといいます。
すごく平らに言えば、「鎌倉武士が頑張った」っていう。
兵力は日本が圧倒的に少なかった一方で、化け物のように活躍した武士がいて、モンゴル軍がパニックになったという見方です。名乗りを上げてから鏑矢 ── 先端に音の鳴る仕掛けを付けた矢。射ると笛のような音を立て、日本の合戦では開戦の合図として用いられましたを射る日本式の作法に、モンゴル軍が爆笑した場面もあったそうです。
モンゴル軍は対馬で住民を惨殺し、捕らえた女性や子どもを船に縛り付けて人間の盾にするなど、残酷な手段も使いました。小柳さんはこれを映画『マッドマックス』の状態だと表現しています。
日本の鎌倉武士はその話を全く無視して、自分ところの国の人質ごと矢で射ったり、燃やしちゃったり、平気でするので、「ちょっとやばい奴らかも」っていう。
戦いでは心理的な要素が大事なので、それが効いたのかもしれないと小柳さんは話します。ただし研究の段階で決着はついていない、と慎重に付け加えています。27歳になる小柳さんの子どもも、神風ではなく鎌倉武士が頑張ったという教科書で育ったそうです。
神風が吹いたから勝った(神風史観)
台風は来たが決定打ではなく、鎌倉武士が頑張ったから
神風の物語はどこから生まれたのか
では、なぜ神風の話が語られるようになったのか。小柳さんは、予言の影響かもしれないと考えています。モンゴル軍が攻めてくると予言したのが、日蓮宗の日蓮上人 ── 鎌倉時代の僧で日蓮宗の開祖。『立正安国論』で、正しい教えを信じなければ他国から侵略を受けると幕府に説きましたでした。
その予言は当たり、さまざまな予言の中に神の力で守られるという内容もあったため、それが的中したかのように後世に語られたのではないか、というのが小柳さんの推測です。
小柳さんはさらに、鎌倉幕府がしっかりした組織ではなかった点を強調します。日本が本当に整った政治システムを持てたのは江戸時代からだと言われ、それまでは言い方は悪いが、ヤンキーやヤクザ程度の組織力だったといいます。
上司を暗殺するって別にあれ特殊な例じゃなくて、まあ隙があればそうなるよねっていう。
30分ごとの休憩と水道水の話
このチャンネルでは30分に一度休憩を取っています。疲れるからというだけでなく、興奮した脳をいったん冷やすためだそうです。
休憩中に水道水を飲んだ小柳さんは、水道水の味は日やシーズンによって違うと話します。取水の状態が一定でないため、人間の微妙な舌にはそれがわかってしまうといいます。
小柳さんによれば、水道水は腐らないための処理がされているので、災害時には天然水より水道水を持っているほうがよいそうです。天然水は栓を開けたら飲み切らないと腐りやすく、夏には蓋をして翌日に飲んで腹を壊す人が続出すると話しています。
墨と胡粉で「お化けっぽさ」を出す
休憩後、小柳さんは手前の草を、あえて流れやすい描き方で描いていきます。流れてほしくない場合は紙の繊維に絡むように描きますが、今回は紙の表面に乗せているだけです。
続いて墨をすります。小柳さんは、力を入れずに硯の上で墨を滑らせるだけですれると説明します。濃くすって水で薄めるほうが、量を簡単にたくさん作れるそうです。
墨を塗る前には、水だけを含ませた水筆で、墨を乗せたくない部分をあらかじめコーティングしておきます。そのうえで平筆で墨を乗せ、地面から上の部分は少し濃いめの墨で塗りました。
あらゆる絵の具、画材の中で墨が一番好きかもしれん。
紙が波打つと、へこんだところに墨が線のように溜まります。小柳さんは、それを避けたいときは事前に紙を揉んでおくなどの操作をすると話します。揉んだ紙ではしわの部分だけ墨がとても濃くなる、といった効果も狙えるそうです。
さらにススキの先に胡粉 ── 貝殻を焼いて砕いた白色の顔料。日本画で白を表すのに使われますを置くと、墨の中に流れていきました。小柳さんは、点より線のほうがよかったと手を加え、「お化けっぽい感じになってきた」と手応えを語っています。
楽しそうでしょう。これぐらい気楽にやるといいんだよ。
一方で、妖怪の部分だけがカチッとしすぎているという迷いもあります。小柳さんは、水木しげるさんの妖怪画も主人公の妖怪だけがカチッと描かれていて怖さがないと触れ、鳥山石燕 ── 江戸時代の絵師。『画図百鬼夜行』などの妖怪画集で知られ、後の妖怪のイメージに大きな影響を与えましたも線描きだからそうなるか、と考えを巡らせています。
いいねゼロでも投稿を続ける理由は?
乾くのを待つ間、小柳さんは同時接続数の話をします。チャンネルの同時接続は多くて15人ほど、少ないと3人ほどで、少し前までは1人やゼロの時代がずっと続いていたといいます。
この日Xで、いいねもコメントもつかないのに延々と投稿する人のモチベーションは何か、という問いを見かけたそうです。小柳さんの答えは、モチベーションはいらないのでは、というものでした。
書きたいから書いてるだけ。元々そういうもんじゃん、Xなんて。つぶやきマシンだから。
小柳さんは、インプレッションやいいねの数が気になるのは商売に生かそうとしているからで、趣味や暇つぶしなら数は何も気にならないと考えています。
石はなぜ泣き、祟るのか
コメントをきっかけに、話は夜泣き石そのものに戻ります。小柳さんによれば、夜泣き石は全国各地に大量にあり、石は泣くか祟るかだと言えるほどだといいます。
神社のご神体として祀られる巨石も多く、小柳さんはご利益と祟りを同じ線上のものとして捉えています。
ご利益があるイコール祟るからね。ベクトルが反対向いてるだけで、同じベクトル上だからね、(ご利益と)祟ると。
小柳さんは、呪うと祝うも同じことで、プラスかマイナスかの違いだと続けます。神社や山道の階段、城の石垣にも名前のついた石があり、城の石垣にも祟る石があるそうです。
石を恐れたり信仰したりする文化は日本だけでなく世界中に見られる、と小柳さんは話します。
石は木からできるのか?
今では石の種類ごとに成り立ちがほぼ解明されていますが、解明される前の人は石を不思議に思っただろう、と小柳さんは想像します。
小柳さんは、山梨県と長野県の県境にある甲斐駒ヶ岳の上のほうに、珪化木 ── 地中に埋もれた木に、地下水に含まれる珪酸がしみ込んで置き換わり、石になったもの。木目などの形がそのまま残りますが大量に散らばる場所があると話します。ただ、甲斐駒ヶ岳だったか隣の駒ヶ岳だったかは忘れてしまったそうです。
その場所で同行者が「石って木からできるのか」と言ったとき、小柳さんは、全部の石が木からできるわけではない、木がない時代から石はあると説明しました。
小柳さんは、石灰岩はサンゴからできると例を挙げます。柔らかい虫のようなサンゴが二酸化炭素を固めて殻を作り、それが何億年も積み重なって地層になるといいます。大理石にも化石がたくさん混ざっているそうです。
| 石 | もとになったもの | 小柳さんの話 |
|---|---|---|
| 珪化木 | 木 | 木の化石で、珪石になりかけている |
| 石灰岩 | サンゴ | サンゴの殻が何億年も積もって地層になる |
| 大理石 | 化石を含む | 化石がたくさん混ざっている |
小柳さんは「木から石ができるのか」という見方も完全な間違いではなく、そういう石もあると話します。成り立ちが石ごとに違う面白いものだからこそ、神秘性や恐れ、敬いの感情が湧きやすいのは無理もない、というのが小柳さんの考えです。
猪子石と瓢箪山、名古屋の身近な不思議
妖怪化した石の例として、小柳さんは地元の猪子石を挙げます。イノシシの形をした祟る石で、「いのこし」と読む地名にもなっています。
小柳さんが子どもの頃、猪子石のあたりは原っぱやむき出しの土、ススキが広がる荒野のような場所で、祟る石もあって恐ろしいところだったそうです。今は住宅街になり、恐ろしさはまったくないといいます。
名古屋の守山区には瓢箪山という地名と駅があり、瓢箪の形をした山があるそうです。小柳さんはおそらく古墳だろうと考えながら、まだ見たことがありません。
今年中に見に行こう。今年中に瓢箪山を見ておこう。近いから。自転車で行けるから、ここから別に。
小柳さんによれば、古墳は名古屋市内にもたくさんあり、鶴舞公園の中や、大須の繁華街の中にもあるといいます。
仕上がりの判断は明日へ
配信の終わりに、小柳さんは乾いた絵を正面カメラで見せます。墨がいい感じに流れ、お化けっぽい雰囲気になったと満足げです。
この辺の柔らかい感じと、ここのカチッとした感じのコントラストはこれでいいのかっていうのを今……
柔らかい部分と、妖怪のカチッとした部分のコントラストがよいかどうかは、まだ判断がつかず、翌日の配信で結論を出すとしています。
最後に小柳さんは改めて、カメラを切り替えた瞬間まで書かれていたと文字起こしサービスを紹介しました。チャンネルは基本的に月曜から土曜の夜9時から10時ごろまで配信しているそうです。
まとめ
この回は、夜泣き石を墨と岩絵の具で描き進めながら、元寇の鎌倉武士や常識の移り変わり、石の成り立ちと神秘性へと話が広がっていきました。石がご利益と祟りの両方を帯びるのは、成り立ちの多様な不思議なものだからだ、という小柳さんの見方が全体を貫いています。
- 夜泣き石のような祟る石は全国にあり、柵やしめ縄は噂が広まってから施されたと小柳さんは見ている
- 常識はOSのように約2世代で入れ替わり、AI時代にはまったく別のOSに替わる可能性がある
- 元寇の勝因は神風ではなく鎌倉武士の奮闘だという見方が、今の教科書では主流になっている
- ご利益と祟りは同じ線上の表と裏で、石の成り立ちの不思議さが神秘性を生んでいる
- 乾く前の岩絵の具に墨をかけ、胡粉を流すことで「お化けっぽさ」を表現した




