LINE200件が溜まる写真家の連絡事情
後編は、少し有名になると誤解されやすい、というかっぴーさんの話から始まります。かっぴーさんは誰に対しても変わらず連絡を返すよう気をつけていると話します。
それを受けて阿部裕介さんは、自分はメールを返さないと打ち明けます。理由は、常に車で移動し、山など電波のない場所にいることが多いためです。
(山から戻って)メール見るとやっぱLINE200件ぐらい溜まっちゃってて、開いちゃうともう消えてっちゃうんで。
阿部さんは、仕事の連絡は事務所に送ってほしいと伝えているものの、打ち合わせも友達も地元もすべてLINEで届いてしまうといいます。クライアントが入ったグループと入っていないグループが並行するなど、状況は「暴走」していると表現されています。
一方で、電話にはすぐ出られるとのことです。何度も仕事をしている相手からは「来週できる?」とLINEで直接依頼が来て、そのまま打ち合わせが進むことも多いといいます。
それがあまりにも多くなって、最近もう手が腱鞘炎なの。だからもう外行く時あんまり携帯持ち歩かない。
MCが、かっぴーさんは連絡に追いつかずマネージャーをつけたことに触れると、かっぴーさんは「それでもマネージャーを貫通してくる人がいる」と返します。
社長秘書の連絡先知ってんのに、社長に直にやる人はちょっと思われてますよ。
仕事を断らない写真家が、減らしたいと思い始めた理由
かっぴーさんは、写真家は仕事を絞っていくものなのかと阿部さんに尋ねます。阿部さんの答えは、基本的に断ることはない、というものでした。
基本的にお願いされたやつはもうなるべく、ちょっと破天荒なやつじゃなければ、もう99パーセントやってると思います。
ただし阿部さんにも苦手な被写体があります。それはケーキなどの食べ物で、人が介在しない静物を撮るのは難しいと感じているそうです。
食べ物を撮るんじゃなくて、その料理人がすごいから、それを撮った流れでって言われたらOKなんだけど。
そんな阿部さんですが、最近は「仕事を減らした方が楽かもしれない」と思うようになったといいます。依頼をラブレターにたとえ、全力で応えるために時間を空けておきたいという考えです。
せっかくこうラブレターもらってやるわけだから、本当に100パーセント、150パーセントできるためには、そのためにやっぱり結構時間空けとくのがいいかもしれないですね。
かっぴーさんも、同じことを考えていると共感を示しました。
フリーランスはなぜ休めないのか
MCは、フリーランスの二人に「休むことへの不安はあるか」と問いかけます。阿部さんは「今はもうない、休みたい」と即答し、2か月ほど山を歩きたいと話します。
かっぴーさんも全く同感だとしつつ、性格的に「数か月休みたい」と口癖のように言いながら、結局2週間ほどで仕事を始めてしまうと明かします。
かっぴーさんが休みにくい理由は、漫画の連載です。1か月休むには、事前に1か月分のストックを作らなければなりません。
休みを決める
1か月休もうと考える
ストック制作
休む期間分の原稿を先に描きためる必要がある
助走期間
1か月分となると、準備に数か月かかる
1週間分とか2週間分のストックはまあまあ本気出しちゃうみたいな感じだけど、1か月とかになってくると、そのストックを作るのに助走期間が数か月いるみたいな。
阿部さんが描き方を尋ねると、かっぴーさんは、ポイントは決まっていても描き始めると変わることがあり「どっちも」だと答えています。二人は互いを「仕事ホリック」と言い合いました。
4000キロを歩く人たちがいるロングトレイルの世界
阿部さんは、1か月休むのは良いらしいと切り出し、今ハマっているロングトレイル ── 山や森、里などをつなぐ長距離の自然歩道を、数日から数か月かけて歩く旅のスタイル。欧米で盛んで、日本でも整備が進んでいますの話を始めます。アメリカで100キロほど歩くことが多いそうです。
日本人は100キロと聞くと驚きますが、阿部さんによれば、健康な足なら正直余裕で歩ける距離だといいます。現地には4000キロを歩く老若男女がいるからです。
僕がこの間行ったのはPCTっていうトレイルで、そこはメキシコのボーダーからカナダのボーダーまで約4000キロ近く。
阿部さんによると、PCTは6か月近くかけ、1日10時間ほど歩くルートです。阿部さん自身は休みのたびに1週間で100キロ、ときには80キロや10キロと区切って歩く「セクションハイク」を続けています。
一部の区間だけを歩き、続きから再開していく。阿部さんの現在のスタイル
最初から最後まで通しで歩く。現地で出会う人の大半がこちら
スルーハイクをしている人は20代から70代まで幅広いといいます。いつかフルで歩きたい、というのが阿部さんの目標です。
歩くだけの1週間で頭が整理される
MCが「それをやるとスッキリするのか」と尋ねると、阿部さんはスッキリすると答えます。ロングトレイルの毎日は、驚くほどシンプルな繰り返しだからです。
頭スッキリするし、歩いてる10時間ひたすらなんか考えてるし。それがもうどんどんどんどんなんか整理されてって。
電池がなくなるうえ電波も入らないため、携帯もほとんど見ないといいます。第1セクションで語られた連絡の洪水とは対照的な時間です。
阿部さんは道中で出会った67歳ほどの夫婦の話も紹介します。夫婦は2000キロ地点にいましたが、それはニューヨーク方面の別のトレイル4000キロを歩き切った数年後のことで、合計6000キロになるといいます。
うわ、もう、もう何でもできるじゃん、僕ら。本来なら。
ほかにも、子ども6人を連れ、一番下の子をおんぶして4000キロを歩いた家族がいたそうです。阿部さんは来年、1か月で1000キロ歩くなど、まとまった休みを取りたいと話しています。
歩きながらもカメラは持っていくといい、撮った写真はまた作品になって仕事につながるとのことです。かっぴーさんも、考え事をするための散歩は好きだと話しました。
結婚5年目、山で過ごした夫婦旅
MCが阿部さんの「新婚生活」を聞きたいと振ると、阿部さんは、実は新婚ではなく結婚して4年半から5年ほど経つと明かします。ホストの二人が知らされていなかっただけでした。
阿部さんは夫婦で一緒にしていることとして、去年のニューヨーク旅行を挙げます。取材で海外ばかり行く阿部さんに、妻が自分もどこか行きたいと話し、仕事のついでに同行することになりました。
まず宿取ります。もう500ドルとかなんですよ。高いじゃないですか。6、7万ぐらいするわけじゃないですか。
宿代の高さに驚いた阿部さんは、もう新婚でもないし格好をつける必要もないと、2泊ほどで「山行くぞ」と切り替えます。山を歩く仕事に妻を連れていき、テントを持って6日ほどで90キロ近く歩いたそうです。
妻にとっては初めての経験で、最初の1〜2日は大変だったものの、ガッツがあって最後まで歩き切ったといいます。妻は少し年上の編集者で、二人はネパールにも一緒に行っています。
出会いは、妻が阿部さんにインタビュー取材をしたことがきっかけでした。この話は番組での「初出し」とのことです。
カメラマンとモデルはなぜ結婚しないのか
ここでかっぴーさんが脱線し、昔から不思議に思っていることを持ち出します。カメラマンとモデルはありそうな組み合わせなのに、結婚した話をほとんど聞かない、という疑問です。
ヘアメイクさん同士とかすごい聞くけど。職場で出会ったからとかじゃないじゃん。他の組み合わせはあるじゃん。
阿部さんは、付き合っている人はいても結婚している人はあまりいないと話します。かっぴーさんは、特別な感情を持つと「私以外撮らないで」となるのでは、と推測しました。
阿部さんの実感では、撮影現場の被写体とカメラマンは意外と接点がないといいます。撮影が終わればカメラマンは片付けに入るからです。
モデルチームとカメラマンチームで、はっけよーみたいな。出てきて解決して帰っていくみたいな感じになる。
毎日喧嘩する真逆の夫婦
話は阿部さん夫婦に戻ります。阿部さんは、妻が自分の苦手なことを基本全部でき、逆に妻の苦手なことは自分ができると話し、かっぴーさんは「真逆タイプ」と表現しました。
パソコン使えないから自分は。どうやって文字を直していいかわかんなくて、ひたすら紙にプリントしてこうやって返したら、何やってんのみたいになって。
仲は良いものの、喧嘩は毎日するといいます。阿部さんは、怒られると思わずにやったことで怒られるため、何に怒られているのか大してわかっていないと話します。
具体例として挙げたのが、テニスの後の靴下に入った砂です。指摘されてからはテニスコートで靴下を洗って持ち帰っていますが、それでも砂が残って洗濯のときに言われるため、最近は砂のコート自体を選ばないようにしているそうです。
砂が入った靴下をそのまま持ち帰り、洗濯のときに指摘される
コートで靴下を洗って持ち帰り、さらに砂のコートを選ばないようにする
かっぴーさんは、妻がいない場所だと調子に乗って話を盛ってしまう経験があると共感しつつ、「基本男が全部悪い」と笑いを誘いました。プロポーズの話は「今度こっそり言う」と阿部さんが封印しています。
楽しいから調子乗って言っちゃうことをこの5年間ぐらいひたすら怒られ続けたんで、ちょっとやっぱり学んじゃったんですよね。
大谷翔平の撮影でも緊張しない理由
かっぴーさんが「IQ低い質問」として、大谷翔平 ── メジャーリーグで投手と打者の二刀流で活躍する野球選手。MVPを複数回受賞していますさんを撮った感想を尋ねます。阿部さんは月に3、4回は聞かれる質問だと笑い、「身長が大きかった」と答えました。
阿部さんは野球をあまり通っておらず、撮影はMVP受賞の翌日だったものの、当時は海外にいてテレビも見ていなかったため、認知が一歩遅れていたといいます。そのため撮影中も緊張しなかったそうです。
名だたる俳優を撮るときも、阿部さんは緊張せず楽しめるといいます。子どもの頃から続けているテニスでは、試合になると足が震えるのとは対照的です。
やばそうな現場でも、気づいたらめっちゃ楽しくなっている、と阿部さんは話します。MCとかっぴーさんは「天職」だと口を揃えました。
「押すだけ」の撮影が生む家族写真
阿部さんがカメラを買ったのは22〜23歳ごろで、それまで写真の勉強はしておらず、テニスをしていたといいます。写真を選んだ理由を聞かれた阿部さんの答えは、意外なものでした。
まあこれ言ったらあれだけど簡単だったですね。ボタンを押せば写る。
この日撮影した家族写真も、すぐに撮り終わったとホストの二人は驚きます。5分ほどで撮れて渡されるので、一般の人は詐欺かと思うこともあるそうです。
MCは、本当に撮れているのか不安になったものの、仕上がりを見てとても良い写真だと感じ、「死ぬ時思い出す」とまで話しています。阿部さんはカメラをほぼオートで使い、レタッチもせず、現場でプリントして渡すといいます。
空気感の工夫を聞かれると、阿部さんは、昔は工夫していたがやめたと答えます。何十年も一緒にいる家族の素を1時間で撮るのは無理だと気づいたからです。
とりあえず立ってもらって、距離感いい感じにして押せば、あとはこっちが、読み手がなんか思ってくれるかなみたいな。
20年後にもう1枚撮るための「種まき」
すごいのに謙虚だ、と言うMCに、阿部さんは自分の撮影の動機を語ります。それはドキュメンタリーが好きだということ、そして20年後に写真を見返す楽しさです。
(今撮った写真を)20年経ったら見たら、うわやばいねみたいな、この時の写真あるねみたいな。それがやりたくて今種まきしてるんですよ。
阿部さんは、有名な人を撮りたいというより、山口百恵 ── 1970年代に一世を風靡した歌手・俳優。結婚を機に引退し、今も伝説的な存在として語られていますさんのデビュー時の写真のように、若い時を記録して後で見返すことに価値を感じているといいます。
阿部さんが目指すのは、2枚の写真で1つの家族を成立させることです。ビジネスにしようというより、純粋に面白いだろうという思いからだと話しています。
撮影のコツとして、阿部さんは奥さんの顔を美しく撮ることを意識し、旦那さんの表情は気にしないといいます。かっぴーさんは「それが正しい家族写真」と同意しました。
写真館の息子が考えた「2枚入る額」
かっぴーさんの実家は写真館です。広告クリエイターになった後、客が来なくなった実家をテーマにアイデアを考えたことがあるといいます。
2枚写真が入る額を、まさにあんな感じで。プレゼントして、だから対になる。で、これが現在で10年後っていうのを。
このセットを渡せば10年後に客が来る、という提案でしたが、10年後には写真館が潰れていたと、かっぴーさんは語ります。一昨年に父が亡くなり、写真館は廃業しました。
かっぴーさんは、写真家としては比べようがないとしつつ、阿部さんの思いは写真というものの良さとしてよくわかると話しています。阿部さんは、こんなに喜びを表現してくれるのはかっぴーさんたちの良いところかもしれないと返しました。
MCの姉の夫は阿部さんの大ファンで、写真展に毎回来て、LINEやInstagramのプロフィールにも阿部さんの写真を使っているそうです。かっぴーさんは「その一歩手前にミーハーがある」と笑っています。
熊本の深見家を撮りに行く約束
かっぴーさんは、熊本にいるMCの母を撮ったかと阿部さんに尋ねます。阿部さんは「深見家大集合するか」と応じ、田んぼのある家の前での撮影が話題になります。
かっぴーさんは、阿部さんだけ深見家に泊まって撮ってもらう案を出します。ただ、MCの母はずっと喋っているため「撮る隙がない」と笑いが起きました。
終盤は昔の写真を見せ合う時間になります。2012年、14年前の出会った頃の写真を見て、阿部さんは見た目が変わらないと話しました。
阿部さんは、人が好きなことに加え、カメラを持つと自分が切り替わるとも語ります。
多分こうだいぶね、サイヤ人になれるんですよね。やっぱりカメラ持ってこう向き合うって、やっぱりカメラマンの人みんなそうだと思うんですけど、一個変わるんですよ。
最後は、次はみんなで深見家に撮りに行こう、阿部さん単独のスペシャル回もあるかもしれない、という約束で締めくくられました。
まとめ
写真家の阿部裕介さんとのトーク後編では、連絡と仕事に追われる日々から、ロングトレイルでの頭の整理、真逆の夫婦の日常、そして20年後を見すえた家族写真の考え方までが語られました。
- 阿部さんは依頼をほぼ断らないが、全力で応えるために仕事を減らすことも考え始めている
- アメリカのロングトレイルでは4000キロを歩く人が多く、歩くだけの日々が頭を整理してくれる
- 撮影ではほぼオートで「押すだけ」、それでも緊張せず楽しめることが阿部さんの強み
- 阿部さんの理想は、今撮った家族を20年後にもう1枚撮り、2枚で1つの家族を成立させること


