戦略ではなく「やりたい」から生まれた6社
MCの宇尾野彰大さんが、クリエイティブディレクターでセイタロウデザイン代表取締役の山崎晴太郎さんを迎えたゲスト回です。番組「おいしい組織」は、組織づくりを料理になぞらえて経営や事業の思考法を語るポッドキャストで、今回は初めての顔合わせから始まりました。
山崎さんは自身を43歳とし、セイタロウデザインを含めグループ6社を経営していると紹介します。上場企業の取締役やスタートアップの社外取締役も務めつつ、メインの領域はデザインとブランディング、コミュニケーションだと話します。
宇尾野さんが6社経営に驚くと、山崎さんは「結果そうなっちゃっただけ」と受けます。会社が増えていった経緯そのものが、この回の組織論の入り口になっています。
結果そうなっちゃっただけですね。メインはセイタロウデザインっていう会社なんですけど、いろんなデザイナーがいるんですよ。
たとえば金沢出身のデザイナーが、地元の助けになる仕事をしたいと言い出したことから「セイタロウデザイン金沢」ができたといいます。テレビ出演が増えたタイミングでパートナーが加わり、IP管理や番組制作、舞台を手がける「セイタロウデザインエンターテインメント」が生まれたのも同じ流れでした。
戦略的にやった6社ではない。
うまくいった会社ばかりではなく、潰れた会社もあると山崎さんは率直に語ります。ニューヨーク留学時代の仲間から誘われて始めたセブの拠点は、コロナの影響で畳んだと話します。
面白そうじゃん、やろうつって。だけどコロナで全然あれだったんで、潰そうと思って潰しました。
誰かの「やりたい」
デザイナーやパートナーが、地元や新領域で挑戦したいと言い出す
「よし、作ろう」
山崎さんが後押しし、その思いを受ける箱として会社を立ち上げる
続ける/畳む
面白さが続けば残り、環境が合わなければ畳む
一デザイナーが社会と戦うための「器」
なぜ会社という形にしてきたのか。山崎さんは、自分自身が社長業をやりたかったわけではなく、結果として社長になったというスタンスだと説明します。
会社にして一番よかったのは、一デザイナーが社会と戦えることだと山崎さんは言います。フリーランスでは与信や商流の問題で戦えない領域があるためです。
その器は自分だけのものではないと山崎さんは続けます。働いてくれるみんなにとっての、やりたいことをやるための器になればいいという思いが根底にあります。
宇尾野さんは、この回の第1のテーマを「クリエイティブブティック セイタロウデザインの組織論」と置きます。仰々しいと笑いつつ、社会でクリエイターに戦ってもらいたいという思いが組織の形に表れているのではないかと切り出しました。
ふわふわした相談を解きほぐす仕事
セイタロウデザインの仕事は、デザイナーやプロデューサー、ディレクターがチームを組み、クライアントの新商品やコーポレートブランディング、新規事業にクリエイティブの力で並走するものだと山崎さんは説明します。
かつては広告制作のように、オリエンやコンペを起点に代理店と組む仕事が多かったといいます。しかし最近は、デザイナーが経営に並走することへの理解が進み、相談の入り方が変わってきたと話します。
ホテルの概念を変えたいとか、めっちゃふわふわしてじゃないですか。なんかそれ系がめちゃくちゃ多いんですよね。
こうした相談はほとんどが経営層から来ると山崎さんは言います。ふわふわした状態のものを解きほぐし、形にして世の中に顕在化させるのが仕事の流れです。
具体例として挙がったのがJR西日本の仕事です。鉄道以外を全部生まれ変わらせるという規模で、金融や体験をベースにデザインとコミュニケーションを作り直していると語ります。
この仕事の始まりは、山崎さんが大きな会社のカンファレンスで基調講演をしたことでした。それを聞いていたJR西日本の役員が楽屋を訪ね、「ぜひ一緒にやりたい」と大阪へ連れて行かれたといいます。
もう感銘受けました。ぜひ一緒にやりたいですって言って、大阪に連れて行かれ、それで始まりました。
JR西日本では、QRコード決済サービスの立ち上げや、ICOCA ── JR西日本が発行する交通系ICカード。関西圏を中心に鉄道やバス、買い物で使える。、それに紐づくポイントなど、金融をテコに西日本全体をつないでいく仕事をトータルで担っていると説明します。
答えはクライアントの中から引き出す
チームの動き方について、山崎さんはブランディングを基本的にフィーモデルで進めていると話します。定例会など時間に対して課金し、クリエイティブが必要になったフェーズで制作チームを入れていく形です。
JR西日本だけで契約や定例は6本から8本ほど走っていると山崎さんは言います。相手側にWesmoチームやICOCAチームなどの部があり、それに対してセイタロウデザイン側もメンバーを組み、横断する会議体を置いているそうです。
うちのメンバーの3分の1ぐらいはかかってんじゃないかな。何かしらで。
これだけの規模でも、答えを自分たちが持っているケースはほとんどないと山崎さんは強調します。むしろクライアントの頭の中にある答えを、クリエイティブを武器に並走しながら引き出すという感覚だと語ります。
組織に迎えるときに「嘘をつかない」
チームビルディングの基礎について、山崎さんは改めて「やりたいことをやるための器が組織」という考えを挙げます。そのうえで、人を組織に入れるときに嘘をつかないことをすごく大事にしていると話します。
背景には社名の特徴があります。「セイタロウデザイン」という個人名を冠した名前には、古い職人の代表がいて、その手足として働くというイメージを持つ人もいるといいます。宇尾野さん自身も、山崎さんがトップの職人でいる構図を勝手に想像していたと明かしました。
しかし実際は、アートディレクターやクリエイティブディレクターに任せる案件が多く、山崎さんが知らない案件もたくさんあるといいます。だからこそ、入ってもらう前に会社の実態を正直に伝えることが「嘘をつかない」ことだと語ります。
その一例が、運用の仕事がほとんどないという点です。デザインを作った後にサイトやパンフレットを更新し、アセットを積むのがビジネスの鉄則だとしつつ、山崎さんは正直に打ち明けます。
それよりは新しいことやりたくなるんで。
だから新しい面白いことをみんなでやりたいこと、運用仕事は少ないこと、そして自分もやりたいことをやりたいから「お互いだよね」と伝えたうえで迎え入れていると山崎さんは説明します。
組織を守るために面白いことをやらない、はない
山崎さんは、会社を守るために新しいことや楽しいことをやめる選択肢は絶対にないと言い切ります。順序が逆だという考えです。
企業経営でよく語られるゴーイングコンサーン ── 企業が事業を継続し、将来も存続していくという前提。会計や経営で当然視される考え方。についても、「全く思ってない」と入社時に伝えているといいます。極端に言えば、めちゃくちゃ面白いことがあれば来年会社を潰す可能性すらあると話します。
一方で、ただ無鉄砲というわけではないと山崎さんは補足します。ギリギリまでは組織を大事にするというスタンスです。
最後の最後にどっちかの手しかつかめないよってなったら、僕はやりたいことのために生きていくから、それでよければやっぱり一緒にやれたらいいよね
この判断軸を支えているのが「素直でいる」という姿勢です。ここで嘘をついて組織づくりを始めると、大事なところからずれ始めると山崎さんは語ります。
宇尾野さんが、この考え方はいつからかと尋ねると、山崎さんは前からだと答えます。グラフィックデザイナーとして独立した当初、業界が分業されているなかで「全部やりたい、作れないものがあるのが嫌だ」という素直な思いから組織が始まったことが背景にあるといいます。
子どもの誕生と「世の中はコントロールできない」
つなげたいという思いには難しさもあります。宇尾野さんは、人事の仕事でも採用や制度設計、組織開発などを横断してつなげたい一方で、専業よりロスや難しさがあると共感を示し、その壁をどう越えたかを尋ねます。
山崎さんは、独立当初は自身もスタッフも20代前半で、友達の延長のような関係だったと振り返ります。制度もなく、月1くらいで飲めば済むような規模でした。
転機は30歳を超えたあたりでした。年齢も規模も上がると、頻繁に飲むわけにもいかなくなり、「組織」という視点が出てきたといいます。この変革を越えられたことが、組織として大きかったと話します。
その変化を後押ししたのは、意外にも子どもの誕生でした。山崎さんは、世の中はコントロールできないと気づいたことが大きな心の変化だったと語ります。
最後の1ミリまで自分が見て、全部を突き詰めてクオリティを高めていくんだみたいな、そういう気概があったんですけど、なんかその考え方がスコンって抜けたというか。
子どもは思い通りに寝てくれない。けれど、そこで生まれた予定外の夜のゲームが家庭を変えることもある。山崎さんは、そんな経験からイレギュラーの力に気づいたと話します。
組織のルールを緩くして余白を残す
経営ではイレギュラーを抑えたくなるのが原理原則のような思い込みだ、と宇尾野さんは指摘します。あえてイレギュラーを楽しむために何を大事にしているかという問いに、山崎さんは「組織のルールを緩くすること」と答えます。
社員一人ひとりが考える余地、やりたいことをやれる余地を残す。それが余白を作るということだと山崎さんは説明します。
ただし、この余白は制度ではないと山崎さんは強調します。新規事業の募集制度や、勤務時間の20%を自由に使う仕組みをつくることではないという考えです。
空気をつくるうえで大事なのは、組織の上にいる人がそれを体現できているかだと山崎さんは言います。自分がずっと会社にいて決まったルールばかりやりながら「自由にしろ」と言っても、そうはならないからです。
体現の具体例として挙がったのが、Slackのスタンプです。山崎さんはスタンプを押しまくると話します。1個だと「了解」で終わってしまうところを、複数重ねることで場の空気が変わると考えているためです。
その後5個ぐらいになるとSlackの空気が変わるなって僕は思ってて。
直接飲みに行ける機会が減っているからこそ、こうした小さな演出で空気を作っていくことが大事だと山崎さんは語ります。余白は制度ではなく、日々の振る舞いから生まれるという考えが見えてきます。
クリエイターが集まる理由は「たまたま」
最後に宇尾野さんは、自由でいたいクリエイターがなぜセイタロウデザインに集まるのかを尋ねます。山崎さんの答えはシンプルでした。
たまたまじゃないですかね。
作品が好きな人もいれば、条件が合って来た人もいる。ただ、クリエイティブと組織はずっと並走するものではなく、人生の交点でしかないと山崎さんは考えています。だから、ずっと働かねばならないという空気はなく、新しい道に進むなら応援する空気になっているといいます。
今一緒にやってるけど、なんか将来それぞれの道で活躍できるといいよねっていう、なんかそういうノリかなと思ってるんで
一方で、組織への帰属が大きくなりすぎると、クリエイターとしては死んでいく感じがあると山崎さんは付け加えます。理想は、それぞれが自分の刀を研ぎ続け、自立できる前提でチームになっている状態だといいます。
次回は、セイタロウデザイン自身の話に加えて、クリエイティブを一緒に作るクライアント側の組織づくりにも話が広がる予定です。
まとめ
山崎晴太郎さんの組織論は、戦略よりも「やりたい」を起点に置き、会社を一デザイナーが社会と戦うための器と捉える点に一貫しています。コントロールできないイレギュラーや余白を力に変え、素直さを手放さないことが、クリエイターが集まるチームの土台になっていました。
- セイタロウデザインのグループ6社は戦略ではなく、誰かの「やりたい」から生まれた
- 会社は一デザイナーが社会と戦うための「器」であり、それは働くみんなのための器でもある
- 答えは自分たちではなくクライアントの中から引き出す、という並走のスタンス
- 組織を守るために面白いことをやめる選択肢はなく、素直さを手放すと大事なところからずれ始める
- 余白は制度ではなく空気から生まれ、上に立つ人の体現と日々の小さな振る舞いがつくる





