SPOONに届いた「一部の牛乳にホルモンや抗生物質」という質問
今回のテーマは、SPOONという配信アプリに届いた1通の質問から始まります。
川上さん、牛乳について見ていたら、一部の牛乳にはホルモンや抗生物質が含まれる可能性があり、長期的な健康影響が議論されているって書いてありました。その一部ってどうやって調べられるんですか?
川上さんも、牛乳に関するいろんなアカウントをフォローしているそうで、「牛乳を飲むと健康被害になる」「牛乳を飲むと太る」といったショート動画が流れてくることがよくあると話します。
そうした研究の中には、ちゃんとしたものもあれば、調査対象が曖昧でエビデンスが弱いものもあるとのこと。ただ全体で見ると、ネガティブな研究より「牛乳は体に健康にいい」とする数の方が圧倒的に多いそうです。
だからこそ、ホルモン剤や抗生物質についても、川上さんの主観ではなく、これまで出ている研究をAIにも調べてもらったうえで答えていく、という進め方になっています。
日本の牛乳にホルモン剤は「入れたくても入れられない」
まず川上さんがはっきり言い切ったのが、日本の牛乳にはホルモン剤や抗生物質は入っていないということです。
その理由は、法律でホルモン剤の使用が禁止されているから。乳等省令 ── 牛乳や乳製品の成分規格や製造基準などを定めた国の決まり。現在は名称や運用が見直されている。番組内では「乳等命令」とも呼ばれています。によって使用が禁じられているため、そもそも販売もされておらず、手に入れようと思っても入手できないと説明します。
つまり、使いたくても使う手段がない、というのが日本の状況なんですね。
抗生物質の「休薬期間」と、検査に引っかかったときの重い代償
一方で、抗生物質はまったく使わないわけではありません。牛が病気になったときの治療には使われます。
ただし使った後には休薬期間 ── 薬を使ったあと、その成分が体からなくなるまで待つ期間。この間は牛乳を出荷しない。があり、この期間に出荷してしまった場合、毎日行われる検査に引っかかると牛乳が全量廃棄になります。
この「全量廃棄」がどれほど重いかを、川上さんは具体的に語ります。自分の牧場の牛乳が他の牧場の牛乳と混ざって全部廃棄になれば、その費用も、メーカーのタンクを止めた損害賠償や人件費まで負担しなければならないというのです。
この検査に引っかかると、全て牛乳が全部廃棄になりますので。廃棄になった場合、その酪農家さんがそれ全部負担しないといけない。
だからこそ酪農家は休薬期間を守り、残留がないか検査に出して合格したものだけを出荷しています。これが今の日本の国産牛乳の実態です。
デマの正体はアメリカとの混同?「rBST」という成長ホルモン
では、なぜ「ホルモン剤入り」というデマが出回るのか。川上さんは、アメリカなど海外の事情と混同されているケースが多いと指摘します。
海外ではrBST ── 牛に打つと乳の量を増やす作用のある成長ホルモン。アメリカなどで使われている。番組では正式名称としてこの名前が紹介されています。という成長ホルモンが使われています。牛は出産直後は乳量が多いものの、1年ほど搾ると減ってきます。その減ってきたタイミングでrBSTを打つと、乳を出すホルモンと同じホルモンが出て乳量が増えるのだそうです。
これは現在もアメリカで一般的に使われていて、大きな牧場ではよく使われているとのこと。一方で「ホルモン剤は嫌だ」という消費者の声もあるため、スーパーには「rBST不使用」と明記された牛乳も売られています。
日本でいうなんでしょうかね、有機農法でやってますみたいな、そんなイメージに思ってもらったらいいかなと思います。
アメリカで当たり前に使われていることから、「日本でも使われている」と誤解され、ホルモン剤入りの牛乳が日本でも売られていると思っている人がいる、というのが川上さんの見立てです。
もちろん日本ではrBSTは使用禁止。アメリカからの輸入乳製品も、日本に入ってくるときにしっかり検査されるため、残留のない安全なものだけが流通していると説明します。
「一部の牛乳」の正体と、数年に一度の全量廃棄事例
質問にあった「一部の牛乳」について、川上さんは2つのケースを挙げます。
1つは、海外製のチーズや粉ミルク、バターなどで「rBST不使用」の表示があるもの。「rBSTフリー」「ノンrBST」と書かれた商品を選べばいい、という話です。今は輸入代行で直接販売しているところもあるので、気になる人はチェックしてみてほしいと呼びかけます。
もう1つが、国内で数年に一度ニュースになる全量廃棄の事例です。過去には親牛に使ってはいけない薬が検出されて全部廃棄になったケースがあり、被害額はおよそ6億円ではなかったかと振り返ります。
島根県でも、抗生物質ではないものの殺菌剤入りの水が混ざった事例があったそうです。殺菌剤は煮沸すれば気化して飛ぶため飲んでも影響はなく、実際に飲んだ人にも悪影響は出なかったものの、損害賠償として島根県がおよそ4000万円を負担したといいます。
牛乳は検査回数が「農産物ナンバーワン」
川上さんが強調するのは、牛乳がとにかく検査の多い農産物だということです。
かなり牛乳はですね、検査が多い農産物一番と言ってもいいと思います。
搾るとき、タンクに入れる牛乳をタンクローリーに移すとき、乳業メーカーに入るとき、いろんな牧場の牛乳が混ざるクーラーステーション ── 複数の牧場から集めた生乳を冷やして一時的にためておく集乳施設。の段階、パッキング後、出荷時と、実に何度もチェックが入ります。
その回数はおよそ6〜7回。これだけ厳重に検査されたものが牛乳になっているので、国産の売られている牛乳は安心してほしい、というのが川上さんの結論です。
まとめると、日本の市販牛乳が安全な理由
ここまでの話を、川上さんが改めて整理してくれます。
- 日本ではホルモン剤の使用が禁止され、使おうとしても手に入らない
- 抗生物質の使用後は休薬期間があり、その間は出荷が停止される
- 休薬期間が切れても検査をクリアしないと出荷しない
- 検査体制が非常に厳しいので市販の牛乳は安全
気になる人は、製造元や裏の表示表をしっかり見て商品を選べば、より安心できる牛乳を選べるはず、とアドバイスします。
どうやったらこのデマなくなるのかなと思うんですけど、マジで信じてる人がめっちゃいるんですよね。
ただ、信じている人の投稿ばかり見ているから「たくさんいる」と感じているだけで、一般の人はそこまで思っていないのでは、とも話していました。
ホルモン剤は本当に悪者?川上さんが投げかける問い
後半、川上さんはややデリケートな話にも踏み込みます。技術も進化していて、成長ホルモンについての見方も一概ではない、というのです。
ホルモン剤を作る大手メーカーとして、除草剤ラウンドアップで有名なモンサントの名前を挙げ、その成長ホルモンはもともと牛が乳を出すときに体内で出るホルモンを、微生物を使って培養して薬剤にしたものだと説明します。
つまり牛から出るものを培養しただけで、しかも念入りに検査して出しているため、「ホルモン剤を使っていても大丈夫だと自分は思っている」というのが、2025年現在の川上さんの個人的な見解です。
そのうえで川上さんは、日本でも本当に牛乳が足りなくなったときには、安全性が担保された新しい技術を使う議論をしてもいいのではないか、と投げかけます。
たとえば、お乳が出なくなったり子宮の病気で赤ちゃんが産めなくなった牛は、今の状態だとそのままお肉になってしまいます。けれど成長ホルモンという選択肢があれば、もっと長生きして人間に貢献できるケースもある、と話します。
ただ、こうした話はすぐ叩かれてしまうため、日本ではなかなか議論できないのが現状だとも認めています。それでも、消費者に理解してもらって選択肢が増えるといい、という思いを繰り返し伝えていました。
リスナーのコメントと、経済動物としての牛への思い
配信の終盤では、リスナーからのコメントに答えていきます。「国産は安心」「ありがとう法律」といった反応に、川上さんは同意しながら応じます。
過去に海外でホルモン剤の使用によって子どもの乳がんが増えたという報告があったことにも触れつつ、そうした問題をそのままにするはずがなく、技術は進歩していると強調します。
それをそのままにしておくわけないので、普通。技術の進歩はどんどん進んでおります。ちょっとアップデートしてもらいたいんですね。
「牛への貢献なんて言い方がかわいそう」というコメントには、少し立ち止まりながらも、自分の考えを率直に語ります。
いや、でも経済動物なんで、どれだけその人間に貢献するかがこの牛の価値だと思ってるんで、僕は。
叩かれるかもしれないと前置きしつつ、飲んでくれる人がいるから搾っている、と酪農家として牛と消費者への感謝を口にしていました。
最後に、6月の牛乳月間にちなんだ「#牛乳で歌おう」企画も紹介。オープニングでも流れる「もう牛乳で乾杯」を歌ったり演奏したり、イラストを描いて投稿すると、川上牧場からプレゼントが当たるキャンペーンだそうです。
まとめ
SNSでよく見かける「牛乳にホルモン剤や抗生物質が入っている」という話は、日本の市販牛乳については当てはまらない、というのが今回の結論です。法律と厳しい検査体制、そしてアメリカとの混同という背景を知ると、牛乳への見方が少し変わるかもしれませんね。
- 日本ではホルモン剤の使用が法律で禁止され、そもそも手に入らない
- 抗生物質は治療に使うが、休薬期間と全量廃棄のリスクがあり、検査に合格したものだけ出荷される
- 「ホルモン剤入り」のデマは、rBSTが使われるアメリカの事情との混同が一因
- 牛乳は搾乳から出荷まで6〜7回も検査される、検査回数の多い農産物
- 川上さんは、安全性が担保された新技術の議論や、牛の生産寿命を延ばす選択肢についても問いを投げかけている




