理想の組織は、なぜ後回しになるのか
第2回のテーマは「理想の組織を考える上でのポイント」です。池原さんは、起業家として理想の社会や事業は考えても、理想の組織を考える機会はあまりないと切り出します。
正直ね、このテーマすごい難しいなと思っていて。理想の社会とか理想の事業はあるんですけれども、あんまり理想の組織っていうのを考える機会ってそうないんですよね。
ピッチとかしても「こんな組織にします」っていうより「こんな社会にします」が先に来るので、あんまり考えたことないんですよ。
宇尾野さんもこの見方に同意します。事業計画のピッチでも、組織や体制の話は最後に回されやすいと言います。
採用計画とかありながら「まあこういうチームでいこう」ぐらいなことは最後、集合写真が載っててみたいな感じで、どうしても後回しになりやすいですよね。
一方で宇尾野さんは、組織づくりをする人こそ未来の実現を支える存在だと位置づけます。事業人はタグラインにフューチャーイネイブラー ── future enabler。未来の実現を可能にする人・支援者、という意味の造語。ここでは組織づくりを通じて事業の未来を支える役割を指す。という言葉を掲げているそうです。
ただし方向が定まらなければ、組織の作り方もスピードも変わってしまいます。だからこそ宇尾野さんは「理想はちゃんと決めましょう」というスタンスを置いていると話します。
組織は事業より変えづらい、という前提
池原さんは、事業が社会環境によって変わるなら、理想の組織の作り方も変わるはずだと問いかけます。前回の「組織づくりは料理に似ていて途中で止めにくい」という話を踏まえ、理想が変わったときの修正方法を尋ねます。
宇尾野さんは、変え方には複数のパターンがあると答えます。組織を分解して別組織を作る場合もあれば、今の組織を変形させ、構成する人の属性を少しずつ変えていく場合もあると言います。
その上で宇尾野さんが強調したのは、変えづらさの度合いの違いです。
池原さんは、この収録の直前、午前中の経営会議で3年後の組織についてディスカッションしてきたばかりだと明かします。文鎮型など機能ベースの発想になりがちで、どんなポイントで決めればいいか迷ったと振り返ります。
AからBへ。組織づくりの起点はどこにあるか
宇尾野さんは、組織づくりの起点を2つの側面から説明します。1つは、サービスや顧客、戦略が今のA地点からB地点へどう変わるかという事業側の変化です。
もう1つは、経営者やリーダーがどういう思想を持っているかという側面です。この両面を捉えて、文鎮型かプロジェクト型か、どんなカルチャーにするか、どんな人で構成するかが決まっていくと話します。
では、理想の組織を考えるスタートラインはどこか。池原さんの問いに、宇尾野さんは顧客と提供価値から考えることを挙げます。
どういう顧客が未来にいるのか、その顧客にどういう提供価値を提供しているのか。そこをまず起点に会話をすることが多いですね。
すでに顧客がいるなら、相手が自社に感じている価値は進化しているはずだと宇尾野さんは言います。その外に出す価値から、必要な人・機能・カルチャーを逆算して自分のチームを捉える。これが経営合宿や経営会議での議論の出し方だと説明します。
未来の顧客を定める
その顧客に、どういう提供価値を届けているのかを描く
必要な要素を逆算する
価値を届けるために必要な人・機能・カルチャーを洗い出す
チームの形を捉える
外に出す価値から、自分のチームのあり方を考える
「組織があるから社会を作れる」という逆の発想
池原さんは、Mentor Forを例に整理します。メンターやダイバーシティを広げたい社会像から、届けたい顧客、必要な人材へと逆算していく流れだと確認します。
一方で宇尾野さんは、逆向きの発想もあると付け加えます。事業から組織を考えるだけでなく、「こういう組織があるからこそ、こういう社会が作れる」という組織ベースの発想です。
この社会課題を解決したいんだけど、自分が働きたくない職場にはしたくない。こういう仲間たちとワイワイガヤガヤやりながら事業を作ることも楽しいんだ、と。
経営者自身がどんな人たちに囲まれたいか。それ自体が原動力になると宇尾野さんは言います。
池原さんも、思想はダイレクトに組織づくりに表れると実感を語ります。自立したプロとしか働かず業務委託中心でスモールに大きな利益を出す経営者もいれば、仲間と働く組織風土を起点に人を集める経営者もいると挙げます。
経営者がどんなチームだと心地が良いか、自分のパフォーマンスが発揮できるかっていうことが、実は働く人にとってもいい組織になるんだろうな、と。
宇尾野さんは、経営者という存在自体が最大のリソースの原点だと応じます。そのリソースが最もパフォーマンスを上げる状態から考えると、組織は機械的な逆算だけでなく、要素が重なって出来上がる「生っぽい」ものになると話します。
組織が大きくなると訪れる、経営者の「脱皮」
池原さんは、もう1つの論点を提示します。組織が成熟しプロダクトが広がる中で、経営者自身の組織づくりもアップデートが必要になる局面があるのではないか、という問いです。
今までこれが気持ちいいからこのやり方じゃんってやってたのが、だんだんそれで機能しなくなるフェーズっていうのがやっぱりあるんじゃないかな。
宇尾野さんは、わかりやすい起点として、CXOや取締役といった経営幹部が増えるタイミングを挙げます。規模で言えば30人前後で、テーマを幹部に預けるようになる時期です。
そこで発生するのが、意思決定の主体の変化です。自分一人の感覚値から、右腕や参謀と一緒に作る集合の感覚値へと進化していく。宇尾野さんは、これが一番の脱皮のタイミングだと考えます。
一方で、この局面には難しさも伴います。他社で活躍していた参謀を採用したのに合わない、という声はよく聞くと2人は語ります。
入ってきた人に、自分の組織が完全に自分のものじゃなくなって、その経営者自身が孤独感を感じてるみたいな場面もあります。
軌道修正の方法を問われた宇尾野さんは、「何を優先するか」だと答えます。ビジネスや社会への価値を優先して経営者の交代が必要なら、それが1つの結論になり得る。一方、本人が納得できずエネルギーが出ないなら、その人も巻き込んでフォーメーションを組み直す対話をするなど、いくつかのステップがあると話します。
結局は「どこにピンを置くか」
理想は逆境の中で軌道修正しながら、時に理想の状態自体も変えて進むもの。池原さんのまとめを受けて、宇尾野さんはこの回のキーポイントを提示します。
宇尾野さんは、ピンの置き先を具体的に挙げます。社会に対する価値提供に置くのか、自分の理想のチームに置くのか、あるいはVCや投資家の意向に置くのか。ここを決めないと、対話しているようで実は噛み合わないことが起きると言います。
池原さんはこれを料理にたとえます。食べる人が誰かによって、作るカレーが変わるという発想です。
誰に美味しいと思ってもらえるか、この人に提供したいっていう対象によって、会話する順番、作る順番が変わってくる。
宇尾野さんは、過去にいた会社の良い体験をそのまま持ち込む危うさにも触れます。自分にとって美味しくても、提供したい人には美味しくないカレーになりかねない。自分さえ美味しければいいと割り切ってピンを置くなら、それも1つの経営スタイルだと補足します。
届けたい価値から逆算して、必要な人・機能・カルチャーを組む
経営者が心地よく力を出せる状態を起点に、仲間や風土から組む
制約条件のなかで、外さないポイントを決める
池原さんは、理想を追う上で制約条件があると指摘します。お金がない、材料が調達できない、採用ができないといった条件を挙げ、ほかにどんな制約があるかを尋ねます。
宇尾野さんは、今の社会全体が組織づくりの制約を増やしていると答えます。人が採れないことに加え、SNSで話題になる退職代行のような動きもあり、思い通りに組織を作ろうとしても途中で頓挫しやすいと言います。
逆に思い通りにいってるケースを知りたいというぐらい、あんまりないのかな。
急成長している時期でも、人は増えているのにうまく働けず生産性が落ちる、といった事例もあると宇尾野さんは補足します。だからこそ、制約条件を認識した上で「ここは絶対外さないポイント」を置けるかが重要だと話します。
理想の組織はゴールではない。良い組織の共通点
池原さんは、理想の組織はゴールではないと語ります。近づいても理想は変わり、遠のいていく。終わりのない生き物のような組織に、常に手入れをし続けるプロセスだという見方です。
その上で池原さんは、宇尾野さんがこれまで見てきた中で「理想的だ」と感じた組織の事例を尋ねます。宇尾野さんがまず挙げたのは、柔軟な組織です。
いろんな人がいろんな制約とか条件、環境の下で働けるようにしてあげないと、人ってそもそも動きづらいんですよね。
宇尾野さんは、柔軟な形を作り、その形に合わせて人を採る会社をいくつか見てきたと言います。前提として経営者自身が柔軟で、今までの自分を上手に否定して新しいものに変えていける会社は魅力的に映り、入りたい人も多いと話します。
池原さんも、柔軟性に長けたベンチャーの魅力に触れつつ、対照的な例として大手企業を挙げます。規模が大きくても社風が驚くほど浸透し、スピードという価値が採用まで含めて貫かれている会社があると言います。
あれだけ大きな会社になっても、カラーやカルチャーが一定なので、会社として大事にしているものがすごく表れてる。規模だけじゃないなと思います。
宇尾野さんは、サービスやビジネスと魅力的な組織が完全につり合ったとき、誰もが働きたいと思う偉大な組織になると整理します。自身もそうした会社に所属した経験があり、目指してうまくいった会社もいかなかった会社もあると振り返ります。
フィードバックの文化と、風土を根付かせる条件
池原さんは、自身が「いい組織だった」と感じた共通点として、フィードバックの文化を挙げます。年齢や立場、部署に関係なく、一緒に仕事をすれば必ず互いにフィードバックし合う組織は、居心地が良く成長できたと語ります。
宇尾野さんは、フィードバックが生きるには条件があると補足します。フィードバックに耐えられる人、あるいはそれを好む人を揃えないと成立しないと言います。
だからこそ宇尾野さんは、理想の組織を形にするだけでなく、それが成立するための条件をちゃんと整えることが重要だと締めくくります。
何にピンを置くか。一人では作れない組織づくり
池原さんは、この回で一番心に残ったのは「何にピンを置くか」だったと振り返ります。それが経営者の思想やタイプにつながり、理想とは何かを考える補助線になると話します。
宇尾野さんも、社会やサービスの理想は考えやすいが、チームの理想や自分の居心地を考える経営者は少ないと指摘します。だからこそ、そこに向き合ってほしいと呼びかけます。
池原さんに問われ、宇尾野さんは自身のピンについて語ります。3年ほどジムに通う感覚でコーチングを受け続けているそうで、そのピンは1年単位で変わってきたと言います。
創業した時は、面白いメンバーが集まって面白いものが出せるかっていう、組織がベースにありました。
今度はお客様の喜ぶ顔を見たい、この苦しかったシチュエーションをもう二度と起きないようにしよう、というところにピンを置くようになりました。
一方で池原さんは、自分のピンは変わらないと語ります。Mentor Forでは「社会を変える」というピンが一貫してあり、組織づくりの苦しみの中で自分を支えてきたと言います。
私の場合、ちっちゃいピンがちょっとずつ横に刺さっていって、「次はメンバーをこういう風に成長させてあげたい」っていう補助ピンがついてくるんだろうな。
最後に宇尾野さんは、組織づくりは一人で作るものではないと強調します。自分のピンを持ちつつ、メンバーに問いかけ、重なる部分とずれる部分を確かめる。そのずれを許容するか、みんなで合わせるかを決めることも、組織づくりのプロセスだと語ります。
まとめ
第2回では、理想の組織を考える起点として「どこにピンを置くか」が繰り返し語られました。事業からの逆算だけでなく経営者の思想も組織を形づくり、規模の拡大とともに一人の感覚値から集合の感覚値へと脱皮していく。理想はゴールではなく、条件を整えながら手入れし続けるプロセスとして描かれました。
- 理想の社会や事業に比べ、理想の組織は後回しになりやすく、事業より変えづらい
- 組織づくりの起点は「未来の顧客と提供価値」からの逆算と、経営者の思想の両面にある
- 幹部が増える時期に、一人の感覚値から右腕・参謀との集合の感覚値へと経営者が脱皮する
- 社会・顧客への価値か、自分の理想のチームか、「どこにピンを置くか」を決めることが核心
- 良い組織は柔軟で、フィードバックなどの風土を根付かせ、成立する条件まで整えている



