哺乳牛から初産牛まで、呼び方はどう変わる?
この回は、川上さんが乳牛のサイクルをまとめたパンフレットを見せながら、研修生さんと一緒に牛の成長を追いかける形で進みます。
まず生まれたばかりの子牛は「哺乳牛」と呼ばれます。ミルクを飲んでいる期間の牛のことです。
卒乳するのは大体2ヶ月から3ヶ月ごろ。そこから8ヶ月くらいまでを「子牛」と呼びます。
さらに地域によっては、1歳になるまでの牛を「誕生前」、12ヶ月を過ぎた牛を「誕生後」と呼ぶこともあるそうです。
まだ誕生してないです(誕生前だから)。
8ヶ月を過ぎると「育成牛」になり、種付けして受胎するまでは育成牛と呼び続けます。妊娠して分娩するまでは「初妊牛」、初めて出産すると「初産牛」です。
その後は2回目のお産で2産牛、3回目で3産牛、といった具合に「◯産」と数えていきます。
初めて妊娠しているので、初の妊娠の牛で初妊牛。赤ちゃんを産んだら初めて産んだ牛で初産牛。
川上さんによれば、こうした呼び方は地域や地方でも違うそうです。海外でも子牛はカーフ、オス牛はブル、メス牛はカウと呼び分けます。
あの赤ちゃんのさっきミルクに混ぜてたやつのカーフなんとかって、子牛用ってことですか。
なお乳を休ませる期間の牛は「乾乳牛」と呼ばれます。分娩前に、次のお産に向けてお乳を休ませる期間のことです。
耳標をつけて、子牛に名前をつける
この日は研修生さんが、生まれた子牛に耳標をつける体験もしました。初めての作業だったそうです。
難しかったのと、私が下手くそだから痛がっててかわいそう。ごめんねって思ってました。
痛そうでかわいそうだったと振り返りつつも、これは大事な作業だと川上さんは説明します。
子牛が生まれると「出生報告」といって、耳標をつけて国に届け出る必要があります。酪農家が飼っている牛には欠かせない手続きです。
名前は研修生さんが「おぬちゃん」に。理由は「私にとってお乳だから」だそうです。
お乳だから、私にとってお乳だから、おぬちゃんです。
リスナーが名前をつけることもあるそうで、川上さんは「本当に、いろんなやつをリスナーの皆さんにつけてもらってたりする」と話していました。
耳標から遡れる「牛の戸籍」とは?
耳標の番号はインターネットで検索でき、血統登録書を見ることができます。
そこには生年月日や、お父さん・お母さん、さらにお母さんのお父さんといった情報まで載っています。検索すればどんどん遡って確認できるそうです。
戸籍みたいな。
この子牛は受精卵から生まれた牛で、血統登録書には「ET」という表記がつきます。
たとえば北海道の牛から取った受精卵を島根県に持ってきて、島根県の牛に移植して産ませる、といった流れです。
だから登録書にある「繁殖者」は卵を作った人を指し、出生地は川上牧場になります。生まれた場所と血のもとになった場所が違う、というわけです。
子牛の名前には、牧場ごとの「冠名」が頭につきます。川上牧場の冠名は「アップストリーム」です。
川上さんが名字みたいなものとしてつけた名前で、川上の「川」をストリーム、「上」をアップにしたもの。IT用語で上昇やアップデートを思わせる響きも意識したそうです。
アップストリームって言えば、川上さんのところの牛ねってわかるような名前。これが頭につきます。名字みたいな。
無登録の牛と「血統濃度」の話
一方で、すべての牛が登録されているわけではありません。北海道はほぼ登録されている一方、都道府県には無登録の牛もたくさんいると川上さんは言います。
理由はシンプルで、登録には登録料がかかるから。乳は出るので関係ない、と登録しない人もいるそうです。
別に乳出るじゃん、無登録でも。だから関係ねえよっつって。登録したら登録料かかるし、お金かかるし登録しないっていう人。
では登録するメリットは何か。研修生さんの問いに、川上さんは血統情報がすべてわかることだと答えます。
ここで出てくるのが「血統濃度」です。その牛がちゃんとホルスタインの血を引いているかを示す割合のことだそうです。
無登録の牛から生まれると血統濃度が下がることがあり、88%といった数字になることもあるそうです。
血統濃度って何ですか?
ただし、血統濃度は乳の量や体格そのものには影響しないと川上さんははっきり否定しています。
影響が出るのは信頼度や、種牛になれるかどうかの部分です。88%の牛から優秀な雄牛が出ても、種雄牛にはなれません。種雄牛になれるのは血統100%の牛からだけだそうです。
血統濃度は掛け合わせを重ねることで上がっていきます。88%の牛も、7回掛け合わせれば100%になるとのこと。ただし、それだけ長い時間がかかります。
オスとメス、なぜ産み分けるの?
この子牛は女の子。川上牧場で育てるため名前をつけますが、もし男の子だったら名前はつけず、お肉の牧場に販売してしまうそうです。
研修生さんは女の子の牛しか見たことがなく、雄牛を知らないと話します。川上さんは「本当に玉がついてますよ」と説明していました。
お腹の中にいる状態でも、人間と同じようにエコー検査で約90%の確率で性別がわかるそうです。
さらに種付けの時点でも「判別精液」を使えば、メスが90%生まれる種、オスが90%生まれる種、というように選ぶことができます。
この産み分けには、はっきりした理由があります。お肉の牛はオスの方が、乳牛のホルスタインはメスの方が高く売れるからです。
体が大きくなるオスの方が高く売れる。オスで産ませた方が有利
乳が出るメスの方が高く売れる。メスが約90%生まれる判別精液を使う
だから川上牧場では、ホルスタインでオスが生まれるのは稀。判別精液でメスが生まれるようにしているためです。
ちなみに種付け用の雄牛はとても大きく、ギネス記録の牛はオーストラリアで体高2メートル超だったと川上さんは紹介していました。成長ホルモンの異常で特別に大きくなった個体だそうです。
出産の時間まで管理できる?
研修生さんは、話を聞いているうちに出産の場面を見られるかもと期待していたそうですが、気づいたときにはもう生まれていました。
出産見れるかなって思ってたんですよ。ずっと話聞いてから。私ここ見てなかっただけで、もう生まれてた。
川上牧場では出産が9月から10月に多いそうです。さらに、餌の管理によって昼間に生まれるようにコントロールしているといいます。
そんなこともコントロールできるんですね。
夜中になるべく産まないようにする飼い方があるそうで、研修生さんは「めちゃめちゃ勉強になった」と振り返っていました。
まとめ
生まれたての子牛「おぬちゃん」を入り口に、乳牛の呼び方から血統登録、産み分けまでを研修生さんと一緒に学ぶ回でした。ふだん飲んでいる牛乳の裏側には、こんなにたくさんのしくみがあるんですね。
- 乳牛は哺乳牛→子牛→育成牛→初妊牛→初産牛と呼び方が変わり、地域によって差もある
- 耳標の番号から血統登録書を検索でき、親や祖先まで遡れる「牛の戸籍」になっている
- 血統濃度は乳量や体格には影響しないが、種雄牛になれるかや信頼度に関わる
- 肉牛はオス、乳牛のホルスタインはメスが高く売れるため、判別精液で産み分けている
- 餌の管理で、昼間に出産が偏るようある程度コントロールできる




