東京出張の合間に、前日収録で届ける朝の配信
この日は3月13日の木曜日。晴天が続き、堆肥の注文もどんどん入る春らしい忙しさの中での配信です。
ただ川上さんは、この日から2日間の東京出張があって動けないため、これは前日に収録されたものだそうです。
出張の目的は、輸入精液協議会という会議への参加です。輸入精液 ── 牛の人工授精に使う海外由来の精液のこと。優れた種牛の遺伝子を国内の繁殖に活用するために輸入される。
海外の輸入精液をどういうランキングとか、どういう牛を輸入していくのか。あとそれを国内でどう普及していくのかみたいなのを話していこうかなと思います。
協議委員としてこうした場に関わり、翌日の金曜日もあちこちでミーティングをして、新しい活動につなげたいと話しています。
今日のニュースは「被ばく牛150頭を寿命まで」
この日のメインは、東日本大震災から14年というタイミングで全国ニュースにもなっていた、被災地の牛をめぐる話題です。
紹介されたのは「寿命まで世話を続けます」という見出しの記事。福島県浪江町で被ばく牛の世話を続ける「希望の牧場」の話です。
運営する吉沢さんがXでこれまでの月日を振り返ったところ、17万件のいいねがつくなど大きな話題になったといいます。
被ばくして商品価値がゼロになった牛たちが、今も150頭ほど生き残り、平均で15〜16歳ほどになっているそうです。
記事にはたくさんのコメントが寄せられていました。
被ばくしたせいで寿命を全うできるだなんて、何という皮肉なんでしょう。
肉牛になるはずだった牛たちが、寿命が来るまで広々とした大地の上でのんびり暮らしている。
人生を狂わせた震災と、牛をめぐる決断
記事では、飼い主が浪江町の現実についても語っています。震災前の人口は約2万1500人でしたが、戻ってきた人はその1割ほどだといいます。
住民票は残したままでも、今は墓参りに来るだけの場所になってしまった。自分たちのルーツ、根っこが根こそぎなくなってしまうような気持ちが、今も残っていると綴られていました。
牛たちをめぐる経緯も詳しく書かれていました。原発から20キロ圏内が立ち入り禁止になっても世話を続けていたところ、国から被ばく牛の殺処分の指示が出たそうです。
出荷先からキャンセルが続出し、商品価値はゼロに。それでも社長と話し合った末、牛たちを見捨てられないと殺処分を断ったといいます。
そして7月、被ばく牛約330頭を飼育する「希望の牧場」を立ち上げました。
お金にならない牛を長く飼うというのは本来ありえない話。ただ、お金とか経済の話じゃなくて、人間の心の問題として命をどう扱うか、ということを考えた結果です。
10年目の節目に個人運営へと変わり、支援が続かなくなる大変さもある中で、牛たちの寿命まで頑張り抜きたいと結ばれていました。
14年前の自分と、福島の人から聞いた「普通にしろ」
川上さんは14年前も酪農をしていて、津波の映像や、Xでつながる福島の農家さんの状況をリアルタイムで見ていたそうです。
島根に住んでいても、酪農資材が届かないなど震災の影響はあったといいます。そんな中で、今も印象に残っている言葉があると語ります。
福島の第一線に住む人から、Xで「普通にしろ」と言われたのだそうです。
普通にして、普通に経済を回すのが一番、被災地にとっていいことだから。
この言葉を聞いて以来、川上さんは災害があったときに何も変わらずに最大限自分ができることをやるのが、被災地にとって一番いいことだと考えるようになったといいます。
自分だったら殺処分を選ぶ、という酪農家の答え
ここから川上さんは、被ばく牛を飼い続けるという選択について、自分の考えを率直に語っていきます。
命を守りたいという思いも、その牛たちに価値を見いだす消費者がいることも理解できる。それでも、いざ自分がその立場だったらと考えると、正直な気持ちを口にします。
その理由は、牛が経済動物だという考え方にあります。人にメリットを与えることで、その命に価値があると捉えているからです。
牛は経済動物なので、人にメリットを与えて、それでこの子たちの価値があると思ってるので。
だからこそ川上さんは、殺処分を受け止めて再出発し、牛たちの石碑を建てて忘れないようにしている福島の農家さんの方が、自分の心境には近いのかもしれないと話します。
一方で、それはあくまで頭で考えた答えでもあります。
いざ自分がなったらと思うと、同じように判断が下せるかっていうと、難しいのかなとは思ったりしますけど。
「優しい人のおかげで命が守られた」への戸惑い
コメント欄には「優しい人たちのおかげで牛さんの尊い命が守られましたね」という声も届きました。川上さんはそういう受け止め方があることも認めつつ、少し違う見方を示します。
経済動物として、僕はそれは虐待的なものだと思うんですよね。賛否両論あるから怖いですけど、牛としては、僕はそれはダメだと思う。
もちろん、経済動物といっても可愛いと思ってしまう、愛玩動物として見てしまう側面もあるとも語ります。だからこそ譲れない一線があると言います。
お金がなくなったから途中で全部処分、そういう選択だけは本当にやめてほしい。それこそ牛たちの命を侮辱することになると強く話しました。
命の価値を、リスナーと一緒に考えたい
川上さんは、殺処分を選んで再出発しても、そこで終わりではないことにも触れています。
1日は悩んで殺処分を選んで、それから一生悩み続けるようになる。あの時の選択が良かったんだろうかって、一生思い続けるんだと思います。
その重さを背負いながら、それでも次に進んでいかなければいけないのだろう、と語ります。
最後に川上さんは、この問いをリスナーにも投げかけました。
人が価値を与えるべき動物に支援を続けながら、命を全うさせる
経済動物としての役割を踏まえ、決断を背負って再出発する
どちらが正しいと決めつけるのではなく、皆さんはどう考えるかを聞いてみたい、と締めくくっています。あわせて、被災地では人だけでなく牛たちも多くの被害に遭っていたことを知ってほしい、とも語られました。
まとめ
東日本大震災から14年のニュースを入口に、被ばく牛を寿命まで飼う牧場の話と、酪農家・川上さんの「経済動物の命の価値」への考えが率直に語られた回でした。答えを押しつけず、リスナーと一緒に考える姿勢が印象的です。
- 浪江町の「希望の牧場」では、被ばく牛約150頭が今も寿命まで飼育されている
- 川上さんは、いざ自分ならと考えると殺処分を選ぶと語り、その理由を経済動物としての命の価値に置いている
- 福島の人から聞いた「普通に経済を回すのが一番」という言葉が、川上さんの災害時の考え方の軸になっている
- どんな選択でも、お金がなくなったから途中でやめる、という扱いだけはしてほしくないと強く訴えている
- 命の価値をどう考えるか、リスナーの意見も募集している


