牛に蹴られた感想は?からはじまる朝の配信
番組は島根県出雲市の小さな牧場から届く「牛乳のむ?牧場配信」です。今日も研修生さんが来ていて、勉強がてらの配信になりました。
さっそく、リスナーさんから研修生さんへの質問が届きます。スプーンネームのキューさんから「牛さんに蹴られた時の感想をお願いします」というものでした。
いやいやいや、川上牧場牛に蹴られるやんって思われるやん。そんなことない。うちで蹴られたこと、本当に稀です。
研修生さんの感想は、とてもシンプルなものでした。
痛かったです。
川上さんは、自分だったら「この野郎」と思ってしまうと話します。だからこそ、そこは向いていないとも。
こいつ本当に肉牛にしてやろうかと思っちゃうから、ダメなんですよ。だから本当にここは向いてないと思うんですけど。
一方の研修生さんは、蹴られても腹が立つより先に「ごめんね」と感じたそう。実はその牛は、ふだんから触られるのを嫌がって蹴ってくる子でした。
何がいけなかったかなと。自分、多分なんか痛かったんだろうなって、ごめんねって思っちゃいました。
当たりどころが悪く、鼻が折れたかも、という話も出るくらいでしたが、研修生さんはあくまで牛の側に立って受け止めていました。
川上さんお手製「牛との距離感診断」ってなに?
ここから話は、川上さんが作ったという「牛との距離感診断」に移ります。きっかけは、いろんな酪農家さんを見てきた経験でした。
経営者と従業員とで牛との接し方が違うと、働くほうはやりにくい。そのズレを見える化するために作ったのがこの診断だそうです。
酪農経営者と、そこにいる従業員の牛との触れ合いの違いがあると、従業員としてはすごい働きにくいから、牛との距離感診断というのを作ったんですよ。
診断は、川上さんと研修生さんが同じ質問に答え、答えがズレたところを「価値観の差」として確認していく流れです。
質問は「牛が可愛いと思う」「牛と一緒にお風呂に入れる」といったものから始まります。研修生さんはどちらもYESでした。
ゴキブリはNG、でも牛のためなら?ズレが見えてくる質問たち
作業のなかで出てくる小動物への反応も、質問のひとつです。研修生さんはネズミはYES、ゴキブリはNOでした。
ネズミはYES、ゴキブリはNOです。捕まえてピョンはできる。でもゴキブリは触れないし、殺すのは無理です。
ここで面白いのが、川上さんとの感覚の違いでした。川上さんは家では嫌でも、牛舎では話が別だと言います。
作業着を着てたら全然グーで殴れるし。スイッチ入っちゃってるんで。牛舎なら全然やれるんですけど。
つまり川上さんは、牛舎に入ると自分に不利なことがあっても、すべて牛目線で動けるタイプ。研修生さんはそこまでではありません。
牛舎に入ったら全部牛目線で考えてやれるという川上さんと、研修生さんとのあいだには、そのレベルの差があることが見えてきました。
「牛という共通言語」があれば誰とでも話せる?
診断の質問には「牛という共通言語があれば誰とでも仲良く話せる自信がある」というものもあります。
これは、牛の話さえあれば、苦手なタイプの人ともコミュニケーションが取れるか、という問いです。研修生さんの答えは「まあまあ」でした。
川上さんは、農業系の学校からそのまま就職すると、外の世界を知らずに「牛のことしか話せない」子が多いと指摘します。
牛のことでしか話せないっていう子がいっぱいいて。それも難しいっていう子は、やっぱりコミュニケーションをここから頑張らないと。
ただ、深い知識がなくても牛の話はできる、とも。
牛って可愛いですよねとか、まつ毛長くてとか、耳のこの動きが好きなんでしょうねとか、そういうので喋る子もいっぱいいるから。
一方で、乳用種・肉用種・ホルスタイン・黒毛和牛の違いを説明できるか、という質問には研修生さんは「できない」と回答。
川上さんは、これは畜産業界では必須科目だと話します。「好きです」だけでは続けられない仕事だからです。
休みの日でも牧場に行きたくなる?酪農家の価値観
「休みの日でも視察や牧場見学に行きたい」という質問に、研修生さんはハッキリと「いいえ」と答えました。
結構私そこはっきり区切りたいタイプなんですよ。そういう時間がないと、日常の自分の生活水準を保てないタイプなんで。
ところが酪農家は、休みの日でも行ってしまう人が多いのだとか。旅行に行くときでさえ、そうなるそうです。
旅行先で宮島に行きましょうってなったら、行く前のルートで牧場ないかなって検索するもんね。
川上さんいわく、仕事とプライベートがぐちゃぐちゃな農家さんはたくさんいるとのこと。これは経営者に限らず、従業員や酪農ヘルパーさんにも見られるそうです。
研修生さんが「牛愛だ」と言うと、川上さんは笑いながらこう返します。
牛愛なのか、それしかないからバカになっちゃってるかわかんないですけど。
こうした価値観のズレを、あらかじめ知っておくことが大切だと川上さんは伝えます。
自分に向いているかは、やってみないとわからない
診断の後半では「牛の分娩を見た時のことを人に話せる」といった質問も出てきます。研修生さんは話せると思う、と答えました。
ただ川上さんは、一般の人に牛の分娩の話をすると「引かれてしまう」ことも多いと言います。
今の研修生さんの感覚は、酪農ってものすごいいい仕事なんだよっていうイメージがある。だけど、一般の人はそうでもないっていうのを感じ取ってもらった方がいいかもしれない。
「酪農のバイトをしていると珍しいねと言われる」という研修生さんに、川上さんはそれも興味本位の「珍しい」なんだと返します。
最後の質問は「酪農という仕事は自分に向いていると思う」。研修生さんの答えは「まだわからない」でした。
川上さんは、向いていないと言いながらガンガンやる人もいると話します。そして、この感覚は時間とともに変わっていくものだ、とも。
研修始めて1ヶ月、1年、3年だとまた変わるの。
大事なのは、あなたの牛の考え方と私の牛の考え方を尊重しながら働かないと長続きしないということ。だからこそ、次の牧場に移る人には事前に差を確認させる、という使い方もしているそうです。
今日の分娩と、初乳を10日間出荷できないわけ
この日は牛の分娩があり、生まれたのはホルスタインのメスでした。研修生さんは、その初乳を飲ませる作業を体験しています。
初乳は、出荷してはいけない期間が決まっています。
生まれてから24時間以内に取れたものを初乳と言います。その初乳は10日間は出荷しちゃダメです。牛乳の流通の法律みたいなのに決まってます。
出荷できなくても、乳は絞ってあげないといけません。溜まると乳房炎という病気になってしまうからです。
10日間という目安には、乾乳期間に使う薬も関係しています。
ただし川上牧場は乾乳軟膏を使わない牧場で、これも少し特殊なのだと川上さんは話します。
絞るのを止めるのは分娩の2ヶ月ほど前が目安ですが、川上牧場では40日と短めに設定しているそうです。
子牛を小さく産ませて親に負担をかけないっていう飼い方の一環で、乾乳期間を短くしている。
一般的には乾乳期間は60日、最低でも45日は取ったほうがいいとされますが、飼い方や餌の管理によってケースバイケースだと補足されました。
まとめ
牛に蹴られた感想という軽い質問から、酪農家と働き手の「牛との距離感」のズレという深いテーマまで広がった研修回でした。診断を通して、価値観の差を否定せず、尊重し合って働くことの大切さが語られています。
- 牛に蹴られても「ごめんね」と思う研修生と、「この野郎」と思う川上さんの感覚差が診断の出発点
- 川上さんの「牛との距離感診断」は、雇う側と働く側の価値観のズレを見える化する道具
- 川上さんは牛舎に入ると全部牛目線になる一方、休みと仕事を区切りたい研修生とはタイプが違う
- 乳用種と肉用種の違いを説明できることは、畜産業界では必須科目とされる
- 初乳は出産後24時間以内に取れる乳で、10日間は出荷できないと法律で決まっている




