「ずっと夢見させてくれてありがとう」という言葉
この回で和尚が紹介するのは、「ずっと夢見させてくれてありがとう」という一節です。
この言葉は、1989年発売のTHE TIMERS『デイ・ドリーム・ビリーバー』の最後のサビに登場します。
和尚によると、当時の清志郎は表現の自由の関係でレコード会社と揉め、新しくこのバンドを結成したといいます。
ただし、その正体はバレバレの覆面バンドでした。土木作業員の格好をし、ボーカルの名前もジュリーならぬ「ゼリー」だったそうです。
沢田研二さんや岸部一徳さんのザ・タイガースのパロディーでもあり、色々とふざけていて清志郎さんらしいと和尚は語ります。
明るいメロディに隠された「別れの歌」
『デイ・ドリーム・ビリーバー』は、さまざまなCMソングとして使われてきた名曲です。
カップ麺のスーパーカップやモルツ、セブンイレブンのCMソングとしても流れていたと和尚は挙げます。
曲調はパッと聴くと明るい印象ですが、実は男女の別れの歌だといいます。
タイトルを直訳すると「白昼夢を信じる人」で、夢見がちな人、あるいは夢想家という意味です。
忌野清志郎さんの作詞で、今はいない彼女を思い、懐かしみつつも、彼女に感謝して、改めて夢見がちな男として前を向いていくという、メロディとも相まって、ちょっと間の抜けた感じで明るいような、物悲しいような、不思議な印象の曲です。
和尚自身も、この曲を普通の失恋の歌だと思っていたそうです。
彼女は恋人ではなく、亡き母だった
ところが、この歌詞は清志郎の二人の母親と自分自身のことを書いたものらしいと和尚は明かします。
清志郎は幼い頃にお母さんと死別し、本当の親として育ててくれたお母さんも、清志郎が30代の頃に亡くしているといいます。
若い頃の清志郎は、漫画家やミュージシャンを目指す夢見がちな少年でした。
その当たり前の生活を、当たり前に支えていたのが母親です。歌詞の前半は、母との日常を懐かしみ、「ずっと夢を見て安心してた」と綴られます。
和尚の読みでは、絶対的な愛情の中で何も疑わずにデイ・ドリーム・ビリーバーでいられた自分、その母を女王クイーンと讃え、自分はその僕だったと歌われているといいます。
「今も見てる」に込められたダブルミーニング
歌詞は「ずっと夢を見て幸せだったな」と顧みながら、「ずっと夢を見て、今も見てる」と続きます。
和尚は、この「今も見てる」に二つの意味が重なっていると読みます。
母が支えてくれた夢をまだ生きている。母がいなくても自分は大丈夫だという強がり。
母がいた頃を未だ懐かしみ、過去に引っ張られているという純粋な気持ち。
この相反する思いが、見事なダブルミーニングになっていると和尚は評します。
そして最後に「ずっと夢見させてくれてありがとう」と続きます。和尚は、この台本を泣きながら書いていると打ち明けています。
原曲は「白昼夢に囚われた男」の歌
ここまで清志郎の作詞として語ってきましたが、実はこの曲には原曲があります。
原曲は、アメリカのThe Monkeesが1967年に発表した同名の大ヒット曲で、THE TIMERS版はそのカバーにあたります。清志郎はこれに日本語のオリジナル歌詞をつけました。
和尚によれば、原曲はシンプルな恋愛の曲です。夢見がちでうだつの上がらない男と、学校のミスコンのクイーンだった彼女との間に広がる溝が描かれます。
男は引け目を感じながらも、「お金がなくたって愛があれば幸せだよね」と語りかけます。ボーッとして現実を見ていない、まさにデイ・ドリーム・ビリーバーな男です。
ただし和尚は、歌詞の中で男が語りかけるだけで、彼女は一度も返事をしない点に注目します。
つまり、彼女はもうとうの昔に男に愛想を尽かして出て行ってしまっている。
それなのに、男は彼女との別れが受け入れられず、白昼夢に囚われたように彼女との思い出をずっと生き続けている。
和尚は、原曲をそういう怖い話かもしれないと読み解きます。
翻訳ではなく「再構築」という表現者の仕事
では、清志郎はなぜ原曲の恋愛の歌を、母との離別の歌に変えたのでしょうか。
和尚は、清志郎も自分と同じように、原曲を「すでに彼女と別れ、白昼夢に囚われた男の歌」だと認識していたのではないかと推測します。
そして清志郎は、過ぎ去った夢の中で生きるという原曲の男に、自分自身の狂気性を見出したのではないかといいます。
この回は、以前配信された堀元見さん回とつながっていると和尚は語ります。
和尚は、堀元さんが持つ表現者の教示に、清志郎の仕事がまさに当てはまると指摘します。
もし清志郎が原曲をそのまま日本語に翻訳したような曲を作っていたら、ザ・タイマーズのデイ・ドリーム・ビリーバーはこんな名曲にはなっていなかったかもしれません。
まとめ
明るいCMソングとして知られる『デイ・ドリーム・ビリーバー』の歌詞をたどると、亡き母への感謝と、それでも夢を見続けようとする思いが浮かび上がります。和尚は、原曲を翻訳ではなく再構築した清志郎の仕事を、表現者としての見事な仕事だと語りました。
- 「ずっと夢見させてくれてありがとう」は、THE TIMERS版の最後のサビに登場する言葉
- 歌詞の「彼女」は恋人ではなく、清志郎が亡くした母親を指すと和尚は読み解く
- 「今も見てる」は、前向きな強がりと過去への未練を重ねたダブルミーニング
- 原曲は、彼女に去られ白昼夢に囚われた男の歌だと和尚は解釈する
- 清志郎は原曲を翻訳せず、テーマを整理して再構築・一般化したことで名曲が生まれた




