利益を最大化するのに「牛の健康」が一番大事な理由
今回の配信は、リスナーからの質問に答えるお便りコーナーが中心です。音楽・音声配信アプリ「アワ」のラウンジから、ちゃんくりさんが質問を寄せてくれました。
どのような牛舎の構造だったら利益を最大化できますか?
川上さんは「急にどうした?っていうぐらいのグッとした質問」と、うれしそうに受け止めます。音楽配信者からの専門的な質問だったので、テンションが上がったそうです。
そもそも利益は、売り上げから経費を引いたもの。会社員でいう手取りのようなものですね。では酪農家が利益を上げるには何が大事なのか、というと。
利益を上げるには、牛が病気をしない、牛が健康。これがまあ一番なんですよね。
そして牛を健康に飼うには、人が楽なのが一番大事だと川上さんは話します。人が怪我をせず、作業しやすいことが、結果的に牛の快適性につながるからです。
病気のリスクを下げる「通気・換気・採光」というポイント
川上さんは、利益を出す牛舎のポイントを3つ挙げます。まず1つ目が、通気や換気、そして採光といった、光の入りやすさです。
風通しが悪い牛舎だと、夏場の暑熱ストレスや、冬場の呼吸器疾患のリスクが高まってしまいます。
だからこそ、カーテンや換気扇などを使い、その土地の風向きに合わせて自然の風を取り込む牛舎設計が大事になります。
風通し・光の確保
その土地の風向きに合わせて自然の風を取り込む
病気リスクの低減
夏の暑熱ストレスや冬の呼吸器疾患を防ぐ
牛が健康
健康な牛が利益の土台になる
365日続く作業をどこまで短くできるか
2つ目のポイントは、作業動線と自動化です。搾乳や餌やり、フンの掃除、ベッドの掃除は365日毎日ある仕事なので、いかに短くできるかが大事だと話します。
そのためには、牛がちゃんと動いてくれる作業動線と、経験が少ない従業員でも作業しやすい環境の両方が必要になります。
今はフンを掃除するロボットや、搾乳ロボット、餌やりのロボットもたくさん出てきています。牛舎構造が多少複雑でも、ロボットが動きやすい設計であればなんとかなる、と川上さんは見ています。
20年で「ガラッと変わった」酪農と、柔軟な牛舎構造
3つ目のポイントは、未来の拡張や改良に対応する「柔軟な構造」です。川上さんは18歳から酪農を始めて約20年。その間だけでも、酪農のスタイルはガラッと変わったと振り返ります。
搾乳ロボットは以前は珍しく「流行らない」とまで言われていたそうです。堆肥の発酵施設も、昔はローダーで切り返すだけだったのが、どんどん新しいものが出てきました。
これからAIや技術革新が進めば、酪農の環境はさらに変わっていきます。そのときに大事になるのが、牛舎を時代に合わせてどう変えていけるか、という視点です。
1〜2人で数百頭を管理する時代と、フィンランドの4Dバーン
この3つのポイントを押さえることが、利益の最大化につながる、と川上さんはまとめます。実際、海外では餌やりまでロボットがこなす、ほぼ無人の牛舎も出てきています。
1人や2人で何百頭、何千頭を管理できる牛舎もあり、その代表格がフィンランドの4Dバーンという会社だと紹介します。
4Dバーンは、既存の牛舎をいかに活用するかを考え、そこで働く家族や労働者の考えも加味した牛舎設計をしてくれるそうです。川上さん自身も「新しく牛舎を建てるなら相談してみたい」と話します。
4DバーンのYouTubeには、ヨーロッパの女性が150〜200頭ほどの牛舎をロボット2台とともに1人で管理し、1日の作業時間は3〜4時間ほど、という事例もあるそうです。
日本で今いちばん儲かるのは「建物にお金をかけない」牛舎?
ただし日本では、事情が少し違います。かつては牛舎建設に半額や3分の1の補助金がありましたが、国の事業ゆえに柱の大きさや構造への規制が厳しく、耐震性も求められます。
大事なのはわかるものの、「絶対これ牛舎にはいらないだろう」という部分もある、と川上さんは指摘します。海外では、風で飛んでしまいそうなテントと野ざらしの環境で数百頭を飼い、生産コストを抑えている例もあるそうです。
そのうえで川上さんは、今の日本で直近の利益を考えるなら、という現実的な答えを示します。地元で安く、あるいは無料で手に入る餌で飼える頭数規模にし、建物にお金をかけないことだ、というのです。
地元で手に入る餌で、副産物とか食品残渣とか、稲藁を集めてみたいな、飼料費があんまりかからないような感じで飼える頭数規模で、建物にお金をかけずに建てるのが一番、今最大利益を出せるんじゃないかな。
新しく始める人は、大きい牧場や立派な設備に夢を抱きがちですが、それが最大利益につながるかは別の話。人が食べられないものを家畜に食べさせ、地元の人に牛乳やお肉を届ける、という酪農の根幹に一周回って戻ってきた、と話します。
牛乳が余る時代から「絞れ絞れ」の時代へ、答えは変わる
もっとも、この答えも今の状況に基づくもので、将来は変わるかもしれません。今の日本では牛乳が余っていますが、逆に足りなくなれば「絞れ絞れ」の時代が来る、と川上さんは言います。
実際、就農してからの20年の間にも、そういう時期はあったそうです。
牛乳が足りなくなれば、どれだけお金をかけてでも搾れる牛舎のほうが利益を出せるかもしれません。だからこそ、最初に挙げた「時代に合わせて柔軟に変化できる構造」が、結局いちばん大事になってくる、というのが川上さんの結論です。
最後は、日曜日なのにテンションが上がって配信が長くなってしまった、と笑いつつ、酪農業界のリスナーにも「角度が違うグッとした質問」を呼びかけて締めくくりました。
まとめ
利益を最大化する牛舎とは、豪華な設備よりも「牛が健康で、人が楽に働け、時代に合わせて変えられる」牛舎だ、という回でした。今の日本では建物にお金をかけすぎない選択が現実的で、状況が変われば答えも変わる、というのが川上さんの視点です。
- 利益の土台は「牛の健康」で、そのためには人の作業性と牛の快適性が欠かせない
- 牛舎のポイントは、通気・換気・採光/作業動線と自動化/柔軟な構造の3つ
- 海外では1〜2人で数百頭を管理する牛舎もあり、フィンランドの4Dバーンが代表例
- 今の日本では、地元の安い餌で飼える規模にし、建物にお金をかけない牛舎が現実的
- 牛乳が余る時代と足りない時代で答えは変わるため、柔軟に変化できる構造が最も大事




