なぜ今、備蓄の話をするのか
この日の配信は梅雨空の水曜日。川上さんは近くの牧場での一斉種付けの手伝いに向かう予定などを話しつつ、本題へと入っていきます。
きっかけは、リスナーさんから届いた1つの質問でした。備蓄米放出のニュースを見て、ふと気になったそうです。
小泉進次郎さんが農林水産省に就任してから備蓄米を放出しましたね。米に備蓄があるように、農産物にも備蓄しているものはありますか?
川上さんは出雲に住んでいて備蓄米の話題をあまり身近に感じないと前置きしつつ、他の農産物がどれくらい備蓄されているのか、そしてそもそも備蓄という制度がどうなっているのかを、AIと一緒に調べながら答えていくことにしました。
そもそも「食料安全保障」ってなに?
まず川上さんが整理したのは、備蓄という仕組みの土台にある考え方です。それが「食料安全保障」でした。
戦略的な備蓄は、この食料安全保障を支える大事な要素のひとつ。日本では特にお米を中心に備蓄が行われています。
お米の備蓄は1990年代の米不足をきっかけに法制化され、今は年間100万トンの備蓄が維持されているそうです。
お米以外にも備蓄されているものたち
では、お米以外はどうなのでしょうか。川上さんによると、日本では小麦や飼料穀物、さらには加工された畜産物も備蓄が進められているといいます。
ここで大事なのが「加工」というキーワードです。畜産物そのものは賞味期限が短くて長期保存が難しいのですが、加工品なら話は変わってきます。
牛や豚などの飼料用として100万トンが備蓄されている。輸入依存が不安定になると畜産業に深刻な影響が及ぶ
ハムやソーセージ、缶詰など。長期保存ができ、緊急時の栄養供給に重要な役割を果たす
もし飼料の供給が途絶えると、乳牛や肉牛、豚の飼育に大きな支障が出て、結果として畜産物そのものが足りなくなる恐れがあるといいます。だからこそ、加工して長く保てる形での備蓄が意味を持つんですね。
中国とアメリカの備蓄から学べること
日本では「備蓄を放出したらお米の値段が下がる」といった市場への影響がよく話題になります。そこで川上さんは、海外の事例もAIに調べてもらいました。
まず取り上げたのが、大規模な備蓄を行っていた中国のケースです。
過去に非常に大規模な備蓄を行った結果、莫大な財政的な浪費や品質劣化といった問題が生じた。量を増やすだけでは効果的でないという教訓
農務省が食品について詳細な在庫管理を行い、四半期ごとに在庫報告を発行。食料だけでなくレアメタルなど戦略資源も備蓄し、国防にも関わる要素とされる
中国の事例からは、単に備蓄を増やすことが効果的とは限らないという学びがあります。戦略的にどう管理するかが問われるわけですね。
一方でアメリカは、備蓄しているのが食料だけではないという点も印象的でした。
日本の課題と、これからの備え方
海外を見たうえで、川上さんは日本の備蓄が抱える課題にも触れました。いちばん大きいのは、輸入への依存度が高いことだといいます。
お米や小麦、飼料穀物などは多くを輸入に頼っていて、それが供給の不安定さにつながっています。この解決には、国内の農業生産を強くすることと、輸入依存を減らすことが求められます。
そのうえで、食料安全保障を強くするための提言もまとめられていました。
- 備蓄水準の最適化と多様化(量だけでなく栄養や供給源の多様性を確保する)
- 貯蔵効率の向上と廃棄物の削減(温度管理や貯蔵技術で品質劣化を防ぐ)
- 政府連携の透明性と強化(管理と放出の政策を透明にする)
- 国内生産の強化と国際協力(自国の生産を強め、国際協力も深める)
コロナ禍で倉庫がパンパンになった脱脂粉乳
ここからは酪農家ならではの視点です。川上さんは、牛乳や乳製品の実際の現場での話をしてくれました。
コロナ禍のとき、脱脂粉乳が積み上がって倉庫がパンパンになったことがあったそうです。その量は、およそ1年から2年分にもなったといいます。
賞味期限がいちばん長い脱脂粉乳でも半年から8ヶ月ほど。その期限が切れそうになり、捨てなければいけないというところまで追い込まれました。
対策として、牛を減らして牛乳の生産量を減らすことで対応したそうです。ただし、これは「備蓄」ではなく、あくまでメーカーのストックだと川上さんは説明します。
災害や急な気候の変化で牛乳や乳製品が無くなってしまわないように、乳業メーカーや商社があらかじめ持っている分。これが備蓄とは区別されるストックなんですね。
わが家を倉庫に「ローリングストック」のすすめ
最後に川上さんが提案したのが、各家庭でのローリングストックです。
大きな地震などが心配されるなか、家庭でストックしておけば、税金を大量に使って備蓄しなくても済むという発想です。
ご家庭が倉庫になり、災害時にもそこにある食料が安定供給につながる、というわけですね。
川上さんは、2週間分ほどの食料を家に置いておき、賞味期限が切れそうになったら食べる形をすすめます。こうしておくと、いざというときに非常食の食べ方や開け方に戸惑うこともなくなるそうです。
お米も牛乳も、これからどうする?
配信の終盤、川上さんは今まさに話題になっているアメリカ産のお米の輸入についても触れました。
関税をめぐるなかで農産物を買ってほしいという流れがあり、それをどう考えるかをリスナーに問いかけます。
日本のお米がどんどん安くなって海外から入ってくると、皆さんはお米を買いやすくなりますけど、農家さんは苦しくなるわけですよね。どっちがいいかですよね。
アメリカと仲良くしていつでも輸入できる状況がいいのか、それとも自給率を上げて農家を守るべきなのか。川上さんは、これを長期的に、たとえば50年くらいのスパンで考えていく必要があると話します。
あっちに行ったりこっちに行ったりしてると、農家さんは続けていけないので、ここら辺をしっかり考えてもらいたいなと思います。
牛乳や乳製品も、6月から加工品、8月から成分無調整の牛乳の値段が上がる予定だといいます。値上げで消費が伸び悩み、バター不足になれば輸入が増え、また農家が苦しくなる、という循環への懸念も語られました。
せっかく大手メーカーが北海道に加工用の工場を作ったのに、海外からバターが入り続けたら採算が合わなくなる。川上さんは、こうした問題をリスナーと一緒に考えていきたいと呼びかけて配信を締めくくりました。
まとめ
備蓄米のニュースから始まったこの回は、お米以外の農産物や乳製品の備蓄、そして海外の事例まで、食料安全保障を幅広く見わたす内容になりました。酪農家ならではの現場の話と、家庭でできる備えの提案が印象に残ります。
- 日本ではお米だけでなく、飼料穀物やハム・缶詰などの加工畜産物も備蓄されている
- 中国の過剰備蓄からは「量を増やすだけでは効果的でない」という教訓が学べる
- 乳業メーカーが持つストックは、災害などに備える分でも「備蓄」とは区別される
- 家庭でのローリングストックは、税金に頼らない備えとして有効
- お米も牛乳も、輸入と国内生産のバランスを長期的に考える必要がある





