「全部ポジティブだった」と書いた10代の自分は何を守っていたのか?
ゲスト回3回目は、人生の出来事をポジティブとネガティブに分けて振り返るワークの話から始まります。西尾さんは、このワークを最初はうまく書けなかったと振り返ります。
西尾さんは学生の頃にも、別の名前で同じように人生をポジティブとネガティブに分けるワークをしたことがあるそうです。そのときは、どの出来事も結局ポジティブだったと書いていたといいます。
多分それ(つらい出来事)はネガティブと捉えたくない。全部が学びであって、みたいな。
西尾さんはこの記憶から、自己評価で大切なのはポジティブかネガティブかという結果ではなく、何をもってポジティブとし、何をもってネガティブとするかという判断の基準だと気づきます。
金岡さんは、10代の西尾さんがポジティブに転換しなければならなかった何かがあったのではないかと問いかけます。西尾さんは「強がってたなとも思います」と答え、結局はその人の原体験に立ち返っていくのだと話します。
金岡さんは、ポジティブに捉えていないと自分を保てない時期は誰にでもあると受け止めます。ただ、その状態のままだと、本当はネガティブに感じているのに、本当の感情がわからなくなってしまうと指摘します。
他人のネガティブが、支援者自身の感情に名前をくれる
本当の感情がわからなくなるという金岡さんの指摘に対し、西尾さんは保育の現場と対人支援の経験を挙げます。保育園では子どもが怒りや悲しみといったネガティブな感情をそのままぶつけてくれるといいます。
ネガティブな感情を投げてくれることで、それがもう自分の感情に名前を付けたりとか、共感できちゃう自分に気づいて、あ、嫌だったんだみたいな感じで。
西尾さんは、対人支援で自分の感情をもう一度キャッチし直す体験は、クライアント側だけでなく支援者側にも起きていると話します。
金岡さんはこれを、他の人が表出したネガティブを受け取ることで、自分の経験や感情にもラベリングできるようになることだと整理します。西尾さんは、似た出来事を相手はネガティブとする、では自分はどう分類するかと、もう一度立ち返るのだと補足します。
相手が感情を表出する
子どもやクライアントがネガティブな感情を投げてくれる
共感に気づく
支援者が「自分も嫌だったんだ」と気づく
自分を分類し直す
似た出来事を自分はどう捉えるかに立ち返る
価値観の形成
支援者自身のキャリア観につながっていく
金岡さんは、こうした体験は直接的ではないかもしれないものの、価値観の形成の仕方に影響を与えることで、支援者自身のキャリア観につながっているのではないかと話します。
感情に蓋をしてきた金岡さんが、価値観とつなげるまで
金岡さん自身にも、感情にアクセスできなかった時期がありました。幼少期に感情に蓋をしていたため、大人になって事実から自己理解を確かめていかないと、当時どう感じていたかを思い出せなかったといいます。
昔の私もポジティブ転換じゃないけど、あんまりポジティブ、ネガティブを感じてるんだけど、表現できなかった、認識できなかった子だったなと思いますね。
西尾さんは、対人支援を通してキャリア観が変わると聞いたとき、選択肢が増えることや考え方のアップデートを想像していたと話します。そのうえで、金岡さんにとっては感情面もキャリアにリンクしているのかと尋ねます。
金岡さんの中では、感情は価値観という言葉に結びついています。価値観が満たされれば嬉しく楽しく、満たされなければ悔しく悲しく切ない、という考え方です。
嬉しい、楽しい、気持ちいいといったポジティブな感情が出てくる
悔しい、悲しい、切ないといったネガティブな感情が出てくる
金岡さんは、価値観が満たされる働き方や仕事の目的といったWill ── キャリア理論でよく使われる「やりたいこと」を指す言葉。Can(できること)、Must(求められること)と合わせて整理されることが多いの面だけでなく、Canの面で自分の個性が生かされているかどうかも、感情に表れると考えています。
名前のなかったモヤモヤは、どんな悔しさだったのか?
金岡さんがキャリアチェンジをする前は、そうした感情に名前をつけられず、モヤモヤしてうまくいっていない感じだけがあったそうです。
支援を受けて言葉にしていくと、そのモヤモヤの正体が見えてきました。求められることにできることが追いつかないこと、そしてすぐやってみてトライアンドエラーで進めたい性質なのに、失敗が許されない正確性重視の仕事だったことです。
仕事ができなくて悔しいなではなくて、はまらないことを繰り返していて、でもその場にとどまり続けなきゃいけないのが悔しいなみたいな。
金岡さんは、そういう悔しさもあると感じられるようになったことで、大変でも上の人に直談判してまで環境を変えたほうがいいかもしれない、という行動につながっていったと振り返ります。
名前のつかないモヤモヤ。うまくいっていない感じだけがある
「はまらない場にとどまり続ける悔しさ」と言葉になり、直談判して環境を変える行動へ
キャリア選択は人生ゲームのマス決めになっていないか?
金岡さんの話を受けて、西尾さんはキャリアを考え直すときの出発点は感覚や感情のはずだと話します。それなのに、転職やキャリアを考え始めると、一気に人生ゲームのマスを決めるような感覚になるといいます。
感情で始まった問題のはずなのに、決める時には感情を持ってきてない。
西尾さんは、感情を「変わりたい」という言葉に濁らせ、焦りの要因として扱い、感情から逃げるように次を決めるのがキャリアチェンジだという一面もあるのではないかと語ります。そして、自分自身もまだその見方をしている時があると認めます。
感情はわがままや幼いものとして扱われがちだと西尾さんは指摘します。それでも、人生の舵を切るうえではとても重要なコンパスであり、金岡さんの言う「感情が価値観に結びつく」という話に腹落ちしたと話します。
金岡さんも、感情に不器用だった自分は昔、感情をネガティブなものとして見ていた時期があったと応じます。心理学を学ぶ中で、感情は価値観を表すセンサーのような機能をしていると捉えるようになってから、自分の感情に少しフォーカスできるようになったといいます。
感情と向き合うのはしんどくなかったのか?
西尾さんは、金岡さんにとって自分の感情と向き合うステップはしんどくなかったのかと尋ねます。
いや、今でもそんな得意ではないと思いますし、その向き合いきれてるかっていうと向き合いきれてない感じは、支援者なのに、思うかもしれないですね。
それでも金岡さんは、キャリアや生き方、働き方の意思決定を自分でしなければならない場面では、感情は避けて通れないと考えています。西尾さんも、感情を避けて通る人は多いと思うと応じます。
金岡さんは、感情を避ける傾向は男性に多いかもしれないと話します。一方で、感情的な自分が嫌で、意図的に感情を排して論理的に考えようと振り切っている女性もいるかもしれないと付け加えます。
結婚・出産を経た女性のキャリアは「生き方」の問いになる
西尾さんは女性側の視点として、感情に振り切らずにキャリアを考えているうちに、結婚・妊娠・出産を経て、言語化しないまま価値観が変わっていくケースを挙げます。
自分が女性として、母としてどう生きたいのかっていう状態で対人支援の場に来る方も多いなと思っていて。
西尾さんによると、男性は家族との時間を考えながらも一貫してキャリアをどう築くかを考える傾向があるのに対し、女性は視点がガラッと変わります。それが「女性は感情、男性は論理」という話にもつながるのではないかと話します。
金岡さんは、命を身ごもり仕事を中断せざるを得ないという女性特有のライフイベントがあることと、論理と感情のどちらに比重を置きがちかという傾向の掛け合わせがあるのだろうと応じます。
「キャリア」という言葉より生き方の視点を
西尾さんの「キャリアって深いですね」という言葉を受けて、金岡さんは、キャリアという言葉そのものがしっくりこない人もいるのかもしれないと話します。
金岡さんによると、キャリアという言葉からは、男性的で論理的に積み上げるもの、途切れてはいけないものを連想する人もいるかもしれません。金岡さん自身は、キャリアは働き方の軌跡であるワークキャリアだけでなく、ライフキャリアも含むものだと考えています。
妊娠、出産、一旦育児に専念する期間が入ったとしても、その人なりの、なんならもっと面白いライフキャリアになっていくかもななんて思っているので。
金岡さんは、キャリアをテーマにした番組として、こうした生き方の視点をもっと発信していきたいと話します。
西尾さんは、自分がキャリアを人生ゲームのように「選択するもの、次を決めていくもの、ステージ的なもの」と捉えていたことに気づかされたと語ります。まだ答えは出ていないものの、キャリアという言葉の違う面を探そうとしているといいます。
転職CMに映らない、その人のストーリー
西尾さんは、焼肉を食べながら「もうちょっと給料上がらねえかな」とこぼすような転職のCMを例に挙げ、そこでは感情が無視されていると感じると話します。
その背景にはもっとこう、生き生きしたいのにとか、自分これを大事に生きていきたいからとか、その人のストーリーがあるはずなんですけど。
そのストーリーを持って次の道や身を置きたい空間を考えると、キャリアは未来の話だけではないと西尾さんは気づきます。
キャリアの語源は「轍」、走ってきた跡だった
金岡さんは、転職CMを含めて、キャリアという言葉には未来を想起させる刷り込みがあるかもしれないと話します。
一方で、英語のキャリアは本来、車輪や轍を意味する言葉だと金岡さんは説明します。轍とは走ってきた跡、つまり軌跡であり、言葉としては実は過去を指しているといいます。
金岡さんは、キャリアアップや転職といった言葉と一体化しているために、キャリアが先のことに焦点を当てがちな言葉になっていると気づいたと話します。
西尾さんは、轍という捉え方から、今への不満からこれまでを否定して次へ進むのではなく、これまでがあっての、じゃあどうしていくのかという見方を感じたと応じます。
キャリアアップや転職など、今への不満から次の未来を決めるもの
走ってきた軌跡であり、これまでを踏まえてどうするかを考えるもの
金岡さんは、対人支援では相手の人生の轍に長い時間向き合うため、自分のキャリア観も、過去にどんな歩みをしてどんな見方を形成してきたかを踏まえて、だからどうするかを描く方向へ自然と変わってきたのかもしれないと振り返ります。
一番刺さったのは「感情」の話
対話を終えるにあたり、金岡さんは西尾さんに一番のポイントを尋ねます。西尾さんは、雷が落ちたように響いたのは感情の話だったと答えます。
当てずっぽうに環境を変えるんじゃなくて、じゃあこの感情が満たせる次の場ってどこだろうっていう。
西尾さんは、キャリアの行動や選択では感情が置いていかれがちだが、実はとても大事だという点が刺さったと話し、それは金岡さんの実体験があったからこそ納得できたといいます。
金岡さんは、その気づきは西尾さんの共感性の高いものの見方から来ているのかもしれないと返します。共感性について問われた西尾さんは「2位です」と答えています。
生活音ごと届けるゲストの番組『おりょうの盛大なひとりごと』
最後に金岡さんは、西尾さんの番組『おりょうの盛大なひとりごと』を紹介します。今回の対話での西尾さんの語りは片鱗にすぎないとわかる語り口で、とても面白いといいます。
これ誰も聞いてないよなっていうのを信じて。本当に独り言を録ってるんで、生活音が。
金岡さんは、キッチンの音が入っているような収録をそのまま世に出すのは、見られ方を気にしていないからこそできることで、ノー編集なところが好きなポイントだと話します。西尾さんは、金岡さんとの収録の感想も生活音とともに録りたいと話し、3回にわたるゲスト回は締めくくられました。
まとめ
今回の対話は、人生をポジティブとネガティブに分ける話から始まり、感情は価値観を映すセンサーであること、そしてキャリアは未来を選ぶマス目ではなく、これまでの轍を踏まえたちょっと先なのだという見方へと広がりました。
- 何をポジティブ・ネガティブとするかという判断基準にこそ、その人らしさが表れる
- 対人支援で相手の感情を受け取ることが、支援者自身の感情や価値観を言葉にするきっかけになる
- 感情は価値観が満たされているかを知らせるセンサーで、キャリアの意思決定では避けて通れない
- キャリアの語源は「轍」であり、過去を否定せず、これまでを踏まえて次を描くという視点がある




