そもそも「価格が決まる」だけでは足りない?
今回のテーマは、日本の酪農が抱える根深い課題です。価格交渉はあるのに、なぜか「もっと牛乳を飲んでください」という声が上がる。その裏側にある不思議な仕組みに迫ります。
資料を読むと、単に値段が高い・安いという話だけではないことが見えてきます。
生乳の需要と供給をどうするか、コストが上がったときにどうするか。そうした根本的な、言ってしまえば昔ながらの仕組み自体が問われている、と川上さんは話します。
価格が決まったとしても、誰がどれだけ責任を持って引き受けるのか、余った分はどうなるのかという肝心なところが、曖昧なまま進んでいるようなのです。
時給は決まったけど労働時間は未定?生乳の価格の不思議
最初に「え?」となるのが、生乳の価格が年に1回決まるという点です。それなのに、誰がどれだけ買うか、余ったときどうするかは、また別の話になっています。
時給は決まったけど、何時間働けるかとか、仕事なかったらどうなるかちょっとわからない、みたいな感じですか。
この不安定さがよく表れるのが、学校の長期休みです。給食がなくなると牛乳の需要がガクッと落ちます。
その結果、行き場のない生乳が余って廃棄されるかもしれない、という話が毎年のように繰り返されるといいます。
そしてこの不安定さを、結局は農家さんが直接引き受けてしまう。そういう構造になっているのです。
赤字6割?コストと価格の「ずれ」が農家を追い込む
さらに深刻なのが、コストと価格のずれです。飼料や燃料の値段は、世界情勢などで、それこそ毎月のように変わります。
一方で、牛乳の価格、いわゆる乳価は年度末まで変わらず、固定されています。
この間のコスト高騰で、資料によると赤字経営の農家さんが全体の6割を超えているという話もあるそうです。
これはもうどこか遠い話じゃなくて、まさにあなたの食卓の牛乳にも関わる問題なんですよ。
結果的に、農家さんが「牛乳をもっと飲んで助けてください」と、消費者に直接訴えかける流れになります。余ってしまった生乳の損失は、多くの場合、最終的に生産者である農家さんが負担することになるからです。
需要が急に落ちる
給食の休止などで牛乳の需要がガクッと減る
生乳が余る
乳価は固定のまま、行き場のない生乳が発生する
農家が損失を負担
余った分の損失を最終的に生産者が引き受ける
消費者に訴える
「牛乳を飲んで助けて」という呼びかけにつながる
今日から減らせない?生き物ならではの事情と力関係
ここで見落とせないのが、牛が生き物だという事情です。毎日お乳をしぼらないといけません。
だから「今日から生産量を減らします」とは、なかなか言えないのです。
集める側には、指定生乳生産者団体、いわゆる指定団体があります。ただ、この団体は広い地域から牛乳を集めて工場に運ぶという、そのインフラを維持するのが最優先になりがちだといいます。
そのため、需給をうまく調整するところまではなかなか踏み込みにくい、という指摘も資料にはありました。ここにも昔からの力関係、構造的な課題が見え隠れするようです。
生産者側は、毎日しぼらないと牛が病気になって困るという状況があります。だから価格は決まっても、需給変動のリスク負担という面では、なかなか強い交渉がしにくいのです。
だから、価格以外の交渉力っていうのが実質的に生産者側にはあまりない。その結果、困った挙句に消費者に助けてくださいと呼びかけるしかなくなってしまう。
価格は決まっても「儲けの仕組み」が決まっていない
つまり、価格は決まるけれど、リスク分や利益配分も含めた「儲けの仕組み」が決まっていない、という状態です。
価格交渉という一点だけで、取引全体のリスクや、利益が本当に公平に分配されているかというと、疑問符が付きます。
ここが、この資料が鋭く指摘している「硬直化してしまった構造」の問題です。昔ながらのやり方が、今の経済やコストの変動に対応しきれていない、というわけですね。
生乳の価格そのもの(原則として年1回決定)
需給変動のリスク負担や、公平な利益配分の仕組み
コスト連動に加工販売?構造を変えるためのヒント
この状況を何とか変えようという提案も、資料にはいくつか書かれていました。
たとえば、コストの変動に合わせて価格もちゃんと連動させる仕組みにすること。あるいは、生産量の調整と価格決定を、もっと一体的に運営していくことです。
さらに、農家さん自身がただ生乳を出すだけでなく、付加価値の高いチーズやヨーグルトを作って直接販売する、という動きもあります。
- コストの変動に価格を連動させる
- 生産調整と価格決定を一体で運営する
- 農家自身による加工・直接販売を広げる
これらは、今のシステムだけではもう限界があり、変えていかないと持続可能ではない、という強いメッセージに聞こえる、と川上さんは話します。
飲むだけでいい?消費者にできる役割を考える
まとめると、まず価格を決める仕組みと、日々変動するコストや需要の実態との間に、大きなずれがあります。
そのずれが、業界全体の不安定さや、負担の偏り、とくに生産者への負担の偏りを生んでしまっている、という整理です。
資料が示すように、既得権益とも絡んでいるかもしれない構造自体に手を入れ、もっと柔軟に状況変化へ対応できる仕組みに変えていかない限り、一時的に「牛乳を飲みましょう」と言っても根本的な解決にはならないだろう、と話されています。
これは生産者にとっても、消費者にとっても、より健全で持続可能な関係をどう築くかという問題であり、公正な取引や市場の効率性という、より普遍的なテーマにもつながる話です。
牛乳をもっと飲もうっていうキャンペーンに応えることももちろん大事なんですけど、それだけじゃなくて、この仕組み全体がより持続可能でフェアなものになっていくために、私たち消費者に何かできる役割ってあるんでしょうか。
最後に川上さんは、この点をぜひ一度立ち止まって考えてみてほしい、と投げかけて締めくくりました。
まとめ
「牛乳を飲んで助けて」という呼びかけは、単なるお願いではなく、価格と需給・コストのずれから生まれる構造的な問題のあらわれでした。飲んで応援することに加えて、その背景に目を向けることが、フェアな関係づくりの第一歩になりそうですね。
- 生乳の価格は原則年1回決まるが、需給調整や余剰の負担は別問題として曖昧なまま
- コストは毎月のように変動するのに乳価は固定で、赤字経営の農家が6割を超えるという指摘も
- 牛は毎日しぼる必要があり生産量をすぐ減らせないため、生産者はリスク負担で交渉しにくい
- 価格は決まっても、リスクや利益配分を含む「儲けの仕組み」が決まっていない点が課題
- コスト連動の価格、生産調整と価格決定の一体運営、加工・直接販売などが変革のヒントとして示された




