そもそも経営者の「闇落ち」とは何を指すのか
この回のテーマは、宇尾野さんが「誰にも言えない経営者の闇落ち問題」と呼ぶ現象です。経営者自身の変化が、組織にどう影響するかまで踏み込んで語られます。
宇尾野さんによれば、闇落ちとは経営者が孤独や承認欲求を強く抱え、周りがそれを指摘してくれないがゆえに、本人が思ってもみなかった態度や発言が目立っていく状態を指します。
話の出発点として2人が思い浮かべたのが、ある自動車メーカーの外国人社長が会社の資金を私腹のために使い込んだとされる事件です。典型例として挙げられました。
池原さんは、承認欲求があること自体は誰にでもあり、大きなビジョンを描いて実現するのは経営者の役割だと前置きします。問題視するのは、企業のガバナンスやコンプライアンスに影響するレベルの闇落ちだと整理しました。
宇尾野さんは、意図して見せ方を変えているならまだよいと言います。問題なのは自覚のなさだと強調しました。
ご本人の自覚のないところで高圧的になられたりとか、独善的になられたり、もしくは本人自身がすごく疑心暗鬼になってしまうみたいなところが、闇落ちの一つの定義かなと。
さらに宇尾野さんは、闇落ちを個人の悪意ではなく構造のリスクとして捉えます。
SNSは経営者にとって闇落ちの「関門」になる
宇尾野さんは、闇落ちが表れやすい場としてSNSを挙げます。強い言葉で罵り合ったり、分かりやすくディスり合ったりする様子は、暴徒化しているように見えると言います。
お互いが台本を持って自覚的にやっているなら別だが、どこまで自覚的なのかが、闇落ちしているかどうかの分岐になると宇尾野さんは指摘しました。
池原さんは、経営者のSNSの使い方が闇落ちの関門になりうると受けます。強い言葉での批判や、言ってはいけないことをつい漏らして後で大問題になる例を挙げました。
宇尾野さんは、実際にあった話として、会社の業績が安定ないし陰ってきた一方で、SNSやYouTubeでは強い言葉のほうがインプレッションもいいねも伸びる、という状況を語ります。
会社経営ではなかなか結果が出てないんだけど、そういう外で経営者同士の関係性でSNSが盛り上がるみたいなことに、どんどんそっちにのめり込んでいって、気づいたら暴徒化していく。
この例では、当事者が途中で気づき、SNSと距離を取り更新頻度を落として自ら抜け出せたそうです。ただ、宇尾野さんは、自分でその構造に気づき脱するのは相当難しいと付け加えました。
池原さん自身も、それまで中立的だった人が急に誰かを強い言葉で一方的に批判し、人格批判にまで及ぶ投稿を見ると、気をつけないといけないと感じるといいます。
宇尾野さんは、闇落ちの渦中かどうかを測るポイントとして、怒りの沸点が下がっている点を挙げます。
沸点が下がるプラス、それを発信しちゃうハードルも下がっちゃう。
そこが重なっちゃうと、かなり手に負えないというか。
この「怒りやすさ」と「発信しやすさ」が重なると手に負えなくなる、というのが2人の見立てです。宇尾野さんは、これはSNSに限らず、社内でも「あの人変わったな」という形で表れると言います。
以前は流せたことにも強く反応し、怒りやすくなる
その怒りを、レビューを経ないまま外に出しやすくなる
経費の私物化とイエスマン、闇落ちを加速させる構造
コミュニケーション以外の闇落ちパターンとして、池原さんはお金の使い方を挙げます。会社の経費をまるで自分の財布のように使ってしまうケースです。
池原さんは、個人のお金の使い方は自由だと前置きしつつ、急に全身をブランド物で固め、それで偉くなったような態度になると、何か起きているのではと感じると話します。
宇尾野さんは、こうした変化を、自分自身への矢印が強くなりすぎた状態と説明します。健全な自己愛ならよいが、病的なナルシシズムに近づくと気づきにくく問題化すると言います。
そのうえで宇尾野さんは、より本質的なのは個人ではなく構造の問題だと強調します。強いリーダーほど同調者やイエスマンが集まり、欲しい情報だけが届くようになるからです。
池原さんは、経営者はそもそも闇落ちしやすい役割の中にいるのではないかと問いかけます。孤独で相談しづらく、人に指示する立場で、お金や時間のプレッシャーがあるからです。
前回のテーマにあった「減圧装置」を引きながら、池原さんは、プレッシャーを抜く手段がないとコロッと反転して転がり落ちると指摘しました。
経営者の立場
孤独・指示する側・お金と時間のプレッシャーが重なる
同調者が集まる
イエスマンが増え、耳の痛い情報が届きにくくなる
エコーチェンバー化
欲しい情報だけが集まり、自己認識のズレが拡大する
闇落ちの加速
高圧的・独善的・疑心暗鬼な変化に拍車がかかる
破産する前に、手前でストッパーをかけられるか
池原さんは、闇落ちした経営者が気づくのは、破産してすべてを失ってからというケースが多いと言います。そうなる前に、手前のストッパーがないかと問いかけました。
宇尾野さんは、自身を振り返り、闇落ちはしていないが「このままいったらしていたかもしれない」と感じた時期を挙げます。相談相手がいなかったり、「大丈夫?」と声をかけられる機会が減っていた時だと言います。
その経験から宇尾野さんが挙げるのは、普段の自分を知っている人との定期的な対話です。今の自分と普段の自分のズレを指摘してくれる人が周りにいるかどうかで、大きな差が出ると話します。
池原さんも、昔知り合いの経営者が急に変わり、お金の使い方や周囲への反応が過剰になったのを何人か見たと語ります。しかし、その相手にそれを伝えるのは難しいと言います。
それをなかなか言えないですよね。「あんたちょっと闇落ちじゃない?」とも言えないので。
怒りの沸点下がってますからね。
だからこそ宇尾野さんは、あえて耳の痛いことを言われる仕組みをつくることを提案します。社外取締役やメンター、コーチと定期的に対話し、そこで指摘を受ける状況をつくるという考え方です。
宇尾野さんは、指摘は誰から言われるかも重要だと言います。よく知らない人からより、関係を築いてきた相手からのほうが届きやすいからです。
耳の痛い話をちゃんと言ってくれる機会を作るっていうのは重要だなと。
池原さんは、闇落ちしかけているとその意見も届きにくくなると補足します。だからこそ「外部の愛のある批判者」と、自分のメタ認知を取り戻す場の両方が要ると話しました。
休息や回復を「商談と同じ重要度」で仕組みにする
池原さんは、前回の燃え尽きの話にも触れつつ、プラスの空白期間がないと「やばいな」というポイントに気づけないと言います。宇尾野さんも、気づくための時間の余白や休息の大切さを受けます。
宇尾野さんが提案するのは、休息そのものを経営のインフラとして枠取りすることです。余裕があったらマッサージや旅行に行くのではなく、あらかじめ予約しておく発想です。
新しい商談と同じぐらい重要なものとして、最初からあらかじめそういうものを月に1回とか、ちゃんと回復自体を仕組み化するみたいなことは非常に大事。
池原さんは自分を振り返り、お金の不正はないが、メンタル的な闇落ちはあっただろうと認めます。だからこそ、自分が落ちていくパターンを見出しておく必要があると話しました。
宇尾野さんに落ちていくパターンを問われ、池原さんは、トラブルが重なって余裕がない時や、体調やコンディションに左右される時だと答えます。ただし、単なる疲れとの境目は分かりにくいと付け加えました。
SNSについて池原さんは、ポリシーとして他者の強い批判はしないと決めていると語ります。自分の弱さを出すのはよいが、他者について書くときは特に慎重になるべきだと言います。
誰かをディスって自分を上げるってことはしたくないなと思ってます。
宇尾野さんは、SNSは自分で作って自分で投稿するため、途中で「それダメだよ」と言ってくれる人がいない点が危ういと指摘しました。
地位と自分を同一視しない、役割は預かったバッジ
宇尾野さんは、経営者という立場そのものが闇落ちの理由になりうると指摘します。会社の規模や地位が上がると、人間として傲慢になり、自分が大きくなったように感じるからです。
実際大きくなったのは自分の器じゃなくて、会社が大きくなっただけみたいなケースもある。
宇尾野さんは、自分の地位と自分自身を過度に同一視してしまうと、会社の成長が態度に表れると言います。よく見かけるシチュエーションだと話しました。
池原さんは、会社が上り調子で大きくなっている時こそ戒めが必要かもしれないと応じます。
宇尾野さんは、人事制度の設計にもこの考えを持ち込むと言います。役割等級や執行役員の任用を議論する際、役割は一時的に預かっているバッジのようなものだと位置づけます。
宇尾野さんは、社長も一つの役割にすぎず、もっと適した人が来ればバトンを渡すという形を制度的に担保すると言います。社長がそれを語ること自体が、自分への戒めにもなるという考えです。
池原さんは、聞いている人も、自分にとっての闇落ちが何か、落ちたらどこまでのリスクが起きるかをイメージトレーニングしておくとよいと提案しました。段階的に「今ここまで来た」と見えるようになるからです。
宇尾野さんは、個人でできるセルフチェックの観点を挙げます。休息が取れているか、本気で叱られるようなネガティブなフィードバックをもらっているか、周りの忖度が増えていないかです。
宇尾野さんの闇落ちは「逃避」、その手前の小さな逃げ
池原さんは、宇尾野さんが闇落ちする先を想像できるかと尋ねます。宇尾野さんは、自分の場合はおそらく逃避すると答えました。
逃げちゃう。もう大野さん(宇尾野さん)会社に来なくなっちゃう。
なんかいなくなったぞみたいな。
宇尾野さんは、その完全な逃避の手前に、小さな逃げのサインがあると言います。ミーティングを翌週にリスケしたり、発信予定を少しずらしたりと、自分の締め切りを無意識にずらす動きです。
一方、体力があってメンタルが充実している時は、そうした先送りはせず「今日はこれ全部やるぞ」となるそうです。この差が、自分の状態を測る手がかりになります。
池原さんは、自分にとっての闇落ち路線を描き、最悪のところをイメージすると、その手前が見えると整理します。宇尾野さんも、締め切りが重なって仕事が苦しい状態が、自分の場合のサインかもしれないと語りました。
そして宇尾野さんは、その状態が積み上がると、ある時プツッと切れて来なくなるのかもしれないと言います。だからこそ、そうなる前の予防が重要だと2人は確認しました。
宇尾野さんは最後に、誰も自分に何も言わなくなった時が一番危ないシグナルだと強調します。会社の制度でフィードバックをもらう機会を作ったり、メンターを置いたりすることを勧めました。
池原さんは、見た目を出して発信していこうという前回のテーマと、発信で痛いことを言うと闇落ちするという今回のテーマの対比に触れ、そのバランスの難しさを振り返りました。
影響が大きい分、慎重にならないといけないし、考えすぎでもダメだしっていう、ちょっとグルグルっとしたような回でしたね。
まとめ
この回は、経営者の闇落ちを個人の資質ではなく立場と構造のリスクとして捉え直し、破産や不正で全てを失う前に効く手前のストッパーを考える内容でした。怒りの沸点や発信のハードルの低下、経費の私物化、イエスマンによるエコーチェンバーが危険な兆候として挙げられました。
- 闇落ちは、自覚のないまま高圧的・独善的・疑心暗鬼になっていく状態で、もともと悪人だからではなく立場と構造が生むリスクである
- SNSは闇落ちの関門で、怒りの沸点が下がることと発信のハードルが下がることが重なると手に負えなくなる
- 耳の痛いことを言われる仕組みとして、社外取締役やメンターと定期的に対話し、関係のある相手から指摘を受ける状況をつくる
- 休息や回復そのものを、商談と同じ重要度であらかじめ予約し、仕組み化する
- 役割は一時的に預かったバッジにすぎず、誰も自分に何も言わなくなった時が一番危ないシグナルである




