ベネズエラに帰国したマチャド氏と、トランプ氏・ルビオ氏の温度差
本題の前に、野村高文さんはベネズエラのニュースに触れています。10月25日、野党指導者でノーベル平和賞を受賞したマチャド氏が、およそ1年ぶりにベネズエラへ帰国しました。
一方で、アメリカのトランプ大統領は、今年1月に拘束されたマドゥロ大統領に代わって政権を担う、ロドリゲス暫定大統領を支持しています。
長年マドゥロ政権と闘ってきたマチャド氏にとって、マドゥロ政権の副大統領だったロドリゲス氏は、簡単に手を握れる相手ではありません。
アメリカのルビオ国務長官は、マチャド氏の帰国を「アメリカが支援する和解協議の直接的な成果」とする声明を出しました。野村さんは、ここにトランプ氏とルビオ氏の思惑の微妙な差が垣間見えるのかもしれない、と話しています。
今後、ロドリゲス暫定政権が続くのか、それともマチャド氏が求める早期のベネズエラ大統領選が実現するのか、(注目が集まります)。
第1回投票2位からの逆転劇はなぜ起きた?
メイントピックは、ブラジル大統領選の決選投票です。10月25日に行われた決選投票で、ルラ大統領が得票率51.8%を獲得し、対立候補のフラビオ・ボルソナロ氏を破りました。来年1月から、ルラ氏の4期目の任期が始まります。
ブラジル大統領選の第1回投票では、フラビオ氏が47%、ルラ氏が45%で、フラビオ氏が220万票リードしていました。
ただ、およそ1億6000万人の有権者のうち、3300万人以上が第1回投票を棄権しており、決選投票で票が動きました。ブラジルで第1回投票の2位候補が決選投票で逆転勝利したのは、今回が初めてです。
第1回投票はフラビオ氏47%、ルラ氏45%。フラビオ氏が220万票リード
決選投票でルラ氏が得票率51.8%を獲得し逆転勝利
上の図のとおり、3300万人以上の棄権者がいたことが、決選投票での逆転の余地になったと説明されています。
左派の老練リーダーと、収監された前大統領の息子
今回のブラジル大統領選では、ルラ氏とフラビオ氏の関係性にも注目が集まりました。
ルラ氏は1970年代に労働組合の指導者として出発し、2003年から2010年まで大統領を務めた左派のリーダーです。
一方のフラビオ・ボルソナロ氏は、ルラ氏が2022年の選挙で僅差で破ったジャイル・ボルソナロ前大統領の息子です。父のジャイル氏はクーデター未遂事件への関与で収監されており、フラビオ氏は父への恩赦 ── 国家が刑罰の効力を消滅・軽減させる措置。大統領や議会の権限で行われることが多く、政治的な事件では賛否を呼びやすい制度ですを公約に掲げていました。
両候補の公約は、重点が大きく異なっていました。
犯罪への厳罰化、食糧価格の引き下げ
中小企業への債務救済、週末の公共交通機関の無料化、週6日勤務制の廃止
バス停止と投票時間延長、投票日の混乱
ブラジル大統領選の投票日当日には、各地で混乱が起きました。ルラ氏の強力な地盤であるバイーア州で、少なくとも75台の公共バスが車庫から出発できなくなりました。
バイーア州の選挙管理裁判所は、交通を管轄する担当者を逮捕するよう命じました。フラビオ氏と同盟関係にある地元の市長は、労働組合員が車両にポスターを違法に貼ったことが原因だと主張しています。
さらに投票終了の直前、連邦最高裁判事が投票時間を2時間延長する決定を下しました。延長はルラ陣営とフラビオ陣営の双方が申し立てていましたが、求める範囲が違っていました。
大雨の影響を受けた一部地域だけを対象に延長
全国での延長
裁判所は、ルラ陣営の主張に近い「まだ投票が続いているすべての投票所」での延長を決めました。この判事は、かつてルラ氏の弁護士を務めていた人物です。
敗れたフラビオ氏は投票時間延長の問題に反発し、選挙結果を認めず、選挙の無効を求める考えを表明しています。
トランプ政権の中南米戦略に歯止め?
ブラジル大統領選の結果は、アメリカの外交戦略にも関わります。トランプ政権はこれまで、ブラジルの輸出品に高関税を適用し、ブラジルの麻薬密売組織などを外国テロ組織に指定してきました。
野村さんは、こうした措置はルラ氏の犯罪対策を弱腰に見せるための牽制だったと見られる、と解説しています。対するフラビオ氏は、ホワイトハウスとの近さをアピールしていました。
ラテンアメリカでは、このところトランプ大統領と同盟関係にある右派候補が次々と勝ち、アメリカの政治的影響力が広がる傾向にありました。
しかし、中南米最大の経済大国ブラジルで左派政権が維持されたことで、アメリカの中南米での影響力拡大に一定の歯止めがかかった形になります。
ルラ政権の「国家主導の多角化」とは?
今後のブラジルの外交・経済戦略について、野村さんはロンドン大学キングズカレッジの分析を紹介しています。それによると、ルラ政権の基本戦略は「国家主導の多角化」です。
ルラ大統領は、南米南部の共同経済枠組みであるメルコスール ── 南米南部共同市場。ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイなどが参加する関税同盟で、域内の貿易自由化と対外共通関税を柱としていますを推進しています。
また、ブラジルはロシアや中国も参加するBRICS ── ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字に由来する新興国の枠組み。近年は参加国が拡大していますの創設時からの参加国で、特に中国を多角的な外交の重要な柱と位置づけています。
具体的には、BRICSを通じて現地通貨での決済を進め、ドル決済への構造的な依存を減らす計画です。
産業面では、ルラ政権はグリーンエネルギーやデジタルインフラなどを重視しています。これはBYDやファーウェイといった中国企業のグローバル戦略との接近が想定され、中国資本がブラジル国内に工場を建て、サプライチェーンの構築に深く関与する可能性があります。
米中の狭間で、ブラジルは戦略的自立を保てるか
仮にフラビオ氏が勝っていれば、ブラジルはアメリカやイスラエルとの関係を深める方針でした。
ただキングズカレッジは、ブラジルの大豆、牛肉、鉄鉱石の最大の輸出先である中国から経済を完全に切り離すことは、誰が政権を握っても難しいと指摘しています。
ルラ氏の続投に伴い、トランプ政権による圧力が増すことも考えられます。ブラジルは、アメリカ主導の国際体制と、中国やBRICSとの関係の間で、複雑な舵取りを求められます。
アメリカと距離を保ちつつ、中国に飲み込まれてしまわずに戦略的自立性を保つことが可能なのか。
野村さんは、ブラジルが日本の参考になる点はほかにもあると続けます。ブラジルは公的債務が急増し、債務残高はGDPの82%を超えました。長年の支出増で借金が膨らみ、予算編成に支障が出ています。
日本の債務残高はブラジルを大きく上回っています。そのため、ブラジルが債務問題にどう対処するかも、注目のポイントとして挙げられています。
まとめ
ブラジル大統領選では、第1回投票で2位だったルラ氏が決選投票で逆転し、4期目に入ります。アメリカの中南米での影響力拡大に歯止めがかかる一方、ブラジルは米中の間での難しい舵取りと債務問題に向き合うことになりそうです。
- ルラ氏が得票率51.8%で勝利し、第1回投票2位からの逆転はブラジル初
- 投票日のバス停止や投票時間延長をめぐり、フラビオ氏は選挙無効を求める考え
- 右派の連勝が続いた中南米で、アメリカの影響力拡大に一定の歯止め
- ルラ政権は国家主導の多角化とBRICS重視で、中国との関係が深まる可能性
- 米中の間での戦略的自立や公的債務への対応は、日本にとっても参考になる






