14年前の実習報告会資料が見つかった
薬剤師のたいぞーさんは、パソコン内のデータを探していたところ、自身が薬学生時代の病院実習で使った実習報告会の発表資料を見つけたそうです。今回の放送では、その報告会で何を発表したのかを紹介しています。
放送の時期は、病院実習が残り2週間ほどの終盤にあたり、実習報告会を開く施設も多い頃です。たいぞーさんは、報告会の準備を進めている学生が多い時期だからこそ、この資料を紹介したいと話しています。
昔、僕が病院実習のときに行った実習報告会の発表資料が出てきたので、今日はどんな内容を(病院実習で)発表したのかをお届けできたらと思っております。
なぜ「食事・睡眠・排泄」をテーマに選んだのか
たいぞーさんの実習報告会のテーマは「入院患者のアセスメント」で、副題は「食事、睡眠、排泄から見えてくるもの」でした。
たいぞーさんがこのテーマを選んだのは、食事・睡眠・排泄が人間の原始的な生理的欲求で、生活に欠かせないものだからです。一方で、入院中の患者はこの欲求を満たしづらい環境にあるのではないか、と実習の中で感じたといいます。
たいぞーさんが挙げた理由は、入院生活では薬物治療が積極的に行われることや、家とは違う味付けの食事、運動不足など、生活習慣が変わることです。
病院実習の調剤では、抗がん剤や緩下剤 ── 便を軟らかくしたり腸の動きを促したりして、排便を穏やかに助ける薬。便秘の治療に使われます、睡眠剤など、生理的欲求に影響を及ぼしうる薬を数多く扱いました。そこから、食事・睡眠・排泄が満たせずに困っている入院患者が一定数いるのではないか、という仮説が生まれたそうです。
調剤の経験
抗がん剤、緩下剤、睡眠剤など生理的欲求に関わる薬を数多く調剤する
仮説
食事・睡眠・排泄が満たせずに困っている入院患者が一定数いるのではないか
実践
薬学生にできる範囲で、食事・睡眠・排泄から患者をアセスメントする
報告
仮説を立てて関わった一症例を実習報告会で発表する
報告会の発表は、薬学生にできる範囲で、食事・睡眠・排泄から薬学的な観点でアセスメントを行い、仮説を立てて実践した一症例の報告という構成でした。
C型肝炎治療中の患者が抱えていた3つの悩み
たいぞーさんが関わった症例は、C型肝炎で入院していた男性患者です。インターフェロンを含むC型肝炎の3剤併用療法を始めて8日目の方でした。
この患者には、吐き気止めのナウゼリン、緩下剤のマグミット、睡眠薬のレンドルミンの3種類が、状態に応じて使われていました。
| 症状 | 関わる生理的欲求 | 使用薬 |
|---|---|---|
| 吐き気 | 食事 | ナウゼリン(吐き気止め) |
| 便秘 | 排泄 | マグミット(緩下剤) |
| 不眠 | 睡眠 | レンドルミン(睡眠薬) |
この男性患者は吐き気・便秘・不眠を抱えており、たいぞーさんが仮説として考えていた食事・睡眠・排泄の3つすべてに問題がある方でした。
たいぞーさんは病棟実習の指導薬剤師に、この患者の様子を伺いに行きたいと頼みました。患者の承諾を得たうえで、実習生として関わらせてもらったといいます。
昼寝していた患者から聞き取った睡眠の実態
たいぞーさんが病室を訪ねたとき、C型肝炎の男性患者は昼寝をしていました。少し体を起こしてもらい、話を聞かせてもらったそうです。
この患者には以前から眠れないという訴えがあったため、たいぞーさんは睡眠について確認しました。すると患者は、夜はよく眠れていて、昼間に眠気が残っているわけでもないと答えています。
昼間に眠気が残ったりしているわけではないけれども、病院ではやることがないから、今も横になって寝てしまっていたというようなことでした。
治療経過としては、C型肝炎ウイルスは減少傾向にありました。昼寝は、眠気によるものというより、入院生活で手持ち無沙汰だったことによるものだと見て取れたといいます。
レンドルミンは効きすぎていないか?
たいぞーさんのアセスメントでは、不眠の訴えに対してはレンドルミンを使って問題なく眠れているため、治療効果は得られていると考えました。
昼寝についても、レンドルミンが効きすぎているとは考えにくい状況でした。そのため、副作用の兆候も見られないと判断したそうです。
ただしレンドルミンは飲み始めて日が浅いため、たいぞーさんは効きすぎて昼間に眠くなる可能性も念頭に置きました。今後そうした傾向が見られれば、減量や変更も選択肢になると薬歴に記載したと報告しています。
夜は問題なく眠れており治療効果あり。昼寝はやることがないためで、効きすぎの兆候は見られない
飲み始めて日が浅く、効きすぎて昼間に眠くなる可能性もある。その傾向が出れば減量や変更を検討する
聞き取りなら実習生でもアセスメントできる
たいぞーさんは発表の考察で、入院中の患者は食事・睡眠・排泄の問題を抱えていることが多いと述べています。こうした質問をすると、患者はさまざまな悩みや困りごとを話してくれると実習で知ったそうです。
さらに、食事・睡眠・排泄の困りごとへの介入は、患者のQOLを向上させる一助になると考えたといいます。
14年前の当時は、バイタルサイン ── 体温、脈拍、血圧、呼吸数など、生命の基本的な状態を示す指標。患者の状態を客観的に把握する手がかりになりますや臨床検査値を患者アセスメントに活用することが大切だと、非常に話題になっていた時期でした。
ただ、技術や経験の乏しい実習生が、バイタルサインや検査値から患者の状態を読み解くことを実習中に実践できるようになるのは難しい場合もある、とたいぞーさんは話します。
一方で、食事・睡眠・排泄のアセスメントなら聞き取りで十分に対応できます。たいぞーさんは、聞き取りなら実習生でも薬剤師として専門的に介入する経験を積めると考えました。
当時重視されていたが、技術や経験の乏しい実習生には実習中に実践するのが難しい場合もある
聞き取りで十分に対応でき、実習生でも専門的な介入の経験を積むきっかけになる
基礎があって初めて応用が生まれる
たいぞーさんは発表で、薬学的アセスメントには大学で学ぶ基礎知識が非常に重要だと述べています。実務実習で現場と大学の学問のつながりを実感すれば、知識の暗記にとどまらず、その先の患者をイメージしながら勉強できるようになると考えました。
今後の目標としては、患者の生活面の悩みを確認してアセスメントできるようになることに加えて、技術と経験を積み、バイタルサインや臨床検査値などの客観的な情報も合わせたアセスメントを行いたいと結んでいます。
14年前から同じことを言い続けていた
たいぞーさんは改めて報告内容を振り返り、14年経った今も講演や毎日の10分間の放送で伝えていることと、まったく同じことを14年前から言い続けていたと感じたそうです。
たいぞーさんによれば、食事・睡眠・排泄など生活にアプローチするのは、悩みを聞き取るだけではありません。そこに薬の影響がないかを見極め、より良い薬物治療を届けることに意味があります。
(生活にアプローチすることは)ただただ悩み事を聞き取って関わるというだけではなくてですね、そういったところに薬の影響がないのかどうか、そういったことを見極めですね、より良い薬物治療を届けていく
たいぞーさんは、薬剤師の仕事のやりがいや面白さはそうした関わりの中にあると、学生時代から感じていたのだと話しています。
そのうえで、6年生の実務実習を経て薬剤師になったリスナーに向けて、自分は報告会でどんな内容を発表したかを思い出してほしいと呼びかけます。どんな薬剤師になりたかったのか、実習で何を学んだのかを振り返り、今の自分の姿を考える機会にしてほしいとのことです。
2月14日、姫路での講演会の告知
番組の最後に、たいぞーさんは2月14日に兵庫県姫路市で共同主催する講演会を告知しました。
講演会では、薬剤師が専門性を生かして患者に関わる仕事の面白さややりがい、患者に届けられる価値を話す予定です。そうしたキャリアの選択肢を生むために、現行のキャリアとの比較や課題、今の医療制度の中で何が必要かについて、参加者とも考えを交わしたいとしています。詳細は決まり次第案内されるそうです。
まとめ
たいぞーさんの14年前の実習報告会は、食事・睡眠・排泄という生活の困りごとから入院患者をアセスメントし、薬の影響を見極めるという内容でした。この考え方は、今の講演や放送で伝えていることとまったく変わっていません。
- 入院中は薬物治療や生活の変化で、食事・睡眠・排泄の欲求が満たされにくい
- C型肝炎の症例では、聞き取りから睡眠薬の効果と副作用の可能性を評価した
- 食事・睡眠・排泄の聞き取りは、実習生でもできる専門的な介入の入り口になる
- 基礎知識を大切にし、患者をイメージしながら学ぶことが応用につながる
- 実習報告会の内容を振り返ることは、薬剤師としての初心を見直す機会になる


