地元の会社が、焼肉の大型チェーンになっていた
今回取り上げるのは『物語コーポレーション』です。『焼肉きんぐ』や『丸源ラーメン』『ゆず庵』『お好み焼本舗』などを展開している飲食チェーンですね。
最近は焼肉きんぐがグイグイ来ていますが、実は愛知県の会社なんです。私の地元には丸源ラーメンの1号店があって、お好み焼本舗は中高生のころ打ち上げで使っていました。
意外と昔から馴染みのある会社だったんだなと、調べてみて改めて気づきました。私自身いまは焼肉きんぐが大好きなので、中の数字も含めて見ていきます。
創業は1969年、上場は2008年。愛知県豊橋市を地盤にスタートして、時価総額は2226億円と、外食チェーンの中でも大型の主力銘柄にまで上り詰めています。
売上構成はおおむね焼肉が46%、ラーメンが17%、ゆず庵(しゃぶしゃぶ)が17%。95%ぐらいが直営店で、その中でも焼肉きんぐが力強く引っ張っている形です。
27年6月期の四季報予想では、売上高1730億円、営業利益138億円。営業利益率は約7.98%で、業種平均の5.5%をはっきり上回っています。
ここ4年ほどで売上高は約2倍のペースで伸びていて、予想ROEも18.6%。薄利多売になりがちな飲食業で、資本効率の高さが際立っているんです。
しかも財務レバレッジはそれほど効いていなくて、純利益率と回転の効率が高い。ここが面白いところでした。
なぜ稼げるのか、3つの仮説を立てた
焼肉の食べ放題は、別に目新しい業態じゃないと思うんですよね。それなのになぜこんなに効率よく稼げているのか、3つの仮説を考えてみました。
1つ目は原価率です。売上総利益率は65%ぐらいで横ばい、つまり原価率は35%ほど。飲食業界だと売上総利益率は50〜60%が一般的じゃないかと思っているので、それより高いんです。
焼肉きんぐはロードサイド店で家族連れも多く、アルコールの注文比率はそれほど高くない印象です。それでこの収益性なので、セントラルキッチンでの一次加工や、特定部位に絞った長期の大量契約で仕入れ効率を上げているのかな、と想像しました。
2つ目は人件費です。タッチパネルでのテーブルオーダーや配膳ロボットで、ホールの人員を最小限に抑えているんじゃないかと考えました。
3つ目は広告宣伝費。数年前まではしっかりマス広告を打っている印象でしたが、いまはあまり見ません。公式アプリやランク制度、季節のフェアでリピートの流れを作って、広告に頼らない集客をしているんじゃないかと思いました。
実際、フェアのときって少しテンションが上がって、普段食べないものまで食べてお腹パンパンで帰ったりしますよね。まんまと「今フェアやってるじゃん、また行こうか」と、週末の夕飯の候補に上がってくるんです。
原価率の本質は「メニュー構造」だった
1つ目の原価率は、半分当たりで半分外れでした。仕入れの集約はたしかにセントラルキッチンでやっていたんですが、本質はメニュー構造にあったんです。
焼肉きんぐといえば、五大名物ですよね。でっかい肉が来て、ゆっくり焼いて、ハサミでカットして食べる。みんな大体頼むし、何回も頼みます。
注文を看板商品に集中させることで、仕入れのロットをまとめる効果を最大化しているんだと思います。
一方で、ひと皿の量はあえて小さく設計しているようです。種類が多いので「次はこれも頼んでみようかな」が自然に生まれるんですね。
そこにキムチやナムル、ポテト、一口冷麺、デザートといった原価率の低いサイドメニューが挟まってくる。一口冷麺、あれ絶対食べちゃいますよね。
食べ放題はある種のワンダーランドなので、何をどう食べてもいい。その体験を自然に設計して、全体の原価率を適正な水準に守っていることが、有報などにも書かれていました。
メニューをPPM ── プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント。事業や商品を「花形」「金のなる木」などに分類して組み合わせを考える枠組みで考えると、集客を引っ張る高原価の目玉(花形)と、利益を生む低原価のサイド(金のなる木)を巧みに組み合わせて、満足度と全体の利益を両立させている訳です。
ドリンクバーも同じです。お茶の種類が多くて珍しいものも揃っているので、ついつけたくなる。価格の上限が決まった食べ放題の中で、ここでもアップセルが狙われているんだと思います。
浮いた人件費は「おせっかい」に回っていた
2つ目の人件費の仮説は、間違いでした。
タッチパネルなどで減らした人件費を、ただ利益に乗せているのではなく、おせっかい接客にリソースを再配分していたんです。
注文や配膳のような定型作業は機械に任せて、人は「焼肉ポリス」として巡回する。お肉の焼き方を教えたり、網交換の声をかけたり、ロボットにはできないところに人を集中させています。
こうやったら美味しく焼けますよ、と声をかけてもらえるの、私は結構嬉しいんですけど、皆さんはどうですか?もちろん不要なら断ることもできます。
ただ、こういう施策は何かしらの仕組みがないと、だんだん形骸化していくと思うんです。そうならないのは、経営理念や長期経営ビジョンがお客様のほうを向いていて、それが文化として浸透しているからだと考えました。
経営理念は「Smile & Sexy」。長期経営ビジョンは「個の尊厳を組織の尊厳より上位に置き、とびっきりの笑顔と心からの元気で世の中を生き生きさせる」です。
一見ふわっと聞こえるかもしれませんが、こういうことって意外と大事なんですよね。どこを向いているかを示さないと、次に進む道がわからない訳です。
形骸化している企業理念って、まあまああります。でも理念をセンターピンにして、具体的な施策、つまり「おせっかいになって焼肉ポリスを配置します」まで落ちているからこそ、歯車がガッチリ噛み合って利益の源泉になるんだと思います。
その結果、バイキングにありがちな「親が料理を取りに席を立ち続けて食事を楽しめない」という不満を、フルテーブルオーダーと細やかな接客で解消しています。ドリンクすら席に持ってきてもらえるんですよね。
決算を見るまで、このことに気づきませんでした。財布を持っている親の視点で、席を立って取りに行く動きをあえてなくしたのは、意外とエポックメイキングなんじゃないかと思います。
マーケティングには真実の瞬間 ── Moments of Truth(MoT)。顧客がサービスに接するわずかな瞬間に企業の価値を判断するという考え方という言葉がありますが、その一瞬を大事にする仕組みがもう生まれているんです。
広告に頼らず、生活の中に残り続ける
3つ目の広告宣伝費は、半ば仮説どおりでした。さらに深掘ってみます。
公式アプリの『焼肉ポリス手帳』では、行けば行くほど巡査から警視総監へと昇進していくゲーミフィケーションがあります。肉マイルみたいなもので、来店頻度を自然に上げる仕組みです。
社長のインタビューでは、競合が駅前や繁華街、アルコールに頼ってコロナ禍で苦戦する中、一貫して郊外ロードサイドとファミリーの食事利用を積み上げてきたことが今の強みになっている、と語られていました。
郊外店で「肉の提供が遅い」というクレームが入ったときには、店舗を改装してキッチンを広げ、客席を狭める決断までしたそうです。詰めて回転を上げたいのが経営側の都合だと思うので、これはなかなかできることじゃないですよね。
ロードサイドの大きなポールサインが、永続的な看板広告として機能しているという話も面白かったです。車で通るたびに目に入り、生活の中に選択肢として残り続ける。都市部に住んでいるとこの視点はなくなりがちなので、なるほどと腑に落ちました。
そのベースには、価格の安心感もあると思います。どこまで食べても大体4000円ぐらいで、幼児無料、小学生半額。家族3〜4人で1万円前後に収まるんです。
この安心感の上にゲーミフィケーションを組み合わせたCRMが重なって、LTVを最大化する仕組みになっていた訳です。
いろいろ仮説を立てましたが、実際はもっと複雑に、さまざまな要因が積み重なって今の利益率や資本効率を作っているんだとわかりました。久しぶりに診断士試験的な視点もたくさん入れられたと思います。
わからないことがあったら、一緒に調べて勉強してもらえると私も嬉しいです。この番組はSpotify、Apple Podcast、YouTubeほか各種ポッドキャストサービスで毎週火曜朝7時に配信しています。
まとめ
焼肉きんぐの高収益は、メニュー構造と、自動化で浮いた工数を「おせっかい」接客に回す仕組み、そして郊外ロードサイドに根ざした集客が積み重なった結果だと私は理解しました。
- 原価率35%の本質は、看板商品への注文集中と低原価サイドを挟みたくなるメニュー設計にある
- タッチパネルで浮いた人件費は利益ではなく「焼肉ポリス」の接客に再配分されている
- 理念がオペレーションまで落ちているから、おせっかい接客が形骸化しない
- アプリのゲーミフィケーション、ポールサイン、価格の安心感で広告に頼らずリピートを生んでいる





