十年ぶりのロンドンと、モノクルの記憶
この回はゲストなしで、小畑さんが夏休みに出かけたイングランド旅行がテーマです。目的はプレミアリーグの観戦で、種市さんもInstagramで様子を見て興味津々だったと話します。
種市さんがイギリスを最後に訪れたのは10年ほど前です。テレビ番組のスタイリストとして、ジョンロブなどロイヤルワラント ── 英国王室に商品やサービスを納める業者に与えられる認定。「王室御用達」とも呼ばれ、老舗ブランドの格を示す目印になっていますを持つブランドを巡ったといいます。
さらに前職時代には、雑誌モノクルのタイラー・ブリュレさんと仕事をしていた時期があり、ロンドン郊外のスタジオを訪ねたことも思い出していました。
今考えると15年ぐらい前にラジオやってたんだよね、モノクルって。
一方の小畑さんにとっても、今回はコロナ以降初めての海外でした。子どもが小さかったこともあり、6、7年ぶりの渡航だったといいます。
あ、やべえパスポートどうしたっけなぐらいの感じで。
保険の発祥地ロンドンと、起業後初の長い休み
小畑さん自身は、金融機関に勤めていた頃に出張でロンドンを訪れていました。ロンドンは保険が生まれた場所として知られ、小畑さんはそれに近い仕事をしていたそうです。
小畑さんの説明では、保険の始まりは貿易の時代にさかのぼります。資本家が航海に出る人へお金を出し、成功すれば高い利回りで返ってくるが、船が戻らなければお金は失われるという仕組みでした。
その取引がロンドンのコーヒーショップで始まり、現在のロイズ・オブ・ロンドン ── ロンドンにある保険取引市場。17世紀のロイズ・コーヒー店に由来し、保険会社やブローカーが集まって特殊なリスクを引き受けることで知られていますにつながっていると小畑さんは話します。今も保険の最先端の市場として、保険会社やブローカーが集まっているそうです。
今回の旅は約10泊、移動を含めると2週間近くに及びました。小畑さんにとって、起業してから初めての長い休みだったといいます。
高い航空券と、マリオットポイントの使い道
4人家族での渡航だったため、航空券はかなり高かったと小畑さんは振り返ります。そこで宿泊費を抑えるのに役立ったのが、長年貯めていたマリオットのポイントでした。
小畑さんによると、マリオットのポイントは国内では使える日がなかなか取れず、貯めるのをやめようかと放置していたそうです。種市さんはそれを「マイルのあれみたいなもんか」と受け止めていました。
一応使えることになってるんですけど、蓋開けてみると使えねえじゃんみたいな日がすごい多くて。
ところが海外のホテルを調べると、ポイントでまあまあ予約が取れました。旅先はロンドン、マンチェスター、リバプールの3都市で、系列ホテルがなかったリバプール以外はポイントで泊まれたといいます。
部屋のランクは真ん中くらいでしたが、小畑さんは海外旅行ではポイントの活用がおすすめかもしれないと話します。円安で海外のホテルが高くなっていることも、その理由として触れていました。
AIで組んだ3試合の観戦スケジュール
旅の大きな目的はサッカー観戦です。小畑さんは学生時代にサッカーをしていて、日本代表の中村敬斗選手の先輩にあたり、今もプレミアリーグを見続けています。
きっかけは、子どもがあまりにサッカーにハマっていたことでした。Jリーグはよく見に行っていたものの、海外で観戦したいという話になったそうです。
どこの試合でもいいわけじゃないから、いいカードをって言って。
休めるのは最大2週間で、仕事もあります。小畑さんは試合日程、旅程、会社の休みをすべて組み合わせ、AIを使いまくって観戦できる組み合わせを調べたといいます。
こうして実現したのが、次の3試合です。
| 都市 | 対戦カード | 補足 |
|---|---|---|
| マンチェスター | マンチェスター・シティ対ボーンマス | エティハド・スタジアムで観戦 |
| ロンドン | フラム対チェルシー | ロンドンダービー。かつて稲本選手が在籍したフラムのホーム |
| リバプール | リバプール対ノッティンガム・フォレスト | 3試合の中で最もチケットが取れない |
リバプールは阪神?野球にたとえたクラブの立ち位置
小畑さんによると、今いちばんチケットが取れないのはアーセナルとリバプールです。リバプールは伝統があり、地元に愛され、グローバルのファンも多いといいます。
ここで種市さんが、プレミアのクラブを日本のプロ野球にたとえてみせます。サッカーには詳しくないと断りつつの、あくまで個人的なイメージです。
俺のイメージでいくとマンチェスターユナイテッドがジャイアンツって思ったの。で、リバプールが阪神。
で、マンチェスターシティがソフトバンク。
小畑さんは、マンチェスター・ユナイテッドについては異論を挟みつつも、リバプールが阪神っぽいという点には強く同意していました。
種市さんは最近、Netflixでマンチェスター・シティの裏側を追うドキュメンタリーを見たばかりでした。グアルディオラ監督の弟子にあたるアーセナルのアルテタ監督や、チェルシーも率いたモウリーニョ監督のドキュメンタリーも面白かったと勧めています。
エティハドとクレイブン・コテージ、対照的なスタジアム
マンチェスター・シティのホームは、エティハド航空の名を冠したエティハド・スタジアムです。小畑さんは、お金で一気に強くなったシティはまさにソフトバンクっぽいと話します。
対照的だったのが、フラムのホームであるクレイブン・コテージです。収容は3万人に満たず、2万9000人ほどだと小畑さんは話します。
バックスタンドは古い建物の雰囲気をそのまま残していて、柱があるため席によっては少し見づらいそうです。一方のメイン側、リバーサイドは近代的な造りになっています。
小畑さんが強調したのは、ピッチとの距離感です。陸上トラックがなく、スタンドが近く低い位置にあるため、試合をフラットに見渡せます。
ほんと3万人ぐらいしか入らないし、あとすごく近いし、あとかなりフラットに見れるんで、もうめちゃくちゃ一体感があって、もう超良かったですね。
チケット代はどちらも100ポンド、2万円ほどでした。ただしシティはゴール裏の上のほう、フラムは最前列に近い良席で、同じ値段でも席の質は大きく違ったといいます。
ゴール裏の上のほうで、特に良くない席
一番前の近い席で、かなり良い席
種市さんは、プロ野球なら球場が違っても同じような席は同じような値段になる印象だと話し、人気チームだと席の良し悪しに関わらず値段が同じになることに驚いていました。
ファンクラブ入会と「5万6000番」の争奪戦
シティとフラムのチケットは、小畑さんが自分で取りました。普通に取ろうとしても取れないため、まずアプリでファンクラブに入り、年会費を払って先行販売の案内を受け取ったそうです。
シティの発売日には、たまたま会議が長引いて10分ほど出遅れてしまいました。
やべってなって10分ぐらい遅れて入ったら、あなたの番号は5万6000番ですとか言って。うわ終わったみたいに思って。
結果的にシティのチケットはギリギリ取れました。その反省から、フラムのときは相当準備して臨み、良い席を確保できたといいます。
リバプールのチケットは「売る」より「配る」
リバプールは、ファンクラブに入ってもビジターには取れません。小畑さんは、リバプールFCで働く日本人の後輩に頼み、チケットを取ってもらったそうです。
ただしリバプールは職員への規則が厳しく、内情は外で話せないといいます。種市さんはその後輩をゲストに呼べばと提案しますが、小畑さんはハードルが高かったと笑っていました。
一般のファンが取ろうとすると、まず前年に13試合以上観戦していないと購入の権利がありません。
購入の条件
前年に13試合以上観戦していないと権利がない
権利を持つ人
条件を満たす人が5、6万人いる
座席の数
ホームのアンフィールドは6万人ほどしか入らない
結果
一般の人にはほぼ取れない
チケットをどう売るかとかじゃなくて、どう配分するかが彼らのメインの仕事だって言ってましたね。
種市さんはこの仕組みを、昔から通う地元のファンを大事にする誠実なやり方だと受け止めました。平等ではないかもしれないけれど、だからこそステータスが上がるのだろうと話します。
年間シートを待つ人は10万人ほどいて、持っている人は好きだから手放しません。手放すのは亡くなったときやイギリスを離れたときくらいで、家族に引き継げるのではないかと小畑さんは話していました。
アメリカ型と真逆の、空気を守る席づくり
小畑さんは、このチケットの考え方がアメリカと真逆だと感じたそうです。お金を払えば良い席に座れるという資本主義のやり方とは、まったく違うといいます。
とはいえ、古くからのファンだけにすると偏ってしまいます。そこでリバプールは、全体のチケットのうち一定の割合を長年のファンに、残りを新規の人やアジアの人に振り分けるなど、工夫しているそうです。
小畑さんの見立てでは、狙いはスタジアムの雰囲気を保つことです。みんながサッカーを知っている空気やリバプール愛を保つために、どういう塩梅で席を配るかを考え抜いているのだろうと話します。
それをどういう塩梅にすればその環境が保てるかみたいなこと、多分死ぬほど考えてチケットを売ってるんですよ。
ビートルズの港町リバプールはどんな街か
リバプールはイングランドのかなり北にあり、南のロンドンからは電車で3時間ほどかかります。マンチェスターとは電車で40分ほどの近さだそうです。
小畑さんによると、リバプールはまずビートルズの街です。パブではアイリッシュ系の音楽が盛んに演奏され、港町としての顔も持っています。
産業は、サッカーやビートルズを中心にした観光が主だと小畑さんは話します。ロンドンやマンチェスターには日系企業が多いのに対し、リバプールには日本人がほとんどいないそうです。
日本ならどこに近いかという種市さんの問いには、小畑さんも答えに詰まり、「知ってる人に怒られそう」と笑っていました。種市さんは、表面しかわかっていないと断ったうえで話しているのだから構わないとフォローしています。
プレミア売上首位、リバプールの稼ぐ力
日本人の少ない街にありながら、リバプールはクラブとしての売上が非常に大きいといいます。サッカークラブの売上は公開されていて、世界ではレアル・マドリードやバルセロナが上位です。
種市さんは当初、選手にかけるお金や親会社の大きさをチームの規模だと捉えていました。小畑さんの説明で、売上はチケット、スポンサー、グッズなどから成ると知り、世界中でユニフォームが売れるリバプールの強さに納得します。
売上の内訳は、放映権、チケット収入、スポンサーやグッズがそれぞれ30パーセント前後だと小畑さんは話していました。熱心なファンの多さも含め、やはり阪神のようだと二人は改めて頷き合います。
プレミアとJリーグ、埋まらない歴史の差
現地で観戦した小畑さんが肌で感じたのは、プレミアリーグの歴史の厚みでした。見ている人のレベルも盛り上がり方も、日本とはまったく違ったといいます。
種市さんは、日本なら野球や相撲のような存在かもしれないと話します。労働者階級にとって一番の娯楽であり、ファンは自分のチームを分身のように愛しているのだろうと語りました。
小畑さんは、よく語られる話として、Jリーグ開幕から数年の頃は、プレミアリーグとJリーグのクラブの価値の合計が同じくらいだったことを紹介します。その後、プレミアは大きく伸び、Jリーグはそうならなかったといいます。
Jリーグ開幕から数年の頃は、両リーグのクラブ価値の合計が同じくらい
プレミアは放映権収入を大きく伸ばし、Jリーグとの差が大きく開いた
その差は「Jリーグが海外進出に失敗したから」とよく説明されます。プレミアはアジアなどへ出ていき、放映権収入はここ20〜30年で数十倍になっていると小畑さんは話します。
種市さんは、世界中のすごい選手が集まるプレミアのほうが見られるのは当然で、Jリーグがかわいそうな気もすると返していました。
セリエA時代からの改革と、現地で知った「別物」感
小畑さんは、昔はセリエAのほうがすごかったと振り返ります。そこからプレミアはさまざまな改革を進めてきたといいます。
たとえばスペインはレアルとバルサの二強に二極化していますが、プレミアはお金が上位ばかりに行かないよう分配を工夫してきたそうです。チーム力が偏らないため、リーグとしても面白くなったと小畑さんは話します。
種市さんも、昔のイングランドのサッカーはゴール前へ放り込んでフィジカルで勝負する雑なイメージがあったと振り返り、今のプレミアとの違いに納得していました。
小畑さんは、Jリーグも海外展開をすればもっと伸びたという見方に一面の理があると認めます。そのうえで、歴史の積み重ねの違いは現地に行って初めて実感できたといいます。
同じサッカーを見るんですけど、本当になんかエンターテイメント度合いとか、なんかその辺が根付いてる感とかも全然違うなって思って
まとめ
小畑さんのイングランド観戦旅は、AIでの日程づくりやポイント活用、チケット争奪戦といった旅支度のリアルから始まり、リバプールのチケット配分に見た文化の深さへとつながりました。数字だけでは見えない、長い時間をかけて根づいたサッカー文化を肌で感じる旅だったようです。
- 試合日程と休みをAIで組み合わせ、ロンドン、マンチェスター、リバプールの3都市で3試合を観戦した
- マリオットのポイントやファンクラブの先行販売を活用し、高騰する旅費やチケット争奪戦に備えた
- リバプールは前年13試合以上の観戦を条件とし、チケットを「売る」より「配分する」ことでスタジアムの空気を守っている
- リバプールはプレミアリーグで売上が最も大きく、熱狂的なファンに支えられた阪神のような存在だと二人は語った
- プレミアとJリーグの差は海外展開だけでなく、百年単位の歴史の積み重ねにあると小畑さんは現地で実感した






