売り上げはあるのに潰れる会社が増えている
会社が倒産する理由と聞くと、多くの人は販売不振を思い浮かべます。売り上げが立たず、資金が尽きるというイメージです。
ですが、最近増えているのは違うパターンだと松田さんは指摘します。売り上げもあり、お客様もいる。それでも潰れてしまう会社が数字の上で増えているというのです。
その原因が、人がいないことによる倒産です。人材不足はここ数年ずっと言われてきましたが、それが本当に顕著になってきたと話されています。
売り上げはあるし、お客様もいる、けれども潰れてしまうということが、数字から見て増えている
この回では件数の多さを伝えること自体が目的ではなく、なぜ人がいないと倒産してしまうのか、その構造とどう対処すべきかを考えていきます。
人手不足倒産227件、その8割が10名未満の会社
まず事実関係の確認です。信用調査会社の帝国データバンクは、定期的に人手不足倒産の集計を発表しています。帝国データバンク ── 企業の信用調査を手がける国内大手の調査会社。倒産件数や景気動向などの統計を定期的に発表している。
従業員の離職や採用難などで人手を確保できなかったことが原因で倒産したもの、という定義で集計されているとのことです。
2026年の上半期、1月から6月までで、人手不足倒産は227件となり、上期として過去最多を更新したというデータが出ています。
内訳を見ると、その特徴がはっきりします。227件のうち176件、つまり8割近くが従業員数10名未満の会社でした。
なぜ小規模な会社でこうした倒産が起きるのか。普通は採用できなかったから、賃上げ競争に勝てなかったからと考えるかもしれません。
しかし仕組み化の視点で見ると、人手不足は一つの引き金にすぎないと松田さんは言います。その被害を大きくしている本当の要因は、属人化だと考えられます。
なぜ「一人辞めると全部止まる」のか
10人の会社では、一人が全体の10分の1だけ仕事をしているわけではありません。その一人が抜けると仕事が全部止まってしまう、ということが起きやすいのです。
わかりやすいのが社長依存です。社長自身がお客様対応などを全て抱えていると、社長の体調が崩れただけで会社が回らなくなります。
もう一つがエース依存です。営業や商品開発、製造のエースが一人辞めるだけで、会社が傾いてしまうケースがあります。
つまり10人規模の企業では、一人への依存度がとても高くなり、その人が辞めることで多くの問題が生じるというわけです。
だからこそ大事になるのが、発想の転換です。人に仕事をつけるのではなく、仕事に人をつけていくという考え方だと松田さんは話します。
佐藤さんが辞めると、その仕事のやり方ごと会社から消えてしまう
やり方や仕組みが会社に残り、人が入れ替わっても業務が滞りなく進む
止まらない会社を作る「ダブルキャスト化」
仕事に人をつけるために、まずおすすめとして挙げられるのがダブルキャスト化です。これは10名規模でも大企業でも同じだと話されています。
一人しかできない業務があること自体がリスクです。だから、その業務を一人ではなく二人以上でできるようにしていきます。トリプルキャストにできればなお良いとのことです。
演劇のダブルキャストのように主役が2人いれば、どちらかが体調を崩してもちゃんと幕は開くよね、ということができる
進め方のポイントは、最初から100点を目指さないことです。主役級の引き継ぎを無理に狙う必要はないと言います。
とりあえず50点や60点でもいいので、その業務が止まらない、仕事が回る状態をまず作ることが先だと松田さんは話します。
その上でマニュアルやチェックリストを作ることが大事になります。ただし理想は、それらがなくても動いてしまう仕組みにすることだそうです。
記憶に頼るのではなく、動作や動きの中に仕掛けを組み込んでしまう。そこまでできるとより良いと語られています。
守りが攻めに変わる。採用と評価制度への効果
ダブルキャスト化やマニュアル作りは、一見すると守りの話です。ですが、これは攻めにも転換できると松田さんは言います。
仕組みが整っていると、採用でも効果的に働きます。入ってくる従業員にとって、初日から働ける状態が整っていて、わからないことを複数人に相談できるのは安心だからです。
松田さんの会社プリマベーラでは、7割近くをパートアルバイトで組織運営しながら、17期連続の増収増益を達成しているといいます。その戦力化にこだわってきた結果です。
その一例が、パートアルバイトにも評価制度を取り入れていることです。5点満点で、マニュアルや仕組み通りに業務ができれば3点という設計にしています。
そして最高点の5点は、人に教えていることが条件です。教えないと最高点が取れないため、自然に自分の仕事を他の人へ広げる流れが生まれます。
評価制度の設計そのものが、ダブルキャスト化を自然に促す仕掛けになっているのです。
代わりがいるからこそ、安心して休める
ここで松田さんは大事な注意点を添えます。誰でもできるようにしましょうという話は、代わりはいくらでもいる、という意味ではないと強調します。
むしろ逆です。代わりがいるからこそ、一生懸命やってくれている人も安心して休めます。子供の行事があっても、無理して出勤しなくて大丈夫だと言えるようになります。
代わりがいるから、その人しかできない仕事があっても、安心して仕事を休めるよね、子供の行事があっても無理して出勤しないでも大丈夫だよ、というのが一番のポイント
ここを間違えて、仕組みを監視や詰めるための道具にしてしまうと、職場の信頼を壊し、逆に雰囲気が悪くなってしまいます。伝え方には気をつけたいところだと話されています。
具体的なアクションとしては、まず業務の棚卸しが挙げられます。どの業務が止まると危ないのか、一人しかできない業務は何かを書き出すところから始めます。
- メンバーごとにやっている業務を書き出す
- 一人しかできないか、ダブルキャストができているかを確認する
- 止まると危ない業務を見つけ、優先的に仕組み化する
最後に属人化するのは社長自身
最終的に最も属人化しやすいのは、社長自身だと松田さんは指摘します。社長がどう考え、どう取り組みたいのかも、明文化する必要があるという考えです。
松田さんの会社では、経営計画書を仕組み化経営の要として作っているそうです。社長の考えを明文化し、社長自身が属人化しないようにしています。経営計画書 ── 会社の方針や社長の考え方、数値目標などを文書としてまとめたもの。ここでは仕組み化経営の中心となる文書として位置づけられている。
さらに松田さんは「やる気の法則」を紹介します。嫌々仕事をすると生産性は1、納得して仕事をすると1.6、自ら自走して取り組むと2.56倍になるという考え方です。
たとえば10名前後の組織でも、全員が納得して仕事をしてくれれば、16人分のパフォーマンスを発揮できる計算になります。
全員を2.56倍まで引き上げるのは難しくても、一人ひとりが納得して働く状況は仕組みで作れると松田さんは考えています。
10人で16人分の生産性が出せれば、人手不足倒産も減るかもしれません。加えて、生成AIの活用で業務効率化を進める視点も添えられています。
まとめ
人手不足倒産の本当の正体は「一人依存」だと松田さんは結論づけます。社長依存もエース依存も避け、誰が抜けても組織が回り続ける仕組みを作ることが、これからの経営のカギになりそうです。
- 2026年上半期の人手不足倒産は227件で、その8割近くが従業員10名未満の会社
- 原因は人手不足そのものより、一人に仕事が集中する属人化にある
- 人に仕事をつけるのではなく、仕事に人をつけるダブルキャスト化が有効
- 仕組みは監視の道具ではなく、安心して休める環境を作るためのもの
- 最後に属人化しやすいのは社長自身であり、経営計画書などで考えを明文化する







