乳脂肪分4%でも、酪農家へのリターンは意外と少ない?
この日の配信は、前回に続く後半戦。牛乳の乳脂肪分が4%という「素晴らしい結果」だったという話からスタートします。
乳脂肪率が高くなると、酪農家さんには何かメリットがあるんですか?
研修生さんのこの問いに、川上さんの答えは少しほろ苦いものでした。
4%までだと奨励金みたいなのをいただきますけど、微々たるものです。本当に微々たるもの。
この努力を全然返してくれるくらいの、微々たるものです。
乳脂肪分を上げるために大きなコストをかけて頑張る農家さんも多いなか、川上牧場は品種改良の力だけでやっているそう。だからこそ、努力に見合うリターンの少なさが際立ちます。
そのうえで川上さんが口にしたのは、目先の利益より続けることを見すえた視点でした。
やっぱり組織をどうやって長続きさせるかっていう考えにならないとやっていけないですね。
日本の酪農がどうやったら皆さんに飲んでもらえるかっていうところが大事かなと思いますね。
なぜ日本にはチョコレートミルクがないのか
話は、研修生さんの「1個ある」というアイデアへ。アメリカに友達が多いという研修生さんは、こんなエピソードを打ち明けます。
アメリカだとチョコレートミルクがいっぱい売ってるって言ってて。なんで日本はないんだって。一緒にチョコレートミルクの会社をやろうって言われたんですよ。
酪農のバイトを始めたと伝えたら、その友達から「僕とチョコレートミルクをするためかい?」と返ってきたのだとか。ちょっと映画のようなやり取りです。
では、なぜ日本にチョコレートミルクは根づかないのか。川上さんが挙げた理由は、味やコスト、そして製造の現場事情でした。
チョコレートの原料が高いからですね。日本に入ってくると。
さらに川上さんは、鳥取県の大山乳業大山乳業 ── 鳥取県を拠点とする乳業メーカー。川上さんはここの出身で、以前在籍していたと語っています。にいた頃のエピソードを紹介します。抹茶オレを初めて出したとき、抹茶が配管にこびりついて全部詰まってしまったそう。
つまり、チョコレートのような素材は機械が洗いにくく、製造そのもののハードルが高いというわけです。無理だと思ってることをやってる人はいっぱいいる、とも川上さんは付け加えていました。
アメリカと日本で違う、牛乳の流通のしくみ
チョコレートミルクの話は、日米の牛乳流通の違いへと広がっていきます。アメリカでは、フレーバー入りや有機のものなど、いろんな商品が並んでいるそうです。
その背景には、流通のしくみそのものの違いがあると川上さんは説明します。
乳業会社と酪農家さんが、直接交渉するんですよ。「あなたの乳業、うちの牛乳どれだけの値段で買ってくれるの?」って交渉して、それで牛乳を販売する。そういう流通があるんです。
一方の日本は、全国で流通を安定させる販売方法をとっているとのこと。だからこそ酪農家団体が意見を言いやすく、そのぶん独特のバランスの上に成り立っているといいます。
その微妙なさじ加減を、川上さんはこう表現します。
牛乳をそのまま売った方が酪農家さんはメリットになるので、加工してくれるなと。だけど加工しないと牛乳全体処理できないじゃないですか、っていうところのバランスを今取ってる状態ですね。
乳業会社と酪農家が直接交渉して価格や販売を決める。フレーバー入りや有機など商品の種類が多い。
全国で流通を安定させる販売方法。酪農家団体が意見を言いやすく、加工と生産のバランスを取っている。
6次産業化に「向いてない」と言い切る理由
ここで、リスナーのせいさんから6次産業化についての質問が届きます。まずは6次産業化とは何か、川上さんがかみ砕いて説明してくれました。
昔、6次産業って言葉の補助金制度があったと聞きますが、どう思われますか。また、川上牧場では一次産業と三次産業を行われていると思いますが、6次産業を目指す動きはあるのでしょうか?
この問いに、川上さんの答えははっきりしていました。就農した当初は6次産業化もいいなと思っていたものの、実際にやってみて考えが変わったそうです。
牛に関係ねえ仕事がすげえめんどくせえと思って。向いてねえと思って。
クレーム対応や発送といった、牛と直接関係のない業務が多くなること。そして、他社の商品に負けないぞという熱量が必要になること。それが「向いてない」と感じた理由でした。
こんなミルクチョコレートじゃないじゃんって言われたら、もうグーで殴りたくなるじゃん。
川上さんの答えは一貫していて、自分は牛に向き合う仕事に集中したいという一点に尽きるようです。
小さな牧場が生き残るための「コアなお客さん」戦略
では、小さな牧場はどう生き残ればいいのか。ここで研修生さんが、就農するなら販売側に回りたいと本音を語ります。
多分自分は、販売とかそっち側に行くと思います。全部を一人でやるのは無理だと思う。
川上さんはここで、実際に進んでいる取り組みを紹介します。出雲市にはブラジル人が多く、ブラジルで売られているようなチーズを作りたいと、牛乳を取りに来る人がいるのだそう。
外国人に合わせた食に合わせた商品戦略。それもすごいちっちゃい、コアなお客さんを捕まえていくっていうのは、小さい牧場にとっては生き残り戦略だったりしますね。
だからこそ川上さんは、研修生さんの友達に「チョコレートミルクが好きな人たちのコミュニティを作ったら」と提案します。ここでインバウンドの増加も追い風になりそうです。
1日に1000Lぐらい飲んでもらえるようなコミュニティができれば、うちと全然契約できます。
研修生さんが2次産業を担い、友達がコミュニティ作りと3次産業を担う。役割を分け合えば、6次産業も夢ではない、という構想も生まれました。
「お前らはできん」ではなく、自分の器を広げる
話は最後に、酪農の担い手問題へ。パンフレットには「担い手がいない」と書かれていたけれど、実感は少し違うと研修生さんは感じています。
農業業界の担い手は、自分の好みの引き継ぐ人がいないの。だからいるんですよ、やりたい人は。
むしろ川上牧場には、やりたい人が続々と来ているのだとか。問題は「お前らはできん」と切り捨ててしまう姿勢のほうにある、と川上さんは考えます。
来てほしい人を待ってるんじゃなくて、自分の器を広げれば誰が来てもOKじゃんっていう。僕はそういうスタンスだから。
相性やこだわりが避けられないなかで、自分の器を広げれば誰が来てもいいという発想は、担い手問題への一つの向き合い方かもしれません。
まとめ
チョコレートミルクという小さな夢から始まった雑談は、日米の流通の違いや、小さな牧場ならではの生き残り戦略、そして担い手問題まで、思いのほか深いところへ広がっていきました。無理だと決めつけず、まず一歩踏み出す。そんな空気が伝わる回でした。
- 乳脂肪分4%でも奨励金は微々たるもの。川上牧場は品種改良の力で乳質を保っている
- 日本にチョコレートミルクが少ないのは、原料コストや製造(配管詰まり)のハードルが理由
- アメリカは乳業会社と酪農家が直接交渉、日本は全国で流通を安定させる方式という違いがある
- 6次産業化は牛以外の業務が増えるため、川上さんは「自分には向いてない」と考えている
- 小さな牧場の生き残り策は、外国人など「コアなお客さん」やコミュニティを捕まえること




