共同創業は多いのか、日本と海外の実態
今回のテーマは、共同創業者との関係をどう育てていくかです。一人で起業する人も多い一方で、友人や兄弟と株を分け合って始める共同創業も少なくないという実感から話が始まります。
宇尾野彰大さんは、実際にどれくらい共同創業が多いのかを調べたものの、はっきりした統計は見つからなかったと話します。ただし創業時の人数についてはデータがあるといいます。
そのデータによれば、日本の会社経営のスタートは7割が一人で、つまり最初は雇用せずに始めているとのことです。海外のスタートアップに絞った統計でも、単独創業は4割弱ほどだと紹介されました。
AI時代に一人で事業を回すソロアントレプレナーという言葉も出てきており、最初から共同経営で始める会社は意外に多くないのが実態だといいます。
一方で、宇尾野さん自身の周囲では共同創業や共同経営をしている人が増えている実感もあると付け加えています。
5人で創業、2人で創業──2人のリアルな出発点
宇尾野さんは、なんと5人で共同創業したと明かします。3人や4人でも珍しいなか、5人という人数感はほとんど聞いたことがないと、池原さんも驚きます。
5人でスタートしたんですっていうのが、すごいでしょうと、いうのをですね
宇尾野さんは、5人での創業がチームづくりの学びになり、共同経営をどう進めるかを深掘りする自分たちのバックグラウンドにもなっていると話します。
池原さんは、共同創業のメリットとして、財務に強い人とプロダクトに強い人のように能力や経験を補完し合えること、創業初期の大変な時期を支え合えること、リスクが分散されることを挙げます。
その一方で、難しさもよく聞くといいます。株の配分にもよるものの、意思決定の遅れや対立、そして最初は良くても本人たちの指向性がだんだん変わってくる分岐点があるのではないかと問いかけました。
宇尾野さんは、前職も前々職も共同創業者がいる会社で働いていたと明かし、外から共同創業を見てきた経験も、自分が渦中にいた経験も両方あると話します。
池原さん自身も、今の会社は途中で社名が変わり事業もピボットしているものの、一番最初は2人での共同創業だったと明かします。あまり知られていないため、このテーマには自分にとっても趣があると語ります。
うまくいく時とこじれる時を分ける「コミュニケーションの総量」
池原さんは、創業のきっかけは気が合ったり目指すものが一緒だったりすることが多いとしたうえで、関係性が良い意味でも変わったと感じるフェーズはあったのかと尋ねます。
宇尾野さんは、一緒にやっていたメンバーは向かうゴールが一致していて、人事と事業という職能も近かったと振り返ります。指向性そのものは今も変わっていないといいます。
ただし、働くことへのスタンスや指向性が同じでも、スピード感や強み・弱みは人によって違うと指摘します。ゴールを中心に考えると、少し遅れる人や別の道から行きたい人が出て、そこにズレが生まれたり、再編成しようという話が出たりしたのが自身の原体験だと語ります。
池原さんは、スタートアップの失敗に関するデータを紹介します。
池原さんは、失敗しないために心がけてきたコミュニケーションについて尋ねます。宇尾野さんは、うまくいっていた時とズレが出る時では、コミュニケーションの総量がだいぶ違うと答えます。
宇尾野さんは、阿吽の呼吸で伝わっているだろうというコミュニケーションが希薄になると、伝わるものも伝わらず、ズレたままになってしまうと説明します。
それぞれが今こんなことを思ってるよ、内々でみたいな話をちょっと食事しながらとかっていう場面がやっぱり少なくなっていくと
会議体はあっても、そこは報連相のようなテーマで閉じられがちだといいます。それぞれが今何を思っているかを内々で話す時間が減っていくと、徐々に不和の方へ偏っていったと振り返ります。
そのため、チームの目線を上げ直したい時や関係を固め直したい時には、サシで食事に行くなど、内々の話ができる時間を意識して取ることを大事にしてきたと話します。
関係性という土台と、役割・権限の設計は分ける
池原さんは、自身は2人での創業だったと振り返り、関係性という土台の部分と、役割・権限設計という次のフェーズの部分は、配分をはっきりさせておかないと難しくなると指摘します。
池原さんの場合、相手が2〜3回目の起業に慣れた人で、右腕として権限設計をしっかりしようとしてくれたといいます。決めるのは社長の自分、遂行するのは相手、という役割がはっきりしていたと語ります。
逆に、どちらが何を決めるのか曖昧なまま始めると難しくなると池原さんは言います。株主間契約的な実務、つまり役割・責任・権限・利益配分をしっかりしておくことが大事だと述べました。
宇尾野さんもその通りだと同意し、創業者間契約や株主間契約の話を持ち出します。前職ニューズピックスやユーザベースの社長である稲垣さんから、それだけはちゃんと結んでおけと言われたと明かします。
(稲垣さんから)ちゃんとそれ(創業者間契約・株主間契約)結んどけと。それだけやっとけという
宇尾野さんは、意見が割れた時にどうするかをしっかり決めておけと言われたと振り返ります。共同創業者や共同経営者の近くにいる人は、そうした契約が結ばれている前提で見てほしいと語ります。
5人が5人とも違うことを言う──役割分担で意思決定が速くなった
池原さんは、これから起業する人や、一人では心細いから誰かと分担したいと考える人に向けて、役割分担や株の持ち分の決め方を尋ねます。曖昧にせずはっきり決めた方がよいのではないかと問いかけました。
宇尾野さんは、それに通じるエピソードを紹介します。5人の中だけならズレは起きづらいものの、周りに関わる人が増え、大事な意思決定を置くと、5人が5人とも違うことを言うといいます。
極端な五人違うこと言うんですよね。五人違うこと言うこと自体は多様性があっていいじゃないというふうに思う反面
宇尾野さんは、多様性があるのは良い反面、質問した側からすると時間がかかり、決めるべきものが進まなくなると語ります。そこで初めて、5人という体制を変えようという話になったといいます。
具体的には、人数を絞ったり、このテーマはこの人がやると委譲したりする形に変えたところ、意思決定がかなり早くなったと振り返ります。
池原さんは、株を一番多く持つ人が決めるというより、分担的な形になっているのかと確認します。宇尾野さんは、一般的なCXOの役割分担に近い形だと説明します。
宇尾野さんは、このテーマはこの人が決めた方が精度も高く、コミットもできるという形で分けたと語ります。共同創業者であり共同経営者でありながら、決める領域に色を付け替えたことで、スムーズに進むようになったといいます。
(役割分担も)うまくいかないな、こういうのってっていうのがあった上で決めれたのは、納得感が高かったのかなっていうふうには私は思ってますね
うまくいかない原体験があったうえで対話して決めたからこそ、納得感が高かったと宇尾野さんは振り返ります。ただし、綺麗に着地したのか、美化された記憶かもしれないと笑いながら付け加えています。
本音でぶつかれたか──遠慮と配慮のあいだ
池原さんは、相手に起業経験が豊富で阿吽で分かっていた部分がありつつも、事業が増えたり進む道を絞ろうとする時に、思考性の違いはどうしても出てきたと振り返ります。
そのうえで池原さんは、本音でぶつけ合えたかというと、そうではなかった部分もあったのではないかと反省を口にします。お互い遠慮してしまうこともあったといいます。
遠慮であり配慮でありというか、(あの領域は)あの人がやるって言ったしみたいなところで、ちょっと一瞬見守るみたいな感覚とかもあります
池原さんの場合は、2人で創業して2〜3年ほど一緒にやったのち、お互いやりたいことが違うと分かり、一旦それぞれ別の道を行くことになったと明かします。
共同創業者と共同経営者は違う
宇尾野さんは、今も西村さんをはじめ創業メンバーと一緒にやっていると話します。共同経営者としてスタートしたメンバーも、完全に外に出たわけではなく役割を変える形で、事業人と関わり続けているといいます。
もともと全員が副業・兼業でスタートした経緯もあり、兼業先と一緒にやるスタイルで、関係は良好だと語ります。ただし、同じテーマで膝を突き合わせていた頃の時間のかけ方はだいぶ変わったといいます。
池原さんは、共同創業者と共同経営者はやはり違うと指摘します。共同経営者は創業期を過ぎてから一緒に経営するフェーズで加わる人を指すのに対し、共同創業者は0円からのスタートだと語ります。
収入もない、お客さんもない、よくわかんない段ボールの箱から始まったみたいな、あるじゃないですか
池原さんは、フルタイムで全振りしてコミットできるか、無給や低収入で働けど働けどゼロという苦しい時期を持ちこたえられるかが問われると語ります。そうした仲間に出会えたことをありがたかったと振り返ります。
宇尾野さんは、その苦しい時を乗り越えて発展期まで一緒に来られたことについて、共同創業者、特に初期メンバーが持つ価値を語ります。
宇尾野さんは、一瞬経営から離れても、会社の歴史や判断の哲学を理解している人との関係は変わらず大事にしたいと語ります。
2人は、お金が儲からないのにフルタイムで一緒に世界を変えようとする仲間に出会えることは、なかなかない奇跡的なことだと語り合います。高校の同級生という縁で共同創業に至る例なども挙がりました。
こじれた時は夫婦の離婚に近い──お金・株・知財が絡む関係
池原さんは、円満に一緒に発展していくケースもあれば、途中でやりたいことが変わって別々の道を行くケース、さらにもっと大変なことになってしまうケースも見聞きすると話します。
共同創業は特にお金が絡むため、こじれるとドロドロ化して大変だといいます。池原さんは、そうしたケースへの介入があるのかと尋ねました。
宇尾野さんは、共同代表のうち片方は関係を解消したい、片方は維持したいというシチュエーションがあると答えます。これは夫婦の契約関係に似ていると語ります。
別れたい、別れたくないの、あの感じですね
宇尾野さんは、関係を変えたい側からすると、お金や株の分担について「あの時ああ決めなければよかった」という付帯条項が後から降りかかってくると説明します。だからこそ夫婦に近いといいます。
宇尾野さんは、自分たちが直接できることは多くないとしつつ、経営者の心の支えになったり、プロセスを乗り越えるシナリオプランを一緒に作ったりすると語ります。組織や人事のテーマで介入する場合もあるといいます。
池原さんは、雇用関係以上に株・利益・資産・知財といった法的な絡みが多い関係だからこそ、複雑になりやすいと整理します。
株・利益・資産・知財など法的な絡みが多く、こじれると夫婦の離婚に近い複雑さになる
雇用関係が中心で、共同創業者ほど株や資産をめぐる複雑さは生じにくい
初期にワーストシナリオを話しておく
宇尾野さんは、こうした話が世の中に広がってきているとしたうえで、共同創業する場合は初期にワーストシナリオを話しておくことが大事だと述べます。
池原さんは、共同創業を選ぶ際のチェック項目として、論文などに必ず入っているのが「対立した時の向き合い方」だと紹介します。しんどい話を早めに切り出せるか、溜め込むか、議論して決めたいか、落ち着いて対話したいか、といった点です。
池原さんは、こうした好みは小さなところから積み重なるため、最初から話し合っておくことがポイントかもしれないと語ります。
結婚前カウンセリングに学ぶ「共同創業前カウンセリング」
池原さんは、アメリカのプリマリタルカウンセリングを例に挙げます。結婚前に専門のカウンセラーのもとで、これから起きうるトラブルについて話し合う練習をする領域だといいます。
池原さん自身も夫と半年ほど受けた経験があると明かします。起きるかどうか分からないテーマをカウンセラーが出し、それを話す練習やお互いの好みのすり合わせをしたといいます。
共同創業者もなんかそういうのがあればいいのになって今ちょっと思いました
宇尾野さんも同意し、経営においてそうした役割を積極的に担う人は日本にほとんどいないだろうと語ります。株主や投資家の中に特性としてできる人はいるかもしれないとしつつ、認知はまだ広がっていないと述べます。
2人は、カップルカウンセリングになぞらえた「共同創業前カウンセリング」があれば分かりやすいと語り合います。周囲にそうした人がいれば、仮想で対立場面を話しておくことを勧められるのではないかと話しました。
一人で始める人にも、外に支えてくれるパートナーを
最後に宇尾野さんは、共同創業者は渦中にいないとイメージしづらいテーマだったとしつつ、池原さんに感想を尋ねます。
池原さんは、こういう人がいると頑張れると改めて思い、感謝していると語ります。これから共同創業したい人には参考にしてほしいと述べます。
一人でやる方もね、会社の中ではなくても、外に自分の気持ちを支えてくれるパートナーがいるといいかもしれないですね
宇尾野さんも、一緒にやる仲間がいなければ自分もスタートしていなかったと振り返ります。形は変わっても、彼らと一緒にやったことが自分の自負になっていると語ります。
宇尾野さんは、今でも「こういう時あいつだったらどう思うか」と、頭の中にミニ○○さんがいると話します。そうした関係を作れたことは非常に良かったと締めくくりました。
まとめ
共同創業は、能力の補完やリスク分散といったメリットがある一方で、関係がこじれると夫婦の離婚に近い複雑さを抱えます。2人の経験からは、コミュニケーションの総量を保ち、役割・権限の設計と初期の取り決めを曖昧にしないことの大切さが浮かび上がりました。
- 日本の創業は7割が一人スタート、海外スタートアップでも単独創業が4割弱で、共同創業は意外に少数派
- うまくいく時とこじれる時の差は「コミュニケーションの総量」。報連相で閉じず、内々の話ができる時間を取る
- 関係性という土台と、役割・権限の設計は分けて考え、創業者間契約・株主間契約は初期に結んでおく
- 5人が違うことを言うと意思決定が進まないため、テーマごとに「これはこの人が決める」と分けると速くなる
- 初期にワーストシナリオを話しておくことが重要で、結婚前カウンセリングのような「共同創業前カウンセリング」があるとよい




