NVIDIAはなぜ手放せない会社になったのか
今回の回は、AIやヒューマノイドの話題で必ず名前が出るNVIDIAを徹底解説するという内容です。樋口さんは「AIで話してもNVIDIA、ヒューマノイドで話してもNVIDIA」と、その存在感の大きさに触れています。
冒頭では、NVIDIAを率いるジェンセン・フアンCEOのトレードマークである革ジャンにちなんで、テーマを「カワジャン徹底解説」と呼ぶ冗談も交わされました。
佐野さんはまず、NVIDIAはAIの土台となるチップを作る会社だという一般的なイメージについて、「そこは間違いない」と認めます。そのうえで、NVIDIAが強くなった理由は、みんながNVIDIAの製品の上にソフトを書いていったことにあると説明します。
全部データが溜まっていって、NVIDIAの基盤がないと使えないってものができちゃったんで、じゃあ別のものに乗り換えようよって言ったら、ゼロベースからスタートすることになっちゃうんですよね。
佐野さんによると、NVIDIAはヒューマノイドやフィジカルAIの世界でも、この「手放せない基盤」のポジションを取る戦略に振り切っているといいます。
佐野さんは前回の放送で「投資するならNVIDIAではないか」と話していました。その理由は、NVIDIAに勝てそうな相手は正直中国くらいしかないと考えているからです。樋口さんは「今買いたいぐらい」と反応しつつ、出演者そろって「投資は自己責任で」と念を押しています。
ロボットに必要な4要素のうち3つを握る会社
横山さんは、ロボットが動くために必要なものから考えると、NVIDIAのすごさがわかると話します。必要なものは大きく分けて4種類あります。
1つ目はロボットのボディ、2つ目は頭に載せるチップ、3つ目はチップの上で動く脳みそとしてのAI、4つ目はそのAIが訓練するためのシミュレーターです。横山さんは、このうちボディ以外の3種類をNVIDIAが牛耳っている状態だと説明します。
佐野さんは、企業規模の大きさも紹介します。NVIDIAの時価総額は5兆ドル、日本円でおよそ750兆円です。日本が1年間に生み出す価値であるGDPが約600兆円なので、一社の時価総額が日本のGDPを超えていることになります。
さらに佐野さんが「恐ろしい」と表現するのは、NVIDIAの売上全体に占めるロボット事業の割合が、まだ1%にすぎないという点です。
じゃあこれ(ロボット事業が)使われてビジネスモデルになってお金になったらどうなっちゃうの?って感じなんですよ。
佐野さんは「すごいと言いすぎるとNVIDIAの人だと思われそう」と笑いながら、ここから冷静に強さの中身を見ていこうと話を進めます。
GPUとCUDAが生んだ「堀」の正体
佐野さんは、NVIDIAの強さの土台であるGPUを、パソコンの頭脳にあたるCPUと比べて説明します。樋口さんは、GPUはグラフィックボードに使われている部品だと補足しています。
佐野さんの例えでは、CPUは東大卒の優秀な一人が難しい問題を1問ずつ猛スピードで解いていくイメージです。一方のGPUは、たくさんの人がたくさんの問題を一気に解くイメージで、同時並行の計算が得意です。
優秀な一人が、難しい問題を1問ずつ順番に猛スピードで解く
大勢の人が、大量の問題を同時並行で一気に解く
佐野さんによると、NVIDIAを有名にしたのはCUDA ── NVIDIAが提供するGPU向けの開発基盤。GPUの並列計算をさまざまな用途に使えるようにするもので、AI研究の標準的な環境として広く使われていますです。CUDAを土台に多くの企業がソフトを書き込み、使い続けている状態が生まれています。
横山さんは、CUDAの上に世界中の研究者が20年ほどかけてソフトを書き加えてきたため、もう乗り換えられないのだと説明します。この状態は業界で「堀」と呼ばれ、樋口さんも英語で「モートだ」と反応しています。
その堀ができてしまっていて、みんながその上に自分の資産を積んでしまったんで、抜けれなくなってしまった。
横山さんが面白いと話すのは、NVIDIAが最初からこの状態を狙っていたわけではない点です。GPUはもともとゲーム用に作られていたものでした。
ゲームでは、映像を遅れなく美しく表示するため、画面上の何十万という点の色を一斉に計算する必要がありました。AIの学習も膨大な掛け算や足し算を一斉に行うほうが効率がよく、求められる技術が偶然一致したため、GPUがAIの学習に使われるようになったと横山さんは説明します。
要は絵画というか、画面を生成するためのものが全然違う用途に向いてたみたいなのが。
横山さんは、そのGPUがいまではロボットの脳みそにも使われ始めていることに触れ、樋口さんと「運がいいですよね」とうなずき合っています。
ロボット分野ではなぜ「完全無料」なのか
横山さんは、NVIDIAの売上が2026年から2027年にかけて2倍に成長していると紹介します。売上が10兆円を超える企業が、1年で売上を倍増させているという話です。
そのうえで横山さんが「恐ろしい」と話すのは、NVIDIAがロボット関連のソフトをオープンソースにして、そこではほぼ稼いでいないという点です。フィジカルAI用の脳みそにあたるAIも、トレーニング用のシミュレーターも公開されています。
数万円の、アーム型のロボットを買ってきて、机に設置したらNVIDIAの最新のAIの脳みそを入れ込んで、もうその場でもう最新の研究所と同じことがみんなの机でできるんですよ。
では、NVIDIAはどこで稼いでいるのか。横山さんによると、ライセンスには「GPUにはNVIDIAのものを使ってね、それ以外を使う場合は別途ライセンス料を払ってね」と記載されているといいます。つまり、ソフトは無料で配り、それを動かすハードウェアで稼ぐ構造です。
樋口さんはこの仕組みを、無料で提供する「フロントエンド」と、しっかり収益化する「バックエンド」のモデルだと整理します。ハードとソフトの両方を手がけているからこそ成り立つもので、ソフトウェア専業の会社にはできないやり方だと指摘しています。
普通だったら投資家から止められるんで。
横山さんは、普通の会社なら「そんな新規事業を無料でやるなんて」と止められるところを、NVIDIAは本業が稼いでいてお金が余っているため実行できるのだと補足しています。
Groqとの3兆円契約と「3つのコンピューター」戦略
横山さんが次に紹介したのは、2025年12月24日に発表された、AI推論専用チップの会社Groq ── AIの推論処理に特化したチップを開発するアメリカの企業。Xの対話AI「Grok」とは別の会社ですとの契約です。横山さんは、X(旧Twitter)のAIとは別の会社だと断っています。
NVIDIAはGroqと非独占のライセンス契約を結び、その規模は約3兆円と言われています。条件は非開示だったため、詳細は調べられなかったと横山さんは話しています。
横山さんが面白いと指摘するのは、NVIDIAが技術のライセンス契約に加えて、Groqの創業者や社長らをNVIDIAに移籍させた点です。Groqという会社自体は残したまま、技術と経営陣だけを招き入れる形でした。
じゃあなんでわざわざそんなことするのかなと思って調べていくとですね、理由が独占禁止法を免れるためなんですよ。
横山さんの説明では、NVIDIAはAI用チップ市場をほぼ独占しているため、企業を買収すれば国の審査が入り、何年も止められるおそれがあります。株を買わず、会社を残し、ライセンスを非独占にすれば、Groqは他社にも同じ技術を貸せるので、「競争相手を消していない」と言える状態になります。
横山さんは、NVIDIAが欲しかったのは会社そのものではなく設計思想やノウハウであり、止められるリスクのほうが圧倒的に高かったと話します。
佐野さんによると、この手法は「リバースアクイハイア」と呼ばれ、MicrosoftやAmazon、Googleも同様のことをしているといいます。前例があるからこそ行われたものの、グレーゾーンの手法ではないかとも言われているそうです。
続いて佐野さんは、NVIDIAが自社の戦略を「3つのコンピューター」として位置づけていることを紹介します。ロボットを1体作るのに必要な環境を、丸ごと用意しているという考え方です。
| 役割 | 用意しているもの | ポイント |
|---|---|---|
| 学習用 | VLAモデル、ヒューマノイド向け基盤モデルバージョン | 誰でも使えるように公開 |
| シミュレーション用 | 現実そっくりの3Dシミュレーション、GPUで動く物理エンジン、ワールドモデルのCosmos | 仮想空間でロボットを動かして訓練できる |
| 実機用 | 開発キット | ロボットに載せて動かす |
学習用のコンピューターで使われるVLA ── Vision Language Actionの略。カメラ映像と言葉の指示を受け取り、ロボットの動作を出力するAIモデルの考え方ですは、番組でもこれまで何度も登場してきたモデルです。佐野さんは、3つがそろえばロボットが作れる環境を、できる限り無料の範囲で提供していることがすごいところだと話します。
無料で世界共通やったら使うしかないもんな。これなんか負けパターンがわかんないですね。
唯一の負けパターンは中国なのか
樋口さんの「負けパターンがわからない」という問いに、佐野さんは調べた結果として、中国がリスクだと言われていると答えます。
佐野さんによると、アメリカ政府は中国向けAIチップの輸出にライセンスを求め、事実上の販売停止をしています。NVIDIAのチップが手に入らなくなれば、中国は自分たちでチップを作り始めます。実際に「中国のNVIDIA」と呼ばれる企業も生まれていて、それが危険だと言われています。
輸出規制
アメリカ政府が中国向けAIチップの輸出にライセンスを要求
供給の途絶
NVIDIAが中国に製品を出せなくなる
自前開発
中国が自分たちでチップを作り始める
競合の誕生
「中国のNVIDIA」と呼ばれる企業が育つ可能性
一方で佐野さんは、ジェンセン・フアンCEOが中国での販売再開のライセンスを取得したと発表するなど、NVIDIAも中国に向けて動いていると紹介し、今後どうなるかはわからないとしています。
樋口さんは、AIの分野で起きたDeepSeek ── 中国のAI企業、およびその大規模言語モデル。低コストで高性能なモデルを公開し、2025年初頭に世界的な注目を集めましたのようなことが、チップでも起こる可能性に触れます。仕組みを真似たり、ライセンスのぎりぎりをすり抜けたりする道もあるのではないかという問いです。
NVIDIAが無料で公開してる、フィジカルAIの脳みその部分を、HUAWEIがこういう風に変更したら(HUAWEIのチップで)動きますっていうのを出しちゃってるみたいで。
佐野さんは、技術を「NVIDIA上でしか動かさないで」としていても、すり抜ける方法はいくらでもあるようだと話します。公開した技術を使って他社が発展する構造は、生まれかねないという見方です。
ただし佐野さんは、NVIDIAは同じモデルをAIでも自動運転でも試して成功させており、次にヒューマノイドやフィジカルAIで試すだけだという点が恐ろしいとも話します。ニュースを読んでいても想像が追いつかず、「自分はアリンコみたいだ」と感じると笑っています。
投資部門NVenturesで全部のマスを押さえる
佐野さんが最後の「決め手」として挙げたのは、NVIDIAの投資部門NVentures ── NVIDIAのベンチャー投資部門。AIをはじめとする先端技術のスタートアップに出資していますです。累計で81社に投資しているといいます。
投資先には、フィジカルAIの頭脳を作る企業で最も投資を受けているSkilledAIや、番組で以前取り上げた企業とは逆のビジネスモデルを取るAgility Roboticsなど、多くの企業が含まれていると佐野さんは紹介します。
だからもう抑えに行っちゃってんですよ、全部のマスを。有名どころのフィジカルAIをパパパってお金、お金で。
佐野さんの見立てでは、どれかが当たれば、NVIDIAが自ら手がけないボディや頭脳の分野で稼ぐ企業が出てきます。自分たちが攻め込まなくても、お金で儲かる状態ができているというわけです。
樋口さんは、資本主義の好循環に入ってしまっているので、止めるには資本主義そのものを変えるしかないと冗談まじりに話します。佐野さんも「世界の破滅でも起きて資本主義がなくなれば何か変わるかもしれない」と応じています。
脅威か、人類のアップデートか
話を聞くほど、NVIDIAをどう見るかが問われると樋口さんは話します。海外の脅威と見ることもできれば、人類をアップデートしてくれている存在と見ることもできるという視点です。
樋口さんは、NVIDIAのおかげで世界中のヒューマノイド開発やAI開発が進んでいる以上、貢献しているとも言えると話します。佐野さんも、自分たちのような会社がヒューマノイドの実験をできるのはNVIDIAのおかげだと応じます。
佐野さんによると、いまや数万円で研究室が作れるうえ、NVIDIAはワールドモデルに力を入れて次の発展を進めているといいます。樋口さんは「今日からご飯を食べるときに、NVIDIAさんいただきますと言って食べます」と笑い、まだまだ成長する大注目の企業だとして回を締めくくりました。
まとめ
NVIDIAの強さは、優れたチップだけでなく、世界中の研究者が20年かけて資産を積み上げたCUDAの「堀」と、ソフトを無料で配ってハードで稼ぐ構造にあります。ロボット分野でもチップ・脳・シミュレーターを押さえ、Groqとの契約や投資部門で周辺まで固めていますが、輸出規制をきっかけに育つ中国勢はリスクとして残ると語られました。
- ロボットに必要な4要素のうち、ボディ以外のチップ・脳・シミュレーターをNVIDIAが握っている
- CUDAの上に研究者が資産を積み上げたことで、乗り換えられない「堀」ができた
- ロボット向けのAIやシミュレーターは無料で公開し、それを動かすハードウェアで稼ぐ
- Groqとの非独占ライセンス契約は、独占禁止法の審査を避ける「リバースアクイハイア」と説明された
- 唯一の弱点とされるのは、輸出規制を受けた中国が「中国版NVIDIA」を育てる可能性





