なぜ今、教育を語るのか?
宮武さんがアメリカの大学と教育システムを取り上げた理由は、Off Topicが数か月にわたって語ってきた「テクノロジーの分岐点」という流れにあります。合成バイオやWeb3と同じように、教育×テクノロジーもターニングポイントに入り始めた、というのが宮武さんの見立てです。
宮武さん自身もアメリカの高校と大学で教育を受けてきたため、教育制度には昔から関心があったといいます。特にコロナの影響で、教育を根本からシステマチックに考え直すタイミングが来ていると話しています。
政府が絡みあるシステムで、多分教育システムほどない(ものは)ないんですよね、意外とアメリカって。
今回の回は、あまり知られていないアメリカの大学ビジネスの裏側を見たうえで、新しい教育系スタートアップが何を変えうるのかを考える構成になっています。
大学という「サービスの束」には何が入っている?
宮武さんはまず、大学を「サービスバンドル」として見ると何を提供しているのか、という問いから話を始めます。大学は学ぶ場所であるだけでなく、体験がセットになっているという前提です。
宮武さんが挙げた大学の中身は、教育・スキルのトレーニング、4年間のSNSのようなネットワーキング、出会いやスポーツといった体験、そして学生にはあまり関わりのない大学基金、最後に資格としての役割です。
このうち大学基金について、宮武さんは「いわゆるヘッジファンド」だと説明します。大学が基金を使って投資を行い、そこで利益を出している仕組みです。
日本でも、国立の東京大学で150億円ぐらい、私立の慶應で700億円以上を運用しているとされ、運用パフォーマンスのランキングも出ています。ただアメリカでは、大学基金が「すごいビジネス」になっていると宮武さんは話します。
ハーバード大学、まああの一番、アメリカでもトップの大学で、一番大学基金持っているところなんですけど、そこの基金額が50ビリオンを超えたんですよね。
宮武さんによれば、ハーバード大学の運営コストは基金額の5%以下に収まる規模だといいます。投資先は多岐にわたり、その一部がVCファンドへのLP出資やスタートアップへの直接投資です。
宮武さんは例として、名門VCのセコイア ── セコイア・キャピタル。Apple、Google、Airbnbなどに初期投資したことで知られるシリコンバレーの代表的なベンチャーキャピタルですが2014年に公開した資料で、LPに大学が7〜8校入っていたことを挙げます。
イェール大学は1976年に初めてベンチャー出資を行い、現在は31ビリオンほどの基金を持っています。テック業界の投資先にはAirbnb、Uber、Facebook、Twitter、Pinterest、Snapchat、LinkedIn、JD.comなどが並び、LinkedInには2〜3億を出資して80億以上の利益を上げたといいます。
イェール大学はアンドリーセンやベンチマーク、グレーロックといったVCにも出資しています。卒業生がテック企業を立ち上げていることも背景にあるのではないか、と宮武さんは見ています。
企業は大学を「テスト」として見ている?
宮武さんが「かなり重要」と強調したのが、大学の資格・認定としての役割です。企業が大学生を採用するとき、大学そのものを1つのテストとして見ている、というのがこのセクションの核心です。
アメリカでは20〜50年ほど前、企業が自ら採用テストを課していました。宮武さんによれば、昔のHPに応募すると、IQテストやノウハウのテスト、性格診断など、いくつものテストを受ける必要があったといいます。
企業が探していたのはconscientiousness ── 心理学の性格特性モデル「ビッグファイブ」の1つで、日本語では誠実性・勤勉性などと訳されます。計画性や責任感、粘り強さに関わる特性ですという資質でした。宮武さんは、自発的に動けるかと、細かいところに注意できるかの2つが主な要素だと説明し、草野さんは「気が使えるか」と言い換えています。
ところが、企業がこうしたテストを課すことは「特定の性格しか採らないのか」といった批判を受け、社会的にNGになっていきました。そこで企業はテストをアウトソースする必要があり、その外注先が大学だったと宮武さんは話します。
(入学時の)SATとかで、ベースのIQがわかるじゃないですか。で、もう1つのその大学のテストって卒業できるかっていうテストなんですよね。
草野さんは「卒業試験のようなもの」かと尋ねますが、宮武さんは否定します。4年制の大学を卒業するには多くのタスクをクリアする必要があるため、卒業した人は自発性や細部への注意を満たしているはず、という仮説で企業は見ているのだといいます。
宮武さんは、この仮説が給料に表れていると話します。大学の8分の7まで通ってドロップアウトした人は、学んだ時間で換算すれば卒業者の8分の7程度の給料になるはずです。ところが実際には約50%にとどまるといいます。
学んだスキルが評価軸なら、卒業者の8分の7程度
卒業者の約50%にとどまる
草野さんは中退の理由にもよるのではと指摘し、宮武さんも理由はいったん置いたうえでの話だと応じています。それでも、卒業しているかどうかの差が大きいという結論は変わらない、というのが宮武さんの見方です。
大学に行くべきか、どこで何を学ぶべきか
宮武さんは、Off Topicを聴く大学生などから「大学に行くべきか」と聞かれることがあるといいます。日本のデータはわからないため、アメリカに限った話だと断ったうえで結論を示します。
アメリカに住んでいて、アメリカの大学に行って、アメリカの就職をしたいのであれば、基本的にはアメリカの大学に行くべきですと。
宮武さんによれば、アメリカの企業側でも、4年制大学の学位であるバチェラーズディグリー ── 学士号のこと。アメリカでは4年制大学を卒業すると授与され、採用条件として求められることが多い学位ですを採用条件にするケースが増えているといいます。
ただし「大学に行くべき」には細かい条件があります。1つ目は、入るなら卒業すること。草野さんが「途中でドロップアウトするのはコスパが合わない」と受けると、宮武さんも経済的に合わないと応じています。
宮武さんは、この話はあくまで金銭面の話で、大学に行って幸せになるかはデータが少なくわからないとも断っています。シリコンバレーではマーク・ザッカーバーグやスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツのような中退者が称えられがちですが、全員が彼らのようになれるわけではない、と宮武さんは話します。
2つ目の条件は、どの大学に行き、どの専攻を選ぶかです。宮武さんは理系と文系で卒業後の給料の傾向が大きく違うと説明します。
スキルを学ぶ色が強く、ハーバードやMITでなくても卒業すれば給料は同程度になりやすい
どの大学に行くかで大きく変わり、ランキングが低い学校ではコスパが合わない可能性がある
宮武さんは、文系に進む意味としてネットワーク作りなどを挙げる考え方もあるとしたうえで、金銭面ではだいぶ差が開くと述べています。
この情報が重要なのは、大学生や高校生の多くが、宮武さん自身も含めて「大学に行くこと」自体を目的にしてしまいがちだからです。どの大学で何を学ぶかを考えにくいところに、大学が提供する価値と、学生が受け取る価値のずれが生まれると宮武さんは話します。
2000万円、3000万円という学費の現実
大学の価値と受け取る価値のずれを考えるうえで、宮武さんは学費の話が欠かせないといいます。草野さんも、日本からアメリカの大学を目指す人にとって、語学の壁を越えても学費の壁がある、日本の私立とも比べものにならない、と応じます。
宮武さんによれば、アメリカの学費は大きく私立、州内に住む人向けの公立、州外の人向けの公立の3パターンに分かれます。公立は、その州に住んでいるかどうかで学費が大幅に変わる仕組みです。
| 区分 | 年間の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 私立 | 学費約38K、生活費込みで50K以上 | 4年間で約2000万円 |
| 公立(州内居住者) | 学費約10K | 住んでいる州なら大幅に安くなる |
| ハーバード大学 | 学費約50K、生活費込みで約70K | 4年間で3000万円近く |
宮武さんは、学費と生活費を合わせると平均的に年20K〜50Kほどかかるとまとめています。草野さんは、受験直前に州へ引っ越すのはダメなのかと尋ね、宮武さんは「一応OKなはず」と答えています。
アメリカには日本のような受験シーズンがないのでは、という草野さんの問いに対し、宮武さんは「なんとなくのシーズンはある」と説明します。大学を見学し、試験を受け始めるタイミングがあり、学校によって試験制度や時期も異なるといいます。
アメリカの大学行ってたの、本当じゃすごいですね、(宮武)さん。
いやいや、僕がすごいって(いうより)親がすごいです。
草野さんは、SNSなどに優秀な人のコミュニティがいくらでもある今、これだけの費用をかけて大学に行く意味があるのかと考えてしまうと話します。宮武さんも、2〜3000万円かかるなら、会社を作って自分で事業をやったほうがいいのでは、という話に絶対なると同意しています。
自己破産しても消えない学生ローン
学費の上昇を補う制度として宮武さんが挙げたのが、学生ローンです。家族の収入が十分でなくても大学に行きたい学生が、学費の一部または全額を借り入れで賄い、在学中はキャンパス内で働き、卒業後は収入の一部を毎月返していく仕組みです。
宮武さんは、どれくらいの人が学生ローンを抱えていると思うかと草野さんに問いかけます。草野さんは「大学に行っている人の80〜90%ぐらい」と予想しました。
宮武さんによれば、学生ローンの総額は2011年からおよそ倍になっています。大学に行っただけで、これだけの借り入れをアメリカ人が抱えているという話です。
自己破産しても学生ローンって払い続けないといけないんですよ。
草野さんは日本ではどうなのかと尋ねますが、宮武さんは日本の制度はわからないと答えています。そのうえで、なぜここまで学費が上がり、学生ローンが積み上がったのかという問いに進みます。
大学が足りない?需要と供給のアンバランス
学費が上がり続ける理由について、宮武さんは「実は結構アメリカ政府のせい」だと話します。アメリカ政府が教育システムの市場を大きくコントロールしており、大学市場はほぼ政府の管理下にある寡占市場のような状態だといいます。
単純にそのサプライとデマンドが、アンバランスになってるっていう話なんですよね。
アメリカには4〜5000ほどの大学がありますが、宮武さんはこれでも少ないと見ています。アメリカ国内の学生に加え、中国やインド、日本などからもアメリカの大学に行きたいという需要が大きいのに、それに見合う数がないからです。
しかも、新しいアメリカの大学はなかなかできないといいます。宮武さんが調べたところ、2015〜2018年頃にも新設はあるものの、既存大学のスピンオフのような形が多く、ゼロから作られた大学で一番最近確認できたのは2005年でした。
草野さんは、教育スタートアップが多く生まれているアメリカなら、面白い大学も新しくできていそうだと思っていたと驚きます。宮武さんによれば、4000〜5000の大学の7〜8割が2000年以前に設立されており、この20年間でほとんどできていないといいます。
新しい大学が生まれない、お金の仕組み
新しい大学ができない理由を、宮武さんはアメリカの大学がどうお金を稼いでいるかから説明します。国立大学は政府から直接資金を受け取り、私立大学は学費以外に主に4つの方法で収益を上げているといいます。学費は意外と小さな部分だそうです。
1つ目は、政府からの学生ローンの補助金です。学校自体が学生ローンを提供するとキャッシュフローが回らないため、政府が提供します。ただ政府の資金のプールは限られているので、新しい大学が増えると既存の大学の取り分が減ってしまいます。
2つ目は研究施設への政府資金です。スタンフォードなどは教育しながら政府のための研究を行っており、ここでも既存の大学は競合に入ってきてほしくない立場にあると宮武さんは話します。
3つ目と4つ目は、税金の免除制度です。宮武さんによれば、アメリカでは大学の運営そのものをNPO化して税金を払わずに済み、さらに大学基金のファンドもNPO化できるため、キャピタルゲインへの税金も払わなくてよいといいます。
(大学基金を)NPO化できるんですよ。なんで、そうするとキャピタルゲインの税金払わなくていいんですよ。おかしくないですか?
草野さんは「大学を作ったほうが逆に良くないですか?」と返します。宮武さんは、作ったほうがいいのに作れない、既存の大学がこの制度に他者が入ってくるのを嫌がるからだと答えています。
宮武さんによれば、イェール大学の約30ビリオン、ハーバード大学の約50ビリオンという基金は、運用資金で見ると世界のトップ20〜30のヘッジファンドに入る規模です。それだけのビジネスを運営しながら税金が取られない点を、宮武さんは「なかなかすごい」と表現しています。
供給が増えない
政府資金や税制の恩恵を守りたい既存大学が新規参入を嫌い、新しい大学がほとんどできない
需要は増える
アメリカ国内に加え世界中からアメリカの大学に行きたい人が増えている
学費が上がる
需要が上がって供給が上がらないため、値段が上がり続ける
宮武さんは、テレビのように競合が増えれば値段が下がるのが普通の経済だと説明します。大学は供給が増えにくいまま需要だけが伸びているので、値段が上がるという「割とシンプルな話」だと話します。
このまま制度が変わらなければ、大学4年間で1億円かかる時代が来る、と宮武さんは見ています。今は金銭的に考えれば行くべきでも、1億円なら正直わからないといい、下がる要素もフラットになる要素もなく、上がる要素しかないと述べています。
教育、ヘルスケア、不動産が値上がりする共通点
宮武さんは、Twitterでバズった、アメリカの商品やサービスの過去20〜30年の価格変化のグラフを紹介します。テレビや車、パソコンなど多くの商品は値下がりしている一方、教育はほぼトップにあり、大きく値上がりしていたといいます。
特に値上がりしているのは、教育、ヘルスケア、住宅(不動産)の3つです。宮武さんは、その共通点はアメリカ政府が関わっていることだと指摘します。
不動産も大学と同じ構造だと宮武さんは話します。サンフランシスコやニューヨーク、オースティンなど需要が高い地域ほどローカルの自治体が強く、新しい家を作りたがらないといいます。理由について宮武さんは、外から人に入ってほしくない思いがあるのかはわからない、と留保しています。
例としてサンフランシスコは、人口約100万人に対して年間予算が約13ビリオンありながら、新しい家の建設許可は毎年6000軒ほどしか出していないといいます。急成長するスタートアップが大量に採用する街で、6000軒では絶対に足りないと宮武さんは見ています。
なぜ政府がこの3つの分野に関わろうとするのかについて、宮武さんは中流階級の成功に必要な要素だからだと説明します。労働者階級と比べ、いい地域にいい家を持ち、いい学校に子どもを通わせ、保険を持っていることが中流階級の条件になっている、という見方です。
Zoom授業で問われた大学の本当の価値
学費が上がり続ける中で、コロナが来て大学はオンラインになりました。宮武さんはここを「すごい重要な分岐点」と呼び、アメリカでバズったミームを紹介します。
Netflixが年間108ドルみたいな。Spotifyが年間120ドル、Huluが年間72ドル、ハーバード大学が年間500万円みたいな。
大学の授業がZoom化したことで、動画配信サービスと並べて比べられてしまったわけです。草野さんは「それ見るとしびれますよね。大学行く意味」と反応しています。
宮武さんは、この2年間がほとんどの大学にとって厳しかった一方、大学の本当の価値を見せるタイミングでもあったと話します。学ぶことが本当の価値なら動画配信でも同じはずですが、明らかに違ったというのが宮武さんの見方です。
宮武さんによれば、アメリカの大学にとって国内の学生はどちらかといえば赤字です。学生ローンを組むと政府からその分は入るものの、学生から十分にはもらえないためです。逆に、学生ローンを組めず学費を全額払う海外の学生のほうが、大学にとっては価値が高いといいます。
ところがコロナで海外の学生は入国できず、ビジネスでもあったスポーツもキャンパスもなくなりました。満足度も下がり、4年間通って得る卒業証書にどれだけの価値があるのか、という話になっていると宮武さんは話します。
大学を「テスト」とみなす前提も揺らいでいます。宮武さんは、SATなどの入学試験を受けなくてもよい形が増えていることや、4年間Zoomで授業を受けただけの人が本当にconscientiousnessを持っていると言えるのか、という企業側の疑問を挙げます。
さらに学生のテックへの習熟も進み、宮武さんは入学用のエッセイをGPT-3 ── OpenAIが2020年に発表した大規模言語モデル。自然な文章を生成できることで注目を集めましたで書く学生が増えてくるだろうと予想します。そうなると、企業から見てアメリカの大学に何の意味があるのか、という話になると宮武さんは見ています。
800年変わらない大学と、次世代のオンライン学習
宮武さんは、大学のフォーマットが作られたのは約800年前で、印刷機より前だと話します。それが変わっていないのはおかしい、という問題意識です。
変化の兆しとして、宮武さんはいくつかの例を挙げます。Googleは大学を卒業していなくても応募できるようにし、数学やコーディングのコンペを通じて自社の認定を出す仕組みも持っています。ラムダスクールは、ローンを組まずにコンピューターサイエンスの教育を受けられるISAモデル ── 所得分配契約(Income Share Agreement)。受講時は無料または低額で学び、就職後に収入の一定割合を一定期間支払う仕組みですを取り入れています。
一方で、オンライン学習には課題もあります。Courseraのような教育系スタートアップは登場したものの、コミュニティ感がなくエンゲージメントが低く、1つのコースを完了する割合は3〜6%ほどだと宮武さんは話します。
YouTubeやTikTok、ニュースレターでも学べる今、次に出てきているのはアクセラレーターやインキュベーターのような形や、ローコストな事業だといいます。宮武さんが挙げたのが、コホートベースのMavenと、「次世代スタンフォード」を掲げるOnDeckです。
OnDeckは小さなコミュニティをいくつも作り、それらを大きなコミュニティにまとめる設計が上手い会社だと宮武さんは評価します。たとえばエンジェル投資家向けのOnDeck Angelsと、起業家を育てるOnDeck Foundersを並行して運営すれば、両者をマッチングできるわけです。
宮武さんは、こうした取り組みを特定分野のプロフェッショナルなSNSだと捉え、採用やLinkedInもリプレースされていくだろうと話します。その流れで注目しているのがRadarとPaletteです。
草野さんはRadarを「新しいLinkedIn」と表現します。コミュニティやコンテンツがベースで、エンジニアやデザイナーといった職業ではなく、「クリプトに興味がある」「多様な働き方がしたい」といった興味関心のタグで仕事や人を見つけられる点が面白いと話しています。
あんまり職業を「これになりたい」っていうのよりも、なんかいろんな興味関心軸でなんか仕事を見つけられるというか。
宮武さんは、Radarがニュースレターから始まっている点や、VCが投資先の求人を集める小さなコミュニティを作っている点に注目しています。Paletteは、そのRadarのホワイトレーベル版のような形で、ニュースレターライターのレニーさんやパッキーさんが、自分の読者コミュニティ向けのジョブボードとして活用しているといいます。
PMが多く集まるレニーさんのコミュニティなら、企業側にとっても分かりやすい、と宮武さんは説明します。小さくニッチなコミュニティほどアクティブになる性質をうまく活用しているのがRadarとPaletteだ、というのが宮武さんの見立てです。
Learn to Earnと、ブロックチェーン化される学歴
最後に宮武さんは、教育×Web3の話に進みます。Off Topicは3週連続でWeb3の話になっていると、宮武さんは苦笑まじりに断っています。
宮武さんが紹介したのは、AxieのPlay to Earn ── ゲームを遊ぶことで暗号資産やNFTなどの報酬を得られる仕組み。Axie Infinityがその代表例として知られていますに似た「Learn to Earn」という概念です。学んでタスクを完了すると何かがもらえる仕組みで、RabbitHoleはクリプトへのオンボーディングのタスクをこなすとトークンがもらえるサービスだといいます。
宮武さんは、DAO ── 分散型自律組織。トークン保有者の投票などで運営される、特定の管理者を持たない組織の形態ですが教育の役割をリプレースする例として、自身も入りたかったというCrypto Culture and Societyにも触れます。クリプトがカルチャーと社会にどう影響するかを議論するディスカッショングループで、ディスカッションリーダーにはパッキーさんやギャビー・ゴールドバーグさんなど、クリプト界のトップの顔ぶれが並んでいたそうです。
Crypto Culture and SocietyはDAOとして資金を集め、出資者がトークンを受け取り、そのトークンで議論の内容に一部投票できる仕組みです。宮武さんはこれを「ミニスタディグループ」のようなものだと表現しています。
もう1つの可能性として宮武さんが挙げたのが、スキルの認定や履歴書のブロックチェーン化です。すでにMITは成績証明書をブロックチェーン化しているといいます。草野さんも、学歴を本当に証明するものはブロックチェーン化されたほうがよいと応じています。
宮武さんは、今は「ハーバードに行った」というなんとなくのブランドで判断されていますが、今後は小学生から大学生までに何をやったかがブロックチェーン上の記録に残るようになると見ています。難しい問題を解けばバッジがもらえ、それがNFT化されてウォレットに入る、といったイメージです。
ハーバードに行ったといった、大学のなんとなくのブランドで判断される
何を学び、何をやったかがバッジやトークンとしてブロックチェーンに記録される
ただし、草野さんは証明のフローが課題だと指摘します。ゼミやボランティアに入っていても、出席は1回だけだったというケースもありうるからです。
なんかそういうのって、こう、出席、なんか友達の力で乗り越えたみたいなのをある意味、その人の力っていう面もあるじゃないですか。
宮武さんは、出席のバッジと、そこで何をやったかのバッジの2種類が出せるかもしれないとしつつ、どこまで記録すべきかという問題もあると認めています。ブロックチェーン化された履歴書がどんな形になるかは、まだ想像できないとも話しています。
それでも宮武さんは、CourseraやMOOCの時代が既存の授業をオンライン化しただけだったのに対し、これからはデジタルネイティブな教育が生まれると見ています。800年間変わらなかった大学が、一気に変わるタイミングが、ここ1〜5年のうちに来るのではないかというのが、宮武さんの見通しです。
テック企業が大学を買ったらどうなる?
草野さんは、学費が下がることはほぼなさそうだとしたうえで、以前の回で出た「テック企業が大学を買う」という選択肢に触れます。宮武さんも、教育をローコストにできるので逆にいいかもしれないと応じています。
草野さんは、これまでイノベーションが起きにくかった流れも解消できそうだと期待します。一方で宮武さんは、政府側がすごく嫌うだろうと指摘します。
Facebookがね、ハーバード大学買おうとしたらとんでもない話になるじゃないですか、多分。
ただ、テック企業と大学の関係自体は良好な例もあります。宮武さんによれば、カーネギーメロン大学は自動運転の研究でトップティアにあり、Uberは同大学の教授を引き抜いてきた経緯がありつつ、寄付などを含めて連携していると考えられるといいます。
草野さんは「Web3の展開にもちょっと期待ですね」と締めくくり、教育×テクノロジーの今後に含みを残して回を終えています。
まとめ
アメリカの大学は、教育だけでなく、ネットワーク、体験、ヘッジファンド並みの基金、そして企業が採用で頼る「卒業というテスト」を束ねたサービスです。その価値が、政府が関わる寡占的な市場構造の中で需要だけが伸びて学費を押し上げてきたことと、コロナとテクノロジーで揺らぎ始めていることが、この回の中心にあります。
- アメリカで就職するなら大学には行き、入るなら卒業する。文系はどの大学に行くかで給料の差が大きい
- 私立の4年間で約2000万円、ハーバードなら3000万円近くかかり、学生ローンは自己破産しても消えない
- 新しい大学がほぼ生まれないのは、政府資金や税制の恩恵を既存大学が守ろうとする構造があるため
- コロナのZoom授業は、大学の価値が「学ぶこと」だけではないことを浮き彫りにした
- コホート型学習やコミュニティ型のジョブボード、ブロックチェーン化された学歴が、大学の役割を置き換えつつある





