特色のない「普通の牛」に、何を改良すればいい?
今回のお題は、5産目に入るお母さん牛「443号」に、どの種(精液)をつけるかです。まず川上さんは研修生に、この牛の長所と短所を聞きます。
ところが研修生の答えは、良くも悪くもない、というものでした。乳量も乳器も「普通」で、これといった特徴が見つからないと言います。
いやなんか正直、自分的に別にめちゃくちゃ短所も長所もそんなにないというか。
(乳量は)わりかし普通。普通なのかなっていう。だから特段、本当になんかそんなに変なのかな、どうなんかな。
じつはこの牛は、川上さんが「あえて特色のない牛」として選んだものでした。改良ポイントがはっきりしない牛にどう向き合うか、という練習なのです。
そういう牛選んだからね、僕が。
研修生は、特色がない以上「改良もいらないのかな」とまで思ったと話します。ここから、では実際にどの種を選んだのか、という具体的な検討に入っていきます。
研修生が選んだ2頭と、近交係数への戸惑い
研修生が最終的に選んだのは、パリッシュとマエストロの2頭でした。選定の入り口になったのは、成績表の右端にある「近交係数を考慮した交配種雄牛情報」の欄です。
近親近交考慮した交配種牛情報、あれ係数が単純に低いやつ(を選んだ)。
研修生は、係数が5.83や5.60と低い順に上から見て、協会のおすすめとして無難だろうと考えたと言います。
ただ、ここで研修生は戸惑いも口にします。前日に「近交係数は6.25を超えないように」と教わったのに、5.6の種が一番上に来ていたからです。
近交係数6.25を超えないようにが線引いてるんやったら、普通もっと手前で安全圏見るのが一般的なのかなと思ったら、結構それで(5.6が)低いで、これがいいんちゃう?って言えるぐらいの数字なんや。
つまり研修生は、6.25という数字を「この幅の中でやらなければいけない境界線」として受け取っていたわけです。この受け止め方が、この回を通して少しずつ変わっていきます。
川上さんの選び方は「欠点の少ない牛」
続いて川上さん自身の選定です。川上さんが選んだのはパリッシュでした。理由はシンプルで、欠点が少ない牛が好きだからだと言います。
僕はとりあえずいつも欠点ない牛が好きだから、パリッシュを選びました。
パリッシュは古い牛で信頼度99%のセカンドクロップ。分娩間隔がやや長いのが気になる点ですが、繁殖性は遺伝率も低く、そもそも443号自体が繁殖成績のよい牛だと川上さんは説明します。
近交係数低いし、耐久性も能力も乳成分も別にマイナスのところがないので(パリッシュかな)。
一方で研修生は、成績表の略語だらけの情報を前に、初心者が唯一とっかかりにできるのがこの近交係数の欄だったと振り返ります。
これはある意味この紙を見たらわかる唯一の部分かなとも思ったんですよね。逆に初心者というか、新人さんが。
青沼さんの「出来上がった牛をつける」戦略
ここから、Twitterのリスナー酪農家が次々に参加します。まず青沼さんが、自分の選び方を語ります。
青沼さんはまず、どういう牛を作りたいかを先に決めるといいとアドバイスします。そのうえで、443号については率直な感想を口にしました。
もう何かけてもよくなんじゃねって思って。
新規就農した青沼さんの牧場には、血統登録のない牛や形もバラバラの牛が入ってきました。そこでベースとなる骨格を揃えるために、青沼さんが頼りにするのが決定得点とNTPです。
もう手っ取り早いのは、決定得点を見て、それの高い牛、かつNTPの高い牛っていうのを狙ってつけてます。
欠点を補い合う組み合わせを考え出すと悩みが尽きないため、青沼さんは「すでに出来上がっている牛」をつけていくと言います。結果として、無難にいい牛になったそうです。
青沼さんがこの牛に選んだのはエクリプス。パリッシュと同じナイアグラ系統ですが、サイズが小さくなり、欠点が少ない点を評価しました。この牛は牛舎に対してやや大きく、後ろ脚に体重の重さが出ているのが気になるからです。
同じナイアグラの系統で言ってもエクリプスの方がサイズ感も小さくなるし。
藤沢さんが語る「答え合わせは3年後」
次に登場した藤沢さんは、種の細かい選定については「全くわかりません」と正直に前置きしつつ、選び方の本質を語りました。
藤沢さんが強調したのは、牛を見て、ブルブックと照らし合わせながらやっていくことが一番だ、という点です。合う合わないは、生まれて搾ってみないと本当のところはわからないからです。
答え合わせっていうのが3年後なので、やっぱりそれを重ねていくことが、将来の自分の牧場の牛群の答え合わせになっていく。
藤沢さんは自身の選び方を「感覚しかない」と言いますが、川上さんはその感覚でいい牛を作ること自体がすごいと返します。この「牛を見て、数年かけて答え合わせをする」という考え方は、後半のすずけんさんの話でさらに深まっていきます。
近交係数は「先に使いたい牛を決めてから」考える
続いて登場した牛屋さんの話で、近交係数の考え方が大きく動きます。牛屋さんが選んだのは、繁殖がよく体細胞が低い、乳房炎になりにくい牛を軸にした順でした。
注目は、研修生からの「近交係数はどれぐらいまで攻めるか」という質問への答えです。牛屋さんはまず、家によって全然違うと前置きします。
輸入受精卵とかいくと最低が9、最高が16とかいっちゃうんで。最近採卵してる人とかはもう全然9切ることがない。
そのうえで牛屋さんが示したのは、先に使いたい牛を決めてから、その組み合わせの近交係数の平均を出して判断するという順番です。
平均が8だったら7でも低い方に入るじゃないですか。10パーのものに対して8パーが高いかって言ったらそんなことない。
牛屋さんも、就農当時は近交係数ばかりを気にして失敗したと明かします。係数を意識しすぎて、能力の低い牛を選んでしまう、という典型的な失敗だったそうです。
近交ばっかり意識しすぎて能力が低かったっていう、よくある典型だと思うんですけど。
さらに牛屋さんは、近交係数が上がるほど乳量がどれくらい減るかを示す「近交退化」の指数も見ながら、多少高くても能力の高い牛を選ぶ、という判断もあり得ると説明します。
この話を聞いて研修生は、6.25という数字への見方が変わったと口にします。
それを超えないように選ぶのがスタート時点みたいに思うけど、実際やっていくと、自分の使いたい中で超えるのは当たり前なんや。
すずけんさんの「兄弟牛」と「あえて待つ」判断
最後に登場したすずけんさんは、Twitterで1位のサムを選んでいました。すずけんさんも近交係数は特段気にしないと言います。三大種雄牛が血統に入っていることが多く、どこで血が重なるかを押さえておけば大丈夫だと考えているからです。
むしろすずけんさんは、あえて近交させて血質を固定する意味も語ります。
近交係数を上げるっていうのに抵抗ある方いらっしゃるんですけど、血質固定っていう部分ではあえてこの近交させるっていう(選択もある)。
すずけんさんがサムを選んだ決め手は、母系にモントレーの兄弟がいることでした。過去に使ってよかった牛の兄弟なら、イメージが持てるからです。
父親が違うキングピンなんで、ちょっと毛色は違うけども、母系のモントレーのいいイメージを持っていれば、何かしらできるんじゃないかな。
そしてすずけんさんは、あえてセカンドグループまで待つ牛もいると話します。数字が突然良く出た新しい種は、母系や父親の評価に引き上げられた「数字のマジック」の可能性があるからです。
NTV出てセカンドグループまで待つ牛もいます。この数字はちょっと怪しいなっていう、肌感覚的に。
血統やファミリーを知っていると、いきなり抜群の数字が出た牛は逆に疑ってしまう。研修生はこれを「美味しい話には裏がある」と受け止めました。
流行る前に使い切ってしまう。突っ込む牛はどんどん前に進める
一度流行って落ち着き、実際に生まれた牛の数字が加味されるまで待つ
「教科書にない話」をどう次の世代へ渡すか
一通り聞き終えた研修生は、みんな少しずつ違う答えを言いながらも、共通する部分があったと振り返ります。何より、6.25というラインの意味合いが前日とは変わったと言います。
6.25っていうラインの意味合いが昨日からはなんか変わった気はしますよね。
研修生は、こうした種の選び方の話が、人工授精師の講習会でも高校の教科書でも扱われないことに驚きます。教科書には繁殖の仕組みや育成は書いてあっても、「どの種を選ぶか」がすっぽり抜けているというのです。
近すぎたら危ないよ、高すぎたら危ないよ。やけどこういう選択があって、必ずしもここの中でこうしないといけないんじゃないんだよっていう部分も含めてやってほしい。
研修生は、この選定を「国語や数学の証明」に例えます。1つの問題に対して、それぞれが理由を持って別の答えを出す。その過程を見ることで、答えは1つじゃないと安心できるというわけです。
この人サム付けるって言うし、僕はマエストロもいいんちゃうかと言ったし、パリッシュでもいいしとかって話があると、何でもええやんっていう部分で安心できる。
だからこそ研修生は、答えが決まっているかのように「サム一択でしょ」と考えてしまう前に、このマインドを最初に伝えたいと話します。考えずに答えだけ渡されても、面白さは伝わらないからです。
考えずにサムって言われたらはいサムにしかならないんで。
川上さんも、改良熱心な人ほど他人の考えを聞きたがるから、研修生のような素人の意見も面白がって聞いてくれる、と応じます。
今こうやって研修生が言った素人の考えの「僕はこれがいいです」は、みんな面白いって思いながら聞いてくれてる。
研修生は最後に、エリートや変態の集団で閉じるのではなく、経験の浅い仲間と共有したいと語ります。この話から入れば、種選びの面白さに気づく人はもっと増えるはずだ、というのが研修生の実感でした。
俺も軍団が欲しい。なんでみんなそんなわかってるし答え出せちゃうの?みたいな(人と共有したい)。
まとめ
1頭のお母さん牛にどの種をつけるかというお題を通して、4人の酪農家がそれぞれの選び方を語った回でした。共通していたのは、6.25という近交係数の数字は絶対の境界線ではなく、先に使いたい牛を決めてから考えるもの、という感覚です。答えは1つではないという実感が、種選びの面白さの入り口になっていました。
- 443号のような特色のない牛では、何を改良したいかがそもそも見えにくく、選定の練習台になる
- 青沼さんは決定得点とNTPの高い「出来上がった牛」をつけ、骨格やサイズのベースを揃える
- 近交係数6.25は絶対のラインではなく、使いたい牛を決めてから平均と比べて判断するという考え方が語られた
- すずけんさんは母系の兄弟牛のイメージを手がかりにし、数字が怪しい新種はあえてセカンドグループまで待つ
- 種の選び方は講習会や教科書で扱われにくく、こうした「答えは1つじゃない」という考え方を伝えることが次の世代への入り口になる




