五十音に1行足すなら、どの音が候補になる?
この回は、堀元さんの問いかけから始まります。五十音に1行か1列を足せるとしたら、どの子音か母音を足すか、という問いです。
水野さんがさ、あいうえおの五十音にさ、一行加えるまたは一列加えるできるとした時、子音か母音何足します?
これやばいな、この話は。
水野さんはまず、母音を1つ足す案を挙げます。アとエの中間の「エァ」のような母音を足せば、あかさたなの各行に音が増え、五十音全体の量が大きく増えるという考え方です。
ただし水野さんは、日本語話者は「エァ」をアとして聞いてしまうため、音として定着しにくいと指摘します。堀元さんも実際に聞いてみて、アとの違いが聞き取れないと話しています。
そこで水野さんは、聞こえがはっきり違う子音を候補に挙げます。入破音 ── 喉頭を急に下げて口の中の気圧を下げ、空気を吸い込むように出す子音。アフリカや東南アジアなどの言語に見られますや巻き舌のラ、両唇ふるえ音の「ブワ」などです。
ただこれ(巻き舌のラ)、できない人できないんですよ。
巻き舌のラは、発音できない人がいる点がネックになります。水野さんは大学の言語学の授業で、苦手な人が「トゥルルル」と速く言うことでルの音を作っていた様子を紹介しています。
最終的に二人が推すのは、舌打ちのようなクリック音 ── 舌を口の中で弾いて鳴らす子音。南部アフリカのコイサン諸語などに多く見られますです。言いやすく聞き取りやすいうえ、アフリカの言語に集中している音なので、日本列島だけで使われれば言語学者も驚くだろうと水野さんは話します。
| 候補 | 良い点 | 難点 |
|---|---|---|
| 母音「エァ」 | 各行に音が増え、量が一気に増える | 日本語話者にはアと聞こえてしまう |
| 巻き舌のラ | はっきり聞き分けられる | 発音できない人がいる |
| 両唇ふるえ音「ブワ」 | 多くの人が発音できそう | バとほぼ同じに聞こえる |
| クリック音(舌打ち) | 言いやすく聞き取りやすい | 堀元さんは「オリモトじゃない」と言いたくなるほど落ち着かない |
入破音を練習した堀元さんは「ダ」を少し出せるようになります。ただ、日常会話で使うと相手に「なんて?」と聞き返されそうだという結論で、二人は盛り上がっています。
日本語のラ行はRでもLでもない?
話は、今の日本語話者の中にラ行をLで発音する人がいる、という指摘へ移ります。水野さんはその前提として、日本語のラ行はRでもLでもないと説明します。
Rは舌を持ち上げた状態で出し、Lは舌を前歯の裏につけて側面から息を出す
舌を一度弾いて出す。ノイズキャンセリングをオンにして言うと、口の中でペタッという音が聞こえる
水野さんが典型例として挙げるのが、米津玄師さんの歌い方です。『感電』の「逃げ出したい夜のオーライ」のライや、「四輪車」のリンは、よく聞くとLで発音されていると指摘します。
このだから米津玄師さんのなんか舌っ足らずに聞こえるこの感じはなぜかといったら、RをLで言ってるからんですよね。
水野さんは、米津さんのものまねをする松浦航大さんも、きちんとLで発音していると付け加えます。ラ行をLで話す人が一定数いるため、五十音にLを足すと、米津さんのような話者にとって区別がややこしくなるとも考えられます。
さらに水野さんは、一時期「若者がサ行を英語のthで発音している」と指摘されたことにも触れます。ただ、水野さん自身は最近そうした観察は聞かず、日本語のSがthに変わる流れにはならなかったと理解しているそうです。
このお題の結論は「言語学者と朝まで飲みたい」
ここで堀元さんが、この話題がリスナーのおたよりだったことを明かします。
いつも楽しみに見ていました。水野さんがあいうえおの五十一音に新しく一行か一列加えるとしたら、どんな子音か母音のものを足したいですか?
やっぱこのお題で言語学者と朝まで飲みたい、これが結論になります。
水野さんは、答えを出すよりも、わちゃわちゃ話す過程が面白い問いだと話します。そして、発音YouTuberのだいじろーさんと話すならこのテーマがいいと思いついたそうです。
水野さんはだいじろーさんの印象的なエピソードも紹介します。高校生のころから発音が好きだっただいじろーさんは、学歴をあおる言説にピンと来ず、東大に行くような人に対しても「俺の方が発音うまいけどな」と思っていたといいます。
いや、本当にそうですね。やっぱ自分軸で価値を見出すって大事だよな。
二人は、だいじろーさんをゲストに招いてこのテーマで1時間じっくり話す回をやりたい、と話してこの話題を締めています。
坂上田村麻呂は「隣町の佐藤さん」?
次に水野さんが読むのは、花丸チクさんからのおたよりです。以前の「おじさんズミステイクアワード」の回を受けて、中学時代の同級生の勘違いを送ってくれました。
社会のテストで「初めて征夷大将軍に任命されたのは」と問われ、同級生は「田村麻呂」と答えて誤答になったそうです。おたよりによると、その同級生は坂上田村麻呂を「隣町の佐藤さん」のように捉え、「坂上を地名、田村を苗字、麻呂を名前と認識していた」といいます。
堀元さんは、この逆の経験があると話します。北海道の実家に遊びに来る親戚が「亀戸のごろうさん」と呼ばれていて、子どものころは「亀戸の」までが名前だと思っていたそうです。
そうか、親戚のおじさんを呼ぶ時、二つ名が頭につくことがあるんだなって、そこで初めて意識しましたね。
水野さんも「鈴鹿のおいちゃん」や「飯南のばあちゃん」と呼んでいたと応じます。ただ「下の名前がばあちゃんだと思っていた」とまで言い出し、堀元さんに「話ねつ造するのやめてもらっていいですか?」と突っ込まれています。
清少納言はどこで切れる?アクセントが示す単語の境目
堀元さんは、清少納言が「清」で切れ、少納言が役職名だと知ったときの衝撃を挙げます。水野さんは、その勘違いはアクセントのせいだと説明します。
東京式アクセントには、1つの語の中で一度下がると、そのあと再び上がることはないというルールがあります。普段の「清少納言」は低から上がって途中で落ちる形なので、1語のように聞こえるのです。
普段の「清少納言」は低・高・高…と上がって途中で下がるだけなので、1つの語の形になる
「中条あやみ」は中条で上がったあと、あやみで下がってまた上がる。2回上がるので2語だとわかる
水野さんは、清を「高低」、少納言を「低高高高」と読めば、1語ではありえない形になるので切れ目がはっきりすると説明します。堀元さんはこれを聞いて、子どものころ「主は来ませり」を1語のロシア語か何かだと思っていた謎が解けたと話します。
日本語のアクセントって、第一に文の中でどこが単語の切れ目かってのを話者に理解するために機能している面があるので、歌だとさ、(アクセントが)本来の文のアクセントじゃなくなるわけですよね。
堀元さんは、ミュージシャンの友人も作詞のときにアクセントとメロディーを合わせるよう気にしていると話します。水野さんも、ヨルシカのn-bunaさんから、アクセントを合わせたい派とまったく気にしない派がいると聞いたそうです。
「五感」か「股間」か、椎名林檎さんの歌詞とフィールド言語学
堀元さんは「一か八か」と前置きして、東京事変の『閃光少女』の話をします。「写真機はいらないわ、五感を持っておいで」という歌詞を、ずっと「股間を持っておいで」だと思っていたそうです。
だから歌詞カードだけを見て、その歌に描かれてることがそうだって言うには早い気もします。
水野さんはアクセントとは関係ないとしつつ、椎名林檎さんの『丸の内サディスティック』を例に挙げます。音で聞くと明確に下ネタに聞こえる一節が、歌詞カードでは別の漢字で書かれている例です。「股間」に聞こえるように歌っている可能性もある、というのが水野さんの見方です。
本当は何と発音しているのかを確かめるには、フィールド言語学 ── まだ記録の少ない言語を現地で調査し、音や文法を記述する言語学の分野のスキルが必要だと水野さんは続けます。
水野さんは、フィールド言語学者の伊藤祐馬先生と立命館アジア太平洋大学の学園祭に出たときの体験を紹介します。留学生によるヨルバ語の授業で、水野さんが聞き取れなかった音を、伊藤先生は一度聞いただけで口の中の形まで言い当てたそうです。
(伊藤先生は)すぐリバースエンジニアリングしたんですよ。
堀元さんは「インタビューを読んだ方が早くないですか?」と突っ込みつつ、『丸の内サディスティック』の「ラット」は実験用のネズミではなく楽器関連の言葉らしい、という豆知識も添えています。
マキシマム ザ ホルモンが歌詞に隠した「L」
歌詞カードと歌っている内容が一致しない例として、水野さんはマキシマム ザ ホルモンを挙げます。ホルモンの曲には、英語で聞くと別の意味になる「裏歌詞」があるといわれています。
アニメ『デスノート』で使われた『絶望ビリー』のサビ前は、歌詞カードでは「免罪のワールド 制裁のワード」です。これに裏歌詞がついていて、水野さんはそこで2つの仕掛けに注目します。
| 歌詞カード | 裏歌詞 | 仕掛け |
|---|---|---|
| 免罪のワールド | ネオスライトワールド(新しい薄っぺらい世界) | 免罪のMがNEOのNに入れ替わっている |
| 制裁のワード | スーサイドワード(自殺者たちの残した言葉) | WorldとWordで韻を踏み、綴りからLが消える |
そう、だからこれ、実はLのいない世界。
Lは『デスノート』の主要キャラクターの名前です。WorldからWordへとLが消えることで、Lのいない世界にかけているのではないか、という説を聞いた堀元さんは「オシャレすぎないそれ」と驚きます。
堀元さんは「アニソン作らせたら任せてください」と売り込めば稼げると力説します。一方で水野さんは、ホルモンがサブスクを解禁せず、PVもファンの抽選で順に公開するなど、儲けを狙わないスタイルだと紹介します。そんな売り込みは「急にかっこ悪くなる」と、堀元さん自身も認めています。
京終、水走、喜連瓜破。関西の難読地名クイズ
次は、夜雨どんぐりさんのおたよりです。「マンションのベランダでコンポストから土を作り、綿と藍を育てて5年かけてジーパンを作っています」という自己紹介だけで、水野さんは笑いすぎて首をつってしまいます。
本題は、関西の読みにくい地名です。堀元さんがおたよりに並んだ地名を水野さんにクイズとして出していきます。
| 地名 | 場所 | 読み |
|---|---|---|
| 京終 | 奈良県 | きょうばて |
| 水走 | 東大阪 | みずはい |
| 喜連瓜破 | 大阪 | きれうりわり |
水野さんは「終」を意味から「はて」と推測し、正解にかなり近づきます。「水走」はわからなかったものの、「走」を「はい」と読む理由をイ音便 ── 「咲きて」が「咲いて」になるように、語中の音がイに変わる現象。古文の授業でも習いますで説明しようとします。
「喜連瓜破」は、水野さんが字を知っていたのに読みを思い出せません。小学生のころ日本中の難読地名をメモしていた水野さんも、今回は記憶違いを認めています。「喜連」の部分について水野さんは、もとは「切れ」だったものを縁起が悪いので「喜ぶに連なる」に変えたのではないか、と推測しています。
難読地名が関西に多いのは選民思想のせい?
このおたよりの本題は、次の問いでした。
数百年経ってもこの謎の漢字使い、しかも簡単な漢字の難読使いがやたら関西でだけ生き残ってる気がします。これってもしかして上方の人々の選民思想やその他の地域への屈折したへそ曲げ根性じゃないでしょうか。難読地名を調べ尽くした水野さんから知見があったら聞かせてください。
水野さんは、難読地名が残っていることと選民思想は関係なさそうだと答えます。そのうえで、沖縄の山原(やんばる)、南風原、北谷を例に挙げます。
(難読地名は)結局谷はタニと読むんだという中央の標準語の決まりと、九州、沖縄で谷はタンと読むのだっていうのがコンフリクトしただけですよね。
北海道では、アイヌ語由来の地名に漢字を当てたことで難読地名が生まれています。堀元さんも、子どものころスキーに行った先の「倶知安」という駅名に衝撃を受けた思い出を語ります。
水野さんはさらに、渋谷の「谷(や)」は音読みではなく方言だと説明します。漢字文化資料館の記述によると、谷を「や」と読むのは関東から東北にかけての古い方言「やち」に由来するといわれているそうです。
地域ごとの読み
関東では谷を「や」、沖縄などでは「たん」、関西の名字では渋谷を「しぶたに」と読む
標準語の選択
関東の方言が標準語になり、渋谷・四谷などの「や」が標準的な読みに見える
難読扱い
標準語の決まりから外れる読谷や北谷が、難読地名として扱われる
だからむしろ関東の選民思想のせいで、他の場所の地名が読みづらくて変だなーってなってる可能性もありますね。
水野さんもこれに「あると思いますね」と応じます。難読かどうかは、どの地域の読みを標準にしたかで決まるという見方で、関西の選民思想説はひっくり返されました。
助数詞ーズハイ先生の意志を継ぐ者が現れた
最後のおたよりは、アイグレックさんからです。以前、緊縛された非公式キャラ「亀甲ちゃん」の広告コピーを送った人で、今回は番組おなじみの投稿者・助数詞ーズハイ先生へのリスペクトを込めた長文を寄せてくれました。
文章は、女王様に縛られる体験を、助数詞や言語学ネタを織り交ぜて描いたものです。「テンションが高い」は緊縛業界では縄の締め具合がきついことを指すといった雑学や、自分が「一体」と数えられることへの興奮などが語られます。
途中で書き手が女性だとわかり、最後は「女王様への恋が彼女にバレてはならぬ」という一文で締めくくられます。締めの「ゲーゲンプレス」は、堀元さんの説明ではサッカーの戦術名で、ユルゲン・クロップ監督と番組名をかけたものではないかと二人は推測しています。
女王様への恋が実った場合さ、女王様は女王様でいられなくなるっていう、これ恋人になったら対等な関係になるっていう、なんかそういうエモさもちょっとありますよね。
二人は、助数詞ーズハイ先生が笑える話だったのに対し、今回の投稿には恋と文学性があると評価します。水野さんは、書き手を男性だと思い込んで読んでいた自分の中の偏見にも気づかされたと話しています。
体験を文章に昇華する「良質な孤独」
水野さんが嬉しかったと語るのは、体験をただ楽しかったで終わらせず、咀嚼して構成し、推敲して送ってくれた点です。
これ、スマホ時代の哲学っていう本で、谷川志朗先生が説いてた、良質な孤独であると。
堀元さんはすかさず、本には書かれていないことを書いてあるかのように言うのはまずいと指摘します。水野さんも「読んで僕はこう思いました」と言うべきだったと認めて謝ります。
言ってないですよ。書かれてないこと言っちゃまずいですよ。
一方で堀元さんは、女王様のセリフの脚色は強すぎるので、次からはある程度事実に即して書いてほしいとも注文します。二人は、才能ある人がものづくりに励む場所としておたよりフォームが機能しているのはありがたいと話します。SMの話でなくても、日頃の体験を内省的につづったものなら気軽に送ってほしい、と呼びかけています。
まとめ
今回のおたより回は、五十音に足す音という遊びの問いから、ラ行の発音、アクセントと単語の切れ目、歌詞の聞こえ方、難読地名の成り立ちへと話が広がりました。最後は、投稿文化が後進に受け継がれる瞬間を喜ぶ締めくくりになっています。
- 五十音に足す音の本命は、言いやすく聞き分けやすいクリック音。ただし結論より、あれこれ語る過程が面白い問い
- 日本語のラ行はRでもLでもなく、米津玄師さんのようにLで発音する話者もいる
- 東京式アクセントでは一度下がると再び上がらないため、清少納言のように切れ目を誤解しやすい語がある
- 難読地名の多くは、関東の方言を標準語にしたことと、地域ごとの読みがぶつかった結果とも考えられる
- 助数詞ーズハイ先生の投稿スタイルを継ぐ書き手が現れ、おたよりが創作の場として育っている



