40歳・貯金数百万円、なぜ日本に帰らなかったのか
Caribeさんは、日本人向けにメキシコでの留学生活を発信する「38歳留学生」のVlogで、YouTube登録者が数万人ほどのチャンネルを持っていました。ただし40歳の時点で就職先はなく、メキシコに住みながら貯金を切り崩す生活だったといいます。
小畑さんに残っていた貯金の額を聞かれたCaribeさんは、「数百万」と答えます。その数百万円が全貯金で、海外で生活している以上、毎月の支払いも続いていました。
番組内では、この状況をスタートアップ ── 新しい事業を短期間で急成長させることを目指す企業。投資家から資金を集め、それを使いながら事業の形を模索するのが一般的ですに例える声も出ます。資金を燃やしながら事業を作り、うまくいかなければ方向転換を重ね、最後にホームランが出るという構図です。
Caribeさんは、それまで続けていた大谷翔平選手関連の発信を辞め、最後の挑戦としてスペイン語圏の人たちに向けた現地動画を始めます。日本人向けのアカウントは残しつつも触らず、まったく新しいアカウントをフォロワー0から作りました。
いえ、もう古参の方(日本語のアカウント)は捨てようっていう。そうですね、まあいつかまた使うかもしれないですけど。
始めた当初のCaribeさんは、成功を確信していたわけではありません。むしろ直前に、日本語チャンネルで中南米の野球少年を取材する動画を出し、それが惨敗していました。
それで全然ダメだったのよ。もうほんと数百再生とか、それ(野球少年の動画)三本ぐらい。だからもう心ズタズタだよ。
だからスペイン語でそうやろうって時も、どうせ無理だろうなっていうマインド。
小畑さんは、数百万円が残っていれば普通は日本に帰って就職活動をするはずだと繰り返します。それでもCaribeさんは独り身だったこともあり、メキシコでの就職もちらりと頭をよぎった程度で、発信を続ける道を選びました。
4本目で急拡大、毎日投稿と360度カメラ編集の裏側
スペイン語アカウントの1〜3本目は大きくは伸びなかったものの、Caribeさん自身は「前に比べたらちょっといいかも」という感触を持っていました。そして4本目の投稿が、TikTokで突然伸びます。
当時Caribeさんは毎日投稿していたため、1〜4本目は4日間の出来事です。4本目以降は、フォロワーが1日に何万人も増える状態が続いたといいます。
種市さんが毎日投稿の進め方を尋ねると、Caribeさんは綿密な計画は立てていないと答えます。思いついたことをメモしておき、朝起きて「今日はこれを食べに行こう」と決めて撮りに行くスタイルです。
撮影に使うのは、常に持ち歩いているInsta360 ── 全方位を一度に撮影できる360度カメラのブランド。撮影後に見せたい方向や構図を選んで切り出せるのが特徴ですです。素材撮りはご飯を食べる時間や移動中だけで、1時間程度だといいます。
最初はその日に撮ってその日に編集・投稿していましたが、次第に追いつかなくなります。そこで、撮った素材の一部だけを使って出し、別の部分は後日に回すやり方も取り入れました。
手間がかかるのは編集です。Caribeさんはパソコンで編集し、1時間の素材から長くても3分のショート動画を作ります。1本にかかる時間は3日から5日ほどで、本人は「要領が悪いのもある」と話します。
小畑さんは、360度撮れているからこそ編集が難しいと指摘します。店員が話しかければ店員のカット、隣の客が話しかければその客のカット、犬がいれば犬のカットになり、さらにスペイン語と日本語の字幕も入っています。
思いつき
日々のアイデアをメモし、朝その日の行き先を決める
撮影
Insta360を置いて約1時間、全方位を撮りっぱなしにする
編集
面白い場面を後から集め、どの方向を切り出すかを選ぶ
完成
字幕を入れ、3分以内の動画に。1本に3〜5日かかる
Caribeさん自身は、撮影中は何も考えず、後から「ここ面白いかな」という部分を集めている感覚だといいます。一方で、数秒しかないような短い動画なら1時間で編集が終わるものもあるそうです。
なぜウケた?現地の人が見過ごす日常を日本人の目線で
小畑さんに何がウケているのかを聞かれたCaribeさんは、ラテンアメリカをあまり知らない日本人が現地の料理をおいしそうに食べ、現地の人と暮らす姿が受け入れられているのではないかと分析します。
メキシコだったら、メキシコ好きになってくれてありがとうっていう目線で見てくれてると思うんだよね。
番組内で紹介された動画の1本は920万再生、72万いいね、コメント2100件に達していました。別の動画は2600万回再生されています。インスタグラムのフォロワーは40万人です。
種市さんは、Caribeさんのキャラクターや、売れている旅系YouTuberに通じるルックスを評価します。出演者については、TikTokをやっていることを伝え、店員などにも撮影してよいかを基本的に確認しているそうです。
Caribeさんは、編集には日本人ならではの視点が入っていると話します。今ではメキシコの街を歩くと、30分から1時間に1回ほど声をかけられるほどになりました。トレードマークのキャップもアイコンになっています。
日本人の視点が出る例として挙げたのが、写真撮影の距離感です。女性2人に両側から挟まれて写真を撮ると、体がかなり密着しますが、現地の人は何とも思っていないといいます。
(日本人の自分は)身を縮こませなきゃみたいになっちゃうんだけど、向こうは何も気にしてないんですよ。
Caribeさんは、この戸惑いを直接的な言葉ではなく「日本でありえない距離」として動画に使うことがあるそうです。現地の人には当たり前の日常が、日本人の反応を通すと面白い場面になるという構図です。
メキシコ、コロンビア、エクアドル。月6万円の宿を渡り歩く暮らし
Caribeさんは、メキシコ、コロンビア、エクアドルの3カ国を、2〜3カ月ごとに移りながら発信してきました。宿はAirbnb ── 個人が所有する部屋や家を旅行者に貸し出す民泊仲介サービス。長期滞在向けの物件も多く見つかりますが多く、民泊やシェアハウスのような場所に泊まるといいます。
種市さんは、Netflixのドラマ「ナルコス ── コロンビアの麻薬組織と、それを追う捜査当局を描いたNetflixのドラマシリーズ。実在の麻薬王パブロ・エスコバルが中心人物として登場します」を見ていたこともあり、コロンビアに強烈な印象を持っていました。
Caribeさんによると、ナルコスの舞台になったメデジン ── コロンビア第2の都市。かつては麻薬組織の拠点として知られましたが、近年は都市再生が進み観光地としても注目されていますは治安がとても良くなり、観光地になっています。ストリートダンサーのショーやローカルフードを楽しみながら、麻薬の歴史を聞くツアーもあるそうです。
コロンビアを選んだのは、中南米のスペイン語圏で2番目に影響力がありそうだと考えたことと、旅人から「すごいよ」と聞いていたからです。エクアドルはその隣であることに加え、留学時代に「エクアドルはすごくいい」という文章を読んだことがきっかけでした。
宿代は月6万円ほどです。個室でシャワーは共同という、なるべく安い場所を選んでいます。Caribeさんは、慣れれば快適だとしつつ、欲を言えば専用のシャワーが欲しいとも話します。
日本に戻った理由は、TikTokの収益化だった
収録時点のCaribeさんは、半年前に日本へ戻ってきていました。こんなに長くいるつもりはなかったといいます。
帰国の理由について、Caribeさんは日本から発信したい気持ちもあったとしたうえで、正直に言えばTikTokを収益化したかったからだと明かします。
Caribeさんがメキシコで作ったTikTokアカウントは、所在地が自動でメキシコに登録されていました。当時メキシコは収益化の対象外で、日本に変えるには日本に2カ月いる必要がある、というメッセージが出たそうです。
ところが、日本に2カ月住んでも所在地は変えられませんでした。そこでCaribeさんは、せっかく日本にいるならと日本のこともスペイン語で発信し始め、結果的に滞在が長くなりました。ただし投稿頻度はかなり減っているといいます。
小畑さんの整理によると、主な発信先はFacebookとInstagram(Meta)、YouTube(Google)、TikTokの4つです。MetaとGoogleからは収益が入る一方、TikTokだけは収益化できないままです。
Facebook、Instagram、YouTubeからは収益が入っている
メキシコで作ったため対象外。日本に2カ月住んでも所在地を変えられず収益化できない
今後について、Caribeさんは深くは考えていないと話します。中南米に戻ってVlogを続けたいと考えつつ、その形式がいつ終わるかわからないことも意識しています。
もうもしかしたらもうオワコンになってるかもしれないから。
だからこそCaribeさんは、スペイン語力を伸ばし、ラテンアメリカをもっと深く知ることで、Vlogが廃れても次のことができる土台を作りたいといいます。ラテンアメリカに関わることは続けたいという姿勢です。
フォロワーが増えても稼げないSNSのリアル
小畑さんは、案件を受ければ十分に稼げるはずなのに、Caribeさんは基本的にプラットフォームからの収入だけで暮らしていると指摘します。
Caribeさんは、日本で確定申告もしているので、日本の企業からの話であれば受けられると説明します。ただしDMはほとんど読んでいないため、案件の依頼が来ているかどうかもわからないそうです。
小畑さんは、自分なら「お金を稼げばいい」と考えるところ、Caribeさんは「作りたいものを作りたい」タイプで、そこが良さなのだろうと話します。Caribeさんも、好きな友人からの誘いや、好きなサービス・商品の紹介なら前向きになるかもしれない、と答えます。
小畑さんはこの話から、プラットフォームからの収益はクリエイターにほとんど還元されていないと指摘します。これだけのフォロワーがいても収益はごく小さく、稼ぐには発信力を使った案件が必要になるという事例だと語ります。
種市さんは、ここまでの実績があれば営業活動次第でさまざまなことができると話します。就職も、TikTokを伸ばす講座のような仕事も可能だろうと見ています。
1年で学んだこと、変えたのは中身ではなく発信先
小畑さんから、この約1年で何を学んだかを聞かれたCaribeさんは、発信の中身はほとんど変わっていないと答えます。
その前の三十八歳留学生のVlogのテイストは、そんなに変わってないと思うんだよね。自分なりのユーモアの感じとかも。
日本人向けに留学生Vlogを発信。登録者は数万人、野球少年の動画は数百再生
同じテイストのVlogをスペイン語圏向けに発信。4本目で伸び、インスタグラムは40万フォロワーに
種市さんは、Caribeさんがお金を狙いに行くのではなく、好きなことをシンプルに続けてきた点を評価します。「夢中は努力に勝つ」という言葉に重ね、チャンネルとタイミングがたまたま合ったのだろうと話します。
一方でCaribeさん本人は、この数字になってみても全然大したことはないと語ります。
でも実際この数字になってみて、もう全然大したことないと思いますよね、本当に。これ謙遜じゃなく本当にそう思います。
収入的にも全然ひもじいからかもしれないですけど。
種市さんは、この飾らない感じこそが好かれる理由で、動画にも優しさが表れていると話します。小畑さんも、Caribeさんは昔からこういう人柄だと付け加えます。
まとめ
Caribeさんは、40歳・貯金数百万円という崖っぷちで、日本人向けの発信を手放し、スペイン語圏向けにフォロワー0から再出発しました。中身は以前と大きく変わらないまま、発信先を変えたことで反応が一変した一方、フォロワーが増えても収益は小さいというSNSの現実も語られました。
- 日本人向けの不振が続いた後、スペイン語圏向けの新アカウントは4本目でTikTokで伸びた
- 360度カメラで約1時間撮り、3分以内の動画に3〜5日かけて編集している
- 現地の日常を日本人の目線で切り取ることが、「自分の国を好きになってくれてありがとう」という共感につながっていると本人は見ている
- TikTokはアカウント所在地の問題で収益化できず、プラットフォーム収益だけでは暮らしは楽ではない
- 本人が学んだのは、テイストではなく発信先を変えるだけで結果が大きく変わるということ





