なぜ今バランスト・クリスタロイドが推されているのか
ICUトーク第28回は、配信開始から半年の節目です。これまで「ICUとは何か」やキャリアパスを扱ってきた流れから、今回はいよいよ具体的な診療の話に入っていきます。
最初のテーマは、集中治療の長年のメイントピックである輸液・体液管理です。まずは方向性がある程度固まってきた「どの種類の輸液を使うか」という話から始まります。
ここで言う輸液とは、ボリュームが足りないときに使う組成輸液のことです。ガイドラインでも議論されてきたのが、いわゆる調整消失液、リンゲル液の類です。
小谷さんによれば、ここ10年ほど熱心に検討されてきた製剤にPlasma-Lyte148 ── 電解質組成を血漿に近づけた晶質液の一種。日本で通常使う調整消失液よりナトリウムがやや高いなどの違いがある。があります。ただ生理食塩水との比較という観点では、調整消失液と同じ大きなカテゴリーに入ると整理されます。
結論として、調整消失液の方がなんとなく良さそうだというのがここ最近の理解だと語られます。ナトリウムとクロールだけの生理食塩水に対し、より多くの電解質が入っている製剤群という違いです。
小林さんは、その前史も振り返ります。かつては低分子コロイド液やアルブミン製剤の是非が議論されましたが、低分子は腎機能障害を起こしやすいとされ、アルブミンも通常の消失液より優れているわけではなさそうだという流れになりました。
なんで基本的には大体、個人的には消失液を第一選択にすることが多くて。バランスト・クリスタロイドの一種と言われる乳酸リンゲル液を使うことが多いですね。
カナダでやってた時も第一選択が乳酸リンゲル液で、海外だとPlasma-Lyteがメインなのかなと思ってたら、大体乳酸リンゲル液であんまり変わらないなと思ったのを思い出しました。
数百万人が受けるからこそ、わずかな死亡率差が持つ意味
小谷さんは、輸液製剤の議論が特殊で面白い理由を説明します。ICUに限らずER や一般病棟も含め、入院してくるほとんどの患者が何らかの形で組成輸液を受けます。
そうすると全世界で年間数百万人が投与を受ける計算になり、死亡率への影響がわずか0.1%違うだけでも、数千人の死亡の増減に関わってくる、と指摘されます。
これは他の治療とは差のオーダーが違う、と小谷さんは語ります。たとえば敗血症の新薬は、RCTで死亡率に2〜3%の差がついても統計学的に有意差なしとされ、しかも治療を受けられる施設や財源は限られます。
小林さんも、ちょっとした差でも大規模な影響を与える医療介入だと同意します。そのうえで、最近発表された特殊な試験のセッティングを紹介します。
その試験は病院ごとにクラスターを組んでランダム化するクラスターランダマイズドトライアル ── 個人ではなく病院や病棟など集団単位で割り付けを行うランダム化比較試験。輸液のように全患者に及ぶ介入の評価に用いられる。で、統計学的な有意差はつかなかったという結論でした。ただ点推定の方向性としては、バランスト・クリスタロイド(乳酸リンゲル液)の方が死亡率が下がるかもしれない側に動いていた、と説明されます。
この方向性はこれまでの知見とも一致するため、これまで積み重ねられてきた理解が大きく覆ることはないだろう、と小谷さんはまとめます。
輸液は施設で一本化、でも重症頭部疾患は例外
製剤選択について小谷さんが強調するのは、集中治療室でのポリシー一本化です。A先生は生理食塩水、B先生は酢酸リンゲル液、C先生は乳酸リンゲル液とバラバラだと、エラーや意図しない投与が起きやすくなります。
だからこそ、一部の例外を除いて組織として1つに統一し、よその施設が何を使っているかはあまり気にしない、というのがいいスタンスではないか、と小谷さんは話します。
その例外について、小林さんは重症頭部疾患を挙げます。この領域では、これまでのサブグループ解析でもバランスト・クリスタロイドより生理食塩水の方が良さそうだとされてきました。
できるだけ、そのような重症頭部疾患に関しては生理食塩水の方がいいのかなっていう印象を持ってます。
小谷さんは、これは珍しく病態生理学的に想定された理論的な利益が、臨床データでもある程度支持されている領域だと補足します。脳圧が高進している、あるいはそのリスクが想定される患者では生理食塩水を選び、場合によっては高張食塩水を使うケースもあると語られます。
輸液反応性と、新しく形作られてきた「輸液忍容性」
製剤選択は概ね型がつきつつある一方、次にホットなのが「どの患者にどれくらい入れるか」という問題です。小林さんは、その考え方の変遷を説明します。
もともと注目されたのは、輸液後に血行動態がどれだけ改善するかを示す輸液反応性 ── フルイドレスポンシブネス。輸液負荷によって心拍出量が増えるかどうかを示す指標。輸液が有効かどうかの判断に使われる。でした。かつてはCVPなどの静的な指標で予測しようとしていたのが、次第に動的な指標へ移っていきました。
最近では下肢挙上テストや、その場でのエコー評価が使われるようになった、と小林さんは振り返ります。
これと対になる概念として登場したのが輸液忍容性です。輸液によって血行動態や全身状態にどれだけ有害事象が起こりうるか、それにどれだけ耐えられるかという考え方です。
「この人にこれ以上輸液したら呼吸状態が悪くなりそうだから、ちょっと控えめにしようかな」っていう臨床的な感覚だったものが、コンセプトとして少しずつ形作られてきた。
小谷さんは、この2つの歴史の長さの違いを整理します。輸液反応性は何十年も研究され、消失液を500cc、場合によっては250cc入れて心拍出量が10〜15%増えるというのが概ね共通した定義です。
輸液反応性あり
何らかの指標で反応性がありそうと判断
輸液
消失液を負荷する
心拍出量が増える
臓器灌流が良くなる
ショックから離脱
早期離脱で予後が良くなると信じられてきた
一方で忍容性は、呼吸が悪い人に輸液したら悪くなる、という昔からの感覚に言葉を当てたものです。概念と言葉を作り、これから定義していくのがこれからのステップだ、と小谷さんは語ります。
うっ血をどう測る? VEXUSと患者ごとの許容度
輸液忍容性を今の時点で何で評価するか、という問いに、小林さんはまだほとんど決まっていないと答えます。反応性にエコーが使われ始めたのと同様に、うっ血の程度に対してVEXUS ── 静脈うっ血をエコーで評価する指標。下大静脈や肝静脈・門脈・腎静脈の血流波形からうっ血の程度を段階づける手法。が使われ始めていると紹介されます。
小谷さんは、うっ血は全身に起きると付け加えます。肺も脳も腸も腎臓も、場合によっては皮膚も対象になり、その指標がどれだけあるか、患者がどれだけ許容できるかを見ていくことになります。
さらに、患者の状態によって許容度は変わる、と小谷さんは言います。P/F比が350の人と150の人、クレアチニンが0.8の人と3.5の人では、耐えられる度合いが違うだろうと考えられます。
小林さんは、忍容性が治療者ごとにも患者ごとにも違うと指摘します。挿管を絶対に希望しない人に対する忍容性と、フルコードで一時的に人工呼吸器管理になってもこの危機を切り抜けたい人に対する忍容性は、また違います。
だからこそ、臨床感覚としては夜勤から日勤への申し送りでは伝わるのに、同じような患者を100人集めたときにみんな同じ基準で判定できるか、という点をより分けていくのが、輸液忍容性という概念のこれからの課題だ、と整理されます。
反応性と忍容性で4象限、悩ましいのはどこか
小谷さんは、自分の理想を率直に語ります。うっ血の指標を評価しながら、輸液反応性があって忍容性もある患者だけに輸液したい、というものです。
反応性がなければ、忍容性の有無にかかわらず輸液はしない、と小谷さんは続けます。最も悩ましいのは、反応性はあるが忍容性がない、あるいは少ない患者をどうするかという場面です。
この点について小林さんも、ほぼ同じ感覚だと答えます。反応性も忍容性もある安全な人なら輸液は全くリーズナブルだが、反応性はあっても忍容性がない人では話が変わる、という立場です。
大元の目標は血行動態を改善することなので、他にもう少し害の少ない介入があるのであれば、フルイドトレランスがないっていう時点で、そういうような介入を考えます。
関連して小谷さんは、敗血症の文脈で早めにノルアドレナリンを使う流れになってきた理由の一つに触れます。ノルアドレナリン自体が静脈を収縮させて前負荷を増やすため、輸液を加えなくても、体内のプールを配置換えして血行動態を良くできるという側面です。
輸液は身近で、これまで何百リットルも投与してきた薬剤です。だからこそ、その害もやっぱりよくよく理解しておかないといけない、と小谷さんは念を押します。
除水はいつ始める? 重症例ほど強まる綱渡り
話題は逆方向の除水へ移ります。小谷さんは、輸液の4つのフェーズを整理します。
この除水の分野もまだよくわかっていない、と小谷さんは言います。学会でもプロコン(賛否両論)になりうるのが、昇圧剤が入っている時に除水するかどうかという論点です。
小林さんは、除水を始めるタイミングの考え方を説明します。血行動態が改善し、要求されていた昇圧薬や強心薬を減らしているフェーズに入り、除水した方が心臓や肺のうっ血が改善する方向になるだろう、というタイミングです。
臓器障害がそれほどきつくなければ昇圧薬を切りきってから始めることもあり、逆に臓器障害がきつくて回復してきているフェーズなら、昇圧薬が少し残っていても先に除水を始めることがある、と語られます。
小谷さんは、これが核心をつく一方で難しいと受けます。重症であるほど輸液もすでに多く受け、うっ血の影響を受けやすいのに、まだ循環補助もたくさん必要だからです。
逆に経過が良い患者は輸液量も少なくうっ血の害も小さいので、昇圧薬を全部切りきってから除水に使える、と対比されます。重症度が高いほど綱渡り感が強まる、というわけです。
安定化期でもマイナスに振る、日々の水分バランス
小林さんは、除水期ではなくても水を引く場面があると指摘します。安定化の時期でも「因」がかさんでプラスバランスになりそうなとき、本当はプラスマイナスゼロの時期を作ってあげたい患者がいます。
そういうときは、昇圧薬や強心薬が使われている状況でも、何らかの手法で少しマイナスバランスを作らないと安定化そのものができないため、除水することがよくある、と語られます。
小谷さんは、だからこそ患者が今どのフェーズにいるかの見極めと、そのうえで日々の水分バランスをどう設定するかが大事だとまとめます。
具体的な設定方法も語られます。インを最小化し、なんとなく入る水分をなくして経腸栄養へ移行し、たとえば1日1.5リットルのインがあるとします。
1日でマイナス1000にするなら2500ccのアウトが必要で、24時間で割ると時間当たりの尿量が100ccちょっとあればいい、という計算です。
除水のペースについて小林さんは、目安を挙げます。早めの除水が危険で虚血のリスクがある患者ならマイナス1000程度、そうでなければマイナス2000程度、どんどん引いても大丈夫ならマイナス3000を目指すこともある、というイメージです。
今この話をしてて思ったのは、輸液忍容性とかの話と別に、除水忍容性みたいな話もあるような気がしましたね。
輸液も除水も貫く「反応性・忍容性・必要性」の3軸
この「除水忍容性」という言葉を受けて、小谷さんは重要な整理を提示します。反応性・忍容性に加えて、どれだけ差し迫っているかを示す必要性という3つの観点です。
その介入で血行動態や尿量が実際に変わるか
その介入による有害事象にどれだけ耐えられるか
今どれだけ差し迫って介入が求められているか
小谷さんは具体例で説明します。敗血症で頻脈・高乳酸・末梢冷感・低血圧の患者は、輸液の必要性が高く、反応性も忍容性もある、というわかりやすいケースです。
その対極が、プラス8リットルで術後3日目の心臓外科の患者です。抜管してNPPVを装着し、日中18回だった呼吸数が25回になり、P/F比が300超から220ほどに下がってNPPVをつけるか、という場面が挙げられます。
この患者では除水の必要性が高まっており、フロセミドを打って尿が出るかで反応性を、水が引けてもハイポボレミア(循環血液量減少)にならないかで忍容性を、心エコーなどで見ていくことになります。
つまり必要性・反応性・忍容性の3軸は、輸液にも除水にも同じ思考の枠組みとして当てはめられる、と小谷さんは語ります。
同じ内容を伝える申し送りでも、この3つの軸で整理すると議論の質が変わると小谷さんは続けます。反応性と必要性だけ見て輸液した例に「忍容性は?」と問えたり、なんとなくフロセミドを使っている例に「そんなに除水が必要だっけ?」と問えたりします。
小林さんも、まさに毎日のカンファレンスで出るトピックだと同意します。特に必要性は「とりあえずやってみました」となりがちで、実は積極的に除水する必要はないのでは、という話がよく出る、と語られます。
一番大事なのは「そもそもの原因を見逃さない」
最後に小谷さんが常々伝えたいと言うのが、根本原因の制御です。輸液や人工呼吸のレクチャーは多いものの、そもそもの原因がきちんと制御されているかが土台になります。
なぜ除水ができないのか、なぜ除水や輸液が必要なのかに立ち返り、原因を特定して根本的な治療をしないと、フェーズや忍容性の議論も上辺だけになってしまう、と小谷さんは語ります。
小林さんは、ここまでの話は原因がある程度特定されている前提だったと補足します。日々の臨床では原因がはっきりしない患者もいます。
たとえば、そろそろ安定化していいはずなのに、なぜまた輸液しないと血圧が保てず蘇生期に戻るのか、あるいは除水を始めたのに思いのほか難しい、という場面です。
なんか普段と違うな、この原因は何なんだろうなっていう違和感を持って、その原因が何かを突き止めるっていうのは重要ですよね。
小谷さんは、こうしたナチュラルコース通りにいかないことで、初めて原因が特定されることがあると受けます。消化管穿孔ならリークや腹腔内の膿瘍が隠れているかもしれません。
だからこそ、フロセミドが効かないから増量する、別の利尿薬を足す、RRT ── 腎代替療法。持続的血液濾過透析などで、腎機能が保てない際に水分や老廃物を体外で調整する治療。をする、という前に、ベッドサイドで診察し直し、必要ならCTを考える。経過を見直して原因を探るのが基本姿勢だ、と締めくくられます。
まとめ
輸液・体液管理は、製剤選択が概ね型がつく一方で、量と除水の見極めはこれからの分野です。この回では、反応性・忍容性・必要性という3軸が、輸液にも除水にも使える思考の枠組みとして提示され、その土台に「そもそもの原因を見逃さない」姿勢が置かれました。
- 輸液製剤は概ねバランスト・クリスタロイド(乳酸リンゲル液など)でよく、施設でポリシーを一本化するのがよい。ただし重症頭部疾患は生理食塩水が例外
- 輸液反応性は長年研究されてきた概念、輸液忍容性はこれから定義が形作られる新しい概念で、うっ血評価にVEXUSなどが使われ始めている
- 反応性・忍容性・必要性の3軸は、輸液にも除水にも当てはまり、カンファレンスや申し送りの整理に使える
- 除水はROSEのフェーズや水分バランス、患者の重症度を踏まえてペースを設定し、重症例ほど綱渡りになる
- フェーズや忍容性の議論の土台には、常に「そもそもの原因は何か」を突き止める内科的な視点が必要




