本の出版話から始まった「伝わる本」への問い
この回は、中里祐次さんに本を出版するかもしれないという話が出ていることから始まります。出るかどうかはまだ決まっておらず、どんな本になるといいか、構成や流れを考えている「すごいラフな段階」だと中里さんは説明しています。
中里さんは、本の作り方をそのまま聞くとリスナーには興味が薄い話になるかもしれないと考えました。そこで、桜林直子さんがどんなテーマや内容なら読者に伝わると考えているのかを聞くことにしています。
例えばですけど、ただ日々自分がやってる日記みたいなことをそのまま本にしても読まれないと思うんですね。
今日、朝ご飯で納豆を食べたみたいなことをひたすら書くとかだったら、大人気のタレントさんだったら読まれるかもしれないですけど。
中里さんの問題意識は、自分がしてきたことを書きながら、それを読者に伝わる形へ「転換」するには何が必要か、という点にあります。テーマを絞るのか、見せ方を変えるのか、それとも普段の考えをそのまま出しているだけなのかを、桜林さんに尋ねています。
クッキー屋さんの経験が文章に生きた理由
桜林さんは、本を作ったのは数回だけだと前置きしたうえで、自分が元々お店屋さんだったことを挙げます。お店でしていたことが自然に得意になっていて、文章を書くときにも勝手にやっていたと、後になって気づいたそうです。
桜林さんがノートに書き始めた当初は、自分のためだけの文章でした。人が見てわかりやすいかも気にせず、いわば読者不在で、自分が書き出すことだけが目的だったといいます。
だんだん、あ、知らない人も見えちゃうんだっていうかさ、反応があって、なんか言われたりとかした時に、あ、人が読むのかってなって。
読まれることに気づいた桜林さんは、わからない人が読んでもわかるように書くといった当たり前のことから始め、やがて面白いと思ってもらえる視点を少しずつ入れていきました。そのときに思い当たったのが、クッキー屋さん時代の商品づくりです。
こういうのを作りたいっていうのと、需要を両方考えて商品を作っていくのね。
クッキー屋さんの桜林さんは、作りたい味がありつつ、お客さんの需要や喜び、用途、値段といったお客さん側の視点も想像していました。自分の「作りたい」と相手の「欲しい」を同時に考える作業を、文章でも自然にできていたというわけです。
こういうクッキーを作りたい、こういう味を作りたいという、自分がしたいこと
需要、喜んでもらえるか、何に使うか、いくらなら買うかという想像
図のように、桜林さんはこの2つを片方だけでなく「両方」取りにいくことを当たり前にやってきたと話しています。
需要に寄りすぎると何が起きる?
桜林さんは、文章を書く人の中には需要の側に寄りすぎてしまう人もいると指摘します。需要があることばかり書いたり、「こういうのが好きなんでしょ」と差し出したりするやり方です。
受けはいいけど、自分がしんどくなっていくとか、もうネタがすぐ尽きるとか、そうやってなっちゃうのを見てると。
そうした人を見て、桜林さんは、読者が面白いと思えることと自分が書きたいことの接点を探すことが、誰にでも当たり前にできるわけではないと後から気づいたそうです。感覚としては、お店屋さんで培ったものだと振り返っています。
中里さんが「読者が何を喜ぶかが見えているということか」と尋ねると、桜林さんは、最初は文章の何が面白いのかわからなかったと答えます。ノートは0円なので、需要を考えなければとは思っていなかったからです。
私のことしか書いてなくて、何が面白いんだろう、知らない人のこんなの読んでってわかんなかったの最初。クッキーに関してはわかるけど、文章に関してはわかんなくて。
そこで桜林さんは、人が何を面白いと思うのかを「勉強」しました。読者は自分と似た部分を探して共感する、似た問題を抱える人が参考にする、心が大きく動いたというだけで面白いと感じる。自分が映画や本を味わうときに何を面白いと思うかも考えたといいます。
- 自分と似た部分を探して共感する
- 似た問題を抱えていて、やり方を参考にする
- 大きく心が動いたこと自体を面白いと感じる
本で大事なのは「最初に何の本か決める」こと
桜林さんは、無料のノートなら誰が読むかわからないので気にしなくてもいいと話します。一方で本の場合は、目次を立て、一冊としてどういう本かを決める最初の段階がすべてだと考えています。
なんかそこがそれって読む人興味ある?っていう、あ、それなら読みたいって思う人たくさんいますねみたいなところが全ての気がして。
ちょうどその段階にいる中里さんは「今それだわ」と応じます。桜林さんは自分を「そもそも星人」と呼び、「そもそもどういう本?」「読む前と読んだ後で何が変わる本?」を言葉にしていくのが得意だと話しています。
問いを立てる
そもそもどういう本か、読む前と後で読者がどう変わるかを考える
言葉にする
読む前の期待と、読んだ後にこうなっているといい状態を言語化する
意味を確かめる
作る意味がありそうだと思えたら、書こうかなという気持ちになる
桜林さんによると、入り口は「読者がどう変わるといいか」という問いのほか、しょっちゅう聞かれることへの答えを置いておけば、同じことを知りたい人がいるのでは、という需要からも見つけられるといいます。
伝えたいことが先にある人はどうすればいい?
桜林さん自身は、伝えたいことが「全然ない」タイプだと話します。そのうえで、伝えたいことが先にある人は、その中から誰かの役割になるかという視点を入れて「ひっくり返していく」ことが必要かもしれないと語っています。
誰かにとってどんな得があるかなじゃないけど、役割になるかなみたいな視点を入れていく。
ちょっと私そのタイプじゃないので、そこはあんまりやったことないんだけど。
桜林さんは、需要に寄りすぎても、「こういうの欲しいでしょ」とやってもバレるし、言いたいだけでも需要とずれると話し、だからこそ最初が肝心だとまとめます。
桜林さんから何に迷っているのかを聞かれた中里さんは、本の全体像と構成を考えるフェーズにいると答えます。テーマが世間に当たるか、当たったとしてどれくらいのパイがあるかという「当て勘」がわからず、編集者と相談しながら詰めているそうです。
「当て勘」は編集者の仕事でもある
中里さんの「当て勘」という言葉に対し、桜林さんは、方向性や内容を決めるのは編集者の仕事でもあり、一緒に考えていくものだと話します。桜林さんがお店屋さんで身につけたと言った感覚は、まさに編集の感覚だというのです。
それない人も書けるからね。何が面白いんだこれ?って言いながら、いいから書いてくださいって、こういうのでやりますって編集者さんがやっていくってこともあると思うけど。
中里さんは、書きたいことや世間に訴えたいことはあるものの、仕事でもプライベートでも、それが相手に望まれているかをあまり考えずに生きてきたと振り返ります。そこが迷子になりやすいポイントだと自覚しているそうです。
伝えたいことが「常にいつも先にある」中里さんと、相手なしで伝えたいことはほとんどない桜林さん。桜林さんは、これはタイプの違いかもしれないと受け止めています。
ただ中里さんは、1000家族以上と関わり、面談を数多く重ねてきた経験から、よく聞かれる質問のリストを持っています。そこを手がかりに、自分が訴えたいことと求められていることが合致する場所を導き出したいと話し、桜林さんは「一番好きな作業」だと応じています。
ヒット企画の裏にある編集の視点
中里さんは、このラジオ番組「親の『のろい』をとくラジオ」がたくさんの人に聞かれた要因として、桜林さんの力に加えてテーマの力も挙げます。ただ、この企画は中里さんではなく、感度の高いBranchのスタッフが出したものだそうです。
桜林さんは、「ここに需要がある、これでいこう」と他の人が言ってやってみるのは、編集者と同じ役割だと指摘します。中里さんは、その感覚は書籍でもノートでもポッドキャストの企画でも大事なポイントだと応じています。
桜林さん自身は天邪鬼で、「別に私じゃなくてよくない?」と感じると急にやる気が失せるといいます。需要があっても誰でもできるもの、流行りに似せたものなら、もうあるならいいと思ってしまうそうです。
どっちかっていうとやっぱ隙間産業っていうか、例えば自分も欲しかったけどないから勝手に作るみたいなことが多くて。
名前のないものに名前を付けるという発想
中里さんが「それは当たるのか」と聞くと、桜林さんはノートの記事「世界は夢組と叶え組でできている」を例に挙げます。みんなが思っているのに名前がついていないものに名前を付けて出したら、そう思っている人がたくさんいたという経験です。
まだ名前のついてないものに名前を付けるとか、こういう人ってたくさんいるのに、そこに向けられたものってないよねみたいなのとか、じゃあやりますかみたいになったりはする。
桜林さんは、すでにたくさん出ている本の中で「ここはないよね」という部分を狙うのも一つの手だと話します。ただし、自分が背負えると思えるテーマであることが条件で、空いているからといってできないことをやるのは違うと付け加えています。
中里さんは、面談で「みんな不安に思っているけれど、ラベリングされていない」と感じることがいくつかあると明かします。桜林さんは、それを強く打ち出せればタイトルにしてもいいくらいだと背中を押しています。
言いたいことはタイトルと一部だけでもいい?
桜林さんは、本は最初から最後まで全部に意味がないといけないと思っていたそうです。けれど、言いたいことはタイトルとこの部分、という本でも、読者は周りもちゃんと読んでくれると気づいたといいます。
中里さんが例に挙げたのは、三宅香帆さんの本です。タイトルで手に取るものの、中身は平家物語や歴史の話が出てくるなどタイトル以上に深く、タイトルへの答えは全体の1割ぐらいだと中里さんは話します。
だからとにかく引きが強いタイトルをつけるっていうのは決めてるんだと思うね。手に取ってもらわないと意味がないから。
中里さんは、まさにどこを「センターピン」、つまりど真ん中に置くかで迷っていると打ち明けます。
桜林さん自身も初めての「企画から作る本」
桜林さんによると、「つまりどういう本を作るか」から作り始めるのは、今準備している本が初めてかもしれないそうです。過去の本は作り方が違っていました。
| 本 | 始まり方 | 一冊の形が決まった時期 |
|---|---|---|
| 世界は夢組と叶え組でできている | 書き散らかしたノートが先にあった | 書いたものをまとめて本にした |
| 最近出た新書 | 毎月5000字ほどの連載で書きたいことを書いた | 途中で整え、最後にタイトルを付けた |
| 次に準備中の本 | どういう本にするかを先に決める | 目次立てや構成を決めてからゼロで書く |
表のとおり、これまでの桜林さんはインターネットに書いたものが後から本になる流れでした。新書も、最後に「この本ってつまりどういう本か」を考えてタイトルを付けたそうで、結果は良かったものの、企画から立てるなら先にそれがあったほうがいいと話しています。
他者の目で「パイ」を確かめる
中里さんは、編集者と何度かブレストしたおかげで本の姿が見え出し、ワクワクしていると話します。相手側の気持ちや一般的な感覚を自分は持っていないという認識があるため、そこだけは他者に決めてほしかったそうです。
その編集者さんがいらっしゃって、確かにここはなんか漠然とでも感じている方たくさんいそうですよねみたいなことをジャッジしてくださった感があって。
桜林さんは、中里さんの伝えたいことは「俺のこと見て」ではないから、知りたい人がいるのは当然だと応じます。中里さんも自分の趣味を書くつもりは全くないと答え、本を書くと自分が何に興味があり、何に興味がないかがわかる、と2人で話しています。
編集とは何か、なぜ自分には難しいのか
中里さんはここ2〜3ヶ月、三宅香帆さんや、編集者のりなクロさん、チェンソーマンの編集者・林士平さん、ヤンマガ編集部などのポッドキャストや動画を大量に聞いているそうです。世の中の空気を探り、ラベリングが当たったら気持ちいいだろうと、編集の面白さを感じています。
桜林さんは以前、編集とは何かがわからず名だたる編集者に尋ねたところ、お店屋さんや、子どものいいところを伸ばすことも全部編集で、すでにやっていると言われたそうです。
「それ俺ないわ」と言う中里さんに、桜林さんは自分に対してやるのは難しいと応じます。人のいいところを見て仕事を任せるのも組織の編集で、自分のことをやるときは「めっちゃ人ごと」にして俯瞰するのだそうです。
この人のここ使えるじゃんとか、こういうのってこの人のいいところだよなとか。
桜林さんは、要素に分解して良いところを見つけ、それを一番伝えるやり方や切り口を考えるのが楽しいと話します。中里さんは、ノートを書く人や企画を伝えたい人にも参考になればと、この回を締めくくっています。
まとめ
本の企画に迷う中里さんに対し、桜林さんは、書きたいことと読者の需要の両方を取り、その接点を最初に言葉にすることが大切だと語りました。それは本に限らず、ノートや企画づくりにも通じる編集の感覚です。
- 自分の「作りたい」と相手の「欲しい」を両方取ることが、お店屋さんで培った桜林さんの感覚
- 需要に寄りすぎても言いたいだけでもずれるので、本は「つまり何の本か」を決める最初が肝心
- 名前のついていないものに名前を付け、自分が背負えるテーマを選ぶ
- 編集とは影響力を最大化することで、自分に使うときは人ごととして俯瞰する






