マーケティングが仕事の3人が、なぜ今さらマーケ本を持ち寄ったのか
本つまみぐいラジオは、読書好きの3人が本の美味しいところを紹介する番組です。今回のテーマは「マーケティングがわかる本」で、司会の幸あれこさんは「満を持して」のテーマだと切り出します。
イケハヤさんとしゅうへいさんは、どちらもSNSを中心としたマーケティングを本業にしています。しゅうへいさんによると、イケハヤさんのフォロワーは100万人近く、しゅうへいさん自身は30万人ほどで、幸あれこさんはテレビやラジオの現場に11年いたメディア出身者です。
なんで今までやんなかったんだっていうね、マーケティングのテーマを。
今回も3人は事前に相談せずに1冊ずつ持ってきましたが、本は被りませんでした。イケハヤさんはセス・ゴーディンの『THIS IS MARKETING』、しゅうへいさんは芹澤さんの『未顧客理解』、幸あれこさんは『ちびまる子ちゃんの社会学』を選んでいます。
これね、正直ね、紹介したくないぐらいいい本。
しゅうへいさんは『未顧客理解』について、ペルソナやニッチ、ファン化といったマーケの常識を疑う本で、「売り上げが上がっちゃう本」だと予告します。一方の幸あれこさんは、ちびまる子ちゃんこそが「マーケティングキング」だと宣言し、イケハヤさんに「一番面白そうなの持ってくる」と言わしめました。
17年前に感動したセス・ゴーディンとは何者か
イケハヤさんにとってセス・ゴーディンは、一番影響を受けたマーケターです。イケハヤさん自身が普段語っているマーケティングの話は、ほぼセス・ゴーディンの話そのままだといいます。
イケハヤさんがセス・ゴーディンに出会ったのは、会社員時代の2009年ごろ、たまたまSNSマーケティングの仕事を担当したときでした。勉強のために読んだ本に「すげえかっけー」と感動したのが、17年ほど前のことだと振り返っています。
人をなんかこう、いい意味で先導させるような話し方が、いや本当に、なんか宗教家みたいな感じの話し方でめっちゃかっこいいんですよ。
イケハヤさんがすすめるのは、セス・ゴーディンのTEDトーク ── アメリカの非営利団体TEDが開催する講演会の動画。さまざまな分野の専門家が短い時間でアイデアを語る形式で、ネットで無料公開されていますです。セス・ゴーディンはブロガーとしても有名で、イケハヤさんは当時、更新を毎日楽しみに読んでいたそうです。
『THIS IS MARKETING』は、セス・ゴーディンのオンライン講座を文字起こしして編集したような本だと、イケハヤさんは説明します。いつもの主張がさまざまな切り口で書かれていて、正直まとまりはないといいます。
そのためイケハヤさんは、セス・ゴーディンの他の本を先に読み、最後にこの本を読むのがおすすめだとしています。そうすると「この内容はあの本で書いたことね」とつながりながら読めるからです。
会社の場所も社名も全部マーケティング。ではどこから考えるのか
セス・ゴーディンの主張は、イケハヤさんによれば非常にシンプルです。この本の中でセス・ゴーディンは、マーケティングとは変化そのものであると書いています。
本の中では同じ考えが、「マーケティングとは文化を変え、世の中を変えること」「マーケターは変化を起こす」と言い換えられています。変化を起こすことが、セス・ゴーディンのマーケティング哲学だというのがイケハヤさんの整理です。
イケハヤさんは前提として、マーケティングには答えがないと話します。会社を作るなら、会社をどこに置くか、社名、誰を採用するか、どの事業をやるかまで、すべてがマーケティングだからです。
集平氏の会社なんて、この大島っていうところに法人があるって、これもマーケティングじゃないですか。
デザインもカスタマーサポートも、価格設定も、商品をどの棚に並べるかもマーケティングです。全部がマーケティングだからこそ、マーケティングは学びにくいとイケハヤさんは感じてきました。
そこで役に立つのが「マーケティングは変化を起こすこと」という定義です。まず起こしたい変化を決め、そこから打ち手を考えていけばよいからです。
起こしたい変化を決める
どんな変化を起こしたいかを自分で見つける
打ち手に広げる
場所、法人、事業などを変化から逆算して決める
細かい手法を使う
AIを使った動画編集などの実務も、その上で取り組む
しゅうへいさんの場合なら、島から発信して何かをやりたいという変化があるから、その島に法人を作るという流れになります。起こしたい変化は住む場所や経験、仲間によって違うので、それを見つけるのは自分の仕事だとイケハヤさんは話します。
高知移住も島のスタジオも「意図的に起こした変化」だった
しゅうへいさんは、イケハヤさんが高知に移住したこと自体がマーケティングだったと指摘します。多くの人は『まだ東京で消耗してるの?』や「高知に移住した炎上ブロガー」としてイケハヤさんを知ったはずで、東京でブログを書いていたら、ああはならなかったというわけです。
東京で消耗するのアホらしいじゃん。なのでそれを変えようっていうので、僕自身は多分動いたんでしょうね、十数年前にね。
しゅうへいさん自身も、その変化を受け取った一人でした。東京に戻ろうとしていたところ、イケハヤさんの本を読んで考えが変わったといいます。
まだ東京で消耗していて、東京に戻ろうとしていた
「愛媛の島でもできる」と考え、島に拠点を構えた
あの本読んでなかったらここ(LLACハウス)立ってないからね。
イケハヤさんは、セス・ゴーディンの言葉は散文的で、刺さる一節が多いと話します。セス・ゴーディンの翻訳書には読みにくいものもありますが、この本の翻訳は読みやすいそうです。
イケハヤさんが紹介した一節は、「意図的に起こした変化こそが最も優れている。これは何のため?と考えるのは仕事を行う上で大切な視点である」というものです。狙ってお客さんの行動や社会を変えることこそが最も優れた仕事だ、という仕事論としても読めると話します。
紫の牛とパーミッション。広告の爆撃をやめて何をするのか
イケハヤさんが2つ目のポイントとして挙げたのは、変化を起こすための方法論です。その1つが、セス・ゴーディンの有名な本『紫の牛を売れ』、原題「パープルカウ」です。
タイトルの意味を問われた幸あれこさんは、紫は高貴な色だから「お高く止まってる牛?」と答え、スタジオを和ませました。イケハヤさんの答えはシンプルで、変化を起こすにはアテンション、つまり注目を集めることが大事だという話です。
街をね、運転してて、牧場に紫色の牛がいたらみんな目に留めるじゃないかと。
セス・ゴーディンが活躍した時代は、テレビ広告を大量に打つマスマーケティングが主流でした。紫の牛の考え方は、TikTokでまずフックを強くするといった今の常識を、イケハヤさんいわく20年以上前に先取りしたものだといいます。
もう1つが、セス・ゴーディンが広めたパーミッションマーケティング ── 消費者から事前に許可(パーミッション)を得たうえで、継続的に情報を届けるマーケティング手法。一方的な広告とは対照的な考え方として知られますです。セス・ゴーディンはこれを、デートの約束を取り付けることにたとえています。
初対面の人にいきなりデートを申し込んでも応じてもらえません。関係性ができてから誘うから人は動いてくれる、企業のコミュニケーションもそうあるべきだという考え方です。
テレビ広告を大量に流し、爆撃のように消費者に届ける
注目される紫の牛になり、一人ひとりから心の許可を取って関係を築く
セス・ゴーディンは、定期的に番組を聴いてくれる視聴者を「パーミッション資産」と呼び、ポッドキャストもその一環だと書いているそうです。イケハヤさんは、メールアドレスのリストを取るだけでは足りず、もっと心理的な許可が大切だと説明します。
とにかくなんか無料のPDFを出してすぐ売りに来る。
しゅうへいさんは、コメント誘導で無料PDFを配ってすぐ売り込むインスタマーケにも響く話だと受け止めます。イケハヤさんによれば、本の中でもそういうやり方は違うと書かれているそうです。
変わりたい人を集める「トライブ」という思想
イケハヤさんが一番痺れたのが「トライブ」という考え方です。トライブは部族という意味で、平たく言えばコミュニティのことです。
少数の人々を集めて部族を作り、文化を作り、世の中を変えていく。人を洗脳するマスマーケティングに強い違和感を持っていたセス・ゴーディンが、パラダイムシフトを起こそうとしたのがトライブの考え方だとイケハヤさんは説明します。
変わりたいと願う人たちをつないでいくのがトライブのリーダーだと、セス・ゴーディンは語っています。イケハヤさんは、セス・ゴーディンは数字を管理するマーケターというより思想家で、ある種宗教的だと話します。
『THIS IS MARKETING』の中でトライブに触れているのは最後の10ページほどだけです。そのためイケハヤさんは、単著の『トライブ』を、できれば原著で読むことをすすめています。
英語読めない人でもなんかね、雰囲気で酔わされる何かがある。
しゅうへいさんが「ちょっとジョブズ的な」と返すと、イケハヤさんも同意しました。イケハヤさんが2社目に勤めたトライバルメディアハウス ── ソーシャルメディアを中心にマーケティング支援を手がける日本の企業。社名の「トライバル」は部族的なつながりを意味する言葉に由来しますの社長も、この『トライブ』に影響を受けていたそうです。
イケハヤさんは、まとまりのない『THIS IS MARKETING』だけでは理解しにくいとして、『トライブ』『リンチピン』『ザ・ディップ』など働き方に関する本も合わせて読むよう、セス・ゴーディンを「必修科目」としてすすめています。
効果的なマーケティングのための13の質問
イケハヤさんの3つ目のポイントは、本の最後に置かれた「効果的なマーケティングのための13の質問」です。セス・ゴーディンは問いかけが好きで、読者に考えざるを得ない状況を作るとイケハヤさんは話します。
13の質問は、自分の商品がある前提で考えるものです。イケハヤさんが紹介した質問は次のとおりです。
| 番号 | 質問 | イケハヤさんの補足 |
|---|---|---|
| 1〜2 | 誰のための、何のためのものか | まず商品の目的を問う |
| 3 | 消費者の価値観はどんなものか | 顧客が何を大事にしているか |
| 4 | 顧客は何を恐れているのか | ネガティブな側からも考える |
| 5 | どんなストーリーを語るか、それは真実か | プロダクトを通して語る物語 |
| 6 | 起こそうとしている変化は何か | 本全体を貫く問い |
| 7 | 顧客のステータスをどう変えるか | コミュニティでの尊敬など |
| 8〜10 | 新しいもの好きにどう近づき、何を話してもらうか | 口コミの動機を設計する |
| 11 | ネットワーク効果はどうか | 使う人が増えるほど価値が高まるか |
| 12 | パーミッション資産をどのくらい築けているか | ポッドキャストをやっているか |
| 13 | 自分がやっていることに誇りを持てるか | 最後の1ページ |
7つ目のステータスについて、イケハヤさんは自身のコミュニティ「Ninja道場」を例に挙げます。そのコミュニティにいること自体にステータスを感じてもらえるかを考えることが大事だといいます。
8つ目以降のネオフィリア ── 新しいものを好む性質や、そうした傾向を持つ人のこと。新しい商品やサービスにいち早く飛びつく層を指して使われますの話は、ゲームを作っているイケハヤさんにも刺さりました。新しいもの好きが熱っぽく友達に紹介したくなる何かがあるのかと問われると、「やべえ、頑張んないと」と感じるそうです。
お前はお前のやってること(に)誇りを持ってるかみたいなこと言って終わりにするみたいな。
幸あれこさんはこの締めくくりを「マイクドロップで去っていく感じ」と表現し、雑に売っていたら誇りは持てないと気づく人もいそうだと話しました。イケハヤさんは、言っていることは平易なのに書き方が上手いと、マーケターとしての文章力も称えています。
変わろうとしない人より、変わる人と進む
幸あれこさんは、セス・ゴーディンの教えで今の自分のマーケティングに活かしている点を、イケハヤさんに尋ねます。イケハヤさんが挙げたのは、ネオフィリア、つまり新しいもの好きの力です。
イケハヤさんのNinjaのコミュニティは、Web3から始まり今はAIを使いまくる、新しいもの好きの集まりです。そうした人たちは変化を起こしたがり、自分も社会も変えられると思っているといいます。
変わろうとしない人を変えるのって大変っていうか、変わんないじゃんっていう話があるんで。
イケハヤさんは、YouTubeを再開してコメント欄を見ると、変わろうとせず文句だけ言う人もいると話します。そうした人ではなく、変わろうとしている人に向けて話すという今のスタンスは、セス・ゴーディンの影響が大きいそうです。
しゅうへいさんは、CVRを高めて単価高く売り、広告を回せば儲かるという小手先のマーケターと、セス・ゴーディン的なマーケターは別物だと感じたといいます。真のマーケターは生き方に近いというのが、しゅうへいさんの受け止めです。
真のマーケターはどっちかというと、お金とかじゃなくて、その人の心にどれほど影響を与えてたりするかとか、ステータス変化を起こしてるかとか。
最後に幸あれこさんは『トライブ』が気になったと話し、原文で持っているのは『ザ・ディップ』だけだと明かします。イケハヤさんは「トライブの方がかっこいい」と原文での一読をすすめ、次回はしゅうへいさんの『未顧客理解』を紹介すると予告して締めくくられました。
まとめ
セス・ゴーディンの『THIS IS MARKETING』は、マーケティングを「変化を起こすこと」と定義し、その変化のために注目を集め、心の許可を取り、変わりたい人の部族を作るという一貫した思想を示す本です。イケハヤさんは、まとまりのない本だからこそ他の著作と合わせて、できれば原文で読むことをすすめています。
- マーケティングは事業のすべてに関わるため、まず「どんな変化を起こしたいか」から考える
- 紫の牛で注目を集め、パーミッションで心の許可を取るという考え方は、今のSNSにも通じる
- トライブの核心は、人を変えるのではなく、変わりたい人を集めること
- 13の質問は「誰のため・何のためか」に始まり、「誇りを持てるか」で終わる
- イケハヤさんとしゅうへいさんの移住や島の拠点づくりも、意図的に起こした変化の実例として語られた




