「これ、あなたが書いた文章です」をどう証明するか
話は、はりまさんからやーまんさんへの問いかけで始まります。もし原稿を納品したとき、それが確実にはりまさんが書いた文章だと証明しなければならないとしたら、どうするか。
めちゃくちゃ難しい。でも最近なんかありますよね。このAIが書いたかどうかをチェックするやつ。
AIを使わない前提で考えると、やーまんさんは証明の方法はないと答えます。編集の仕事の経験から、書き手の特徴を判断する話も出ます。
そのライターさんの特徴とか、文章の作り方とか、使う言葉とか、そういうので、この人が書いた原稿だなとか、この人っぽいなみたいなのはありますけど。
ただし、最近はAIも文章の癖を学習するため、区別がつかないほど優秀になっていると話されています。
Claudeが発表した「文章のウォーターマーク」とは
この問題は、生成AIの普及で現実味を帯びています。ある文章がAIによるものか、人間によるものかを区別することが重要になってきているという背景があります。
権利の問題や、EUで内容を明示させる法律の動きもあり、対応が求められるようになってきました。
そうした流れを受けて、Anthropic社のClaudeが、生成した文章にウォーターマーク(透かし)を入れると発表したと紹介されます。
画像や音声では、ロゴを重ねる方法のほかに、見た目ではわからない形で情報を埋め込む方法もあります。はりまさんは、画像はピクセルの集まりなので埋め込めそうだと感覚的にわかると話します。
でも文章って文章だから、目で見ようが解析しようが文章は文章なんで、わからなくねと思うんですけど。
ところがClaudeの発表では、それができると書かれている。この回では、その仕組みをできるだけかみくだいて解説していきます。
生成AIが「次の言葉」を選ぶ仕組み
仕組みを理解する前提として、生成AIが文章を出す方法をおさらいします。
ざっくり言えば、前の文章を見て、次にどの言葉が来そうかを確率的に計算しているという仕組みです。
たとえば「日本の首都である」の後は「東京」で、ほぼ一択に絞られます。一方で、絞りきれないケースもあります。
今日は動物園に行って象と、の後に続く言葉は何でしょうか。
象と来たら、もうキリンかライオンだよね。
つまり、ライオンでもカバでもキリンでも成り立つ文章がある。この「一択に絞れない場面」こそが、ウォーターマークの鍵になります。
マルとバツで単語を選ばせる仕掛け
ウォーターマークの仕組みは、ある状況でどの言葉が選ばれやすくなるかというルールを、Claude側が持っているという点にあります。
候補の単語に、雑に言えばマルとバツをつけていきます。ライオンはマル、キリンはバツ、といった具合です。
マルがついた言葉は選ばれやすくなります。たとえばライオンとキリンの確率が拮抗していても、マルのついたライオンが勝ちやすくなる、という調整です。
ライオンが続いていれば「AIらしさ」が1ポイント加算されるようなイメージだと説明されます。1文だけでは判定できませんが、長い文章全体でマルの出現が多ければ、Claudeのルールに従って出されたと判定できます。
なお、この判定はClaude自身が生成した文章についてできるものです。他社のAIが書いたかどうかまで断定できるとは言い切りづらい、とも補足されています。
リライトすれば透かしは消えるのか
やーまんさんは編集者の立場から、リライトすれば透かしは消えるのではと疑問を投げます。
リライトしたら、この透かしは消えるんですか。
リライトすると透かしは薄くなる可能性があります。マルがついてライオンが選ばれた箇所をキリンに書き換えると、その分「らしさ」が薄れるためです。原理的には、透かしがかかった位置の言葉をすべて置き換えれば消えますが、どの位置が透かしにあたるかは外からはわからないため、完全に特定して消すのは難しいと説明されます。
やーまんさんは、自分の場合は原案を跡形もなく書き換えることもあれば、骨組みだけ残すこともあると話します。書き換えるほど透かしは薄くなり、逆に人間がたまたまAIと同じ選択をする可能性もあります。
なぜこの仕組みは強力なのか
やーまんさんは、この発想そのものに驚きます。文字データに秘密の記号を埋め込むのではなく、単語の選び方の癖に透かしを埋め込むという発想です。
文章の生成そのものの、単語の選択の癖みたいな、そこに透かしを埋め込むってことでしょ。天才やんか。
この仕組みは、Googleが考えたSynthIDという仕組みをClaudeが応用したものと言われています。強力さの理由は確率にあります。
仮に選択肢がAかBの二択で、10箇所すべてマルを選ぶ確率は2の10乗分の1、つまり1024分の1です。1箇所変えたぐらいでは揺るがない、という理屈です。
長文になればなるほど、その精度は上がるってことですよね。
だからこそ、論文をAIに書かせて本人が理解していないケースなどでは、こうした判定はあった方がいいという話にもなります。
誰でも思いつきそうな発想を、実用化するすごさ
はりまさんは、この仕組みを「誰でも思いつきそうな発想を実用化したすごさ」だと語ります。ここから話は問題解決の技術論へ広がります。
テクノロジーの歴史には、「これを証明するのは無理じゃないか」という問題を、発想と技術で解決してきた積み重ねがある、と話されます。しかも実用化には再現性が欠かせません。
はりまさんは、その連想として千原ジュニアさんが考案したという「ことば落とし」というゲームを持ち出します。
親は指定された単語を会話の中にこっそり落とし、ほかの人がそれを当てる。Claudeが特定の言葉を落として後から拾う仕組みと似ている、という連想です。ただし本人も「一緒ではないけど」と保留しています。
AIだと見抜く技術は、どこまで意味を持つのか
話は「そもそも証明する意味はあるのか」へと移ります。透かしを入れると発表された数時間後には、それを消すツールがClaude Codeで作られて現れた、というエピソードも語られます。
SNS見ててもほとんどがAIで作ったコンテンツじゃないですか。当然文章もこれAIだろうを前提で読むようになると思うんですよ。
AI前提で読むのが当たり前になると、「AIで書きました」という証明がどこまで効果を持つのかは不透明だ、と指摘されます。
ここで論点が反転します。証明したいのは「AIか」よりも、むしろ自分が本気で考えたものだと伝わってほしいという気持ちの方かもしれません。
AIが考えたみたいなんで、やり直してくださいって言われて。俺これ4、5時間考えたんだけどなと思いながら。
やーまんさんは、4、5時間かけたラフデザインを「AIが作ったよう」と言われた経験を語り、その仕事は断ったと話します。一方で、成果物が誰の手によるものでも、市場での効果が本質だという立場も示します。
プロセスごと納品する「ぬくもりティ」という発想
ここから2人は、AI時代に人間の仕事へ何を残すかを、半分冗談を交えて語り合います。キーワードは「ぬくもりティ」です。
デザインを納品しても、頑張った形跡はデータに残りません。そこで、打ち合わせの積み重ねやプロセスそのものを残して渡すという発想が出てきます。
プロセスマーケティングみたいなことをやってて。
例として、SNSで穴の開いたTシャツを着続け、フォロワーから指摘されるところから買い替え・デザイン公募・投票・販売サイト構築まで巻き込んで事業化する、というインフルエンサーの手法が紹介されます。
やーまんさん自身も、ロゴマーク制作でパターンや議論の変遷を日付入りで資料化し、プロセスごと納品したと話します。3か月かかったものの、使う当事者がそのマークを大切にしてくれそうだと感じたそうです。
不便さと摩擦が、記憶とありがたみを生む
はりまさんは、レクサスの納車式のテープカットを例に、無駄に見える儀式が満足度を高めるのではと語ります。効率化で意味のない行為がどんどんカットされる時代への逆張りです。
改札もかつては切符を入れ、くしゃくしゃだと通らないことがありました。今は通った感覚すら残らないほど便利になっています。
便利すぎると記憶に残らないっていう。摩擦が何もないとスーッと滑っていってしまうみたいな。
やーまんさんは、車の運転が煩わしく早く自動運転になってほしいと話しつつ、便利になったら逆に運転が恋しくなるのではという話にもなります。
スーッと済むが記憶に残らず、ありがたみも薄い
不便だが記憶に残り、ぬくもりとして価値になる
筋トレの適度な負荷にたとえながら、摩擦が大きすぎると不満になるが、ちょっとした摩擦はいい思い出になるという考えが語られます。
AI時代こそ墓参りに行こう
話は最後に墓参りへ着地します。はりまさんは、以前やーまんさんに墓参りの意味を聞いて怒られたことを引きずっていた、と打ち明けます。
自分が生まれたのって奇跡やから。奇跡の連続で自分がいると思ったら、ご先祖さんに感謝せなあかんやろっていう理屈は自分の中であるんですけど。
ただし、墓参りに何の意味があるのかと冷静に問われると、証明できるエビデンスはないと2人は認めます。行けば気分がすっきりする、いいことがある気がする、とは言えても、断定はできません。
だからこそ、言語化・説明できないことをしていくのが「ぬくもり」なのではないか、というのがこの回の着地点になります。
まとめ
Claudeの文章ウォーターマークは、単語選びの癖にルールを仕込むという意外な仕組みでした。その技術の話から、AI時代に人間の仕事へ何を残すかという問いへと自然に広がった回です。
- Claudeの透かしは、次に来る言葉の候補にマル・バツをつけ、選ばれやすさを調整することで判定に使う
- 1文では判定できないが、長文になるほど確率的に精度が上がり、リライトでは薄まるが完全には消しにくい
- AI前提で読む時代には「AIで書いた証明」より、本気で取り組んだと伝わることの方が価値を持ちうる
- プロセスごと納品するなど、あえて手間や摩擦を残す「ぬくもり」が、記憶とありがたみを生む
- 説明できないことをあえて行うこと自体に意味がある、というのがこの回の着地点






