ジム市場は拡大しているのに、なぜ倒産が増えるのか?
2026年1〜8月のフィットネスクラブの倒産件数が26件となり、過去最多になったというニュースがあります。前年同期の10件から160%増えた計算です。CEOセオさんは、同じ時期にRIZAPグループのチョコザップが好調に利益を伸ばしている点に注目しました。
CEOセオさんの紹介によると、帝国データバンク ── 企業の信用調査や倒産情報の集計で知られる日本の調査会社。倒産動向の統計は業界の景況を見る指標としてよく引用されますも2026年1〜7月で23件と集計し、年間40件に達する可能性を指摘しています。倒産理由の73%は販売不振で、新規の顧客が取れない、あるいは既存会員が辞めていくことが大きな要因だとされています。
倒産した事業者の6割は、設立10年未満の新興プレイヤーです。CEOセオさんは、大企業や老舗ではなく、筋トレブームに乗って参入した小さなジムが厳しくなっていると見ています。RIZAP出身者が独立して作った小規模ジムなども、その中に含まれるといいます。
一方で、フィットネス市場そのものは縮んでいません。2024年度の市場規模は7100億円で、コロナ前のピークだった4939億円を大きく上回っています。
施設数も2025年8月時点で1万3876施設と増えています。ただCEOセオさんは、増えている施設の多くはチョコザップなどの大手や上場企業によるもので、新興のジムはあまり増えておらず、むしろ倒産が増えているのではないかと指摘します。
(格安ジムの)利益も非常に伸びているという裏側で、倒産が非常に増えているわけですね。
インフレが崩した「幽霊会員モデル」
格安ジムを苦しめているのは、新規客が取れないことだけではありません。CEOセオさんは、インフレと円安によるコスト増を大きな要因として挙げています。
ジムの三大コストとされるのは、光熱費、人件費、賃料です。24時間の空調やシャワー、大型マシンの電力がかかるうえ、マシンの多くはテクノジムのような外資製の輸入品なので、円安でコストが一気に上がりました。
清掃などの人手も欠かせず、人件費も上がっています。CEOセオさんは、チョコザップでも「汚い」と話題になったことに触れ、お掃除ロボットが出てくるまでは人がやるしかないと話しています。
コスト上昇
インフレと円安で光熱費・輸入マシン・人件費・賃料が上がる
会員の見直し
景気が不安定な中で、会員がサブスク契約を見直して辞めていく
薄利多売の限界
幽霊会員に支えられた低価格モデルが成り立ちにくくなる
格安ジムは、会員価格を下げて裾野を広げ、一気に会員を集めるモデルが多くありました。その中の何割かは通わない幽霊会員として、ほぼ利益だけを運んでくれる構造です。景気が不安定になり、こうした会員が契約を見直して辞めるようになったことで、このモデルが厳しくなっていると説明されています。
チョコザップは無人運営で人件費を抑え、24時間営業で稼働率を高めるモデルを持ち込みました。CEOセオさんはこれを、業界にとって破壊的なイノベーションだったと評価しています。そのチョコザップも幽霊会員が多かったため、データドリブンでテコ入れを進めているといいます。
1年で会員数日本一、瀬戸社長の「やりきる力」
チョコザップは2022年7月に始まり、2023年8月には会員数が日本一になりました。会員数のピークは2025年5月の135万人です。
このライザップのね、やりきる力、ほんとすごいですよね。
CEOセオさんは、RIZAPグループの社長とは昔から付き合いがあるといいます。同社はおからクッキーで何百万食も売り上げ、それが厳しくなると美顔器を出し、さらにRIZAPへと展開してきました。
次から次へと新しいプロダクトを投入し、その市場のマーケットでナンバーワンになっちゃうんですよね、この会社。
CEOセオさんは、瀬戸社長の強さを「不退転の決意」と表現します。後ろがない状況に自分を追い込むことで、コミットメントが強くなるという見方です。
CEOセオさんによると、お金を儲けて余裕ができると、経営者のコミットメントは弱くなりがちです。60代以降に成功した経営者として知られるレイ・クロック ── マクドナルドを世界的なチェーンに育てた経営者。50代でマクドナルド兄弟と出会い、フランチャイズ展開で事業を拡大しましたやカーネル・サンダースの自伝を見ても、うまくいかなければ全財産を失う状況の人たちが成功していったといいます。
RIZAPグループも、当たっていた商品が落ちていくたびに、次のプロダクトが当たらなければ危ないという状況に置かれてきました。CEOセオさんは、そこで毎回次の一手を当ててきたことを高く評価しています。
会員25万人減でも利益は黒字転換へ
チョコザップの会員数は2025年5月をピークに減り始め、半年後の2025年11月には110万人になりました。25万人の減少です。ただしCEOセオさんは、この減少は戦略的なものだと説明します。
チョコザップは新規出店や広告宣伝を抑え、業務効率化へと方針を切り替えました。収益性の悪い店舗はどんどん撤退しています。
過剰なまでに投資
誰もついてこられないほどの広告費と出店で一気に広げる
ギュッと絞る
新規出店と広告を抑え、不採算店舗から撤退する
再び拡大
FC展開を含めた出店再開に移る
CEOセオさんは、まず過剰投資とも思えるほど広げ、その後に絞るやり方を「ある種王道」と言います。そのうえで、普通の経営者はビビってできないことを瀬戸社長はやり切るのだと話しています。
結果として、2026年3月期上半期の売上収益は806億円で、前年同期比3.5%減でした。一方で営業利益は29億円となり、前年同期の22億円の赤字から黒字に転じています。3年ぶりの上半期営業黒字です。
会員数135万人(2025年5月)、前年上半期は営業赤字22億円
会員数110万人(2025年11月)、上半期営業利益29億円、通期予想は前期比484%増の110億円
通期の営業利益予想は110億円で、前期より91億円増、率にして484%増です。CEOセオさんは、会員数は減っても利益はちゃんと伸ばしていくという、まさにV字カーブを描いている状況だと話しています。今後はFC展開を含めて出店を再開する方針だといいます。
なぜRIZAPは「必ず一番」を狙うのか?
チョコザップの店舗数は現在2000店舗で、国内ナンバーワンです。エニタイムフィットネスは1200店舗ほどですが、CEOセオさんは両社を店舗数だけで比べるべきではないとも述べています。
シャワー付きで広さもあり、設備が整った店舗
居抜きが基本で、シャワーもないシンプルな作り
それでもCEOセオさんは、「店舗数1位」と言える状況まで持っていくことに意味があると見ています。日本一の店舗数や会員数は、メディアが取り上げやすいからです。
日本で一番の山はどこですか?って言うと、富士山。わかるけど、二番って言われるとわかんないってやつですね。
CEOセオさんによれば、RIZAPの巧みなところは必ず一番になることです。一番になればメディアが取り上げ、広告宣伝費が浮くため、それまでは過剰なほど広告と出店に投資します。
チョコザップは2022年から2023年にかけて、年間900店舗規模のペースで拡大しました。1日に2〜3店舗を出す計算です。CEOセオさんは、関係者の苦労をねぎらいつつ、すごいやり切り力だと話しています。
CEOセオさんは、同じ拡大戦略の例として、ソフトバンクがADSLで展開したYahoo!BBや、巨額の資金を投下して市場を取りに行ったPayPayを挙げます。首位のシェアを取れば、値段も変えられるという考え方です。
中小ジムが勝てない本当の理由はコミットメントの差
CEOセオさんは、格安ジムの倒産が増えた理由として、販売不振だけでなく経営者のコミットメントの差を挙げます。零細・中小の格安ジムが、瀬戸社長のようにやりきったのかが重要だという見方です。
とりあえず店舗作っておこうみたいなノリじゃ無理ですよね。
施設数は2024年から2025年で1300施設増え、10%増とされています。CEOセオさんによると、そのうちの半分ほどがチョコザップです。市場全体で施設が増えたように見えても、実際には1社が市場そのものを変えているというのが、今のフィットネス業界の面白さだといいます。
RIZAPグループの通期予想は、売上高1720億円で前期比0.5%増、営業利益は110億円で484%増です。会員数は減っていても、店舗数は2000店舗を超えています。
エニタイムフィットネスの会員数は120万人で、チョコザップの会員数を逆転して上回っています。CEOセオさんは、まったく違う2社が戦っている状況だと見ています。
ゴールドジムは国内約88店舗、直営会員数7万人と規模は小さいものの、本格的に筋肉を鍛える人向けに集中して差別化しているため生き残っているといいます。
CEOセオさんは、ニュースの論調だけを見ると格安ジムが潰れているように見えるが、その裏には経営者のコミットメントと、市場さえ変える影響力があると締めくくりました。RIZAPのやりきる力は、健幸コーポレーション時代から十数年にわたって続いているものだとも話しています。
まとめ
フィットネス市場は拡大しているのに、新興の格安ジムはコスト高と会員離れで倒産が増えています。その中でチョコザップは、過剰なほどの投資で一番を取り、その後に絞り込むことで利益をV字回復させました。CEOセオさんは、その差を経営トップのやりきる力とコミットメントにあると見ています。
- 2026年1〜8月のフィットネスクラブ倒産は26件で過去最多。6割が設立10年未満の新興プレイヤー
- 光熱費・輸入マシン・人件費・賃料の上昇と会員の見直しで、幽霊会員に頼る薄利多売モデルが厳しくなった
- チョコザップは会員を25万人減らしながら不採算店を整理し、通期営業利益予想を484%増の110億円とした
- RIZAPは「必ず一番になる」ことでメディア露出を得て、広告宣伝費を浮かせる戦略をとってきた
- CEOセオさんは、退路を断つほどのコミットメントの差が、勝ち残る企業と倒産する企業を分けると見ている


