去年うまくいったこと、カレンダーに書いてありますか
この回のテーマは、うまくいったことを予定に落とし込む仕組みです。松田さんはまず、リスナーに問いを投げかけます。
去年取り組んでうまくいったことを、今年もやりますか?
この問いには、ほとんどの人が「去年うまくいったんだから、今年もやる」と答えるだろうと松田さんは言います。
ところが、次の問いになると答えが曖昧になると指摘します。それが「カレンダーに書かれていますか」「いつやるか決まっていますか」という問いです。
多くの人は「これから予定を決める」と考える。松田さんは、ここに落とし穴があると話します。
どんなにうまくいった取り組みも、カレンダーやスケジュールに落とし込まなければ、いつか忘れてしまう。忘れれば、せっかくうまくいったことも、またゼロから企画になるというわけです。
その真逆をやっているのが、今回のテーマである月見バーガーだと松田さんは切り出します。
35年続く月見バーガーと、今年の「月見ファミリー」
月見バーガーは、秋の風情のお月見をイメージして1991年に誕生した商品です。今年で35周年を迎えます。
多くの人が、9月頃になると「月見の季節か」と思い出すのではないか、と松田さんは語ります。夏になるとビアガーデンでビールを飲みたくなる感覚と同じだといいます。
今年は「月見ファミリー」として、新商品3種類を含む全8種類を全国で期間限定販売するというニュースが出ています。
マクドナルドの商品を見ていくと、定番は月見バーガーとチーズ月見の2つ。そこに新商品として、炙り牛すき焼き風月見、チーズチーズバイツキミ、黄金の卵タルタルソースが加わります。
さらに、朝マックの月見パイ、月見マックシェイク、月見マフィンも登場します。つまり、定番を残しつつ新作も出しているのが今回の取り組みだと松田さんは整理します。
この回では、味や値段といった評価には触れず、あくまで公開情報から仕組み化の視点で読み解いていくと松田さんは断っています。
「大手だから続いた」で終わらせない、2つの神髄
このニュースを普通に見ると、「また秋の定番が来た」「35年も続いてすごい」で終わってしまい、翌日には気に留めなくなる、と松田さんは言います。
しかし仕組み化の視点で見ると、すごいのはシンプルに35年続いていること、つまり繰り返す仕組みを作っている点だと指摘します。
もう一つは、繰り返しの中に未来の種まき、つまり実験を同時並行でやっている点です。松田さんは、この2つが月見バーガーの神髄だと話します。
そこから導かれる、成功を予定に変える2つのポイントが提示されます。
カレンダー化
成功したことをカレンダーやスケジュールに落とし込み、繰り返す仕組みにする
実験
定番は残しつつ、新作や改善という実験を入れ込み、飽きられないようにする
「マクドナルドだから続いた」「さすが大手」で終わらせると持ち帰れるものがなくなる、というのがこの回の前提になっています。
うまくいったことは、なぜ残らないのか
まず根っこの話として、会社ではいろいろな取り組みをするうちに、うまくいったことが出てきます。ところが、それが意外と残らないと松田さんは言います。
例えば、去年の秋にキャンペーンをやって成功したとします。「うまくいったね、乾杯」で終わってしまう。
そして翌年の秋になると、「今年は何をやろうか」「去年って何をやったんだっけ」「どうやってうまくいったんだっけ」となってしまう。
これは、成功が担当者の頭の中にしかない状態です。その担当者が異動したり辞めたりすれば、再現性はなくなってしまいます。
そうしないためのシンプルな方法が、いつやるかをカレンダーに落とし込むことだと松田さんは話します。来年の何月何日にまたこのイベントをやる、と決めておくだけで、繰り返し取り組む仕組みになるといいます。
お客様の頭の中にカレンダーを作る
松田さんは、カレンダー化には大きく2つあると整理します。1つ目は、お客様の頭の中のカレンダーです。
商売は、必要になったときにお客様に思い出してもらえるかが重要だといいます。どんなにいい商品も、思い出してもらえなければ売れません。
だからこそ、会社は広告やチラシにお金をかける。それらはすべて、お客様に思い出してもらうための費用だと松田さんは言います。
ここで月見バーガーを見ると、9月になり秋になると、お客様が勝手に思い出す。誰かに言われたわけではなく、その季節になると想起されるのです。
35年間、同じ時期に同じ名前で出し続けた結果、9月イコール月見という予定が、お客様の頭の中に書き込まれていると松田さんは表現します。
このお客様の頭の中のカレンダーを作るには、ネーミングも重要だといいます。ここで松田さんは、商品名にまつわる誕生秘話を紹介します。
もともとこの商品は、ベーコンチーズエッグバーガーという名前で売り出そうと考えられていたそうです。
それを試食会で、当時の社長である藤田田さんが一口食べて黙り込み、こう言ったと松田さんは語ります。
これは月見バーガーや。
もしベーコンチーズエッグバーガーのままだったら、35年続いたかはなんとも言えない、と松田さんは言います。9月とその名前がつながらなかっただろう、というわけです。
月見という言葉が、日本人の頭の中にある秋のカレンダーと商品を強く紐付けた。松田さんは、これを以前の回で触れたカテゴリーブランディングにもつながる話だと位置づけます。
会社の中で動かすカレンダーと、実行確率を上げる仕組み
2つ目のカレンダーは、会社組織の中で動かすカレンダーです。松田さんは、自社の小売業での失敗談を交えて説明します。
同社では毎年、福袋を作っています。ただ、うまくいく年とうまくいかない年があったといいます。
うまくいかなかった原因は、福袋をいつから売るのかが決まっていなかったこと。ギリギリになって数個作り、とりあえず売るという店舗もあったそうです。
今は、いつから売るのか、いつから準備するのかを、すべてカレンダー化していると松田さんは話します。
ただし、カレンダー化だけでは、新人店長には福袋の作り方がわかりません。そこで、Googleカレンダーをクリックするとマニュアルに飛び、マニュアルから作り方のチェックリストに飛ぶ仕組みにしているといいます。
Googleカレンダー
いつやるか・いつ準備するかを予定として登録する
マニュアル
カレンダーから、どう作るかを書いたマニュアルへ飛べる
チェックリスト
マニュアルから、何をすればいいかのチェックリストへ飛べる
こうしてカレンダーから業務をシームレスにつなげることが、従業員の実行確率を上げて成果を出す大事な構築方法だと松田さんは話します。
この視点で月見ファミリーを見直すと、月見シリーズは商品名ではなく「型」の名前だと気づくといいます。
月見という型の中に、夜マック、朝マックのマフィン、パイ、シェイクといった商材が入っている。ゼロから考えると大変ですが、企画のフォーマット化ができているためアイデアを出しやすい、というわけです。
来期の売上が読めると、経営はここまで変わる
経営の視点で言うと、カレンダー化は来期以降の売上を読む力にもなると松田さんは話します。
例えば、月見バーガーがこの期間でこのくらいの売上を作れるとわかっていれば、大きくこけない限り、その売上を見込めます。
仮にこの期間でプラス1億円の売上が見込めるとわかれば、そこから得られる利益も含めて、投資計画や採用を組むことができるといいます。
来期の売上がある程度決まっていると、安心して経営ができる。だからこそ、恒例イベントを複数作ることが理想だと松田さんは語ります。
松田さん自身も、毎年11月から12月に大勉強会と大忘年会を恒例で開いているといいます。2026年は11月13日の金曜日に新宿で行う予定だと案内されます。
このように年末や4月といった恒例イベントをカレンダー化すると、売上を1年という枠組みで全体設計しやすくなる。年間の売上予測がしやすくなる点が、経営視点での大きな価値だとまとめます。
刈り取りと種まき、両輪で回すから35年続く
ここまでは繰り返しの話でしたが、ただ繰り返すだけだとお客様に飽きられてしまう、と松田さんは注意を促します。
毎年同じことをやっているだけでは、やがて風景になり、飽きられてしまう。だからこそ、新しい取り組みを実験として入れる必要があるといいます。
松田さんは、これを刈り取りと種まきの「種まき経営」と呼んでいます。
定番の月見やチーズ月見で、35年分の信頼をもとに確実に売上を作る
新作・改善・再登場を試し、来年以降の定番候補を探す
定番で鉄板の売上を作りつつ、新作や改善、再登場を実験として出す。こうすると飽きられず、さらに来年の定番候補も探せます。
例えば、月見シェイクが売れるとわかれば、改良してまた出す。こうした試行錯誤を、1年かけて企画し改善できるというわけです。
月見バーガーはこの両輪をうまく回しているからこそ、35年続く商品になっているのではないか、と松田さんは見ています。
中小企業がこの仕組みを応用するには
最後に、この話を中小企業が応用するとどうなるかがまとめられます。松田さんの結論はシンプルです。
まず、うまくいったことを繰り返し予定にする。年間のカレンダーで、季節や行事に合わせた繰り返しのイベントを作っていきます。
そのうえで、実験のスパイスをいくらか入れる。実験だけでは風景になって飽きられるため、まず「やる」という予定を組むことが大事だといいます。
そして、実験を入れ込むこと自体も、カレンダーのチェックリストやマニュアルに書いておくとよいと松田さんは提案します。
成功したことをカレンダーに落とし込んだ瞬間に、それは予定になる。月見バーガー35周年は、うまくいったことをどう会社に残してきたかの話だと松田さんはまとめます。
成功は放っておくと忘れられる。翌年はまた運頼みのギャンブルなんです。
カレンダーに落とし込んだ成功だけが、翌年も成功する。そのために、カレンダーの仕組み、実験の仕組み、そしてそれらをマニュアルやチェックリストと紐付けて現場の実行確率を上げることが必要だと締めくくられます。
まとめ
月見バーガー35周年は、一度の成功をいかに会社に残し、毎年の売上に変えるかという仕組みの話でした。カレンダー化と実験の両輪を、マニュアルやチェックリストと紐付けて回すことが要点です。
- うまくいった取り組みは、カレンダーに落とし込まなければ忘れられ、翌年はまた運任せになる
- カレンダーには2種類ある。お客様の頭の中のカレンダーと、会社組織の中で動かすカレンダー
- 同じ時期・同じ名前で出し続けると、季節そのものが営業してくれる状態になる
- カレンダーからマニュアル・チェックリストへつなげると、現場の実行確率が上がる
- 定番の刈り取りと実験の種まきを両輪で回すことで、飽きられずに定番を更新できる




