ブルーブックに書かれた「TV」「TY」「TL」って何?
この回のきっかけは、前日にタカノさんと一緒に見たブルーブックでした。ブルーブック ── 種牛のデータや血統をまとめた冊子。乳量や体型などの成績、遺伝病の保因状況などが記載されている。種牛の名前のところに書いてある「TV」「TY」「TL」といった略号が気になった、という話から始まります。
これらは遺伝病に関する表記です。川上さんは「遺伝病は難しいので、ネットの資料を見ながらさらっと勉強しよう」というスタンスで、北海道ホルスタイン農業協同組合のホームページにある資料を使って説明していきます。
まず「TV」は牛複合脊椎奇形症、略称CVMという遺伝病を持っていない(非保因)ことを示す表記だと説明されます。主な症状として、流死産や出生率の低下などがあるとのことです。
続く「TY」はブラキスパイナという病気を保因していないこと、「TL」は牛白血球粘着不全症(BLAD)がフリーであることを示します。つまりこれらの略号は、その種牛が特定の遺伝病を持っていないという「お墨付き」なんですね。
探してみて、(遺伝病の)因子持ってるやつなんて今頃おるんだろうか。多分おらんと思うな。もう本当に全部避けられてるから。
仮に因子を持っている種牛がいた場合は、種屋の営業マンが「こいつはキャリアを持ってるので気をつけてください」と伝えながら売るそうです。営業マン自身もあまり売らないようにしているため、実質的には「ない前提」のレベルになっているといいます。
遺伝病は「近交係数」が上がると見えてくる
遺伝病の種類はインターネットで検索すると膨大にあると川上さんは言います。そして重要なのは、それが今の現状にすぎないという点です。
これから近交係数が上がってくれば、遺伝病はもっと増えていくと川上さんは説明します。近交係数 ── 両親がどれくらい血縁的に近いかを示す数値。高いほど近親交配が進んでいることを意味し、遺伝病が出やすくなったり生産性が下がったりする。
ホルスタインと比べて、黒毛和牛はもともと近交係数が高いそうです。親子がけや親子兄弟がけが普通にあり、それゆえ遺伝病も多いといいます。
なぜ黒毛和牛は近交係数が高いのか。それは、筋肉の中に脂肪を入れる(脂肪交雑)という、ある意味で特殊な状態を作り出すために、あえて血を濃くしてきた背景があるからだと説明されます。
脂肪の中に、あ、筋肉の中に脂肪を入れるって結構おかしな話じゃない。それはだから近交係数を高めて、ちょっと異常な状態にする。
同じ発想は競走馬にもあり、血を濃くすることで血統の強さを表現し、それを狙っていくのだといいます。タカノさんは「ギリギリのラインを攻める感じ」と表現しています。
一方で乳牛はまったく事情が違います。今の乳牛には長命連産性が求められているため、近交係数が高くなると生産性に直撃してしまうと川上さんは話します。肉牛や競走馬は勝負が短期的なので、そこが決定的に違うわけです。
近交係数を高めて血を濃くし、脂肪交雑や血統の強さを引き出す。勝負が短期的なので許容されやすい
長命連産性が求められるため、近交係数が高いと生産性に直撃する。回避が重要
近交係数が上がり続けると何が起こる?
乳牛でも、改良速度が上がるほど近交係数はどんどん上がっていく、と川上さんは指摘します。近交係数の高い種牛から、また近交係数の高い種牛が生まれる、という繰り返しになるためです。
これを避けるには、まず父牛・母牛の性(血統)を調べることが必要です。ゲノム検査で親子の矛盾がないかを確認するといった作業が欠かせないといいます。
近交が進むと、受精卵の段階で発症して卵が死滅してしまうケースもあると川上さんは説明します。一生懸命に種付けをしても、そもそも血統的に受胎しない、という状態が起こりうるわけです。
つかないつかないってずっとやってるんだけど、そもそももうその血統的にもうつかないっていう状態もあったりする。
ハプロタイプとは何か、遺伝病との違い
話題はハプロタイプに移ります。これも北海道ホルスタイン農業協同組合の「胚死滅をもたらす新しいハプロタイプについて」という資料をもとに説明されます。ハプロタイプ ── ここでは、同じものを持つ牛同士を掛け合わせると受胎しなかったり胚が死滅したりする遺伝子の組み合わせを指す。ホルスタインでは番号で管理されている。
ハプロタイプは劣性遺伝で、ほとんど発現しない因子同士が掛け合わさると特殊なことが起こる仕組みです。現状ではハプロタイプ6まで確認されていると川上さんは話します。
遺伝病との違いも説明されます。ハプロタイプは、同じ番号を持つもの同士を掛け合わせると受胎も出産もしない一方で、番号が違えば掛け合わせても問題ないという特徴があります。
HH1(ハプロタイプ1)を持ってる母親にHH1を持ってる種牛を掛け合わせるとダメなんだけど、2とか3とか4とか5を掛け合わせるやつは全然問題ない。
ハプロタイプはかなりの比率で存在するので、遺伝病より回避しやすいと川上さんは言います。ただ、キャリアを持つ娘牛を農場に残すことになるため、可能なら全部回避したほうがいいというのが川上さんの考えです。
なぜハプロタイプは6までしか分かっていないのか
ハプロタイプの番号はブルーブックの種牛情報にも書かれています。川上さんは、前日に見たワールドワイドサイアーズのブルーブック12ページの「オールスター」という種牛が、ハプロタイプの3番と5番を持っていると具体例を挙げます。
1頭が1つだけとは限らず、複数のハプロタイプを持つ種牛も珍しくないそうです。タカノさんも「1個だけじゃないんですね」と驚いています。
そして、なぜ6までしか分かっていないのか、という疑問に対する答えが印象的です。7以降が「ない」のではなく、生まれてこないから世の中に存在として現れない、というのが理由だと説明されます。
そこまで成長できないから存在しない可能性が。
ハプロタイプの同じ劣性遺伝を持ってる同士をどんだけ種付けしても、受精卵の段階で胚が死滅してしまうことが多い。
ハプロタイプは日本と海外のゲノム検査で分かることが違う
ハプロタイプや遺伝病を調べる手段として、ゲノム検査の話になります。ここで川上さんは、日本と海外のゲノム検査で分かる内容が違うと指摘します。
日本のゲノム検査で分かるのは、乳量や体型、体細胞といった主要形質が中心だといいます。一方、海外に送るゲノム検査ではハプロタイプや遺伝子の情報も調べてもらえるそうです。
川上さんが利用しているのは、ネオジェンやゾエティスといった海外の検査です。送った検査結果の写真を見ながら、これがネオジェンで分かる検査項目だと説明しています。
さらに川上さんは、日本の国産種雄牛については、種雄牛になる段階でハプロタイプが回避されているため、国産種雄牛を使い続けている限りはハプロタイプの問題になりにくいと話します。日本国内には、それを入れない努力があるのではないか、との見立てです。
輸入卵から後で発覚した実例
ただし、日本の中でも「後から発覚する」ケースはあると川上さんは言います。輸入卵を使うことで、実は保因していた遺伝子が持ち込まれることがあるためです。
具体例として挙げられたのがブラキスパイナ(単蹄)です。本来2つに分かれているはずの蹄が1本しかできないという症状で、当時日本中で非常に多く使われていた種雄牛から出た、と川上さんは振り返ります。
すっごい日本中で使われてた種雄牛からこういう病気が出ましたって出た時があって。だから後でわかったりする場合もある。
川上さん自身が就農していた時期に起きた出来事だそうです。さらに、うちにいるジャージーについても、つい先月に遺伝病の注意喚起がリリースされ、まさに使っていた種だったといいます。
遺伝病やハプロタイプは品種ごとに異なり、ホルスタインだけ、ブラウンスイスだけ、といったものもあると説明されます。海外の種を使う場合、こうした知識がないまま使うと、低確率とはいえ問題が起こりうるわけです。
(問題が起こる確率は)0%ではない。低確率ではあるけど、0%ではないですね。
近親交配を避けるための具体的な仕組み
ここから、では実際にどう回避するのか、という具体的な話に入ります。近親交配を避けるには、近交係数を回避するプログラムやリストを使うのが基本だと川上さんは言います。ホルスタイン登録協会などが近親交配回避のリストを出しているそうです。
近親交配をすると「近交退化」が起こります。北海道ホルスタインの資料では、近交係数1%あたりの退化量として、総合指数がマイナス41、乳量が31kg減少といった数値が示されていると紹介されます。
日本では少し前まで、交配時の近交係数を6.25%までに抑えるよう推奨されていたそうです。この6.25%の場合、退化量はマイナス256、金額にして約1万4163円のマイナスになると説明されます。
そして北海道の乳用種メス牛の近交係数は、年を追うごとに右肩上がりで上がっているとのこと。ゲノム検査でヤングサイアーが使われ、改良速度が上がるほど、近交係数が上がるスピードも速くなる関係にあるといいます。
いっぱい数があれば、産ませれば産ますだけ(近交係数が)上がっていってしまうのも必然みたいな。
牛群近交回避と、血統登録がないと意味がない理由
回避のための具体的なツールも紹介されます。日本ホルスタイン登録協会はインターネットで近交回避情報を提供しており、家畜改良事業団の繁殖ウェブシステムでも「牛群近交回避」が確認できるそうです。
これは、あるオスの種を使うと牛群の何%が近交回避できるかが一目で分かる仕組みです。回避できる割合が50%以上の種を使い続ければ近交係数は下がり、50%以下だと上がっていく、という考え方だと説明されます。
ただし川上さんは、このシステムも血統登録をしていないと意味がないと繰り返します。オス(種牛)の情報だけが分かっても、母牛側の血統が分からなければ回避のしようがないからです。
そこ(血統登録)を続けていくから、それに価値が出てくるパターンですもんね。
ゲノム近交係数という新しい考え方
さらに新しい概念として「ゲノム近交係数」が紹介されます。これまでの近交係数は、父牛と母牛の血統の組み合わせから計算していました。
従来の考え方では、同じ父母から生まれた兄弟はみんな同じ近交係数とみなされていたと川上さんは説明します。ところがゲノムを調べることで、同じ兄弟の中でも近交係数が高い個体と低い個体がいることが分かるようになったといいます。
つまり、血統上はいかにも近交係数が高そうな組み合わせでも、ゲノムで見ると実際には低い個体がありうるわけです。タカノさんはこれを「高い一族ではあるけど、君は低い」という表現で受け止めています。
ただし、その個体自身が低くても、次の世代でどう出るかは否定できない、という点にも触れられます。川上さんが前日に話していた交配プログラムGMSは、このゲノム近交係数を利用して交配を組んでくれるそうです。
近交係数を出すには「三代祖」の血統登録が必要
近親交配を避けたいなら、まず血統登録が出発点だと川上さんは重ねて強調します。近交係数を計算上で出すのに必要なのは「三代祖」の情報だといいます。
三代祖とは、父・母だけでなく、祖父母、そのさらに親までの血統のことです。この三代祖を避けるためには、三代祖まで血統登録されている必要がある、というのが川上さんの説明です。
アメリカの考え方についても触れられます。アメリカは、近交係数が上がって近交退化が起きても、それ以上に改良が進めばいい、という発想だと川上さんは言います。
一歩下がって三歩進めばいいじゃんっていう発想。前進してんじゃんっていう。
これに対して日本は「確実に一歩踏まないといけない」「下がるはありえない」という発想だとタカノさんは対比します。アメリカの血統カタログは改良が速すぎて、三代祖の中に親子のような組み合わせが並び、使える種が限られてくるほどだと川上さんは話します。
近交退化が起きても、それ以上に改良が進めばよいという発想。ウサギ型で一気に進める
下がるのはありえず、確実に一歩ずつ進めたい発想。近交係数を6.25%以下などに抑える
レッドを使って近交係数をリセットする改良のやり方
川上牧場での具体的な工夫として、高能力の牛にレッドの種を入れる手法が語られます。レッド ── ホルスタインの中で赤茶色の毛色が出る系統。ホルスタインレッド。レッドの因子を掛け合わせることで生まれる。レッドは近交係数が低いのが理由だといいます。
これまでレッドとホルスタインの組み合わせで種牛が生まれることは少なく、血統的な重なりがなかったため、レッドを使うと近交係数をガクンと下げられると説明されます。
レッドを掛け合わせた娘牛が生まれると、その娘にはほぼすべての種が使えるようになる、というのがポイントです。タカノさんはこれを「更地になった」「一旦リセット」と表現しています。
土地を綺麗にしちゃった感じかな。一旦リセットみたいな。
レッドはホルスタインに比べると能力がやや低いものの、この世代は近交係数を下げるための改良と割り切ってつける、というやり方だと説明されます。タカノさんは「畑を休ませる」、川上さんは「連作障害を避ける」と農業になぞらえています。
高能力の牛にレッドの種をつける
能力はやや落ちるが、近交係数を大きく下げる
レッドを掛け合わせた娘牛が生まれる
血統上の重なりがリセットされる
その娘牛にはほぼ全ての種が使える
改良を再び自由に進められる
ウサギとカメ、うまく使い分ける改良戦略
川上さんは、乳量ばかりを追った反省から、繁殖形質や体型改良に強い種を組み合わせて交配を回避しているとも話します。単に近交を避けるだけでなく、何を伸ばすかを設計しているわけです。
この使い分けを、川上さんは「ウサギとカメ」で説明します。アメリカが一気に突き進むウサギだとすれば、自分はウサギの時もカメの時もある、というスタンスです。
僕はうまいことやって、ウサギの時もあるし、カメもやる。
一方で、良い手も広まりすぎると効かなくなる、という現実も語られます。レッドで近交回避ができると言われていたのに、今はレッド同士でも回避しづらくなってきているそうです。みんなが一斉に使ってしまうためです。
せっかく下げれるいい案やっても、みんなの手で近交係数上げちゃうみたいな感じ。
なお、レッドは近交回避のためというより、可愛さやシンボル的な意味で「趣味」として飼われることも多いと川上さんは補足します。他の牧場ではレッドを見かけないイメージがある、というタカノさんの実感とも重なります。
調べなければ永遠に分からない、という現実
ここから話は、こうした知識を「知っているかどうか」の問題に移っていきます。川上さんは、多くの人は遺伝病やハプロタイプに気づいていないと指摘します。近交で子孫(近親交配の結果)が生まれても、「近親だったね」で終わってしまうというのです。
気づいてないですね。生まれて子孫だった場合に、あ、子孫だわで終わってる。
タカノさんは、ハプロタイプが見つかった経緯にも触れます。ドイツで下痢などの症状から一つひとつ調べていった結果として分かったもので、調べなければ永遠に分からなかったはずだと話します。
調べたらそら分かるけど、調べんかったら永遠に(分からない)。
川上さん自身は、種付けで一度受胎しなかったら、次はGMSの別の候補を入れるようにしていると言います。改良の最前線に立っている以上、まだ判明していない遺伝病やハプロタイプが何であるかは分からない、その前提で少しでも避けようとする姿勢です。
なぜ同じ種ばかり使う牧場が多いのか
検定員として牧場を見ているタカノさんは、種付けの記録がほぼ同じパターンになっている牧場が多いと感じたそうです。まるで「コーヒーと言えばこれ」のように、一年間ずっと同じ種を使う牧場が少なくないというのです。
これは普通のことなのか、というタカノさんの問いに、川上さんは「普通っちゃ普通、多い」と答えます。しかも、一年間同じ種を使っていると、最初につけた牛の子が一年後に種付けの対象になり、親子がけになってしまう危険があると指摘します。
最初に使ったやついるじゃん。それは一年後になるじゃん。一年後種付けしちゃうから親子がけがかかったりする。「あーやっちゃった」で終わる。
そもそも、なぜ乳量が出ないのかという理由すら分からない、と川上さんは言います。血統登録をしていなければ、近交退化が起きていても原因を突き止められないからです。
何の、なんで出るんかの理由もわかんないもん。血統登録してないからね。
さらに川上さんは、人工授精師の講習会でも遺伝病は習うが、ハプロタイプは習わないのではないか、と話します。資格を持っていても、この領域は「対応していない」に近い状況だという見立てです。
日本の酪農の「らしさ」と、鎖国の功罪
ここからは、二人の議論が日本の酪農のあり方そのものへと広がっていきます。タカノさんは、日本が長く外に閉じてきたこと(鎖国的なやり方)には、遺伝病の持ち込みを防げたなど良かった面もあると認めます。
一方で、分かることが増えた今、「避けられるなら避けよう」と川上さんは言い切ります。昔は分からなかったことが今は分かるようになったのだから、という予防的な発想です。
昔はわからなかったのが今はできるようになったんだったら避けようやって僕は思うんだよね。
タカノさんは、これをウイルス対策になぞらえます。誰も「出てから対策すればいい」というつもりではなかったはずなのに、後手に回ると責任のなすりつけ合いになり、解決策がぼやけてしまう、という構図を懸念します。
最悪のケースとして川上さんが挙げるのは、知らないうちに近交係数の高い牛ばかりになり、なんとなく調子が悪い、乳量が少ない、という状態が全体に広がることです。その原因が近交だと気づかず、「育成のとき餌をケチったからか」と誤解してしまう、と話します。
全員ね、自分らで病気作っちゃってるみたいな感じになる。
乳量が伸び続けている川上牧場の実感
理屈だけでなく、川上牧場自身の変化も語られます。作業時間は短くなり、病気は減り、自分がやりたい酪農の形に牛が合わせてきてくれている、と川上さんは話します。
具体的な数字も挙げられます。平成26年の全国発表会のときは牛群で7600ほどだった乳量が、今は9600から9800まで伸びているそうです。しかも餌は変えていない、というのが川上さんの強調点です。
管内で手に入る一番安い餌と安い配合でどれだけ繁殖回して絞るかっていうスタイルはもうずっと変えてない。
タカノさんは、これを「1時間あたりどれだけ絞れたか」という視点で整理します。種が良くなっているのだから、その指標が横ばいや下降のままというのは本来ありえないはずだ、というのです。
平成26年の全国発表会当時は牛群で7600ほど
現在は9600〜9800まで伸長。餌は変えていない
もし自分が協会のトップなら「罰則で縛る」
川上さんは、どうすればみんなに血統登録をしてもらい、近交を避けてもらえると思うか、とタカノさんに問いかけます。これに対するタカノさんの答えは、かなり思い切ったものでした。
もし自分が協会のトップだったら、どうやってみんなに血統登録をしてもらい、近交係数を避けてもらいますか?
タカノさんの答えは「罰則を課す」でした。資本主義の中であえて社会主義的に強く縛り、それに対する反発のムーブメントを起こしてでも、次のステップに進むべきだ、という発想です。自分が悪者になる覚悟でやる、とまで話しています。
具体的には、資格がなければ運営できないようにしたり、誰でも開業できる状態をやめたりすることを挙げます。一度ギューッと縛ってから緩める、という順序が必要だという考えです。
これじゃないと牧場が経営できない。だからもう弱いものには消えてもらう。
同時にタカノさんは、助成金のような支援も、知っている人だけが得をする今の状態ではなく、全員に一律で適用すべきだと主張します。個人申請した人だけ、ではなく全員、という「例外を作らない」発想です。
資格と、酪農という仕事の価値
タカノさんは、以前話した美容師の資格の話を引き合いに出します。美容師には明確な資格があるのに対し、酪農家には誰にでも分かる形での資格や指標が乏しいのではないか、という問題提起です。
さらにタカノさんは、職員の女性が「授精師は持っている」と話していたことにも触れ、それが「持っているだけの資格」になっていないか、と考えたと言います。資格でマウントを取りたいのではなく、影響の大きい仕事なのだから相応の縛りが要るのではないか、という趣旨です。
それぐらい酪農家って趣味でできへんでっていう風にしないと。プロやのにプロじゃなくていい感はある。
タカノさんの見立てでは、酪農はこれだけ価値のある仕事のはずなのに、自分たちで価値を下げ、しかもその価値をうまく示せていない状態にあります。だからこそ、資格や仕組みで縛ることと価値を示すことの両方が必要だ、という主張です。
川上さんも「言われるとそうだ、否定はできない」と受け止めます。ただ、ここまで縛るのは現実には難しく、キリがない話でもある、と二人とも認め合っています。
命の重みと、やりがいのあいだで
議論は、牛の命の重みという観点にも及びます。タカノさんは、牛の命を重く捉えるなら、酪農家にも相応の資格や更新の仕組みが必要ではないか、と話します。
ただし、それを徹底すると乳量は絶対に出なくなる、とタカノさん自身が認めます。強く縛りすぎるとやりがいがなくなり、川上さんのように前向きに取り組む人ほど「死んでしまう」というのです。
だから川上さんのような人たちが、ある意味死んじゃうと思う。それをすると。
だからこそ、今を知った人たちが「こうしたらこうなるよね」と示しながら、いい感じのグラデーションで持っていくしかない、というのがタカノさんの着地点です。川上さんはこれに対し、「僕はそれを今必死でやってる」と応えます。
血統登録も近交回避も、資料にはきちんと書いてあり、牛群検定でも回避のための種を提案してくれる、と川上さんは指摘します。それでも響きにくい現状のなかで、川上さんはこうして音声で発信を続けているわけです。
血統登録から始めよう、という着地
最終的に川上さんが繰り返し願うのは、まずは血統登録をみんなにやってほしい、という一点です。人のできていないところを言い始めればキリがなく、言われた側も嫌な気分になる、と二人は自覚しつつも、それでも考えているなら考えているように示す時代だ、とタカノさんは語ります。
長い議論のあと、川上さんは「さて、やりますか」と搾乳に戻ります。タカノさんが「調子乗ってます」「睡眠針を打たれてました」と冗談を言い、和やかに締めくくられます。
最後に川上さんから、配信が良ければサポートやおすすめのお願い、質問はコメントやDM、SNS、質問箱で受け付けているとの案内があり、「酪農家の本業に支障が出ない程度に継続して頑張っていければ」と結ばれます。
まとめ
今回は、種牛カタログの遺伝病表記から始まり、ハプロタイプ、近交係数、そして血統登録の意味と日本の酪農の現状までを一気に語り合う回でした。技術的な話が、最後には「酪農という仕事の価値をどう守るか」という問いへとつながっていきます。
- 種牛の「TV」「TY」「TL」は、その牛が特定の遺伝病を保因していないことを示す表記
- ハプロタイプは同じ番号同士を掛け合わせると受胎・出産しない。6までしか分からないのは、それ以降は生まれてこないから
- 近交係数が1%上がると乳量が31kg減るなど、近交退化は生産性に直接響く
- レッドを使うと近交係数を大きく下げられるが、みんなが使うと効きにくくなる
- 回避の第一歩は血統登録。登録がなければ原因も分からず、回避のしようもない


