研修2週間の新人が、酪農の疑問をぶつける回
この日の収録は8月15日。7月から川上牧場に来ている研修生さんが、まだ研修を始めて2週間ほどというタイミングでの配信です。
番組の狙いはシンプルで、研修を始めて疑問に思ったことを研修生さんが質問し、川上さんが答えていくというもの。最初のテーマは、牛乳を冷やしておく「バルククーラー」でした。
冷やす機能がないタンクローリー?牛乳を守る「コールドチェーン」
話はまず、高速道路などで見かけるタンクローリーへ。牛乳を運ぶ専用のタンクローリーがあるのですが、実はこの車、牛乳を「入れる」だけで冷却機能はほとんど付いていないそうです。
では、どうやって温度を保つのでしょうか。ポイントは、あちこちに点在する牧場をまわって集めていく順番にありました。
山奥の牧場にまず一回牛乳を取りに行くでしょ。行って、途中でどんどんどんどん牛乳を吸うことによって、工場に運ばれるまでに10度以下になるように品質を安定させてる。
つまり、あらかじめ各牧場で10度以下に冷やしておいた牛乳を集めて回ることで、車に冷却機能がなくても温度を保てるというわけです。
この「牧場から消費者の手元まで、ずっと10度以下を保つ」しくみをコールドチェーンと呼びます。川上さんによると、これがしっかり整っているのは日本を含む先進国の特徴だそうです。
酪農家
搾った牛乳をバルククーラーで10度以下に冷やす
集荷
タンクローリーが各牧場をまわって集める
乳業会社
工場に到着するまでに10度以下をキープ
消費者
スーパーの陳列棚まで低温を保って届く
毎日取りに来る?停電したらどうなる?集荷と電気の話
集荷の頻度も研修生さんの気になるところ。川上牧場のように近くに乳業会社がある場合は毎日取りに来ますが、遠い地域では2日に1回の「隔日集乳」もあるそうです。
その場合は2日分の乳量が入る大きなタンクが必要になります。川上牧場のタンクは2000リットルですが、隔日集乳のところでは5トンや6トンのタンクを使うこともあるとのこと。
いまの川上牧場は牛が30頭ほどで、1日あたり900リットルほどの牛乳が搾られています。この牛乳は、いったんどこかへ送られるのではなく、家の前まで来た車のホースをバルクにつないで持っていく形です。
ここで研修生さんが気づいたのが、電気の大切さ。牛乳を冷やし続けるには電気が欠かせないので、災害や停電が起きると牛乳はすべて廃棄になってしまいます。
電気って生命線なんですよね。
川上さんは、北海道で大型の停電が起きたときの教訓から、いまは発電機を持っている酪農家さんが多いと話します。政府の補助金もあったそうです。
洗剤が混ざったら誰の責任?出荷までの「責任の線引き」
牛乳の品質を守るうえで、責任の分かれ目もはっきりしています。タンクローリーが牛乳を吸い上げるまでが酪農家の責任、というのが基本です。
たとえば牛乳に水が混入していたり、洗剤が混ざってしまったりした場合は、酪農家が負担することになります。
では、それはどこでわかるのでしょうか。研修生さんの疑問に、川上さんは集荷の前に検査をしていると答えます。
収入するところは検査するんですけど、検査する時に水の比重とか。
検査をして問題がなければ、そこで初めてタンクローリーに吸い上げていきます。ここで研修生さんは、1台の車に複数の牧場の牛乳が入ることに気づきました。
いろんな農家のミルクが同じ牛乳の中に入ってる。
たとえば4トン積みの車なら、川上牧場の分はおよそ1トン。1台のなかにいくつもの牧場の牛乳が集まっている、というわけです。
「ご当地牛乳」は1つの牧場で作ってない?ブランドの正体
ここから話は、多くの人が抱きがちな誤解へ。研修生さんは、川上牧場の牛乳が「川上牛乳」として売られているようなイメージを持っていたそうです。
一ファームで作ってる牛乳、川上牧場の牛乳が川上牛乳として売られてるみたいなイメージなんですよ。違うんですね。
実際は、そのエリアの酪農家の牛乳が集まって1つのブランドになります。川上牧場の牛乳は「島根乳酪牛乳」になるそうです。
出雲市の酪農家は26軒、島根県全体でも65軒ほど。全国では1万軒を切っており、川上さんは「危機的状況」と表現します。
さらに驚きの話も。災害や猛暑で生産量が落ちたときには、鳥取県や岡山県、広島県から牛乳を持ってきて、島根乳酪のタンクに入れて販売することもあるそうです。
広域で日本全国でその牛乳の流通を安定させるっていう組織に全員が入ってるんで。
旅行先で「ご当地牛乳」を楽しんで買っているという研修生さん。実は災害時などには隣の県の牛乳が入っている可能性もある、という話に驚いていました。
味を毎回そろえる工夫と、通でも「絶対わからない」理由
北海道から関東へ毎日牛乳を運ぶ船が、7月中盤の台風で港に入れなくなったこともあったそうです。そのときは足りなくなった分を利尻など本土から回して、北海道牛乳として販売したとのこと。
ブランド名より優先されるのは乳成分だと川上さんは言います。乳脂肪分などの基準が守られていれば、牛乳として成立するという考え方です。
ブランドの名前はもう皆さんの気持ちです。
では、通の人なら違いがわかるのでしょうか。研修生さんの問いに、川上さんはきっぱり否定します。
だって毎日酪農家さんの頭数の変動があるし、季節変動で餌の変動があるし。
むしろ、いろんな牧場の牛乳を混ぜることで、毎日同じ牛乳だと感じてもらえるようにリスクを分散させているのだそうです。
牛乳の味を決めるのは、おもに乳脂肪と乳タンパク。夏場は牛が餌をあまり食べず乳成分が落ちやすいのですが、それでもキープできるよう混ぜて調整しているとのことです。
乳業会社は何をする?牛乳をそのまま売る方が酪農家に嬉しいワケ
後半は、集めた牛乳のその先へ。乳業会社では、各牧場から入ってきた牛乳をまず大きなタンク(クーラーステーション)に入れます。
そこで乳脂肪分が3.5を切っていないか、抗生物質が混入していないか、洗浄水が入っていないかなどをチェックし、パック詰めやヨーグルト・バターなどへの加工を行います。
ここで研修生さんが気にしたのが、出雲産バターをあまり見かけないこと。理由は、加工すると量がぐっと減ってしまうことにありました。
牛乳一リットルでバター作ろうと思ったら百グラムになっちゃう。
さらに、加工には手間賃がかかり、その分を酪農家が負担する形になるため、牛乳の値段が少し下がってしまうそうです。
100円で売れる牛乳が80円ほどになってしまうイメージだと川上さんは説明します。だからこそ、牛乳は牛乳のまま販売する方が酪農家さんは嬉しいのだと言います。
一方でメーカー側は、80円で仕入れた牛乳をコーヒー牛乳やイチゴ牛乳などに加工すれば牛乳と同じくらいの値段で売れるため、そちらの方が利益が上がります。それでも両者で協力し、なるべく日本の牛乳を上手に処理していくことが目的だと話されていました。
乳脂肪4.24%はすごい?品種改良でつくる牛乳
最後の話題は、川上牧場の自慢でもある乳脂肪です。いまの川上牧場の乳脂肪はなんと4%ほど。他の牧場では3.5を切って悩むところもあるなかで、これはかなり高い数字だそうです。
どうやって上げているのか。川上さんの答えは品種改良でした。乳脂肪率が高い父牛と母牛を掛け合わせることで、子牛の乳脂肪を高めていくという考え方です。
もちろん餌でも工夫していて、消化性が高く粗飼料の比率を高めた与え方をしているとのこと。この前の乳分検定の結果を研修生さんが読み上げると、平均は4.24%でした。
お便り募集のお知らせ
番組の最後は、ヤマさんからのお知らせです。川上牧場では、リスナーからのお便りや感想を募集しています。
皆さんのご意見が新しい酪農を作っていきます。
川上牧場とやってみたいこと、やってほしいことなど、コメント欄やDMで気軽に寄せてほしいとのことでした。
まとめ
私たちが毎日なにげなく飲んでいる牛乳は、各牧場で冷やされ、複数の牧場の分が集められ、味をそろえて届いています。研修生さんの素朴な疑問を通して、その流通のしくみと酪農家さんの工夫が見えてきた1本でした。
- 牛乳は各牧場で10度以下に冷やしてから集荷し、コールドチェーンで品質を保っている
- タンクローリーには複数の牧場の牛乳が入り、ブランドはエリアごとにまとまる
- 災害や台風のときは他県や本土から牛乳を回すこともあり、優先されるのはブランド名より乳成分
- いろんな牧場の牛乳を混ぜることで、毎日同じ味に感じられるようリスクを分散している
- 加工すると量が減り値段も下がるため、牛乳はそのまま売る方が酪農家には嬉しい




