相談に来る経営者に共通する「積み上げでは描けない」という感覚
今回のエピソードでは、経営者が予測の難しい時代に未来とどう向き合うかがテーマに置かれました。まず宇尾野さんは、山崎さんに相談してくる経営者たちに共通する傾向を尋ねます。
山崎さんは、自分のところに来る経営者はクリエイティブやデザインの力を信じている人が多いと前置きしたうえで、その根底にある感覚を語りました。
イノベーション、非連続な発展、驚き、デザインの力。言い方はさまざまでも、山崎さんによれば経営者たちの言っていることは基本的に一緒だといいます。
やっぱりこうジャンプする必要がある、このまんまの積み上げではいけないっていうふうに思ってる人が多い
なぜデザイナーは「違う方」を選び続けるのか
宇尾野さんは、非連続性を作る経営とはどういうものか、山崎さんの中に共通する考え方があるかを尋ねます。
山崎さんは、非連続な思考を自前で持っている経営者はとても少ないと前置きし、だからこそ自分たちのような存在が呼ばれるのだと話しました。
そのうえで、デザインの世界では人と同じことをするとどうなるか、幼少期からの体験を交えて説明します。
僕らってほんと幼少期から人と同じようなことをやるとパクリって言われるんですよ、我々の業界って
好きな人を真似ればパクリになる。だからいいと思っても、常に違う方を選ばなければならない。山崎さんはその積み重ねを、こう表現しました。
みんなが黒を着てったら、僕も黒着たいんだけど、ピンク選んだりするんです
その「違う方」を選び続ける訓練を重ねるほど、距離はどんどん遠くへ行く。世の中がいま非連続性やデザイン思考と呼んで求めているのは、その積み重ねだと山崎さんは捉えています。
だからこそ、経営や事業に並走してくれるデザインやクリエイティブの人をパートナーにするのが一番近い、と山崎さんは語りました。
「なるべく遠くへ行き、そこから近づける」という距離の作り方
宇尾野さんは、掛け算や「遠いところのボールを取りに行く」といったノウハウはありそうだと指摘しつつ、それを型にすることの難しさに触れます。
それを型にした時点で、やっぱりそれは連続性なので、本当の意味の非連続とかジャンプにはなかなかなりにくい
さらに宇尾野さんは、遠くに行きすぎると常軌を逸したものになったり、誰も理解できないものになったりするバランスの難しさを尋ねます。
山崎さんは、実際に途中で止めることもあると認めたうえで、独特の進め方を明かしました。
最初はなるべく遠くに行くべきなので、なるべく遠くに行って、徐々に徐々に近づけて、ああ、この辺だった、この辺だったみたいな
最初から現実的な距離に収めるのではなく、いったん遠くまで行ってから近づけていく。山崎さんは、遠くに行った方がみんな楽しく、いいプロジェクトになることが多いとも話しました。
「亭主改造計画」のように、必ずいい方へ進む
宇尾野さんは、経営者が「こんなに遠くに行っていいのか」と怖くなったとき、どう現実へ落としていくのかを尋ねます。
山崎さんは2つのやり方を挙げました。相手を巻き込んで信じてもらうパターンと、どうしても怖ければ成功体験を積み上げていくパターンです。
そして自分の仕事を、テレビ番組でおなじみの「亭主改造計画」にたとえました。地方から連れてこられた旦那さんが美容院や洋服店に行き、見違えて登場する、あの企画です。
それはめちゃくちゃ飛んでても、ちょっとだけでもうまくいくじゃないですか。なんかあの感じなんですよね
距離の話だけであって、どちらのやり方でも必ずいい方に進み、それが連続性になってさらに高みへ向かう。山崎さんは、だからこそやること自体が大事だと語りました。
絶対に外さない「人間の心を無視しない」という一点
宇尾野さんは、必ず成功させるために押さえているポイントがあるかを尋ねます。
山崎さんの答えは、人間の心を見続け、そこを無視しないということでした。組織に相対するとよく起きる場面を例に挙げます。
偉い人がいて、「AとBならBだね」と決まり、みんなが「いいね」と言う。けれど内心ではうっすら「Cじゃないか」と思っている。そんな場面です。
みんなうっすらといやCじゃね?って思ってんだけど、でもBであ、Bっすって言ってるみたいな
評価でも、やりたいプランでも、あらゆるレイヤーでこうしたことは起きる。人間の本音や心の奥底に蓋をしないことを、山崎さんは徹底しているといいます。
さらに宇尾野さんが、本音を言い切る技術について尋ねると、山崎さんは自分なりのやり方を明かしました。
人間の心は平安時代から変わらない
宇尾野さんは、ずっと一緒にいるわけでもないのに、どうやって本音に気づくのかを尋ねます。
山崎さんは、デザインやクリエイティブ、文化が向き合い続けているのは人間の心であり、その心は人間が人間である限りそんなに変わらないと答えました。
それこそ平安時代の人も今の人も、自分より活躍してる人には嫉妬したりとかするわけじゃないですか
だからこそ、人間の本質が描かれてきた文学や古典を自分の中にインストールし続けたことが、一つの力になっていると山崎さんは話します。
一社では成立しない時代の「思想ホールディングス」
話題は数年先の未来へ移ります。宇尾野さんが、非連続性を求める経営者への相談が3年後にどうなっていそうかを尋ねると、山崎さんは「総合力」が必要になると答えました。
業界や概念を変えるという相談から、生活のあり方を変える、国を変える、といった大きな領域へ広がっていくという見立てです。災害防災など、国とデザインの力を掛け合わせるプロジェクトも例に挙がりました。
その背景として山崎さんは、ソーシャルな視点を入れ込まないと企業自体が成立しなくなってきている感覚を語ります。
自分たちだけでいいとか、数字だけ出ればいいとかっていう事業体自体が、やっぱ成立しなくなってる
働く人にも、利用者やステークホルダーにも同じことが言える。そうなると、企業のパーパスは一社で閉じず、接続して集合体になっていく、と山崎さんは話しました。
その集合体は行政とも相性よくつながっていく。山崎さんはこれを「思想ホールディングス」と呼び、そうした動きで社会を前に進める流れが進んでいるのではないかと語りました。
経営者は「閉じながら開いている」
宇尾野さんは、一社の経営者が思想ホールディングスのような動きの中で非連続性を考えるとき、どんなマインドを持つとよいかを尋ねます。
山崎さんは、フラットに開いていくことが大事だと答えつつ、経営者や役職が上がるほど、実は閉じながら開いている状態になりがちだと指摘しました。
何々会社の何々をやっている何々社長を紹介するよみたいな。もうその時点で開いてねえしと思うわけですよ
肩書きや所属で人とつながる場ではなく、何をしているかは関係なく「ここでパツンと合う」ような出会いは減っている。けれど新しい非連続性は、むしろそういうところから生まれると山崎さんは考えています。
会社で生け花教室を開く理由
山崎さんは、その実践として自身の会社で生け花教室を開いていることを明かしました。事業ではなく趣味で、大原流の生け花を月2回教えているといいます。
一般の人が参加するため、全く違う立場の人たちが花を囲んで話すことになります。山崎さんはこれを「超非連続」だと表現しました。
エディトリアルデザイナーのすごい優秀なデザイナーの夫婦がお菓子屋さんのお姉ちゃんと、どこかの町のその夜のお店のお姉さんと一緒になんか話してたりとかしてて
肩書きを外し、一個人としてオープンにいろんな世界へぶつかっていくこと。それは意識すればできることだと山崎さんは話します。
宇尾野さんは、SNSの広がりで個人の定義がはっきりした時代だからこそ、それを解きほぐす習慣が効いてくるのではないかと応じました。
山崎さんは、みんながマラソンやトライアスロンをやるのは「開かれていない」と半ば冗談めかしつつ、書道や陶芸のように全然違うところへフラットに出ていくことを勧めます。
そういうのが癖になっていくと、なんか新しいことがどんどんどんどんフラットに自分の中に入ってくるようになる
迷っている間に3つ試せる、残ったものが本質
宇尾野さんは、開いて情報が入ってくる中で、これだと思う選択をどうするのかを尋ねます。
山崎さんの答えは、まず「とりあえずやってみなはれ」でした。どれがいいか、合うかと迷っている間に、いくつも試せるからです。
どれがいいかな、どれがダメかな、合うかなって思ってる間に三つくらい試せる
そして3ヶ月経ってやめていることの方が多く、残っているものが本質だと山崎さんは語りました。試すこと自体が選別になっているという考え方です。
宇尾野さんが生け花を始めたきっかけを尋ねると、山崎さんは20代後半の頃の話を語り始めました。
花鳥風月から始まった「やってみないとわからない」
山崎さんは、日本人が美しいものを学んでいく順番は「花鳥風月」だという説に触れます。水墨画のお手本の順番もそうなっていたといいます。
花を描き、次に鳥で躍動感を描き、風では風に揺れるものを描いて風を表現し、月では月以外を薄く描いて月を浮かび上がらせる。そう教わったとき、山崎さんは自分が入り口にも立っていないと感じたそうです。
日本の美に対して、こんだけ美を突き詰めていくんだとかいろいろ言ってるのに、日本の美の「か」にもたどり着いてないと思って
そこから一輪の花を買って生ける習慣を始め、やがて先生について生け花を学ぶようになった、という順番でした。
続けるうちに枯れかけの花の美しさなど、いろいろなものが見えてくる。山崎さんは、やはりやってみないとわからないと締めくくりました。
組織は一人一人の気持ちの集合、閉じた概念を開く
3回にわたるゲスト回の最後に、山崎さんはリスナーへのメッセージを語りました。「おいしい組織」というタイトルへの共感から話は始まります。
組織という言葉には、なんとなく閉じている概念がたくさんある。けれど分解していけば、それは一人一人の人間の集まりであり、気持ちの集合だと山崎さんは話します。
だからこそ、その気持ちや心をデザインでどうしていくか、それで社会をどう良くできるかをこれからもやっていきたい。山崎さんはそう語り、3回話しながら改めてそう思ったと結びました。
宇尾野さんも、閉じている概念を開くというメッセージは、硬直化した組織や自分自身の気持ちを揺らすきっかけになるはずだと受け止めました。
まとめ
予測が難しい時代の未来との向き合い方を、非連続性・人間の心・「閉じながら開く」という切り口で語ったゲスト回でした。理屈の積み上げでは描けない未来を、いったん遠くへ飛ばしてから近づける発想と、心に蓋をしない姿勢が通底しています。
- 相談に来る経営者に共通するのは「積み上げでは未来を描けない」という感覚
- 非連続は、いったん遠くへ行ってから徐々に近づけて着地点を探る
- 絶対に外さないのは「人間の心を無視しない」こと。言いにくいことは明るく言う
- 一社では成立しない時代、パーパスが接続する「思想ホールディングス」が生まれつつある
- 経営者は肩書きを外してフラットに開く。迷う間に3つ試せば、残ったものが本質になる





