夫の「気になるなら行ってみたら」から始まった出会い
けいこさんとの出会いは2019年、ご主人と一緒にたまたま商業施設のレクトを訪れたときでした。当時のけいこさんは少し疲れていたものの、ネイルには強く興味を持っていたと振り返ります。
店の前を一度は通り過ぎ、ご主人と歩きながら話しているときに背中を押されました。
(夫と)ずっと歩いてて、気になるなら行ってみるとかって言われて。え、こんなことを言うの?って思って。
予約がなかったため入れるか不安だったものの、たまたまその時間が空いていて、初めてのお手入れを受けられたといいます。ここから、けいこさんとお店との6年半以上の付き合いが始まりました。
店は2017年にオープンし、けいこさんが初めて来たのは2年後の2019年。まだコロナ禍の前のことでした。振り返れば「あっという間」だったと2人は話しています。
月に一度が「次に行く日まで頑張ろう」になる理由
いまではけいこさんにとって、月に一度のお手入れが生活のルーティンになっています。単なる装いの手入れではなく、ほっとできる場になっているといいます。
次行く日まで頑張ろうみたいな。(お手入れが)ルーティンになってて。今日からお手入れしてもらって、また今日から頑張ろうみたいな感じになってます。
ご主人がきっかけをくれる前は、自分でネイルをすることはあっても、お手入れに通うことはほとんどなかったそうです。一度別の店に行ったものの、あまり自分の好みに合わず、足が遠のいていたと話します。
そんな中、いつかさんの店の前を通ったときに惹かれるものがあったといいます。
いつかさんのところを通った時に、何かいいなここみたいな。それからこう、なんか出発したかなと思って。
オープンな店が「案外落ち着く」という発見
いつかさんの店は、通りに面したオープンな造りです。けいこさんは当初、こうしたオープンな店には抵抗があるかと思っていたと明かします。
ところが実際に通ってみると、その印象は逆でした。
個室でこうやるよりは、ああいうオープンなところって案外こう落ち着くんだなと思って。それがなんか不思議な感じですね。
店側も、オープンな造りは「嫌われるポイントかもしれない」と懸念していた部分でした。それだけに、けいこさんが好ましく感じてくれていることを、いつかさんは嬉しく受け止めています。
けいこさんは、人を眺めるのが好きだという性格もあって、通行人が見える環境も気にならないといいます。それどころか、季節ごとに変わる店先の花を見るのも楽しみだと話します。
あそこだけなんかこう、癒しの空間になってる気がして。あそこに行くとなんか空気が変わるんですよね。
色選びは「その日の自分のテンション」から
この日けいこさんが選んだのは、これまで使ったことのない、ピンクとベージュが混ざったような春らしい色でした。「ウキウキ気分」で選んだといいます。
色選びは、いつかさんと相談しながら決めるのが常です。おすすめを聞くところから始め、季節やその日の気持ちの状態に合わせていきます。
(気持ちが)ちょっと下がってるなと思う時は、ちょっと明るめのものとか。テンション上がりすぎてるなって思う時は、ちょっと落ち着いた感じとか。
仕事上、指先を派手にしすぎられないという事情もあり、そうした話もしながら、夏や休みの時期には明るい色にするといった調整をしているそうです。
色を「気分の上げ下げ」で選ぶという感覚は、その日の自分の状態を指先に映すような選び方だといえます。
「ネイルに行くぞと思ったら頑張れる」
仕事の悩みで気分が下がることもあるというけいこさん。それでも、ネイルの予定があることが支えになっていると話します。
ほんとしんどいなって思う時もやっぱりあるんだけど、でもネイルに行くぞって思ったら、そこだけはちょっと頑張れるって思うので。
どんなにしんどくても、やっぱりネイルに行って、そこでリセットするっていう感じなんですよね、私の中では。だから大事なんです。私にとって。
毎月通うこの時間を、けいこさんは自分にとって特別なものだと言い切ります。その言葉に、いつかさんは「鳥肌が立ってきた」と反応しました。
ネイルは捨てられない。この時間はもう捨てられない時間って感じです。
遠方から通う理由は「異空間で落ち着けるから」
けいこさんは、生活圏内とは言えない距離から通っています。いつかさんとは地元が同じで、しかも同じ高校だったことが最近判明し、2人の距離はぐっと近づいたそうです。
遠方から通うことには、けいこさんなりの理由があります。運転が好きなことに加え、地元ではない場所に来ることが心地よさにつながっているといいます。
地元じゃなくて、やっぱり異空間に来て、周りは誰も知らないなっていう感じの方が、気分も落ち着けるかなと。
もっとも、オープンな店ゆえに、通ったことが知り合いにばれることもあるようです。数日後に「どこどこにいたよね」と声をかけられたこともあると、けいこさんは笑って明かします。
車の中が生む、もう一つの「大事な空間」
話はネイル以外の気分の保ち方にも及びました。けいこさんは、趣味は多くないと前置きしつつ、車の中が自分にとってのリセットの空間だといいます。
朝起きて支度をして、車に乗って、よし頑張るぞみたいな。帰りは車に乗って、あ、今日も1日終わったなっていう。
車内では、いろいろなジャンルの音楽をずっと聴いているそうです。Bluetoothで最近のヒット曲もインプットするようにしていると話します。
車の中は、子どもが小さかった頃は送り迎えの時間であり、親子の会話の貴重な場でもありました。子どもが大人になり遠くで暮らすいまも、その空間は自分にとって続いていると、けいこさんは語ります。
いつかさん自身も、子育ての最中に車が唯一一人になれる場所だったと共感します。
すごく辛くなって、それこそバカ野郎みたいな感じで車の中で叫んだりとか。一人の空間だから、そこでスッキリみたいなこともかつてはあったかな。
悲しい場面を家で見せないよう、車の中でしくしく泣き、何事もなかったように帰っていく。そんな使い方もあると2人はうなずき合いました。車だからこそできることなのかもしれない、とけいこさんは言います。
指先を見ると「よく頑張ったね」と思える
運転中は、ハンドルを握る手元がよく見えます。だからこそ、綺麗な爪は日々の中で目に入るご褒美になっていると、けいこさんは話します。
(爪を)見るとやっぱり疲れも取れるし、綺麗になるっていうか、自分にご褒美じゃないけど、よく頑張ったねみたいな形で。
この回でけいこさんが語ったのは、ネイルが装いを超えて、日々を乗り切るための拠り所になっているということでした。月に一度の予定、車の中の時間、綺麗になった指先。そのどれもが、自分をいたわる装置として機能しています。
店側にとっても、この対話は発見でした。いつかさんは、季節ごとに変える店先の植物を「いつやめようか」と迷っていたことを打ち明けます。それを楽しみにしている人がいると知り、続ける力をもらったと話しました。
(店先の植物は)すごい楽しみにしてるんで、お願いします。続けて。
まとめ
歴6年半のけいこさんにとって、月に一度のネイルは「捨てられない時間」であり、日々を頑張るためのリセットの場でした。指先を眺めると「よく頑張ったね」と思える、その感覚が通い続ける理由になっています。
- ご主人の「気になるなら行ってみたら」のひと言が、6年半以上続く通いの始まりだった
- オープンな店構えは、人を眺めるのが好きなけいこさんには「案外落ち着く」空間だった
- 色は季節と、その日の気分の上げ下げに合わせて相談しながら選んでいる
- ネイルの予定があることが「そこだけは頑張れる」という支えになっている
- 車の中と綺麗な指先が、自分をいたわり「よく頑張ったね」と思える装置になっている







