自己認識がズレている人にどう向き合うか
今回のエピソードのテーマは、自己認知のズレとフィードバックです。前回の組織目標の話を受けて、目標に対する評価と本人の認識がズレたときにどうするかを考えていきます。
宇尾野さんは、過去に組織運営や企業支援をしてきた中で、評価をしたメンバーがその結果を受け入れがたそうにしていたり、自分がそう思われているとは思っていなかったりする場面を見てきたと話します。
(評価が)ちょっとコミュニケーションのトラブルにつながったりみたいな話もあったりするんで、結構皆さんここは興味深いテーマなんじゃないかな
池原さんによると、企業の管理職や役員と話す中で、部下へのフィードバックの仕方に悩むという声はとても多いといいます。
相手が思ってるより実はすごくいい評価だよみたいなのはやっぱり言いやすいんですが、逆の場合がなかなか難しいですよね
傷つけたくない、ズレていると言いにくい。だからこそ、良い評価は伝えやすくても、本人の自己認識より低い現実を伝えるのは難しいと二人は整理します。
自分では「うまくいっている」と思っていたのに
自己認識が低い状況とは、自分はこうだと思っているのに、相手から見ると全然違う状態を指します。池原さんは、自分の評価より本人が高く評価しているケースがあったかを宇尾野さんに尋ねます。
宇尾野さんは、そうしたケースはあったし、自分自身も若手の頃に一度あったかもしれないと振り返ります。自分がどう見られているかの情報がない中で、自信やプライドだけが行動の原動力になっていると、自分の見え方がわからなくなると話します。
池原さんも、新人の頃に似た経験があったといいます。急に課長に呼ばれ、メールのやりとりが客に分かりにくいと言われて驚いたそうです。
自分ではめちゃくちゃうまくいってると思ってたのに。あれ?みたいなね
自信があるメールだったのが混乱を招いてたらしいみたいな
他者から見える行動が、自己認知を上げるフィードバックの起点になります。ただし、こうした指摘は新人のうちは受けても、年を取るにつれて言われなくなっていくと池原さんは指摘します。
なぜ人の自己認識はズレるのか
宇尾野さんは、日本社会には年功序列の空気があり、年上には言いにくい、うまくいっている人ほど課題を伝えられないといったバイアスが多いと話します。だからこそ、自己認識を上げる習慣や仕組みが組織に実装されているかが重要だといいます。
池原さんは、そもそもなぜ人の自己認識はズレるのかと問いかけます。自分に見えていないが人から見えている「盲点」の大きさが、ズレにつながるのではないかと考えます。
宇尾野さんは、自分の行動や思考、感情そのものが相対化されないことが原因だと答えます。合っているか間違っているかを比べる材料がないため、自分が高すぎる、あるいは低すぎることに気づきにくいのです。
そこで宇尾野さんが勧めるのが、自己開示できる組織をつくることです。
自分の内面や価値観をオープンに話せる場ほど、「それってこうじゃない」という別の意見や、ポジティブなフィードバックが入ってきます。その結果、外から見た自己認識も上がっていくと宇尾野さんは説明します。
逆に、感情や自己開示が少ない環境では、相対化するヒントがなく、フィードバックも生まれにくくなります。宇尾野さんは、メンターやコーチのように、自分がどう見えているかという鏡を定期的に提供してくれる存在がいるとよいと話します。
自信と能力のズレに見えるジェンダー差
池原さんは、個人差はある前提としつつ、自信と能力の評価にジェンダー差があるという研究が知られていると紹介します。
能力が10というスケールだった場合、女性は「私の能力は8です」と低めに見積もる傾向があり、男性は「12です」とスケールを超えて高めに見積もる傾向があるといいます。
池原さんは、これ自体の良し悪しではなく、10の能力に対して12の自信があれば挑戦につながる面もあると話します。一方で、組織の中では「あなたは10ですよ」と調整を伝えなければいけない場面もあり、そこが難しいと言います。
十の能力に対して十二の自信があったら挑戦するじゃないですか
宇尾野さんは、逆に自信が低くなってしまう人についても触れます。8と感じている人の感覚を、10や12まで上げてチャレンジ精神を育む場面もあると話します。
宇尾野さんは、この自信の上げ下げの調整を外部の人に頼ったり、自分の中に持ち合わせておくと、自分のコントロールがしやすくなると話します。
低すぎる人と高すぎる人、フィードバックの違い
自己評価が低い人を上げるために、池原さんはプロセスを口に出すことと、他人ではなく過去の自分と比較させることを意識していると話します。
入社時は四しかできなかったじゃない。でも今六まで来てるよねっていう、その私から見える成長を言語化してあげる
自分が見てきた継続的な成長を言語化してあげると、能力が高まる気がすると池原さんは言います。宇尾野さんは、それを成長のラダーを作って見える化する感覚だと受け止めます。
逆に、5の能力なのに「15です」と言う人には、どうフィードバックするか。池原さんはこの問いを宇尾野さんに投げかけます。
宇尾野さんは、まず15と感じている理由や意味づけを一度言葉に落とさせると話します。そのうえで、実際の5である根拠を伝え、次の段階へ進むステップを一緒に考えると言います。
あれ、なんか意外に俺十五じゃなかった、私十五じゃなくて十かも五かもみたいな感じで、自分で気づいていくようにサポートしてあげれる
ポイントは、自己評価が低い人にはこちらから尺度を示して伝え、高い人には自分で言わせて気づかせるという違いです。宇尾野さんは、高い人に「どこなの」と問うても伝わりにくいため、自分で気づくプロセスに誘うことが大切だと話します。
過去の自分と比較させ、成長を言語化して尺度を示す。こちらから伝えて自信を上げる
高いと思う理由を本人に語らせ、事実を別の形で示す。自分で気づくプロセスに誘う
池原さんは、この流れをこう整理します。高すぎる人には、なぜ高いと思うかという気持ちをフルに聞き、そのうえで実際の行動という事実だけを伝えて着地させるのです。
高い自己認識の人って何かしらバイアスを抱えている、自分自身がうまくいってるっていう過度な自信があったりとか
宇尾野さんは、そのバイアスを分解して紐解いてあげると、実はそこはそうでもなかったと本人が気づきやすくなると話します。頭ごなしに否定するのではなく、自分で気づける事実を提供するというスタンスです。
フィードバックは相手のモードを見て伝える
宇尾野さんは、フィードバックは相手に矢印が向くテーマなので、防御的な反応や言い返したくなる反応が起きやすいと注意を促します。感情がヒートアップしない環境をつくり、建設的に内省を促すことが大事だといいます。
そのうえで、宇尾野さんは自身の失敗も明かします。相手がフィードバックを受けられるモードではないときに伝えてしまい、拒絶された経験があるそうです。
(相手が)そのフィードバック受けれるモードじゃない時にフィードバックをしてしまって、「そんなこと今言われたくないんですけど」みたいな感じで拒絶されたり
モードではない状態とは、いっぱいいっぱいのときや傷ついているとき、あるいは褒められると思っていたのに改善点ばかり言われたときなどを指します。
褒められると思って評価面談に来た人に改善点ばかり伝えてしまった、という失敗もあったと宇尾野さんは振り返ります。池原さんが「どう立て直したのか」と尋ねると、宇尾野さんは場の設定が誤りだったと謝罪し、冷静に新しい場をつくり直したと答えます。
池原さんは、こうした事態を防ぐためにも、定期的に良いところを伝えておくことが必要だと話します。1年間何も指摘されずにいると、急にネガティブなことを言われたときに落ち込んでしまうからです。
宇尾野さんは、褒められて喜ぶ人もいれば、なぜ褒められているのかと考える人もいると言います。同じ行動でも、相手のモードやタイミングで受け取り方は変わるため、周りがその人をメタ認知してあげることが自己認識を加速させると話します。
フィードバックする側も成長している
池原さんは、ここまでの話を受けて、マネージャーや経営者は大変で、完璧な人でなければいけないように思えてくると言います。
宇尾野さんは、それでもマネジメントを通じて人の成長に出会えたり、自分の実力以上の結果を組織として生み出せたりする点で、大事なスキルだと応じます。
池原さんは、フィードバックをドキドキしながら準備し、悩みながら部下と向き合う、その行為を通してマネージャー自身も成長していると指摘します。
見てくれている、が伝わるフィードバック
宇尾野さんは、池原さんが過去にもらって自己認識が上がったフィードバックの経験を尋ねます。
池原さんは、10年以上前に参加した学びのプログラムでの体験を挙げます。控えめだが場をよく観察していた参加者が、終了後に自分の強みを具体的な行動とともに伝えてくれたそうです。
(強みを)具体的な行動とともに言ってくれたんですよ。ほぼ初対面の人だったんですけど、それはいまだに覚えてます
一方で池原さんは、部長に急に呼ばれて抽象的に「気をつけよう」とだけ言われ、具体的にどういうことか出てこなかったときは納得がいかなかったと振り返ります。
宇尾野さんは、見てくれている感じと、具体的に伝えてくれることがセットになるとよいと話します。さらに、それが相手にどんな影響を与えたかという部分が加わると、フィードバックの刺さり具合が強くなると言います。
池原さんは、この流れがフィードバックのSBIにあたると整理します。
宇尾野さんは、フィードバックを何回か試すうちに、伝え方の良し悪しがわかってくると言います。実験しながら自分のフィードバックレベルを上げていくと、メンバーの成長にとってより価値のある行為になると話します。
好かれようとしないという姿勢
池原さんは最後に、もう一つ大事なこととして「好かれようとしないこと」を挙げます。好かれたい、嫌われたくないという動機を仕事に持ち込むと、マネージャーや経営者の役割は果たせないと考えているからです。
人じゃなくて事に向かうみたいな、なんかそのマインドってすごく重要だなと思いますし、私も好かれたいっていうのを手放してだいぶ楽になった
嫌われに行くわけではありません。厳しいことも言い、人ではなく事に向かうことが大切だと池原さんは話します。宇尾野さんも、いろんな人から好かれるケースも受け入れられないケースもある中で、その全体を受け入れる姿勢が大事だと応じます。
まとめ
自己評価と他己評価のズレは、自分の行動や感情が相対化されないことから生まれます。低すぎる人には尺度を示して自信を上げ、高すぎる人には自分で気づかせる。そして、相手のモードを見ながら、見てくれている感じと具体性、影響をセットで伝えることが、ズレを埋めるフィードバックの鍵になります。
- 自己開示できる組織は、相対化のヒントが多く自己認識力が高い
- 低すぎる人は過去の自分と比較させ、高すぎる人は高いと思う理由を語らせて自分で気づかせる
- フィードバックは相手のモードを見て、感情がヒートアップしない環境で伝える
- 日頃から良い点も伝えておくと、急なネガティブフィードバックで落ち込ませずに済む
- S(状況)・B(行動)・I(影響)をセットで伝え、好かれようとせず事に向かう







