アトツギ甲子園の審査員をやってわかった、後継ぎピッチの難しさ
本題の前に、小平さんが審査員を務めたアトツギ甲子園中部大会の話から始まりました。
アトツギ甲子園は、スタートアップのピッチとは審査の性格がかなり違うといいます。
あれ自体が基本は後継ぎのためのお祭りみたいなものなので、割とエモさが重要視されるとか、覚悟が重要視されるとか、そういったところもあるので、結構審査難しかったなと思います。
審査では先代がどこまでやり、自分がどこから始めたのか、その境目が曖昧になりやすい点も難しさになっていると話されています。
選考プロセスは、10点満点の採点という定量評価と、「この3人を推したい」という定性評価の両方を勘案する形だといいます。
必ずしも点数が高い人だけが推される人ではない。
事業として綺麗にまとまっていても違和感が残る場合もあれば、まだ構想段階で荒削りでも勢いに一票を入れたくなる場合もあるそうです。
ただし今回は、構想段階よりも、ある程度プロダクトとして実行しているかどうかが重視される傾向を感じたと話されています。
採用広報に投資してきた2社の始め方
ここから本題の採用とブランディングへ。桺本さんは3年ほど前に企業理念やホームページを作り直し、少しずつ成果を実感してきたといいます。
ここ3年ぐらいで採用もかなりよくなってきて、取れるようになってきてる。
小平さんは採用広報にかなり力を入れてきたと語ります。きっかけは、人が取れなくなったことでした。
やっぱり人が取れなくなったっていうのが会社を大きく変えるきっかけにもなった。
小平さんの会社は、本社をシャッター商店街へ移すという経緯を物語化し、会社の歴史や大切にしていることを資産にしていく取り組みを進めているといいます。
採用体制について小平さんは、専任者がいなかったことが最大の課題だったと振り返ります。
書類選考して、カジュアル面談して、一次面接あって、最終面接あって、その後にオンボーディングがあって、プロセスを全部回すのに全然人が足りなかった。
そこで採用業務をアウトソーシングし、全体の舵取りだけを自社に残す体制を整えたことが、大きな転機になったと話されています。
一方、桺本さんの会社にも専任者はおらず、桺本さん自身が新卒社員と少しずつ構築してきたといいます。特に効いたのが、ホームページの作り直しでした。
BtoBメーカーのサイトは製品一覧から始まりがちですが、それを採用向けに、解決している社会課題や求める人材、社内の雰囲気が伝わるものへ変えたそうです。
さらに桺本さんは、工場内を事前に見られる「バーチャル内覧」を用意し、会ったときのギャップを減らす工夫をしていると話しています。
採用は戦争─経営者が関わり、noteに資産を貯める
採用に経営者がどこまで関わるべきか。桺本さんは、中小企業の採用はある程度経営者がグリップすべきだと考えています。
桺本さんは3年ほど自ら担当し、昨年入社した弟にバトンタッチしたといいます。経営側を見られるポジションの人が担うことが重要だという考えです。
これに対し小平さんは、副社長から受け取ったという印象的なフレーズを紹介しました。
小平さんの会社では、採用面の発信を法人向けのnoteプロへ移行しようとしているといいます。AIに学習される優先度が高く、物語として資産化しやすいことが理由です。
noteプロを選ぶ最大の理由はSEOに強いことだと小平さんは説明します。社員インタビューや街づくりの記事まで掲載し、会社の資産にしていく方針です。
検索した時に社長のnote出てこないとダメだと思ってて。それが出てくると、そこから引きずり込めれば採用の確度が一気に上がる。
採用にかけられる予算が限られるとき、紹介会社を使えばすぐ数百万円が飛ぶのに対し、noteやXへの投資は同等の効果をもたらしうると小平さんは話します。
Xでの発信は本業にどう効いているか
続いて、X(旧Twitter)での発信が本業にどうつながっているかへ話が移ります。
小平さんの場合、特に効いているのは後継ぎ層への訴求だといいます。後継ぎ向けの経営情報は少なく、このラジオもその一環として立ち上げたと語ります。
さらに、投稿の内容がAIの話題に寄っていることで、「AIに強い社長がやっている会社」というイメージが付き、それもプラスに働いていると分析しています。
一方、桺本さんは自身の発信がどう本業に効いているか、正直よくわかっていない部分もあると率直に話します。もともとITツールやAIの情報を発信するアカウントが中心だったためです。
ここで小平さんは、ブランディング上「3つの顔」を持つという方針を紹介しました。
AIや地域の未来、ソーシャルインパクトなど、尖ったテーマを発信するメインアカウント
地域のガス顧客など、SNSのエコーチェンバーの外にいる人に向けた、優しいトーンの別アカウント
そして社内には、その両方がミックスされた顔を見せるといいます。採用ターゲットごとにトーンや媒体を使い分ける考え方です。
桺本さんは、企業としての顔はまだ作れていないと認めつつ、個人アカウントの効果は実感しているといいます。入社前に見ていたという社員が実際にいたそうです。
昨年の会社買収でも、相手側の社員が事前に桺本さんのXやnoteを見ていたと語ります。
行ったら、あの社長はDXとかAIとか好きなんですよねって話しかけられて。会う前にある程度こっちの情報を与えられているのは大きい。
AIに選ばれる会社になる─これからのブランディング
話は、地方企業がなぜブランディングに力を入れるべきかというテーマに戻ります。小平さんは、ある書籍を引きながら説明しました。
たとえば100種類のスニーカーがあっても、AIに希望を伝えて提示されるのは5個ほど。その5個に入らなければ、そもそも消費者の選択肢に入らないという指摘です。
いくらCM打ったり、いくらレビュー数を増やしても、AIの選択基準に合わなかったら、その商品はレコメンドに入らないので、結局購買行動へつながらない。
だからこそnoteやXでの発信は、「鹿児島で面白い会社を教えて」と尋ねられたときに、その5個に入るためのものだと小平さんは位置づけます。
桺本さんも、情報量が増え続けるなかでAIやGoogleから推薦され、指名で選ばれる状態を作ることがブランディングの核心だと応じました。
さらに小平さんは、AIのレコメンドをすっ飛ばす「指名買い」というもう一つのルートを挙げます。鍵になるのは、会社ではなく個人を知ってもらうことです。
会社という束は正体が見えにくく警戒されやすい一方、個人の発信には好意が持たれやすいといいます。
コビラカンタという人格を知っているなら、あの会社ならそんなに変なことはしないだろうという信頼感がブランドの中でできてくる。
この考えから、小平さんは法人名そのもののnoteより、「コビラ株式会社の内々です」といった個人発信をマガジンとしてまとめるほうが、注目やブランド価値につながるかもしれないと話しました。
桺本さんも、会社の発信より経営者の発信のほうが重要だと同意します。noteはホームページや会社紹介資料に載せきれない具体的な部分を届けられるため、本当に興味のある人に響くといいます。
地方であることを武器にする採用ブランディング
発信や採用で、地域ブランドは武器になるのか。桺本さんは、京都という立地が明確に効いていると答えます。
桺本さんの会社を選ぶ人は、関西で働きたい、メーカーで働きたい、社会課題や環境に関心があり、安定した企業を望む、という共通点があるといいます。
さらに、滋賀や奈良、大阪など近隣出身者にとって、京都は帰省しやすい距離という地理的な優位も生まれていると話しています。
小平さんの会社が拠点を置く鹿児島県日置市では、地元の5割以上が顧客というエネルギー事業の性質から、「あの会社なら安心」という信頼につながっているといいます。
一方で、IT や貿易など海外向けの仕事では、まったく逆の効果が生まれると小平さんは語ります。
あんなど田舎にある会社が、なぜかめちゃくちゃ最先端のことをしているっていう振り幅が、すごくブランディングにつながる。
空き家を改装したミーティングルーム、目の前のシャッター街、昼寝する猫。その環境からAIの設定を語り、地域活性化も手がける。そのギャップが人材獲得の強みになっていると話されています。
桺本さんの会社も、老舗でありながらDXに明るいという「老舗っぽくなさ」がブランディングとして効いてきているといいます。
では、なぜ鹿児島に優秀な人材が集まるのか。桺本さんの疑問に、小平さんは2つの理由を挙げました。
Uターン層への訴求
子育てや介護で鹿児島に帰る必要がある、東京や海外で優秀なキャリアを積んだ人が、地元で「マシな会社」を探したときに刺さる
フルリモート+余白
県外在住のエンジニアなどがフルリモート・フレックス・副業OKで働け、年2回の全社集会で温泉や食を楽しめるギャップが面白がられる
桺本さんは、老舗なのに遠隔で働け、面白いオフィスがある、というギャップが多様な人にメッセージとして伝わっているのだろうと受け止めました。
ここにいれば何か面白いことに出会えるんじゃないか。本当にわけがわからないみたいなのがいいんじゃないかな。
何から始めるべきか─採用ブランディングの第一歩
最後に、ブランディングや採用に困っている中小企業やBtoB企業が、まず何をすべきかを整理しました。
小平さんがまず挙げたのは、採用ページを簡単でもいいので作り、更新できる仕組みを持つことです。桺本さんがNotionで採用情報を公開していた例にも触れました。
次に、社長自身の発信を行うこと、大きなイベントはプレスリリースを出し、検索に引っかかるようにすることを挙げます。
さらに、欲しい人材が集まるチャンネルにコンテンツを載せること、そしてデザイナーやプロのカメラマンへの投資が費用対効果が高いと話します。
プロフィール写真とかも含めて、それって10万20万ぐらいでできることなので、しっかり撮ってもらうのはすごく大事。
桺本さんもほぼ同意見で、最初にやるべきはホームページ、採用ページ、会社紹介資料をデザイナーと作り直すことだといいます。デザイナーと組むと、自社の強みや見せ方が明確になるためです。
一方で小平さんは、イメージだけ良くしても入社後のギャップですぐ辞めてしまうと注意を促します。次はオンボーディングなど本質的な部分の整備につながる、と補足しました。
それでも、まずはフロントを整えることが出発点だと2人の意見は一致します。
これはもうマナーぐらいのレベルなんですよ。ホームページとかその辺は整えてあげるのが重要。
まとめ
採用とブランディングは、AI時代に「選ばれる理由」をつくる活動として語られました。会社という束ではなく経営者個人の発信が信頼を生み、地方という立地さえギャップとして武器になる、という2社の実践が共有された回です。
- 採用は経営者が関わる「戦争」であり、外部リソースも使って体制を整えることが転機になる
- 消費者や求職者がAIで探す時代には、その候補に入るための情報発信とブランディングが前提になる
- 会社名より経営者個人の発信のほうが信頼と指名につながりやすい
- 京都や鹿児島といった地域ブランドは、安心感にも「振り幅」のギャップにもなり武器になる
- まずはホームページ・採用ページ・会社紹介資料の整備が、費用対効果の高い第一歩になる






